私、「自然」に愛されて育ちました!

つきの

文字の大きさ
16 / 23
冬の章

天災その後。

しおりを挟む



アクラス達は林の中、馬を走らせていた。
無事に村人を助けられた為、救助部隊と共に城へと向かっていたのだ。


「…千春殿、大丈夫か?」

アクラスは自身の前にいる千春へと声をかける。

「はい、大丈夫ですよ。ちょっと気疲れしただけです。今日はハラハラドキドキな1日でしたね。」


「ふ、そうだな。」

アクラスは千春を労わるように抱きしめた。


「千春様、本当にありがとうございます。村の者が1人も死ぬことなく無事だったのは、貴女のお陰です。」


「ジークさん…。誰かを助ける事なんて、当たり前の事なんですから。それに、たった数人の村人の為に動こうとする王様で本当に良かったって思います。」


「陛下ですか?」


「…勝手なイメージなんですけど、王様ってお城の事や自分の事しか考えてない人ばかりって思ってたから。あ、アリオス陛下の事じゃなくてですね。」


「陛下は民の事を良く思っていらっしゃいますよ。だからこそ、貴女をお喚びしたのですから。」


「はい。そうですね。」


そんな話をしていると、前方から馬を走らせてくる者が見えた。



「おーい、団長~!千春ちゃーん!」

トニーとトレインだ。


「トニーさん、トレインさん!」


「千春様、大事なかったですか?陛下の護衛のため城で待てと言われましたが、居ても立っても居られず…。」


「え、王様大丈夫なの?」


「まさか黙って出てきたんじゃないだろうな?」


「そんな訳無いだろ!王様が迎えに行ってやれって言ってくれたんすよ。」



「陛下の護衛には他の騎士や直属の護衛が付いてますから、大丈夫ですよ。」


「そうか。」


「それで、千春ちゃんやっぱり大活躍だった?見たかったなぁー!」


「もちろん大活躍だったとも。
千春様のお力は素晴らしかったぞ?」


「流石ですね、千春様!」


「そんな。なんかさっきからお礼とか褒められてばかりで、ちょっと照れます…。」


「お前達、そろそろ行こう。千春殿も疲れているんだ。」


「あ、そうですね。すみません、もうすぐ日も暮れますから急ぎましょう。」


アクラスの言葉に皆が再び馬を走らせようとしたその時、


ポツポツーー、と雨が降ってきた。


「これは本当に急いだ方がいいな。千春殿が風邪を引く。」


「皆も引いちゃうわ。ーーシエロ。」

千春は空を仰いだ。


『どうした?』

千春の呼びかけにすぐにシエロが現れた。


「私達の周りだけ、雨を避けられる?」


『簡単だ。』

すると、千春達の頭上で雨が避けるようにして散っていく。


「おぉ!こんな事もできるのか!」

「これは良い!」


周りの者達は驚嘆した。


雨を避けるため、城に帰り着くまではシエロも一緒だ。
千春は今日あった事を楽しそうに話す。


それからしばらくして、もうすぐ城が見えてくるといった頃、突然千春達の前に多くの人間が木々の間から姿を現した。

その数約三十人。


「おい、てめぇら。身形みなりが良いところを見ると、城の者かお貴族様だろ?」


「…それがどうした。俺達は急いでいるんだ。そこをどいてくれないか?」


「そんな事言わずによー、金目の物を置いてってくれよ。そしたら命は助けてやるぜ?あと、その女も置いていけ。」

男は千春を指差した。


「…っ、」


「…ふざけるなよ?」

アクラスは千春を抱きしめる。


「ふざけてねぇよ。こっちは三十だ。お前らは精々十数人。どちらが優勢なのかは分かるだろ?」


「ふん、雑魚が集まったところで何も変わらん。」


「おぉ、言うね団長!確かに!」


「ぁあ⁈雑魚だと!?テメェ殺すぞ⁈」


「このような愚かな行為をしていて雑魚だと自覚できないのですか?…お可哀想に。」

トレインがそう嘲笑った。


「っマジで痛い目みるぞ?
…だが、その女は俺達がたっぷり可愛がってやるからよ。後で楽しもうな?愛し子様。」


「…下衆共が。千春殿を知ってての事か。」


「アクラスさん…、」


アクラスが震える千春を抱きしめ、剣を抜こうとした、その時。


かたわらにいたシエロから不穏な空気が漂ってきた。


「あ、怒ってる?」

「お顔が恐ろしいですね…。」



『ーー私の千春を下賤げせんな目で見るな。愚か者共が。』

怒気を含んだ声でそう言うと、




ヒュルルルルーーー



何やら空から甲高い音が聞こえてきた。

皆が何だ?と空を見上げようとしたその時、



ドカドカドカドカッッ!!!!


ーーあっという間に男達は全員地に伏せた。



見ると、その体には30㎝はあるだろうひょうがいくつも乗っかっており、男達は地面にめり込んでいた。その重さも相当なのだろう。


「ぉおー…。こりゃすげー、…いたそう。」

トニーが思わず眉を顰めて呟いた。


「…凄いな。これが以前千春殿が言っていた雹で敵を潰す技か。恐ろしいな…。」

泥棒を雹で潰してくれたシエロの事を千春が話していたな、とアクラスは思い出したのだ。


「…これ、生きてます…?」

トレインは恐る恐る尋ねる。


『生きてはいるだろう。骨は何本か折れてるだろうがな。』


「ひぇーっ!!こぇえ!!雹ってこんな恐ろしいものだったっけ⁈こんなデカイの初めて見たんだけど!」


「ありがとう、シエロ!」


『いや、構わない。千春が下賤な目で見られることが耐えられなかったのでな。』


「…これにお礼言えちゃう千春ちゃんもすげぇ。」


「…とにかく、この男達を連行しなければ。あと手当もな…。」
アクラスはそう呟いた。


「それじゃぁ早く帰りましょうっ。
アクラスさん、今日は色んな事がありましたから、帰ったらゆっくり温泉にでも浸かりましょうね!」

千春は笑顔でアクラスを見上げた。


「…そうだな。何も考えずにゆっくりしたいな。」



そうしてやっと1日が終わったのであった。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

うっかり結婚を承諾したら……。

翠月るるな
恋愛
「結婚しようよ」 なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。 相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。 白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。 実際は思った感じではなくて──?

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています

六花心碧
恋愛
お気に入り小説の世界で名前すら出てこないモブキャラに転生してしまった! 『推しのバッドエンドを阻止したい』 そう思っただけなのに、悪女からは脅されるし、小説の展開はどんどん変わっていっちゃうし……。 推しキャラである公爵様の反逆を防いで、見事バッドエンドを回避できるのか……?! ゆるくて、甘くて、ふわっとした溺愛ストーリーです➴⡱ ◇2025.3 日間・週間1位いただきました!HOTランキングは最高3位いただきました!  皆様のおかげです、本当にありがとうございました(ˊᗜˋ*) (外部URLで登録していたものを改めて登録しました! ◇他サイト様でも公開中です)

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

処理中です...