満月の夜に

月樹《つき》

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一話完結

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 ~いまは昔、竹取の翁といふもの有けり~

 ~かぐや姫、月のおもしろう出でたるを見て、常よりも物思ひたるさまなり~



「な~に?微妙な顔しちゃって…怪しいサイトでも見てるの?
 ただでさえ名前負けなてる君の顔が、より残念なことになってるよ…」

 登校するなり、ガキの頃からの悪友たちばな怜皇れおが人のスマホを覗いてきた。
 確かに…橘の整ったお顔に比べたら、残念だが、これでも人並みです。
 顔のことは置いといて…俺は最近頭の片隅に引っ掛かっている悩みを、橘にも聞いてみることにした。

「これ…。スマホ弄ってたら、何か最近やたらとこの画面が出てくるんだ…」

 そう言って俺が見せた画面には、もう少しで満月になりそうな月がドアップで写っている。

「何それ?運気が上がるとかいって…怪しい広告につながるやつ?」
「いいや、これどこのサイトにも繋がってないから…」
「じゃあ、どこから送られてきてるの?」
「それが…分からない。しかも、これ毎日月の形が変化していて…段々満月に近づいているし…」

 画面の中の月は、ちょうど十三夜と言われる月でもう少しで満月になる。

 そして…月の上に書かれたメッセージはいつも同じ…


     『満月の夜に』



「え~ッ!?これって…毎日送られてきてるの?」
 さすがにさっきまでふざけていた橘もちょっと真剣な顔になり、俺からスマホを取り上げ、そして画面を睨みつけた。

「もうすぐ中秋の名月でしょ?それまでコレは僕が預かっておいてあげるよ」
 そう言うやいなや、橘は俺のスマホを自分のカバンにしまい込んだ。

「いやいやいや…。中秋の名月まで、まだ2日もあるのに、それないと俺…困るから…」
 重度のネット中毒の俺が、2日もスマホなしで生きられるわけない。

「これを機会に、たまにはスマホ絶ちした方がいいぞ。輝くん、前回のテストも悲惨だったろ?」
「スマホとテストに何の関係があるんだ!?」
「だって、どうせテスト期間もずっとスマホでゲームしてて、勉強に身が入らなかったんでしょ?」

 うっ…その通りすぎて、言い返せない…。

「とりあえずは、2日間スマホのない生活から始めてみなよ」

 そう言って、結局橘は俺のスマホを持って行ってしまった…。

 でも…スマホが手元にないと、あの月の画像を気に掛けることもなくなったので、強硬手段ではあったけれど、結果的に良かったのかもしれない。

 ~・~・~・~・~

『ねえねえ、知ってる?学校の近くで、何か雑誌の撮影があるらしいよ?』
『うそ~?誰が来てるの?』
『あの北欧出身で世界的なモデルのマーニらしいよ』
『馬鹿ね、見間違いだって…。あの神のような美しさを持つお方が、こんな何もない田舎に来るわけないじゃない?』


 女子達が楽しいおしゃべりに花を咲かせている間…俺は…


「スマン。お前まで付き合わなくても良かったのに…」
 数学の抜き打ちテストの点が悪すぎて、問題が解けるまで居残りをさせられていた…。
 そんな俺に橘もつき合ってくれて…やっと解放されたのは、陽もすっかり落ちた頃だった…。
 もちろん橘は抜き打ちだろうが何だろうが、余裕の満点だ。

 本当、もっと良い高校行けただろうに、何で俺と同じ高校通ってんだろう…?

「気にするな。てるの面倒を見るのは、一生、僕の役目だから…それに今夜は…」
 俺の肩を組みながら、爽やかな笑顔でそう答える橘にムカついて…

「一生って何だよ!!俺はお前の嫁か!?」
 肩にかかった手を、バンバン叩きながら、俺がそう返すと…

「そうだよ」
 橘はごく至近距離から、真面目になると整いすぎる顔で答えた…。

 あまりにもその表情が真剣だったから笑い飛ばすことも出来ず、しばらく無言で見つめ合う形になっていたら…


『それは困るな…』


 突然、俺達2人に割って入る声がしたので、驚いて振り向くと…

 満月をバックに、長身の凄いイケメンの外国人が立っていた。

 その銀髪は月の光に溶け込み…氷のように冷たいブルーの瞳は、人とは違う…
 近寄りがたい神聖さを感じさせた…。


『マーニ』
 俺の口からは、何故か慣れ親しむ日本語とは異なる言語が飛び出していた…。

 自分で自分の発した言葉に驚いて、思わず口を押さえ黙り込むと…

『姫…迎えに参りました』
 その銀髪のイケメンことマーニは、無機質な顔のまま、すっとこちらに手を差し出した。

『姫って…。俺、こんな平凡な男子高校生ですけれど…?』
 どうしてなのか…俺はマーニと同じ、謎の言語を話すことができた。

『…その姿も愛らしいですが…それは世を忍ぶ仮の姿。月に戻れば、また貴方本来の美しいお姿に戻ります』
 マーニはその表情のない顔の頬を少し赤らめ、平凡男子高校生の俺を『愛らしい』とかわけ分からないことを言い出したけれど…。
 その後のセリフの方が、もっと意味が分からない…。


 (月に戻るって何だ…?本来の美しさ…?)


「ちょっと、輝は何語を話しているの?そんな言語聞いたこともないよ?」

 焦った様子で橘が、俺の肩を揺さぶってきた。

「俺にも分からん。あの無表情イケメンを見ていたら、その言葉が勝手に出てきた」
 それは本当だ。俺にも何故かは分からない…。


『おいおい、邪魔するのは、また君?
 前もそうやって姫を煩わせていたけれど…所詮、姫と君では住む世界が違うのです』
 マーニが呆れたようにそう言うと…

「何と言ったのかは分からないけれど、今、彼は僕のことを馬鹿にしたよね?」
 マーニの表情は相変わらず無表情なままで変化がないのに、言葉も分からず空気を読むなんて…さすが橘だ…。

『マーニ…お前、実は日本語話せるだろ?』

『どうして私が彼に合わせる必要が?』

『天才の橘がどう頑張っても、俺達のこの言語は話せない…。地球上に存在しない言語だからな…。
 それなら、できる者が合わせれば良い話だろ?』
 俺のニヒルな笑顔に、マーニは渋々従った…。



『なに…あのいたずらっ子のような、可愛い笑顔…反則…あんな顔されたら、従うしかないでしょ…』
 よく分からないことを言いながら…。



「2度目まして、みかど
 君、相変わらずしつこいね…。
 前も言ったけれど、姫は月の世界の人なの。住む世界が違うんだから…いい加減あきらめたら?」

「姫って…テルのこと?」
 橘は胡乱げな目で、俺とマーニを見た…。

「今は世を忍ぶ仮の姿をされているから、可愛い男子高校生姿ですけれど、月に帰れば姫本来の美しいお姿に戻るんです」
 マーニ…俺は決して可愛い系男子ではないぞ…。

「今の姿で十分可愛いんだから、月なんかに行って姫になる必要はないんじゃないかな?
 そもそも、月なんて何の娯楽もなさそうなところに連れて行かれても、テルは大丈夫なの?」
 そう言って、俺のスマホをチラチラ見せる橘…。



 結果、俺は日本に留まった。
 決してスマホゲーム『明るい農村開拓』の続きをしたかったからではない!!たぶん…

 ~・~・~・~・~

「どうして君まで、ここにいるの?」
 まだ夏が終わったばかりだと言うのに凍りそうな冷たい眼差しで、マーニを睨みつける橘…。

 あの後、何故かうちの高校に北欧系イケメンモデルのマーニが転校して来たと、学園は大騒ぎになった…。

「姫が帰らないと言うのなら、従者の私はその可愛い我儘に付き合うしかないじゃないですか…」
 相変わらずの無表情だけれど、変に空気が甘い…。マーニのその手には、俺とお揃いの機種のスマホが握られている…。

 俺の席の周りにばかり、イケメンが集まるので、女子からの視線の集中砲火に俺は瀕死寸前だ…。

 とりあえず、あの怪しい画像が送られてくることもなくなり、スマホを返してもらえたので、俺はゲームの続きができ満足だけれど…。


「輝、前回の散々だった点数を挽回するため、次のテスト期間入ったら、またスマホ預かるからね」
 ちょっと怖い笑顔で、死刑宣告を告げる橘と…。

「ここのテストはそんなに難しくないと思うのですが…どうしてそんな点数が取れるのですか?」
 と無意識でマウントをとるマーニ…。


 繊細なガラスのハートを傷つけられながらも、今日も変わらず平凡で楽しい俺の学園生活は続く…。


 ■□■□■□■□

 お読みいただきありがとうございます。

 新年からのキャラ文芸大賞に参加しております。

 応援よろしくお願いいたします(*^^*)

『須加さんのお気に入り』
 https://www.alphapolis.co.jp/novel/977567822/236927984  
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