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淡い光が差し込む朝のキッチンで、蒼也が翠の腰に腕を回し、首筋にキスを落とす。
「翠、食べてもいい?」
吐息が火照った肌をくすぐり、胸が熱くなる。
「蒼也さん、朝からそんな……」
――ベッドから出たばかりなのに。
身をよじり逃げようとする翠を、蒼也ががっちりとした腕で引き寄せる。
「俺の心を乱れさせるのは誰だよ」
男の指が荒く髪を梳き、瞳がまっすぐに捕らえられる。
「蒼也さん、こんなの……愛されすぎです」
うずく体に途切れることのないキスが襲いかかり、翠の鼓動を狂わせる。
「逃がさないよ」
胸から舌を這わせていく容赦ない視線が恥じらいの殻を打ち砕き、新しい扉を次々に暴いていく。
理性が時計に目を向けさせるのに、知ってしまった愛に溺れる好奇心が、豹変した男を受け入れてしまう。
「愛してる。何度でも言うよ。愛してる、翠」
「私も……」
愛があふれ声にならない。
二人の吐息が絡み合い、世界が虹色に輝き始める。
理由なんてない。
こうなることを望んでいた。
熱い吐息の輪唱は終わらない。
窓の外では、月曜日の都会が動き出していた。
◇
男の腕の中で冷静さを取り戻した翠は時計に目をやった。
「たいへん、もうこんな時間」
「先にシャワー浴びてきなよ」
――はあ?
「まだするんですか?」
「違うよ」と、蒼也が吹き出す。「朝ご飯用意しておくから、その間にシャワーを浴びろってこと。仕事行くのにそのままじゃ、さすがにまずいだろ」
「そ、そうですね。お願いします」
勘違いでますます汗が噴き出し、翠は慌ててバスルームに駆け込んだ。
熱いシャワーで気怠い体が一気に目覚める。
自分の体のあちこちに、蒼也がつけた印がくっきりとついている。
全部見られちゃったんだよね。
私も見ちゃったけど。
なんか、かわいかったな。
ケダモノみたいな蒼也さん。
食べられちゃった、私。
……って、何言ってるんだろ。
急がなくちゃ。
時間がないんだから。
頭を仕事モードに切り替え、バスルームから出て髪を乾かし支度を済ませると、キッチンには朝食ができあがっていた。
「もうできたんですか?」
「ベーコンエッグを挟んだホットサンド。包んでおいたから、車の中で食べなよ」
「はい、ありがとうございます」
それをもらって鞄を取りに行こうとすると、蒼也に腕をつかまれた。
「顔が赤いよ」
「なんでもないです」
「何を想像してた?」
「してません!」
急いでいるのに、腕を放してくれない。
「そろそろ『です、ます』とか、敬語はやめようよ」
「そうですか」
「ほら、また、『です』って言ってるぞ」
「急に変えるのは難しいですよ」
「そんなことないだろ」と、澄んだ緑色の瞳がのぞき込んでくる。「ちゃんと、『何があってもやめないで!』って叫んでたじゃないか」
――ちょっ。
そ、そんなことまでおぼえてるんですか!
「ほら、言ってみなよ」
「やめてください。恥ずかしいです」
「また敬語に戻っちゃったよ」
「ち、遅刻しちゃいますから。その話はまた」
翠は冷蔵庫からオレンジジュースのパックを掴み取ると、玄関に向かってばたばたと駆けだした。
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