姉妹チート

和希

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未来染めて

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(1)

「秋久ちゃんと手を繋いでないとダメでしょ」
「ほら、ちゃんとまっすぐ歩きなさい」

 陽葵と菫が秋久の面倒を見ている。
 比呂は美希にまとわりついている。
 結は何事もないかのようだが美希が素早く見抜いていた。

「結!ちゃんと自分の足で歩きなさい!」

 結は歩くのも面倒でわずかに自分の身体を浮かべて推進するらしい。
 注意深く見れば足が動いてないから分かるんだそうだ。
 そんな結を茉莉と結莉が珍しそうに見ている。
 今日はフラワーパークに遊びに来ていた。
 空や翼のところも誘っておいた。
 どうしてこうなったのかさっぱり分からない。
「ガッデム」と言う口癖は「ひろ」に変わった。
 美希達も驚いていたらしい。
 もちろん異性として見てるわけじゃない。
 女の子は男の子よりも若干おませなところがある。
 いい玩具程度にしか思ってないのだろう。

「比呂はモテるんだろうか?」

 私と翼は愛莉に聞いていた。

「それは多分ないと思います」

 愛莉はそう言ってリビングでお菓子を黙々と食べている比呂を見ていた。
 隣に座って「これあげる」と結莉が言うと「ありがとー」と言ってそれを食べている。
 ああ、そういう事か。
 何となく理解した。
 もう大体の物は食べられるようになった。
 食べまくるから体重を心配したけど必要なかったようだ。
 結莉と茉莉は私の娘だ。
 太ると言う事はないだろう。
 それに寝ている時間以外は部屋の中を歩き回って茉莉とガンアクションを繰り広げている。
 1歳半ちょっとの子供のアクションじゃない。
 そんな結莉も比呂の前でだけはお姉さんぶっている。
 ちなみに比呂の世話をしている結莉の隣で茉莉は寝ている。
 渋滞の中騒がないので助かっていたけど。
 農業公園に着くと広場にレジャーシートを敷いてその上で弁当を食べる。

「旦那様!それは結と比呂の分ですよ!」

 美希が空に注意している。
 結と比呂の食欲は結莉達以上だった。
 
「比呂、これも食べて」

 結莉は比呂に色々食い物を与えている。
 比呂は受け取ると食べる。
 ただ食い物をくれる存在程度にしか認識してないんだろうな。
 結莉のこの先の苦労が何となく分かった。
 比呂や結の食欲は空や翼を超える物がある。
 パパに近いと愛莉が言っていた。
 昼食が済むと帰りたいところだけど陽葵と菫がいる。
 ちょっと散策することにした。
 菫たちには私達の目の届く場所にいるように指示した。
 最近調子に乗ってる馬鹿がいるから。
 骨の一本や二本折ったくらいでは懲りないらしい。
 いっそまとめて燃やしてやるか。
 まあ、そんな馬鹿の事より私は結莉の方が気になった。
 翼も同じようだ。
 結や比呂もそうだけど結莉も成長速度が異常に早い。
 結莉は比呂と手を繋いで嬉しそうに歩いていた。
 比呂も上手い事結莉の機嫌を取っている。

「結莉ちゃんが一緒に手を繋いで歩いてくれるって言うんだから、好意を無駄にしちゃだめ」

 女の子と手をつないで歩くことは凄いことなんだよと美希が比呂に言い聞かせてた。
 意味を理解しているのか分からないけど結莉に付き合っていた。

「私といるのが退屈?」

 そんな事を言いだす年じゃない。
 今はただ比呂がそばにいるだけで嬉しいんだろう。

「大地はこれから大変だね」

 翼がそう言って笑っていた。

「まさかもう娘が親元から離れていくとは思いませんでした」

 普通はそうだよな。

「大丈夫だよ、あの2人親戚なんだから」
 
 翼はそういう。
 だけど今のうちに慣れておく必要はあるのは比呂も結莉も大地も一緒だ。
 花を見て廻ったり滑り台で遊んだりしている。
 それを私達は見守っていた。
 大地は周りを警戒している。

「何かあったか?」

 大地に聞いてみた。

「尾行されてる」

 大地がそう言うと空も感じ取ったらしい。
 折角の休日を台無しにしやがって。
 ただで帰れると思うなよ。
 
「そろそろ帰ろうか。帰りにハンバーグとお寿司どっちがいい?」

 翼が菫たちに聞いてる。
 結莉達に聞いたら「どっちも!」と言い出すから。
 菫たちは寿司を選んだ。
 どうせハンバーグは鉄板だから自分で切ることは出来ない。
 お子様ランチ程度で済まされるくらいなら寿司がいい。 
 そんなところだろう。
 駐車場につくと、馬鹿が動き出した。
 車に結を乗せようとしている空に銃口を突きつけた。
 
「大人しくガキを引き渡せ」

 空が銃を持った相手を睨みつける。
 すると結が空の感情をすぐに察知する。
 もちろん泣きわめくとかそういう真似はしない。
 ただじっと馬鹿を睨みつけている。
 ただのめんどくさがりの子供だったらそれで済んだ。
 だが、この馬鹿達は知らない。
 最初に目をつけたのが結だったのが運のつきだった。
 突然銃を持った男が空中に浮かび上がる。
 空中であたふたしている男は苦し紛れに発砲する。
 だが結の能力で銃弾は弾かれる。
 銃弾が尽きたころ結は馬鹿を地面にたたきつけようとした。
 あの高さでこの落下速度なら間違いなく死ぬな。
 だが、結は素直な子だ。
 空の指示をちゃんと聞く。
 地面に激突する寸前で止めておいた。
 馬鹿は気絶していた。
 もちろん一人で来たわけじゃなさそうだ。
 大地と空は私達に車に乗っているように指示していた。
 
「子供を利用して失敗したら次は誘拐か?つぐづく情けない集団だな」
「あまり余計な事を言わない方がいいぞ?」

 馬鹿の一人が空に銃を向けた時、空はその場所にいなかった。
 空が本気を出すと善明や大地では目でとらえられないらしい。
 一瞬のすきに懐まで接近して銃を持った腕を上にあげていた。

「あまり舐めるなよ。人が連休を楽しんでる時に馬鹿な真似をしやがって」
「空に同感ですね。あまりふざけた行動をすると殺すよ?」

 大地が銃を取り出していつでも打てるように構えている。
 空も無理矢理男から銃を奪うとそれを大地に向けて投げる。
 大地が受け取った。
 残った奴らが逃げ出そうとするが輸送車が行く手を阻む。
 尻バットするための棒ではなく警棒を持った迷彩服を着た兵隊が出て来て全員確保すると輸送車に押し込める。
 そのころ私と翼は車から出た。
 念の為子供達は車に乗せておいた。

「この後どうするんだ?」

 私が空に聞くと「いつもどおりだけど?」と答える。
 だから私は多分駄目だろうけどお願いしてみた。

「梱包作業を私もやりたい!」
  
 大地が必死に宥めていた。
 そんなにバラバラになりたいならチェーンソーを買ってこないといけないな。

(2)

 ピンポーン
 こんな時間に誰だろう?
 俺は玄関に向かう。
 扉を開けると加奈子が待っていた。
 連休だから泊まるつもりなのだろうか?
 やけに荷物が多い。

「今夜泊ってくのか?」

 そう聞いてみた。

「ずっと泊まりたい」
 
 へ?
 加奈子の顔を見ると必死さが伝わってくる。
 とりあえず上がるように言った。
 リビングに正座している。
 やけに思い詰めている様だ。
 思えばあの事件後あまり笑わなくなったな。
 なんか予感がしたので酒は控えておく事にした。

「これでも飲めよ」
「ありがとう……」

 加奈子にジュースを渡すとそれを飲む。

「で、何があったんだ?」
「勝次、私は怖いの」

 あの事件があってから俺の加奈子に対する態度が変わった。
 俺もどうしてやればいいか分からなかったから喜一に聞いたら「とりあえずそっとしておいてやれ」と言ったのでそうしていた。
 それが不安だったらしい。
 何がどうしてそうなるのか分からないけど加奈子は他の男にされたという負い目で俺が加奈子を遠ざけていると思ったらしい。
 だから離れているから不安だ。
 それで一緒に暮らしたいと言い出した。
 困った。
 さすがにそれは加奈子の両親に悪いだろうと言うくらいは分かる。
 元々加奈子は両親とあまり仲が良くなかったけど。

「やっぱり私じゃもうだめなのかな……」

 今にも泣きだしそうな声で加奈子が言う。
 突然の事で躊躇ったけどでも、ケジメはとるべきだろう。

「加奈子、家に行こう」
「だめなの?」
「そうじゃない」

 ただ、世の中物事には順序というものがある。
 どうせなら祝福されたいだろ?
 加奈子を車に乗せて加奈子の家に行く。

「どこをほっつき歩いてたんだ!」
「お前には関係ない!!」

 家に帰るなり親子喧嘩を始める加奈子を宥めながら父親に話があると伝える。
 家に入れてもらえるまで必死に頭を下げた。
 そんな様子を見て加奈子も態度を変えて父親に訴える。
 ようやく家に入れてもらうと俺は土下座をした。

「加奈子さんと結婚させて下さい」

 俺だって働いてるし親の会社だからそれなりの役職についてる。
 加奈子を養うくらいはする。
 加奈子の学費も払えと言うなら俺は自分の親に頭を下げて金を借りる。
 俺と一緒に暮らす事で加奈子が安心するなら叶えてやりたい。
 そう言って加奈子の父親に頭を下げ続けた。
 当然なじられた。
 そのくらいの覚悟は決めてきた。
 多分喧嘩で勝つとかそんなんじゃなくて今が男の価値を見せる時なんだ。
 やがて加奈子の父親が「……ついてきなさい」と言った。
 不安そうな加奈子の頭を撫でて俺は父親の書斎に入った。

「あんなに必死な加奈子は初めて見たよ」

 父親の話を聞いていた。
 根は明るくて気さくな子なんだけど、何処で間違えたのか非行に走った。
 中学3年くらいの頃にはろくに話もしなくなった。
 あの事件の事は父親も知っている。
 それから加奈子はいつも暗い表情をしていた。
 その加奈子があそこまで必死になる理由がわからないけど、加奈子は俺を選んだ。
 加奈子が彼氏が出来たと母親に報告した時は以前の加奈子に戻っていた。
 そんな話を聞いて最後に父親は言った。

「これからの加奈子の未来を染めてくれるなら、君に任せようと思う」
「……ありがとうございます」
「学費は心配しなくていい。家で負担する」

 それが最後の子供に果たす責任だと言った。
 話が終ると加奈子を連れて車に乗る。

「たまには家に顔を見せてね……それと」

 加奈子の母親は笑って言った。

「孫は大学卒業後でいいからね」

 そして俺の家に帰ると加奈子は言った。

「本当にいいの?」

 どうしていいか分からないけど加奈子を抱きしめる。

「多分俺の価値は加奈子をどれだけ幸せにしてやれるかだと思う」

 それに一生を賭けようと思う。

「そんなに気負わないで。私今一番幸せだから」
「そうか」
「うん」

 頷いた加奈子の笑顔は最高に綺麗だった。
 一応喜一達にも報告する。

「がんばれよ」
「ああ……」

 これまでの愚行を洗えるなら、加奈子の未来を染めてやろう。
 そんな夜を過ごした。
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