ベンチャーCEOの想い溢れる初恋婚 溺れるほどの一途なキスを君に

犬上義彦

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 数歩後ろをついて歩くと、潮風がまとわりついてあっという間に髪がベタつく。

 岸壁に歩み寄った須垣は、船の係留ロープを止めるボラードに片足を乗せた。

「昭和の映画みたいですね」

「だろ」と、須垣が振り向く。「どんな男でも、これに足を乗せればスターになれる。不思議なアイテムなんだ」

 二十年前の蒼也を想起させる少年のような笑顔だった。

 須垣は上体を前後させてボラードに置いた脚を曲げ伸ばしした。

「いつもこの時間はトレーニングをしてるんでね」

 鍛え抜かれた肉体が青い背景に映える。

 波の照り返しがまぶしくて翠は目を細めた。

「写真撮りましょうか?」

「いや、いいよ」と、車に目をやってから須垣は首を振った。「連絡されると困るからな」

「じゃあ、須垣さんのスマホで」

「あんたも不思議な人だな」と、須垣が足を下ろす。「俺はあんたに危害を加えようとしてるんだぜ」

「須垣さんだって、不思議な人ですよ」

「だから、よせって、そういうのは」と、須垣が鼻の頭をかく。「本気になりたくないんだ」

 真夏の日差しが濃い影を作り、二人の間の重たい空気を押し流すように潮風が吹き抜けていく。

「せっかくだから」と、須垣が自分のスマホを取り出す。「二人で写真を撮らないか?」

「はあ?」

「ずいぶんと、厚かましいお願いだけどな」

 風で乱れた髪を整えながら翠が須垣に歩み寄る。

 と、その時だった。

 タイヤをきしませながら倉庫の角からSUVが姿を現し、二人に突っ込んできた。

 ボラードのギリギリで急停止し、助手席から飛び出したレイナが須垣に詰め寄る。

「もう、待ってたのに。どうして予定の場所に来てくれないのよ」

 呆然としている須垣の手に紙切れを握らせる。

《まってるわ Leina》

「きったねえ字だな」と、須垣が眉を寄せる。「ミミズもここまでのたくらないだろ」

「悪かったわね。これでも一生懸命書いたのよ」

 運転席から出てきた悠輝が翠に駆け寄る。

「大丈夫だった?」

「ええ、なんとか」

「よかった。失敗したかと思ったよ」

 須垣が悪びれずにつぶやく。

「そろそろ来ると思ってたよ」

「追跡タグを持たせたの」と、レイナが翠を指さす。「私の子猫ちゃんに」

「二つ用意しておいて良かったです」と、翠はブラウスの裾の裏に貼り付けた追跡タグを外した。

 須垣はヒュウと口笛を吹いた。

「負け惜しみじゃないが、最初に追跡タグを見た時点で、あんたが一人じゃないってことには気づいてたし、そういうバックアップもあるだろうとは予想していたよ」

「じゃあ、なぜ、見逃してここまで来たんですか?」

 須垣は悪びれずに肩をすくめた。

「約束しただろ。進化論の話をするって。俺はただ人妻と人生を語り合っただけさ」

 レイナがスマホを取り出す。

「でも、これは予想してなかったんじゃない?」

「ん?」

 四人で囲む画面には、経済ニュースが流れていた。

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