自宅の前でうずくまる弱った君を拾ったら、不器用な恋が始まった 〜新宿Sleepless Night 両片思いの恋人たち〜

海老蟹

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1. 凍える出会い【R18】

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「……おい。ここ、人ん家の前なんだけど」

 仕事終わりの午前1時。
 自宅マンションの前に男が独り、震えながら蹲っていた。

 ストライプのシャツにジャケットを羽織ったノータイのスーツ姿。アウターも無しに、着の身着のままオフィスから出てきたような格好をしている。

 都会のネオンにギラギラ眩しく照らされるビルの狭間でさえ、今日は吐く息の白さがはっきりとわかる、この時期には珍しい凍るような寒さの夜だ。

この寒空の下、こんな薄着のまま独りで震えている男がいたら、どう考えても訳アリすぎる。

 玄関先から建物の一階をぐるりと囲む植栽の一部の中に、そいつは蹲った格好で横たわっていた。全体重をかけて身体を持たれさせているせいで、枝がひん曲がってそこだけぽっかり穴が空いた様になってしまっていた。
 
「酔っ払いはどっか別の所で寝てくれない?ここでゲロ吐くとかそういうの……はぁ。勘弁しろよな」

 リョウは冷ややかな視線を向けながら、その男へきつい口調で言葉を吐き捨てた。


 クリスマスに忘年会。飲食店にとっては書き入れ時の12月。
師走の忙しさは尋常じゃ無い。

 こっちはいつも以上に慌ただしい金曜日の夜がやっと終わって、ようやく仕事から解放されたというのに。熱い風呂に入って早々に眠りにつこうと急いで帰ってきてみれば、自宅の前でこの有様だ。

 仕事以外で酔っ払いの面倒を見るなんて絶対に御免だ。

 けれどマンションの一階が自宅のリョウにとって、そいつが蹲っている場所はベランダの窓を開ければすぐ目の前に位置している。
 騒いだり吐いたり、変なことをされれば安眠は妨害される。それに、何よりも得体の知れない野郎が窓越しにずっと居座られるのかと思うと、気持ちが悪くて落ち着かない。

(このクソ寒い中、人様に迷惑かけるまで呑みやがって。ったく、社会人にもなって酒の呑み方もわかんねぇのかよ!)

 リョウは大きなため息をつくと、男の前に屈んで意識があるかどうかを確認した。

「おい。その格好のままここで寝てたら、本当に死ぬよ」

 草木に横たわる姿をよくよく近くで見てみたら、若い男だった。

 植栽の間に埋め込まれた間接照明のぼんやりした光に照らされて、サラサラした薄茶の髪の毛が艶めいていた。

思わず隠されている男の顔に興味が湧いて、リョウは手を伸ばして男の前髪を掻き上げた。

 縮こまりながら腕の中に埋めている顔を、ぐいと上へ引っ張りあげると、男の様子に目を見張った。

「あんた、薬盛られてる?」

(はあはあ……)
 
 小刻みに震えながら肩で大きく息をする。充血で真っ赤に潤んだ瞳。男は無言のままリョウをチラリと見上げた。

 虚いだ表情に、中空を泳ぐ視線。

 意識を失っていないだけ、まだマシなのかもしれない。

 一瞬、男と目が合って、誘うような艶っぽい眼差しにリョウは思わずドキリとした。

 男の頬は赤く染まって蒸気しているのに、触れた皮膚は氷の様に冷たい。

 今にも消え入りそうな声で「……っ、すみませ……」と呟くと、朦朧としながら無理に立ち上がった。

 よろけた彼をリョウは慌てて支えた。

 男は細身だが骨格はしっかりしていて、スラリと伸びた手足をしていた。

 艶のあるサラサラの髪の毛に似合った、どこか少しあどけなさを残した顔立ちは、通った鼻筋に、形の良い小さな唇が上品についていて美形だ。それに何よりも手に吸い付くようなきめ細かい肌をしていて、冷えた肌がより一層、彼の色白さを際立たせていた。

 予期せぬ男の外見に、思わずリョウは動揺した。

 目の前で意識が朦朧としているこの男の事が途端に気になり始めて、彼から視線を逸らせなくなってしまった。

 よろけた男を支えながら、腕時計に目をやった。

 いくら暖冬の東京といえど、こんな深夜の、よりにもよって今にも雪が降りそうな気温の中、このまま放っておいたらこの薄着の男は本当に低体温症で死ぬかもしれない。それに何より、この辺りは治安が良くない。

 この容姿でこんな状態の奴が変な輩にでも見つかったら、どんな酷い目に合わされるのかは容易に想像がつく。

 薬を盛られているくらいだから、こいつの素行だって怪しいものだけれど。息を荒げながら苦しさと葛藤する男の表情が妙に色っぽく、リョウの理性が大きく掻き乱された。
 
「しょうがないな。行くぞ」
 
 男の腕を自分の肩に回して、ぐんっと体を持ち上げると、引きずる様にしながら自宅へそいつを連れていく事にした。


 ******


『らしく』無い事をしている。

 いくらこの男の見た目が気になったからといって、自宅の前で蹲っていた見ず知らずの身元不詳の野郎を家に連れ込むなんて、自分でもどうかしていると分かってる。相当疲れていて、判断力が鈍っていたとしか思えない。

 でも、考えて悩むより先に体の方が動いていた。

 とにかくこの男の顔を見た後では家の外へ置き去りにする事は到底できなかったし、室内の暖かい場所へ連れて行くのが今は最優先だと思っていたので、家に引き入れた後のことは何も考えていなかった。

(とりあえず、薬を抜かせないとな)

 一向に落ちつきそうもない、苦しそうに過呼吸する男を玄関横のトイレの中に一旦座らせて、リョウは冷蔵庫へ水を取りに行った。

 「飲める?」とペットボトルを差し出して問いかけると、男はふらつきながらも浅く頷いてそれを受け取った。
 
 口端から溢しながら何とか水分を口に含んだ。

「悪ぃな。ちょっと口の中、指入れるよ」

 リョウは慣れた手つきで男の小さな口を無理矢理こじ開けて、中へ指を2本突っ込んだ。

 男は直ぐにえずいて、吐き出す。何も食べていないらしく、胃からは水分しか出てこない。

(空きっ腹に薬盛られてんのか。これはさぞかしキマったろうな)

 再び水を飲まされて何度かえずいたのち、少しだけ気分が楽になると、男は壁に背をもたれてため息をついた。浅く呼吸しながらリョウの方へ視線を向ける。

 ふふっ。と口角をあげてはにかむと、目の前のリョウの右手をぐいといきなり引っ張って、自分の股間に当てた。

「――はぁはぁ――ふぅ……。お兄さん、僕のこと……抱けますか?」

 惚けた瞳でリョウをじっと見つめた。
 既に男のペニスは興奮で硬くなっていて、スラックスの布地がきつそうにピンと張っていた。

 引いた手を更に手繰り寄せて体にぐっと近づけると、シャツの上からリョウの指先を使ってゆっくり自分の体に這わせてなぞらせた。

「……あのさ。あんた、催淫剤入った薬飲まされてるんだよ。暫く我慢したら収まるから楽にしてな。もう一本、水持ってくるよ」

 リョウは努めて平静を装って男を諭した。
 立ち上がって離れようとすると、男は両手でリョウの服を強く引っ張って引き止めた。

「つ、辛くて!体は寒いのに、熱くてしょうがなくて……訳がわからないんだ。お願い!僕に触ってください……!」

 熱を持って潤んだ発情する瞳で、縋りながらリョウに懇願する。

 しんどそうに言葉を発する小さく形の良い唇が半開きになって、唾液が細くツーッと首筋に流れて伝い落ちた。無意識のまま、こちらを挑発するような顔を向けられて、リョウは内側から沸々と熱いものが突き上がってくるのを感じた。

 強く引かれるままに、リョウはもう一度トイレの床に座ると、昂る男のベルトを外して、スラックスのジッパーを下ろした。

 いつから染み出していたのか、カウパーで男の下着はじゅくじゅくと濡れていて、その湿ったボクサーパンツをグイッと勢いよく下げると、ガチガチに硬くなって勃起したペニスが飛び出してきた。

 男の火照る頬と同じ桃色をした先端からは、期待する潤いが糸を引いて垂れ、リョウは溢れる雫を掬いながら男のペニスを握り、扱いた。

「……っ、んっ、はぁ……」

 男の腰が浮いて、寄りかかった壁からズルズルと体を落として下がった。左腕で、真っ赤に潤んで火照る目元を覆い隠しながら、快楽に唇を噛み締める。

 ニチャッ ニチャッ――

 リョウの大きくて、形の良い手に包み込まれるようにして握られたペニス。手の動きに合わせて愛液と摩擦が絡み合った、いやらしい音が二人の耳に響いて、もっともっとと枯渇する欲望を更に加速させた。

 リョウは強弱をつけて上下に擦りながら、時折先っぽの割れ目に親指でゆっくり深く、こじ開ける様にしてグリグリと弄って男の反応を見た。

 ビクビクッと、電流が走ったように体を震わせて男は善がった。あまりの気持ち良さに「んっ……あ、ああっっっ!!!」思わず大きい声がでてしまう。

 勃った乳首の突起がうっすらとシャツを盛り上がらせていて、ペニスを弄ると同時に、シャツの上からそれを人差し指でカシカシと引っ掻いてやった。

 薬のせいでもあるだろうが、まるで全身が性感帯そのもので敏感だ。服の上から太ももに手を置いただけでさえ、過剰にビクビクと反応する始末だ。

 されるがまま、素直に身を捩らせて快楽に溺れるその姿は、リョウの情欲を更にかきたて、視覚を通して興奮させた。

 今すぐにでも着ているシャツをひん剥いて、男の中へズブズブと自分を埋め尽くしてしまいたい欲望に駆られてしまう。

 相変わらず左腕で目元を隠し続けながら善がる姿は焦ったかった。快楽に打ち震えて悶える彼の表情を、何とかしてでも見たい。リョウはゆっくり手を伸ばして、無理矢理に腕を剥がした。

「あっ……!……み、見ないでっ……!」

 思わず男は反射的に体を縮こまらせて隠そうとしたが、リョウはすかさず肩を押して壁に押さえつけた。

 羞恥と快楽。刹那的な性欲への衝動。切実に求めて止まない肉欲。

 その全てが入り混じったふしだらな自分を直視されて、最高潮に達した男は、リョウからの抗えない強い視線を浴びせられながら盛大に射精した。

 握っていたリョウの手に、腕に、勢いよく飛び散らせた後もペニスは萎えることなく硬くたぎったままだった。

「いいよ。全部出して、スッキリしろよ。あんたが果てるまで、付き合ってやるからさ」

 リョウは少しだけ口元を緩めて微笑んだ。男のシャツのボタンを丁寧に外す。ぱんぱんに膨らんで赤く色づいた高揚する乳首を直接指で摘むと、キュッと捻って弄った。
 甘く鋭い衝撃が再び身体に走る。男はされるがまま、リョウに身を委ねて快楽に浸った。

 暗かったはずの外は、いつの間にかぼんやり明るさを伴っていた。夜明けが近い。
 玄関先の僅かな灯りに照らされた2人の影が、リビングに大きく射して揺れ動いている。

 突然降って湧いた深夜の出会い――
 凍えるほどの寒夜は、思いもよらない濃密な夜となっていった。
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