ベンチャーCEOの想い溢れる初恋婚 溺れるほどの一途なキスを君に

犬上義彦

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 レイナが翠の肩を抱いて頬を寄せる。

「それにしても、ミドリは頑張ったわね。予定と違う方向に進み始めた時は焦ったわよ」

 欧米風の距離感に戸惑いながらも翠は笑みを返した。

「お二人が助けに来てくれるって信じてましたから」

「あなたは蒼也のワイフにふさわしいわね。あなたには蒼也の夢を支える力がある。これからも蒼也を信じて幸せにしてあげて」

「はい!」

「本当はね」と、レイナがささやく。「私、蒼也のこと、狙ってたのよ」

「えっ」

「悔しいけど、全然脈なし。私って、《へのへのもへじ》に見える?」

「そんなことないですよ」

「失礼しちゃうわよね、あいつ」と、翠の背中をたたいたレイナが照りつける太陽に向かって両手を突き上げた。「あーあ、私にも素敵な出会いないかな」

 悠輝が車の中に置いてあるスマホに手を伸ばす。

「蒼ちゃんに無事だって連絡しなくちゃ」

「あ、悠輝さん」と、翠は呼び止めた。「ちょっと待ってください」

「ん、どうしたの?」

 翠はレイナに目配せをしながら岸壁に歩み寄った。

   ◇

 昨日とは一転して取引開始からミサラギメディカルには買い注文が殺到し、売買が成立しないまま、値幅制限いっぱいのストップ高で張りついていた。

 今回の提携発表で元の水準まで戻ることは間違いないし、より一層の株価上昇も見込めるだろう。

 なんとかトラブルは回避できた。

 あとは、翠と誠実に向き合うだけだ。

 蒼也はベイサイドを見下ろすオフィスで、久しぶりにくつろぎながらコーヒーの香りを味わっていた。

 スマホが光る。

 ――ん?

 悠輝からか。

「なんだ、これ?」

 送られてきた写真には、昭和の映画スターのような姿勢でボラードに足を乗せた翠とレイナが写っている。

「俺の知らない女子会だな」

 蒼也は写真を眺めながらコーヒーを飲み干した。

   ◇

 蒼也のマンションに帰ってきた翠は夕飯を作って夫の帰りを待っていた。

 ――何て言って出迎えようか、どう説明しようか。

 誤解したことをちゃんと謝らなくちゃ。

 何度も頭の中でシミュレーションを繰り返してみても、何が正解なのかは分からない。

 だけど、伝えたい気持ちは一つだけ。

 なのにそれを伝える言葉が見つからない。

 八月終わりの夕暮れはいつの間にか秋の光に変わってリビングを淡く照らしている。

 玄関ドアのノブがカチャリと音を立てた瞬間、翠は駆け寄った。

「お帰りなさい」

「おう、ただいま」

 笑顔の蒼也が翠の手を取って引き寄せる。

 バランスを崩して倒れかかる翠を抱きとめ、蒼也の腕が背中に回る。

 スーツの生地越しにも、彼の鼓動が伝わってくる。

 こんなに近くて、こんなに温かい。

 そばにいるだけで伝わる。

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