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春の章
井戸を掘りました。
しおりを挟むこうして、国に恵みの雨を降らせた千春は、用意された部屋へと案内されていた。
「ここが、今日から私の部屋?凄く広くて素敵なお部屋ね!」
その部屋にはおしゃれな家具などが所狭しと並んでいた。
「はい。ご自由にお使い下さい。
そして、今日から千春様のお世話をさせて頂く侍女を紹介します。」
アクラスがそう言うと、1人の女性が現れた。
「彼女はアンナ。用向きがあれば、彼女に何でも申し付けて下さい。貴女と同い年だ、気負う必要も無いですよ。」
「アンナさん、初めまして千春です。
でも私、自分のことくらい出来るので、あまりお願いすること無いと思いますよ?」
「アンナ・フロートと申します。千春様、どうか私の事はアンナとお呼びください。
私は千春様のお役に立ちたいと思っていますが、ご迷惑でしょうか?」
「アンナ…?えっと、そんなことないわ。じゃあその、よろしくね?」
「えぇ!これからよろしくお願い致しますわ!」
「あと、アクラスさんも私に敬称とか敬語は出来れば辞めて頂ければ…。ちょっと落ち着かなくて。」
「…了解した。それならば千春殿も私には気楽に接して欲しい。」
「はい!ただアクラスさんは歳上の方のようですので、今までとあまり変わらないと思いますが、気になさらないで下さいね。」
「あぁ。お気遣い感謝する…。
それから、今後私は千春殿の護衛騎士となったんだ。団長には変わりない為仕事で抜けることもあるが、護衛騎士はあともう2人いる。その者達はいずれ紹介しよう。」
「分かりました。…なんか、色んなことがありすぎて、お腹が空いてきちゃいました。
昨日はりんごみたいな果物しか食べてないし、何か食べられるものってあるかしら?」
「まぁっ、それはいけませんわ。ただでさえ痩せすぎなくらいなんですから。すぐにご用意致しますね。」
「わぁ、ありがとう!楽しみー!」
そうして運び込まれた色とりどりの料理に千春は目を輝かせながら、食事を楽しんだのであった。
ーーーー
そうしてしばらく。
食後に美味しい紅茶を飲んでいた千春はふと思った。
「あの、アクラスさん。そもそもこの国はどうやって水資源を得ているんですか?」
「そうだな。民はそれぞれの家庭で雨水を貯めたりしている。あとは、山からの湧き水や河川などだな。」
「え、それで飲料水とかどうやって…?」
「山からの湧き水以外は煮沸しているぞ。」
「えっ、効率悪いじゃないですか!!井戸を掘ったらいいのに!」
「…井戸か。昔から何度も試みてきたさ。だがこの国では良質な水が得られない事が分かったんだよ。何処を掘っても人が口にできるような水質じゃないんだ。」
「そうなんですね…。一応、地に聞いてみようかな?良質な水が得られる場所が無いか。井戸があった方が、皆もきっと便利ですよね?衛生的にも良くなるんじゃないかしら。」
「…っそれは本当か⁈もしそれが現実になれば凄いぞ!この国はもっと豊かになる!」
普段冷静なアクラスにしては興奮した様子だ。
「ふふ、聞いてみますね。でも、もう遅いから明日でもいいかしら?」
「あぁ。もちろんだ。陛下へも伝えておこう。」
そして、翌日。
「ーー井戸を作れるとは本当か千春殿。それは是非ともお願いしたいものだ。」
水質の良い井戸が掘れる場所を見つけられるかもしれないと聞いた王は、その申し出を快諾した。
「まだ、地に聞いてみないと分からないのですが、やってみますね。」
「あぁ。期待しているよ。」
これは益々国が栄えると王は喜んだのだった。
所変わりここは城の広場ーー
そこには千春とアクラスがいた。
これから井戸を掘れる場所を探るためだ。
「千春殿、もうすぐ他2人の護衛が来るはずだ。今から紹介したいのだが良いか?」
「えぇ!もちろん!」
それから数分後、何やら言い争いながら2人の男がこちらに向かって走ってきていた。
「ーーっだから、早く済ませておけと言っただろう!こんな大事な時にっ!
あぁもう、予定よりだいぶ遅れてしまった…っ
愛し子様の俺達の第一印象は遅刻野郎だぞ⁈」
「うるせぇなぁ。仕方ないだろ我慢出来なかったんだからさー。そんなの俺に言われても困るし、文句なら俺の腹に言ってくれよなー。」
何やら低レベルな内容だ。
「トニー、トレイン。お前ら千春殿の前で失礼だぞ。何だその品のない会話は。」
「っすみません、団長!
愛し子様、はじめまして!遅刻して申し訳ありません!」
「あー、すんませんでした団長。
愛し子様お久しぶりです。怪我も良くなったようで、何よりです。」
トレインは慌てながらも振る舞いを正すが、
逆にトニーはニコニコと笑い、あっけらかんとしている。
「ふふ、なんだか賑やかですね。こういうの好きです。私!」
「えっ!マジですか⁈
おい、聞いたかよトレイン!大好きだって!やっぱ俺、女の子楽しませるの得意かも!」
「お前の事じゃない。この雰囲気が、だ。それに「大」ではなかったぞ。ただの好きだった。社交辞令だ。」
「…お前は本当、冗談が通じないよなぁー。そう思わないか?つまんねー男だよな?な、愛し子様?」
「っお前!愛し子様に変な同意を求めるなよ!」
「あの、おふたりとも、私は千春って言います。愛し子様と言われるのはちょっと慣れてなくて…。
宜しければ名前で呼んで欲しいのですが。」
「何なに、そんなの全然オッケーだよ!千春ちゃん!」
「トニー!!誰も馴れ馴れしくしろとは言ってないだろ!
っ千春様、本っ当に申し訳ないですっ…!
こいつ、俺の古い友人なんですが、性格に 大分難ありでっ。」
「っお前の方が酷いだろ!友人を難ありって言うか?!お前こそ千春ちゃんに変な事吹き込むなよな!」
「…俺は正直者なんだよ。」
「はぁ…。お前らいい加減にしろ。今日はお前達の紹介も兼ねているんだ。あんまりふざけていると千春殿に呆れられるぞ。」
そうアクラスが諌めた。
「「すみません!呆れないでください!」」
「ふふ、本当に賑やかだわ。明るくてムードメーカー的なトニーさんに、真面目で誠実そうなトレインさん。
私の事は好きに呼んでくれて構わないです。あ、愛し子以外でお願いしますね。」
「ありがとうございます、千春様!
俺はトレイン・ジークエンスと申します。26歳です!
これから貴女様の護衛騎士として、励んで参ります!どうぞよろしくお願い致します!」
トレインはそう言うとビシッと最敬礼した。
「あ、あの、トレインさん。そんなに畏まらなくても。気楽に、楽しくいきましょう!」
「っはい!申し訳無いですっ。以後気をつけます!」
「あ、その…なんかごめんなさい…。」
「おいおい、トレイン!
女の子に気を遣わせるなんてダメな奴だなぁ?
千春ちゃん、気にするなよ?俺はトニー・クレバレンス。
同じく26歳だ。よろしくなぁ。」
「はい。よろしくお願いします!
…、そういえば聞いてなかったですけど、アクラスさんっておいくつなんですか?」
「私か?私はそいつらと同じ26だが。」
「…えぇ⁈団長さんなんですよね?お若いですね!」
「千春ちゃん、俺ら3人は元々同期だったんだよ。
アクラス団長が1人でどんどん出世しちゃってさー。」
「トニー、それは団長の努力の賜物だ。そのように言うものではないぞ。」
「あぁ、分かってるよ。別に妬んでるとかじゃないし。俺は気楽だしな!なんせ同期が団長だぜ?」
そう笑うトニー。
「皆さん、仲良しなんですね。これから楽しくなりそうです!」
「おぅ、楽しんでよ。千春ちゃんのことは俺達がしっかり守るからさ。安心して過ごしてくれな。」
「は、はい。ありがとうございます…。」
千春はやや頰を染めた。
「おおっ!照れた千春ちゃんも可愛いなぁっ?」
「や、やめてください!」
千春はさらに真っ赤になる。
「…そろそろいいか。今日の目的はこれからなんだ。」
「っはい!私も頑張ります!」
「…そういえば千春様、井戸を掘る場所は、どうやって探すのですか?」
「えっと、地に頼みます。彼の得意分野ですから。」
「へー。俺は千春ちゃんの奇跡の力って、初めて見るから楽しみだなぁ。雨ん時は俺うっかり見逃してたからさ。気づいたら降ってた。」
「奇跡の力なんて、そんな大層なものじゃないんですよトニーさん。ただお願いするんです。
…地、今いいかしら?」
千春は地に向かい声をかけた。
すると、茶髪に黒い衣装を纏った美青年が現れる。
『千春、俺を呼ぶのは久しぶりじゃないか。どうしたんだ?』
地は千春を抱き上げた。
男達は皆、こうやって姿を作る時は千春を抱き上げる。皆、千春が可愛いのだ。
「色々あったんだよ。あのね、この国の何処かに人が安全に口に出来るような井戸が掘れる場所ってあるかな?」
『井戸か…。了解した。
探ってみるから、しばし待て。』
そう言うと地は目を閉じ、力の波動を広げる。
「分かった!」
千春は大人しく待ってる間、地に擦りついたり、髪を梳いたりとやりたい放題だ。
大好きな友達にあまり会えない分、甘えるのだ。
それから数十秒後ーー
『…千春、3箇所あったぞ。』
地が目を開けた。
「ほんと⁈やったー!」
「さ、3箇所と言ったのか⁈」
「えぇ。3箇所!」
「そ、そんなにですか⁈」
「凄いじゃねぇか!千春ちゃん!」
「ねぇ、地、貴方の力でそこに井戸って掘れるかな?」
『あぁ、そんなこと簡単だ。ただ、俺は掘るだけだ。整備だ、なんだは人間がしろよ。』
「えぇ!もちろんよ!早速そこに連れて行って!」
そうして地に案内されたのは、城の中庭と、城下町中心部、そして千春が初めてこの世界に来た時の森の3箇所だった。
「城と町にもあるとは何とも便利なものか。森は、その周辺に住む者達にはとても有り難いだろうな。」
「アクラスさん、すぐに掘れるみたいなんですけど、今すぐにしますか?」
「いや、できればこちらの準備が出来次第だと有り難い。何かの拍子で塞がって仕舞えば大変だからな。すぐに汲み上げるポンプを設置できるようにしておきたい。人も集めなければな。」
「分かりました。地、また今度お願いしてもいい?こっちで準備するものが多くて。」
『あぁ。また必要な時に呼べ。じゃあな。』
そう言って地は千春の頭を撫でて消えた。
それから数日後、王へ事の状況を報告し準備を急いだのだった。
ーーーー
そして井戸を掘る当日。
カラリと晴れた今日、手の空いている城の者や民達が手伝おうと千春達の元へと集まっていた。
「今回は井戸を掘ってくれるんだって?愛し子様はこの国の神様だな!」
「有り難い事だよ。井戸が掘れりゃ、病も減るんじゃねぇか?」
民の者は千春の奇跡の力に期待した。
「まずは町の井戸からね。
地、いい?
ここに井戸を掘りたいの。お願いできるかしら?」
千春が語りかける。
周りの者達は静かに見守っていた。
そして千春の言葉に地が現れる。
『あぁ、すぐにできる。』
そう言って毎度の如く千春を抱き上げた。
ーーおおっ!今度は土地の神様か⁈
ーーまぁ、素敵なお方だわ!
民達は神々しい地の姿を見て感動した。
地のすぐにという言葉と同時に、ゴゴゴ…と音を立ててどんどんと穴が掘り進められていく。
そしてあっという間に1つ目の井戸を掘り終えたのだ。
『ーー終わったぞ。あとは人間共の仕事だ。』
そう言うと千春を連れてその場から離れる。
「早い!もう出来たのね!皆さん、願いします。」
千春は民へ井戸の設置をお願いした。
「おう!任せておけ!」
「ありがとうね、愛し子様!」
民達によってせっせと井戸が組まれていく。
そしてルーテニア王国に記念すべき、1つ目の屋根付きの立派な井戸が完成したのだ。
それから2つ目、3つ目と順調に井戸を作っていった。
「流石だな。あっという間に出来てしまったぞ。本当に驚くべき力だ。」
アクラスは感嘆した。
「えへへ。
といっても、自然に頼ってばかりなんですけどね。」
地に抱えられながらの千春が言う。
「何を言う。それも貴女の力なんだ。
その者達も、千春殿に魅入られたからこうして手助けをしてくれているのだろう。
もっと誇りを持っていいと思うぞ。」
「…そう言ってもらえると、嬉しいです。
前に自然からは、私が天照大神の生まれ変わりで、太陽の女神だからとかなんとか、恥ずかしいこと言ってたけど。
私、神話とかよく分からないから。」
そう千春は苦笑したが、周りの者達は驚きに固まっていた。
「……神の生まれ変わり⁈」
「あまてら、なんちゃらは分からなかったけど、神ってのは分かったよ!」
「千春様、やはり凄いお方…っ!」
新たな凄い生い立ちが知れ渡った瞬間であった。
『千春が魅力的で凄いのは当たり前だ。
それではな、千春。また会おう。』
そう言って地は地に消えていったのだった。
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