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あなたがもっとも美しい

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ラナは今、カイルと供に城下町まで来ている。

「カイルさん、今日はありがとうございます。
本来ならあまり出歩かない方がいいことは分かっているんですけど、

こうやって息抜きに連れて来ていただけることが正直とても嬉しくて。」


「…いや、あなたには俺達が求めていた以上の事をしてもらっているからな。
このくらいのことしか出来ず逆に申し訳ない。

だが、俺の個人的な誘いを受け入れてくれたことを素直に嬉しいと俺は思っている。」


「そ、うですか。
…カイルさんにそう言われるとなんか照れますね。

(個人的な誘いってどういうことかしら?
…期待しちゃいそうだわ。)」


ちなみに城下町まではカイルの愛馬に一緒に乗ってきていた。

馬に1人で乗れないラナを軽々と抱き上げて乗せてくれたり、
移動中は彼女の腹部に回された彼の腕が見た目以上にがっしりとしているのを肌で感じたりと、
ラナの心はずっと落ち着かなかった。



さらには背中に感じる温もりが恥ずかしくて離れようとすると、その度に引き寄せられたり…。

ラナは異性とここまで密着した経験が無かったため、
カイルにはっきりと男を感じた瞬間でもあった。



「どこか行きたい所はあるのか?
トミー殿にはもちろん会いに行くのだろう?」


「えぇ。3か月ぶりだからとても楽しみです!
おじさんのことだから元気にしてるだろうとは思いますけれど。」





「…おや?ラナちゃんじゃないか!」


「ミツさん!」


果物屋で店主と話込んでいた女性が2人に声をかけてきた。


「久しぶりだね。
皆んなあんたのことを心配してたよ。

おや、隣のお方はもしや騎士団長様かい?

…ラナちゃん、意外と面食いなんだねぇ。
騎士団長様が好い人なんて、羨ましい限りだよ!」


「そ、そんなんじゃないの!
もう、カイルさんに失礼ですから!」


「俺は別に構わないが…」


「っえ…⁈

(それはどっちの意味⁈
私の好い人で嬉しいって事?それとも、ただ単にどうでもいいってこと⁈)」


「おやまぁ!ラナちゃんも人気者だねぇ。
聞いたよ、あんた、城でも色んな奴から迫られてるんだって?
将来の夫は慎重に選ばなきゃダメだよ、あんたなら選り取り見取りさね!」


「もう、ミツさんやめてよ!
カイルさんはそんなつもり微塵も無いんだから!」


「……。
(ラナ殿はそんなに人気だったのか。ルイスくらいだと思っていたが。)

ラナ殿、それでこの方は?」


「あ、はい。…私が小さい頃から色々とお世話になっていて、
よく遊び相手というか、話し相手になってもらっていました。」

ラナは火照った顔をパタパタと仰ぎながら答える。


「ラナちゃんが小さい頃から知ってるからね。
私の知る限りじゃ今まで恋人はいなかったはずだから、たくさん恋人らしいことしてやりなよ!
団長様、頑張りなね!」


「そうか、…そうだな。助言、感謝する。」


「ミツさん⁈あ、あのカイルさん?もう、真面目に受け取らなくても…!
そろそろ行きましょう、ミツさんまた今度ゆっくりお話ししましょうね!」


「ははっ、すまんね。揶揄いすぎたよ。またいつでもおいで。」




そうして2人は再び歩き始めた。


「なぁ、ラナ殿。先程の婦人が言っていたことは本当か?
あなたの護衛についている間にそのように迫ってくる奴らはいなかったように思うが…。」


「え?」


「…多くの男から迫られてるとか……。」


「あ、あれはミツさんが大げさに言ってるだけですよ!
部屋から出た時とか、散歩の時とかに、ずっと城にいるのも息が詰まるだろうから一緒に城下に行かないかって心配してくれてるくらいで。

本当ですよ!」


「(…今俺がしてることと同じじゃないか?)

ちなみにどのくらいの男から…?」


「えっと、毎日数人の方に声をかけていただいてるので、どのくらいでしょう?

皆さん本当に優しいですよね!」


「……。そうか。
(全ての男が同じ口説き文句だと、
おかしいとは思わないのだろうか?

…俺もその1人だったが。)」



それから2人はトミーの元を訪ね、久しぶりの再会を喜ぶのであった。



「カイル殿、ラナは城でもうまくやれていますか?」


「はい。
ラナ殿は仕事振りも真面目で、城の者や患者からも大変人望があるように見受けられます。」


「そうか…。それならば良かった。
ラナ、あれからあの力は使っているのか?」


「いいえ、使っていないわ。でもそんな機会がない方がいいもの。」


「そうだな。カイル殿、これからもよろしく頼みます。」


「はい。もちろんです。」




しばらく話をした後、

トミーと別れ、街を散策することにした。



ーーーー


久しぶりの城下はいつものようににぎやかだ。


色んな店を回りながら町中を歩いていると、たくさんの子ども達が2人に駆け寄ってきた。


「あー!いやしのおひめさまだ!」

「ほんとだー!ママのいってたとおり、
すごくきれい!」

「いいなぁ、かっこいいきしさまつれてるー!」



「…癒しのお姫様?
それは仰々しい呼び名ね?どこでそんな…」


「あのね、ママがね、ぎんぱつで、かみのながい、きれいなひとがパパをたすけてくれたって!
そのひとは光ってみえるから、あったらわかるわってゆってた!
みんないやしのおひめさまってゆってるんだよ!
おひめさま、光ってる!」



「…カイルさん、私って光ってます?」

そう言いながら自分の身体をみてみる。

「…いや、俺には分からんが、
おそらく後光的なものじゃないか?」


「えぇ、そんな大袈裟な!
それに、後光ってちょっと…」




「ねぇ、おひめさま!
おうじさまにはもうあった?
となりのきしさまが、おひめさまのおうじさま?」

ラナの前にいた1人の女の子が尋ねる。


ラナはその女の子の前にかがみ、微笑んだ。

「ふふ、あなたも王子様に憧れるのね?」


「うん!いつか、おうじさまにむかえにきてもらうの!」


「そうねぇ、それならまず迎えに来てもらえるように、
心も体も磨かなきゃならないわ。
王子様の目にとまるくらい、うんと綺麗になってね。」


「どうしたら、できるの?」

ラナの周りには私も知りたい!と他の女の子達も集まってきていた。


子ども達に囲まれたラナは楽しそうだ。
子ども達を愛しそうに見つめ、微笑んでいるその姿が、カイルにはとても美しいものに見えた。




「見れば見る程、美しいな…」


そう1人呟いた。


ーーーー


そうして再び町の散策をしていると、1つの可愛らしい小物屋を見つけた。

「あの、あそこの小物屋さんを見てもいいですか?」

「あぁ。」

店に入ると、そこには色鮮やかな装飾品が所狭しと並んでいる。


「何か欲しいものでもあるのか?」


「はい。髪飾りが欲しいなって。
仕事におしゃれは必要ないですけど、
せめて髪だけならいいかなって思って。」


「…そうか。」


カイルも一緒になって見ていると、
ひとつの髪飾りに目が留まる。

「(…よく似合いそうだ。それにこの花はラナ殿にこそふさわしいな。)

…ラナ殿、これはどうだ?」



「え?まぁ、素敵!

(カイルさんの髪の色と同じ!)」


それはサザンカの花を形取ったものであり、
銀の髪には良く映えるであろう綺麗に透き通った赤色であった。





「『あなたがもっとも美しい』」




「……えっ…⁈」

ラナは思わずカイルを見上げる。




「…それの花言葉だ。貴女にぴったりだろう。

…貴女は美しい。
他の者に見せるのが惜しいくらいにはな。

この気持ちが何を意味するのか、俺にもまだはっきりとは分からない。
ただ、これからもあなたの傍にいたいとは思う。

…今回はこれを俺に贈らせてはもらえないだろうか。」



「(えぇっ⁈カイルさんどうしちゃったの⁈
う、美しいとか傍にいたいとか、そんなの、
意識するなって方が無理じゃないっ)」


ラナは真っ赤になりながらコクコクと頷いた。



「そうか、ありがとう。

…店主、これを貰おう。」


カイルは優しく微笑みその美しい髪を撫でた。




「はいよ。
…お嬢さん愛されてるねぇ。全く羨ましいもんだ。
美男美女ってのが目の保養になるってのは本当なんだなぁ。

初めて知ったよ。」


どうやら2人のやりとりを見ていたらしい店主がニヤニヤと笑っている。



「か、揶揄わないでください!」

ラナの顔の火照りは一向に治らないでいた。



「はは。すまんね、だが本当に綺麗なお嬢さんだね。
お兄さん、大事にしてやんなよ。」



「…あぁ分かっている。

(…俺がラナ殿を愛している…?
傍にいたいとか、誰にも見せたくないなど、
なんとも自分勝手な思いだと感じていたが、
この気持ちはラナ殿を好いているからなのか?

陛下も素直になれと言っていたが、
まさかあの時には見抜かれて?
…俺はあの頃からラナ殿の事を……?)」



カイルはラナを見つめ、思いを巡らせていた。



そしてラナに髪飾りを贈り、

2人は気恥ずかしさからか、無言のまま店を出ようとした。

すると、店の奥から声をかけられる。




「…ラナ?お前ラナじゃないか⁈」


「え?あ、ハンス!
久しぶりね、もしかしてここがあなたの…?」


「あ、あぁ。商人との交渉があったから親父に店番してもらっていたんだ。
それはそうとお前、大丈夫なのか?
突然いなくなったと思ったら城に保護されたって聞いて驚いたぞ?」



「えぇ、大丈夫よ!城の皆んなにはよくしてもらってるの。
今日は騎士団長様と息抜きに町を散策してて、髪飾りまでいただいちゃったの。
とっても優しいのよ!」


ラナは頰を染めながら嬉しそうに話す。


「そ、うか。

(俺の出る幕が勢いよく閉じられてしまったような…。ラナ、あんなに嬉しそうにっ…!
悔しいけど、可愛いっ!)」

ハンスがそう傷心していると、カイルの声がかかった。


「ラナ殿、そろそろ行こう。」


「はい!それじゃまたね、ハンス!」


「…あぁ。またな。」


2人の再会はあっけなく終わり、
ラナとカイルは店を出て行った。




「お前、あんな可愛い子と知り合いだったのに今まで何してたんだ?

まんまと持っていかれてるじゃないか。」



「…言うなよ、目から鼻水出そう。」


「それは汚いからやめておけ。

まぁ次頑張りな!お前はまだ若いし、俺によく似ているからな、大丈夫だ!

将来はきっと安泰だろう!」




「……俺は将来ハゲるのか…」

父の寂しい頭を見てさらに落ち込むハンスなのであった。
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