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予期せぬ事態
第22話 噂が流れる
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「うわぁ~、あれが例の……」
「ほんとだー。二股?……五股か。やばすぎるよねー」
碧斗は今朝から嫌な視線を受けている。コソコソと聞こえるその会話は、自分に向けられているものでは無いのか、と心配になってくる。
「おはーっす……」
碧斗は両頬を叩いてから教室に入ったのだが、気持ちを入れ替えることは出来ておらず、小さな声になってしまう。
「おいおい碧斗!変な噂流されてるけど、大丈夫なのか!?」
教室に入ると、いつものふざけた感じが全くない冬馬が碧斗の元へ駆け寄る。
「実は俺、どういう噂を流されてるか分からないんだ。良かったら教えてくれないか?」
「俺もさっき知ったんだが……」
冬馬は真面目な声で話し始める。
◆
俺が学校に着いてすぐの頃。
「よお荒木。お前がよく話しかけてる橘碧斗って男と関わらない方がいいぞ」
「なんで?」
生徒玄関で数回しか話したことの無い生徒から話しかけられた。顔は覚えているが、名前は思い出せない。ほ
「橘碧斗は何股もしてるらしいんだよ。──東條って彼女いないだろ?あんな女誑しが近くにいたらムカつくだろ」
そう言って、名も知らぬ彼はガハハと癪に障る笑い方で笑う。
「──なよ」
「なんか言った?」
「碧斗のことを何も知らないくせに、そんな事言うなよッ!」
俺はつい声を張り上げて言ってしまった。周りからは、どうした、と好奇の目を向けられるが、関係ない。
「は?お前あんな女誑しクソ野郎に肩入れするの?きっしょ、もうお前と関わらないわ」
そう言い捨てると彼は俺の前から去って行った。俺もアイツの名前すら覚えてないからどうでもいい。
それよりも親友が罵られたことに対して、俺は腸が煮えくり返るほど腹が立った。
それから教室に向かうまでの道のりで、何度か碧斗の噂について耳にした。どれもこれも根も葉もない噂だ。
何か物申したかったが、ここはぐっと抑えることにした。何事においても情報は大切だ。今は聞き耳をたてるだけにしておく。
『橘は何股かかけていたから別れたんだ』や『キモすぎ』という碧斗アンチが沢山いたが、『橘くん大丈夫かな?』や『そんな噂信じない』といった碧斗のことをわかってくれる人もいた。
俺は碧斗の親友として、そういう言葉が聞けて少しほっとした。
◆
「──ってな感じだ」
「……」
「どうかしたか?」
冬馬が話している最中から、碧斗は顔を俯けている。それは何故なのか……
「親友からのそういう話は聞いてて恥ずかしい」
シンプルに照れによるものだった。この時、碧斗は冬馬と親友でよかった、と心から思ったのだった。
「にしてもどうして一日でここまで噂が広がったんだろうなー」
ボソッと碧斗が吐き出した言葉。それに対し、冬馬のカンが働く。
「──っは!一日でそこまで広がったということは、デマを流したのはこの学校である程度知名度と人気がある人なんじゃないか?」
「たしかに」
「早くこの噂をどうにかしたい。俺が少しでも役に立つ案を考えてやる」
いつもは女子のことしか頭にない冬馬だが、こういう時は頼りになる。
自分のために必死で解決策を考える冬馬に、失礼だが「いつもからそんな調子ならモテただろうに」と哀れむ碧斗。
今、呑気でいられているのは百パーセント冬馬のお陰。碧斗は今度ハンバーガーでも奢るかと、意気込むのだった。
「ほんとだー。二股?……五股か。やばすぎるよねー」
碧斗は今朝から嫌な視線を受けている。コソコソと聞こえるその会話は、自分に向けられているものでは無いのか、と心配になってくる。
「おはーっす……」
碧斗は両頬を叩いてから教室に入ったのだが、気持ちを入れ替えることは出来ておらず、小さな声になってしまう。
「おいおい碧斗!変な噂流されてるけど、大丈夫なのか!?」
教室に入ると、いつものふざけた感じが全くない冬馬が碧斗の元へ駆け寄る。
「実は俺、どういう噂を流されてるか分からないんだ。良かったら教えてくれないか?」
「俺もさっき知ったんだが……」
冬馬は真面目な声で話し始める。
◆
俺が学校に着いてすぐの頃。
「よお荒木。お前がよく話しかけてる橘碧斗って男と関わらない方がいいぞ」
「なんで?」
生徒玄関で数回しか話したことの無い生徒から話しかけられた。顔は覚えているが、名前は思い出せない。ほ
「橘碧斗は何股もしてるらしいんだよ。──東條って彼女いないだろ?あんな女誑しが近くにいたらムカつくだろ」
そう言って、名も知らぬ彼はガハハと癪に障る笑い方で笑う。
「──なよ」
「なんか言った?」
「碧斗のことを何も知らないくせに、そんな事言うなよッ!」
俺はつい声を張り上げて言ってしまった。周りからは、どうした、と好奇の目を向けられるが、関係ない。
「は?お前あんな女誑しクソ野郎に肩入れするの?きっしょ、もうお前と関わらないわ」
そう言い捨てると彼は俺の前から去って行った。俺もアイツの名前すら覚えてないからどうでもいい。
それよりも親友が罵られたことに対して、俺は腸が煮えくり返るほど腹が立った。
それから教室に向かうまでの道のりで、何度か碧斗の噂について耳にした。どれもこれも根も葉もない噂だ。
何か物申したかったが、ここはぐっと抑えることにした。何事においても情報は大切だ。今は聞き耳をたてるだけにしておく。
『橘は何股かかけていたから別れたんだ』や『キモすぎ』という碧斗アンチが沢山いたが、『橘くん大丈夫かな?』や『そんな噂信じない』といった碧斗のことをわかってくれる人もいた。
俺は碧斗の親友として、そういう言葉が聞けて少しほっとした。
◆
「──ってな感じだ」
「……」
「どうかしたか?」
冬馬が話している最中から、碧斗は顔を俯けている。それは何故なのか……
「親友からのそういう話は聞いてて恥ずかしい」
シンプルに照れによるものだった。この時、碧斗は冬馬と親友でよかった、と心から思ったのだった。
「にしてもどうして一日でここまで噂が広がったんだろうなー」
ボソッと碧斗が吐き出した言葉。それに対し、冬馬のカンが働く。
「──っは!一日でそこまで広がったということは、デマを流したのはこの学校である程度知名度と人気がある人なんじゃないか?」
「たしかに」
「早くこの噂をどうにかしたい。俺が少しでも役に立つ案を考えてやる」
いつもは女子のことしか頭にない冬馬だが、こういう時は頼りになる。
自分のために必死で解決策を考える冬馬に、失礼だが「いつもからそんな調子ならモテただろうに」と哀れむ碧斗。
今、呑気でいられているのは百パーセント冬馬のお陰。碧斗は今度ハンバーガーでも奢るかと、意気込むのだった。
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