乙女ゲーの王子に転生したけどヒロインはマジでお断りです

きょんきち

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波乱の学園生活

もう1つのプロローグ

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※第3者目線になります。

 薄暗い部屋の中でその女はやつれた顔で天井をぼんやり眺めていた。

1ヶ月ほど前のことだ。彼の弟が事故によりこの世を去った。

人通りが少ない道路の横断歩道。信号を無視した大型トラックの衝突による即死だ。

随分とスピードを出していたらしい。死体は無惨なもので、ぶつかった時に手を離れて落ちたのであろう。

彼が購入したと思われるプリンと漫画雑誌の入った袋だけが無事に回収された。

 突然の訃報に彼女の家は混乱に陥った。彼が彼女に言われて出かけた際の事故と知られた時、彼女は理不尽に責め立てられた。

彼女自身、自分をそれ以上に責めた。生意気な弟と思っていた。体ばかり大きくなり自分に反抗的な態度をとっていた弟。

幼い頃から植え付けた上下関係と自分の剣道の腕前から明確な反抗はしなかったが自分でも理不尽だろうと思う行為に対し、文句も言わずに従う弟が気に食わなかった。

だから尚更理不尽な態度になってしまっていた。だけど憎んでいたわけじゃない。

だから彼女は後悔していた。こんなことならばもう少し優しくしてやればよかった。

あの時買い物なんて頼まなければよかった。そんな思いが社交的だった彼女の性格を反転させ、彼女は自室に篭り切る様になった。

弟の四十九日にすら彼女は自室から出てくることはなかった。

日毎に彼女の後悔は積み重なり食事も喉を通さなくなっていた。

衰弱していく中彼女は無気力にぼんやりと天井を見つめるだけになっていた。

もう外から呼びかける両親の声も彼女の耳には届かなくなっていた。

(なんと不憫な娘だろうか。)

 それを観察する者がいた。神と呼ばれる存在の1柱。

それが彼女に興味を持ったのは偶然であり必然だった。

1ヶ月ほど前、それは異世界の神と協定を結び1人の青年の魂を異世界に送った。

その青年がその日死んだのは神によってもたらされたことではなかったがなんとなしで彼の残された家族が気になったのだ。

彼の姉が好んでやっていたゲームは何の偶然か彼が送られていった世界に酷似していた。

酷似なんてものではない。そのものと言えた。自身が神となった世界の産物とはいえ末恐ろしいものだとそれが思うほどにだ。

彼の姉の死は近い。そもそも心はもうすでに死んでいる様なものだった。

神は見守るしかできない。しかし非常に不憫に思ったそれは1つ手を打つことにした。

彼の魂を送った異世界の神にもう1人送っていいか尋ねたのだ。

異世界の神はそれを快く了承した。なんでも送り込んだ彼のおかげで文明が大きく発展したというのだ。

 そんなことをしているうちに彼女はいよいよ死を迎えた。

死してなお彼女の魂は後悔に蝕まれていたのでそれは彼女から彼の記憶を封じて異世界に送った。

彼女があっちで哀しい想いをしないように。

----------

 木窓の隙間から差し込む朝日を浴びて、彼女は目を覚ました。

随分と長い悪夢を見ていた気がするが彼女の頭はスッキリとしていた。

長年悩まされていた肩こりが抜けたようだ。しかし見知らぬ部屋の粗末なベッドに戸惑った。

自分はなぜこんなところにいるのだろうか。ふと、部屋の隅に置かれた鏡台が目に入った鏡に映された女性は自分の顔ではない。

しかし見知った顔だ。

「リゲル?」

誰となしにそう呟いた瞬間、彼女はひどい頭痛に襲われた。彼女の中に彼女ではない者の記憶が流れ込む。

1つに纏まる。彼女が彼女になる。そして彼女は悟った。ここが異世界であること。

ここが彼女のお気に入りだったゲームと同じ世界であること。

自分がその主人公に転生したこと。

彼女は喜んだ。ついこの間まで落ち込んでいた気分が吹き飛んだ。そういうことなら自分の未来が明るいと思ったからだ。

何度もやり込んだ彼女はゲームの内容はそらで言えるほど覚えている。

「うふふふ、待っててね、ブランシュ様」

彼女は彼女が最も好きだったキャラを思い浮かべてそう呟く。

それがもう彼女の知る彼ではないことを知らずに。

この世界はすでに彼女の知るそれとは大きく違っていることを知らずに。

彼女は何も知らずに先のことを想い顔を綻ばせる。

彼女が14歳の春のことだった。
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