森の民

森の民

ベジ大陸の中央に大きな森があった。

鬱蒼とした森の深部。
そこには、人が住んでいた。フードを目深に被り、仮面をつけ、容姿も性別も分からない。フードからこぼれ落ちる髪でかろうじて黒髪だと分かるたけだ。
詳しくは誰も知らない。人々は、森の民と呼んだ。
　


森の民は孤独だった。

存在は、知られている。

ただそれだけだ。誰も来なければ、名も呼ばない。

森の民は、ミュオソーティスアルペーストニスという名なのだが、名を呼ばれなければ、忘れてしまう。ミュオソーティスアルペーストニスは、長すぎる呼ばれることのない自分の名前をしだいに忘れ、森の民となった。



森の民は、寂しさを紛らわす為に人形を作った。初めは、枝を組み合わせただけの簡素な人形が、木彫りになり、腕を上げた。心の隙間を埋めるかのように、人形を作り続けた。

長い年月をかけて、関節が自在に曲がる人形にまでなった時、森の民は願った。


『もしも、この人形が自分と同じように動いたなら…』


森の民の強い想いに応えるかのように、天より舞い降りた女性。眩しいほど純白の翼を持っていた。彼女は、天界の天使、カタルシスと名乗った。

天使カタルシスは、森の民に力を分け与えた。森の民は、人間のように動き、喋る人形を造れるようになった。更に、人間と同じく食事や睡眠をとる人形も造れた。

天使カタルシスが去った後、森の民は、遂に人間とそっくりな見た目、質感を再現し、自分と同じように動く人形を生み出した。

森の民は、ようやく満たされたのだった。