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冬の章
天災その後。
しおりを挟むアクラス達は林の中、馬を走らせていた。
無事に村人を助けられた為、救助部隊と共に城へと向かっていたのだ。
「…千春殿、大丈夫か?」
アクラスは自身の前にいる千春へと声をかける。
「はい、大丈夫ですよ。ちょっと気疲れしただけです。今日はハラハラドキドキな1日でしたね。」
「ふ、そうだな。」
アクラスは千春を労わるように抱きしめた。
「千春様、本当にありがとうございます。村の者が1人も死ぬことなく無事だったのは、貴女のお陰です。」
「ジークさん…。誰かを助ける事なんて、当たり前の事なんですから。それに、たった数人の村人の為に動こうとする王様で本当に良かったって思います。」
「陛下ですか?」
「…勝手なイメージなんですけど、王様ってお城の事や自分の事しか考えてない人ばかりって思ってたから。あ、アリオス陛下の事じゃなくてですね。」
「陛下は民の事を良く思っていらっしゃいますよ。だからこそ、貴女をお喚びしたのですから。」
「はい。そうですね。」
そんな話をしていると、前方から馬を走らせてくる者が見えた。
「おーい、団長~!千春ちゃーん!」
トニーとトレインだ。
「トニーさん、トレインさん!」
「千春様、大事なかったですか?陛下の護衛のため城で待てと言われましたが、居ても立っても居られず…。」
「え、王様大丈夫なの?」
「まさか黙って出てきたんじゃないだろうな?」
「そんな訳無いだろ!王様が迎えに行ってやれって言ってくれたんすよ。」
「陛下の護衛には他の騎士や直属の護衛が付いてますから、大丈夫ですよ。」
「そうか。」
「それで、千春ちゃんやっぱり大活躍だった?見たかったなぁー!」
「もちろん大活躍だったとも。
千春様のお力は素晴らしかったぞ?」
「流石ですね、千春様!」
「そんな。なんかさっきからお礼とか褒められてばかりで、ちょっと照れます…。」
「お前達、そろそろ行こう。千春殿も疲れているんだ。」
「あ、そうですね。すみません、もうすぐ日も暮れますから急ぎましょう。」
アクラスの言葉に皆が再び馬を走らせようとしたその時、
ポツポツーー、と雨が降ってきた。
「これは本当に急いだ方がいいな。千春殿が風邪を引く。」
「皆も引いちゃうわ。ーー空。」
千春は空を仰いだ。
『どうした?』
千春の呼びかけにすぐに空が現れた。
「私達の周りだけ、雨を避けられる?」
『簡単だ。』
すると、千春達の頭上で雨が避けるようにして散っていく。
「おぉ!こんな事もできるのか!」
「これは良い!」
周りの者達は驚嘆した。
雨を避けるため、城に帰り着くまでは空も一緒だ。
千春は今日あった事を楽しそうに話す。
それからしばらくして、もうすぐ城が見えてくるといった頃、突然千春達の前に多くの人間が木々の間から姿を現した。
その数約三十人。
「おい、てめぇら。身形が良いところを見ると、城の者かお貴族様だろ?」
「…それがどうした。俺達は急いでいるんだ。そこをどいてくれないか?」
「そんな事言わずによー、金目の物を置いてってくれよ。そしたら命は助けてやるぜ?あと、その女も置いていけ。」
男は千春を指差した。
「…っ、」
「…ふざけるなよ?」
アクラスは千春を抱きしめる。
「ふざけてねぇよ。こっちは三十だ。お前らは精々十数人。どちらが優勢なのかは分かるだろ?」
「ふん、雑魚が集まったところで何も変わらん。」
「おぉ、言うね団長!確かに!」
「ぁあ⁈雑魚だと!?テメェ殺すぞ⁈」
「このような愚かな行為をしていて雑魚だと自覚できないのですか?…お可哀想に。」
トレインがそう嘲笑った。
「っマジで痛い目みるぞ?
…だが、その女は俺達がたっぷり可愛がってやるからよ。後で楽しもうな?愛し子様。」
「…下衆共が。千春殿を知ってての事か。」
「アクラスさん…、」
アクラスが震える千春を抱きしめ、剣を抜こうとした、その時。
傍にいた空から不穏な空気が漂ってきた。
「あ、怒ってる?」
「お顔が恐ろしいですね…。」
『ーー私の千春を下賤な目で見るな。愚か者共が。』
怒気を含んだ声でそう言うと、
ヒュルルルルーーー
何やら空から甲高い音が聞こえてきた。
皆が何だ?と空を見上げようとしたその時、
ドカドカドカドカッッ!!!!
ーーあっという間に男達は全員地に伏せた。
見ると、その体には30㎝はあるだろう雹がいくつも乗っかっており、男達は地面にめり込んでいた。その重さも相当なのだろう。
「ぉおー…。こりゃすげー、…いたそう。」
トニーが思わず眉を顰めて呟いた。
「…凄いな。これが以前千春殿が言っていた雹で敵を潰す技か。恐ろしいな…。」
泥棒を雹で潰してくれた空の事を千春が話していたな、とアクラスは思い出したのだ。
「…これ、生きてます…?」
トレインは恐る恐る尋ねる。
『生きてはいるだろう。骨は何本か折れてるだろうがな。』
「ひぇーっ!!こぇえ!!雹ってこんな恐ろしいものだったっけ⁈こんなデカイの初めて見たんだけど!」
「ありがとう、空!」
『いや、構わない。千春が下賤な目で見られることが耐えられなかったのでな。』
「…これにお礼言えちゃう千春ちゃんもすげぇ。」
「…とにかく、この男達を連行しなければ。あと手当もな…。」
アクラスはそう呟いた。
「それじゃぁ早く帰りましょうっ。
アクラスさん、今日は色んな事がありましたから、帰ったらゆっくり温泉にでも浸かりましょうね!」
千春は笑顔でアクラスを見上げた。
「…そうだな。何も考えずにゆっくりしたいな。」
そうしてやっと1日が終わったのであった。
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