神を恨んで死んだ俺は神によって異世界で魔王となる

きょんきち

文字の大きさ
17 / 26
第三章『大陸掌握』

勇者グレイグ

しおりを挟む
 それからは静かなものだった。彼は何もしなければ何もしてこない事を理解した住人達は怯えた目を向けるだけとなったのだ。

「罪のない住民達にまで手をあげるとは見下げたものだな。魔王ノワール。」

そう言って彼の前に立ち塞がったのは見知った顔だった。

「生きているのはわかっていたが逃げずにこんなところにいたんだな。グレイグ。」

ノワールの前にいたのはあの街を見捨て、彼から逃げ出したグレイグだった。

あの時と違い黒い質のいい重厚な鎧を身に纏ったグレイグは同じく漆黒の剣を抜き、彼に向ける。

その鎧は本来はこの世界の魔王となるものが身に纏うためのものである。

人と魔が混じり合い生まれたこの国の人々は人でありながらその身に魔石を持つ魔人と呼ばれる種族でその魔石は通常の魔物のそれよりも膨大な力を秘めている。

彼が身につけている剣と鎧はそんな魔石を使用されて作られたもので力を膨大に高めるという。

それによってグレイグはあの日の宣言通り魔王に相対する者、勇者の力を得たのである。

ノワールは少しだけ楽しくなった。彼の装備から溢れる膨大な力を感じ取り、これならば少しは楽しめそうだと思ったのだ。

「『十束剣タケミカヅチ』」

タケミカヅチの権能により剣を生み出す。

それは神剣。日本の神話において神の持つ剣として様々に描かれるものだ。

それぞれ別のものであるが権能として現れたそれは全てのそれを示す。

防具は着ない。彼の纏うローブは神気の集まったものであり生半可な防具よりも性能がいいのだ。

彼が武器を手に取ったのをみてグレイグが彼に斬りかかる。

キン!

澄んだ音を立てながら彼はそれを片手で平然と防ぎながら感心した。

彼の今持っているそれは天羽々斬剣あめのはばきりと呼ばれる姿となっている。

それは八岐大蛇を斬った逸話のある神剣。

確かに尾の中にあった草薙の剣で欠けるという逸話があることから無敵というわけではないが蛇神をも切り裂く程の切味があるものだ。

それに受け止められて逆に切れない程の硬度があの剣にはあるということになる。

鎧のほうはどうだろうか。

「『這いよる混沌ナイアーラットホテプ』」

影を移動してグレイグの背後を取り剣を振るう。避け切れずグレイグの鎧に当たるが剣と同様彼の剣を弾き返した。

(面白い、面白い。この世界に来てこれほどの手応えがある戦いははじめてだ。)

彼は心底戦いを楽しんでいた。退屈だった今日までを埋めるように。

それから数度、剣を合わせる。グレイグの技量も中々のものでノワールの剣を掻い潜って何度かきりふせてきた。

しかし彼の剣もまたノワールのローブを貫ける程の力はなく少しの衝撃を伝えるのみだ。

そしてノワールはグレイグの技量をものすごい早さで学び、盗んでいった。

しばらくもすればお互いの腕前は互角となり、競り合っては間合いをとり睨み合う状態となった。

(飽きたな。)

彼の腕前の天井が見えたノワールは急激に醒めた。醒めたので終わらせる事にした。

そう、終わらせようと思えばいつでも終わらせられたのだ。とある権能を使えば。

それは彼自身卑怯だと思うもの。元の神話よりモチーフにした作品が有名になり存在がねじ曲がったものだ。

「『応えるものルー』」

今まで持っていた剣を解除し、新たな剣を生み出す。

それは何の変哲もない片手剣。華美な装飾もない素朴なものだった。

「全力でこいよ。もう生半可な攻撃はお互い通じないってわかっただろう?」

明らかなノワールの誘いにグレイグは警戒した。しかし彼かをいうことも確かでこのまま続けても終わりが見えない。

いや、疲労度はこっちの方が上に感じる。

誘いとわかっていてもそれに応えるしかなかった。

増幅された力を全力で込める。放つのは一点突破の突きだ。ローブにではなく確実にノワールの顔目掛けて全力の突きを打つ。

「アンサラー」

それはキーワード。そして彼の権能の元となった神の持つ剣の異名。

ルーの義父が彼に与えた剣につけられたその異名の本来は自動で迎撃するという事からつけられたものだが、

とある作品でこう表現された。『後より出て先に断つ者アンサラー』と。

それは相手の力が強いほど強力となる一撃。

それは発動した時点で相手に既に当たっていることが確定している一撃。

そして先に当たるのだから後となった相手の攻撃は無効化される無慈悲な一撃。

彼の手から放たれたそれは吸い込まれるように彼の首に突き刺さり、彼の命を奪った。

終わってみれば一瞬の結末だった。

跪くだけで倒れなかったのは彼の執念だろうか。

勝ち残った魔王はもうそれに対する興味はないと横を素通りし、王城へ足を踏み入れていく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

処理中です...