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Perfume of love
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(1)
「それじゃ、皆今年は楽しもう」
遠坂梨々香さんがそう言って宴会が始まった。
基本的に大学生だけで集まるようにしていたけど、医学部の先輩くらいしかいない。
それに梨々香さんの夫の純也さんがSHの仕切り役を任せられていたので梨々香さんが代わりに席を用意してくれたらしい。
旦の原キャンパスには私達1年生がいるだけ。
だから来年からは私達の席を用意してやれと梨々香さんが純也さんに言われていた。
「純也さんは夜勤とかですか?」
私が梨々香さんに聞いてみたけど、梨々香さんは首を振った。
「純也は基本的に日勤だけなの」
刑事クラス並みになると夜勤はない。
だけどそれじゃ夜に事件が起きたら対応できない。
だから当直は夜残るようになっている。
当直じゃなくても大事件が起きれば関係なしに呼び出しを受ける。
当直が警察署から出たら同じことになるから。
だから非番でも、待機でもなくても関係なしにいつでも出られるようにしておかなければならない。
飲み会になんてとてもじゃないけど出られる状態じゃない。
特別に呼ばれない場合のみ梨々香さんと飲んでいるんだそうだ。
あとはSHのキャンプや花見でしか飲まない。
それに大抵の社会人組が気を付けていること。
「刑事が未成年に酒を勧めたなんて話が流れたら大事だ」
せっかく渡瀬本部長や遠坂のお爺さんが道を用意してくれているのに台無しにしてしまったら申し訳がない。
それは純也さんだけじゃない。
渡辺正俊さんみたいに教師なんて立場でそんなのがばれたら大変だ。
学生だけで飲むなら自己責任。
だけど大人が一人でもいたらマスコミが容赦なくたたく。
不思議な話だけどそう言う理由で高久隼人君も来てなかった。
有名人も大変みたいだ。
冬莉や志希も来ていない。
「そう言うわけだから悪いけど私も旦那の足を引っ張るわけにいかないから挨拶済んだし先に帰るよ」
またね。と言って梨々香さんも帰って行った。
「なんか聞いてたのと全然違うんだね」
江口劉生君が言っていた。
冬吾君のお父さん達の渡辺班はそんなの関係なしに参加していたらしい。
それでも愛莉さんが妊娠してから次々と妊娠が発覚して活動が停止したそうだ。
「俺達もそうなるのかな?」
颯真が言うと頼子さんが笑った。
「そうならないように私達に任せると言ったんでしょ?」
「そうだな」
「大丈夫、来年からは続いてくるから何とかなるよ」
それよりせっかくなんだからみんなで楽しもうよ。
寧々や藍佳がそう言うので楽しんでいた。
良くも悪くも私達の世代の男子は皆まじめだ。
変な真似はしない。
「実際に同棲初めてどうだった?」
とか当たり障りのない話で盛り上がっていた。
だけど私達だってまだ若い。
私は冬吾君との約束があるからアルコールは断っていたけど、白けさせるような真似はしなかった。
「瞳子は寂しくないの?」
冴が聞いていた。
「毎日相手してくれるから」
「さすがは片桐家だね」
頼子が言っていた。
「冴はどうなの?さとりとの同棲生活」
「え?ああ、普通じゃないかな……」
そう言って言葉を濁していた。
どうしたんだろう?
「どうしたんだ、せっかく集まったんだからもっと盛り上がって行こうぜ!」
2次会来るだろ?
優斗が言うので行くつもりだと伝えた。
「心配しなくてもただのカラオケだよ」
寧々が笑って言う。
冬吾君に今日は新歓あるからとは伝えてある。
「いっぱい食べてくるといいよ」
それが彼女に言う言葉なのだろうか?
そもそも冬吾君は新歓というものを理解しているのだろうか?
「知ってるよ、先輩達と交流を深めたりするんだろ?」
それでもお酒飲まないのならやっぱりただの食事会じゃないか。
冬吾君らしい発想だな。
カラオケで頼子やりさと楽しく話をしていると、さとりが「ちょっとだけ瞳子借りてもいいかな?」と声をかけてきた。
「私はいいけど」
部屋の外の方がいい?
そう聞いてみたけど「それだと却って誤解を生むから」とさとりが断った。
「どうしたの?」
「実は冴の事なんだけど……」
さとりは冴を見ながら言った。
やっぱり何かあったのだろうか?
「最近サークルに入ったそうなんだ」
「それだけ?」
「だと、思ってたんだけど妙なんだ」
帰るのがいつも遅い。
翌日帰ってくると服装が違う。
冴はサークル仲間の家に泊まっていたという。
そういうものなのだろうか?
さとりはSH以外に同い年の女子を知らない。
だから私に相談していた。
私に限らずSHの女子は「SHに所属してるから」という理由でサークル勧誘を断っていた。
運動系は苦手だし、他のサークルも怪しいから彼氏を不安にさせたくない。
他の女子も同じだろう。
「どんなサークルなの?」
「それがよくわからないんだよね」
ただみんなで騒ぐサークル。
だから休日は殆ど家にいない。
お互いバイトをしているのにシフトはサークルの活動に合わせてる。
あまりそんなところまで注意すると喧嘩になりそうだから迂闊に追及できない。
それで他の女子はどうなんだろうと相談するつもりになったみたいだ。
「こら、さとり。何他の女子口説いてるのよ」
冴がそう言ってやってきた。
「そうじゃないよ。ただ……」
冴がサークル活動してるって話を聞いただけ。
「それなら私に聞けばいいのにどうして瞳子に聞いたの?」
「他の女子はどうしてるのか気になっただけ。別に浮気を疑ってるわけじゃないよ」
「それならいいけど……。そうだ、瞳子さ来週予定空けておいて欲しいんだけど」
「どうして?」
私が聞くと冴はあっさり答えた。
冴の入ってるサークルで女性が足りないから知ってる友達誘って欲しい。
「……わたし冬吾君いるんだけど?」
そういうのに参加して冬吾君を不安にさせたくない。
冴だってさとりの前でそういう話は止めた方がいいんじゃないの?
だけど冴は笑って言う。
「私だってさとりがいるのに馬鹿な真似しないよ、ただカップルだらけで一人あぶれたらしらけちゃうでしょ」
私の事情は知ってる。
お酒は飲めないってちゃんと伝えてあるからお願い。
結局最後まで断り切れずに冴のサークルの合コンに参加することになった。
もちろん翌日に冬吾君に知らせておいた。
「ごめんね」
「大学生ってそういうもんだって父さんが言ってたから心配してないから安心して楽しんできてよ」
「そう言えば冬吾君はそう言う話聞かないね」
「皆が嫌がるんだ」
え?
冬吾君は笑って説明してくれた。
やっぱり冬吾君は強豪チームの中ですでに自分のポジションを確保している。
突然現れた新星。
当然飲み会でメンバーが「冬吾連れてきて」と頼まれるそうだ。
だけど「あいつまだ飲めないから無理」って断ってるらしい。
何が笑えるのかはその後の話だ。
「お前が来ると女性全員持っていかれるからダメだ!」
チームメイトがそう言って笑ったらしい。
「誠司君はどうなの?」
「相変わらずだよ」
風俗には行くけど彼女は作らない。
「お前風俗に行きたいからわざと作らないつもりでいるんじゃないだろうな?」
「それなら風俗くらい許してくれる彼女探せって父さんが言ってた」
「ば、馬鹿誠司。それを神奈には言うなって言っただろ?」
「親子そろって馬鹿かお前は!?」
そんな調子でまだ当分彼女は出来そうにないと冬吾君が笑っていた。
「だから僕の事は心配しないで」
「わかった」
「どんなんだったか感想聞かせてね」
「うん」
そう言ってその日のビデオ通話は終わった。
だけど私も初めての合コンで浮かれていたのだろう。
肝心なことを気づけないでいた。
冬吾君は気づいていたのだろうか?
男子が一人あぶれてるから彼氏いてもいいから女性を探してきてくれ。
その意味を後で知る。
(2)
着替えて化粧をすると、家を出て地元大前駅まで歩いて行った。
仕送りは両親からもらっているけど、やはり無駄な消費はしたくない。
合コンの場所は当然のように別府だった。
別府は特殊でお店は多いけど駐車場がない。
だから適当な駐車場に止めるしかない。
1時間300円くらいであるけど当然3時間くらいはかかるだろう。
それに別府までのガソリン代だって結構する。
せっかく駅前のアパートを借りたのだから電車を使った方が安上がりだろう。
どうせ別府で飲む場所なんて別府駅からそこまで離れていない。
2次会には参加しないから終電には間に合うはずだ。
そう思って電車にしておいた。
別府駅に着くと冴たちが迎えに来てくれた。
メンバーに紹介される。
私の事も冴が紹介していた。
「へえ、めっちゃべっぴんじゃん!」
そう言ったのが私が今夜適当に話を合わせておけばいい相手の福士将暉君。
見た目はそんなに悪くない。
福士君ならすぐ相手見つかるだろうに、どうしてだろう?
そんな風に思いながら福士君と話をしながら焼肉屋さんに向かった。
私は飲めないから烏龍茶で我慢する。
それを見た福士君が言った。
「いいじゃん、18歳だぜ。選挙権なんてめんどくさいもの押し付ける割に酒とたばこはダメって方がおかしいっしょ」
18歳以上なら風俗に行けるけど酒はダメって理屈はおかしくないか?
福士君はそう言って私の分のビールを頼もうとしていた。
「そう言う理由じゃないのよ。将暉。前に話したでしょ?」
冴は私が初めて飲むときは冬吾君と2人っきりでと決めているから無理強いするなとくぎを刺す。
しかし福士君の価値は違うようだ。
「……ま、いいや。とりあえず乾杯しようぜ」
サークルの代表の人が言うと乾杯する。
ちなみに食事代は男性が払う。
冬吾君なら関係なしに食べるんだろうけど。
店の肉を全部食らいつくしてしまいかねない冬吾君の胃袋と収入は冬莉達も同じだそうだ。
「あのさ、さっきの話なんだけど」
「え?」
「ほら、瞳子ちゃんがお酒飲めないって言ってた理由」
会って間もないのに瞳子ちゃんって、馴れ馴れしいなと思いながらも黙って聞いていた。
「それが何かあるの?」
「俺さ、高校卒業してから別れたんだよね」
彼女が九州大学に行くから。
遠距離なんて無理だからさよなら。
彼女はそう言ったらしい。
「地元と北九州で遠距離って言われるんだ。スペインと日本じゃ無理じゃないの?」
他人に言われるとしっかり効いてくる。
冬吾君だから大丈夫。
電話でもそんなことないって言うから信じてる。
「でも、それを4年間だよ?一度も帰国してこないんだろ?」
ビデオ通話だけで本当に我慢できる?
私が出来たとしても片桐さんは男だ。
若い男が禁欲4年なんて無理だ。
よくても風俗とかに通うさ。
それでも私は我慢するのか?
止めといた方がいい、苦しいだけだ。
聞いてるうちにだんだんイライラしてきた。
「私の事を色々心配してくれるのはいいけど、冬吾君の事を馬鹿にするのはやめて」
冬吾君だって気を付けてくれる。
エッチな動画見るくらい仕方ないって言ったのに「そう言うの見ないで済むように瞳子の裸写真撮っておこうか?」って言ってくれた。
最初は冗談かと思ったけど、そうじゃなかったんだ。
福士君が言うように冬吾君だって男の子だ。
懸命に私の裸をイメージしようと努力してた。
そんな冬吾君が風俗に行ったり浮気するなんて思えない。
黙っておけばいいのに中学の時に他の女子たちとカラオケで遊んだ事を反省して私に電話してくるような人だ。
福士君が冬吾君の何を知っているの?
冬吾君を噂や人気、見た目だけで判断しないで!
だけど福士君は反省しなかった。
「そんな堅物のどこがいいの?」
私ももう我慢できない。
この男と一緒に居ることに嫌悪感を感じた。
すると慌てて冴が福士君を注意していた。
「将暉何やってるの!?女性の扱い上手いんじゃなかったの?」
「俺もどうして瞳子ちゃんがこんなに熱くなってるのか理解できないんだ」
自分とあまりに違う価値観に戸惑っている。
「価値観が違うのが分かってるならいい。私がここにいる必要はないよね」
そう言って立ち上がろうとすると、冴が私を抑える。
「ごめん。でもさ、瞳子みたいな生き方してる人の方が少数派なんだって」
「分かってる。だから福士君に私の価値観を押し付けるつもりはない」
だから私も自由にさせて。
「まあ、そんなに熱くならないでよ。中山さんだって全く非がないわけじゃない」
福士君の過去にケチをつけたのは確かだろ?
もっと他に言い方あったんじゃないの?
なんでも自分と合わないからと敵視してるんじゃ世の中渡っていけない。
そんな人たちがたくさんいる世界なんだから。
「お互いの事をもう少し理解する必要だってあるんじゃないの?」
もちろん福士君の発言も反省するところだらけだけど。
要は福士君は遠距離無理だったから私も無理だって決めつけていた。
「それは謝るよ。機嫌直してくれないから。せっかくだから楽しく飲みたい」
「私も至らないところがあったのは認めます。だけど謝らなくてもいいよ」
もう2度と会うことがないから。
そう言って帰ろうとすると、冴が腕をつかむ。
「瞳子、2次会だってあるんだよ?」
「私は2次会に行くって約束はしてない」
「お店変えて冷静に話そうよ」
「その必要がそもそもあるの?」
大体私がいなくても冴が相手すればいいじゃない。
……あれ?
今頃になって気づいた。
私は福士君の相手に選ばれた。
どうして?
冴もさとりがいるから?
そう思ったけどさとりは来てない。
「さとり、私をどうして呼んだの?」
「それは言ったじゃん、男が一人あぶれるからって」
「それおかしくない?冴だってさとり来てないじゃん」
「さとり?」
そう聞き返す男性がいた。
よく日焼けしている好青年。
「ご、ごめん!ちょっと瞳子と話してくる」
「分かった。その間にこのバカを注意しとくよ」
代表の人が言ってた。
冴は私を洗面所に連れてきて話す。
「この事はさとりには黙っておいて!」
「どういう事?」
すると冴は話した。
比嘉研斗。
冴が大学で知り合った男性。
沖縄から来たらしい。
その人も同じサークルにいる。
だから一緒に遊んでるうちに仲良くなった。
そのサークルは夜遅くまで遊んでいる。
だからそんな時間に帰ってさとりを起こしたらまずい。
結論からすると比嘉君の家に泊まっていた。
「冴のやってる事はただの浮気じゃない!」
「友達と彼氏は違うでしょ!」
「そんなの関係ない!」
言い方がどうであれやってることは浮気だ。
だからさとりに言えないんじゃないの?
自分が悪い事してるって自覚してる証拠じゃない。
「……この際だから私も言いたいことがある」
冴はそう言って私を見た。
「あんたノリ悪すぎ!まじめに暮らしていて相手が冬吾君だからって安心してる」
「そうよ、私は冬吾君を信じてる」
「そんな生き方してても絶対後悔する。学生なんだからもっと楽しもうって思わないの?」
「浮気することのどこが楽しいの?」
「さとりは言ってた。友達付き合いも大事だって」
だから浮気にならない。
「だったら今すぐ他の男の家に泊まってたってさとりに言ったら?」
「それは……、私は瞳子のように強くない。些細な優しさが染みてくるの」
やっぱり浮気じゃない。
「やっぱり帰る。心配しないでさとりには黙っておくから」
SH内でも私と冴だけの秘密にしよう。
「けど、そんな事してたらいつかきっと苦しむ時が来るよ」
冴は何も言わなかった。
私は早く家に帰りたいと思った。
変えて冬吾君と話をしたいと思った。
初めて会えないって意味を痛感した。
(3)
大学生活が始まってすぐに感じたのは孤独感。
さとりがいるけどすれ違いの生活が続いていた。
頑張って地元大学行っておくべきだった?
今更そんな後悔しても始まらない。
そんな事を考えながらいつものように構内を歩いていると彼にぶつかった。
「ちょっと、ちゃんと前見て歩きなさい」
「ご、ごめん……」
それが研斗との出会いだった。
「ちょっと道に迷っててさ」
「どこ行こうとしたの?」
研斗が言うと私が笑顔で返した。
「それなら私も次の時間がそうだから一緒に行こう」
そう言って研斗と話しながら次の講義を受けに行った。
その間に色々話をしていた。
連絡先の交換もしていた。
住んでるところも近いらしい。
「冴はサークルとか入ってる?」
「いや、私はSHだから」
「セイクリッドハート?」
研斗は知らないらしい。
「まあ、小学生の時からの仲良しグループってところ」
仲良しグループにしてはずいぶん物騒なことやってるけど。
「それなら問題ないよ」
女性を一人必ず捕まえてこいと言われてるらしい。
「そもそもどんなグループなの?」
「ひたすら遊んでる」
公園でキャッチボールしたり神社で隠れんぼしたり。
「それサークルの意味あるの?」
「そもそもサークルの意味って何?」
言われてみれば確かにそうだ。
「分かった。入るよ」
そう言って今のサークルに入った。
皆気さくな連中で一緒に居る時間が楽しかった。
そうしているうちにSHとのつながりが薄れていく。
たまに帰ると「最近何してるの?」とさとりが聞いてくる。
「ただのサークル活動」
「そっか。大変だね。バイトもあるのに」
さとりはあまりうるさく言う人じゃなかった。
ただ、罪悪感くらい感じる。
だから帰るのが億劫になっていた。
すると研斗が言った。
「うちに泊まる?」
「研斗は彼氏持ちの女を家に泊めるの?」
「彼氏いるから出来ないって言うなら誘わないけど」
その彼氏といるのが辛そうに見えたから誘ってみた。
「じゃあ、そうしようかな」
そう言ってずるずると流れていって今は殆ど研斗の家にいる。
「ただの浮気じゃない!」
瞳子に言われた時はさすがにグサッときた。
後になって苦しむ。
そんなことはない。
だって今苦しんでるから。
そんな私を見て研斗は言った。
「あれ?中山さんは?」
「帰って行った」
「中山さんと喧嘩したの?」
「まあね……」
「ま、過ぎたことは仕方ない。飲みなおそう」
代表が言うと皆いつものように騒いでいた。
ただ、私はこのままでいいのか悩んでいた。
2次会が終わって次行こうぜという時に研斗が「冴がそろそろ限界みたいだから帰ります」といった。
しかし研斗はまったく違う方向に連れていく。
一軒のバーにたどり着いた。
「中山さんに何言われたの?」
研斗は聞いてきた。
「私のやってることはただの浮気じゃないかってさ」
笑って答えた。
「そうじゃないだろ?」
研斗はそう言った。
女子と男子が二人っきりになったら浮気なんてお子様の考えだ。
問題はそこに感情があるかどうか?
そういえば研斗は私に迫ってこない。
着替えくらいは見られるけど研斗は何とも思ってないようだった。
なんとなく気になったから聞いてみた。
「研斗は彼女とかは?」
「俺だって18だぜ?いない方がおかしいだろ」
研斗はそう言って笑った。
「……今は?」
「いないよ、地元に来るときに分かれた」
理由は将暉と同じ。
離れるから別れよう。
微妙に違うのはそれを言ったのは研斗から切り出したから。
「大丈夫、長期連休の時とか帰ってこれるんでしょ?」
「保証できない。生活費だけで精いっぱいかもしれない」
「ビデオ通話とかもあるやん」
「本当にそれで我慢できるのか?」
彼氏に抱かれたい。
そんなときどうするつもりだ。
一人で我慢して寂しい思いをするのか?
俺はいい。
でもお前にそんな思いさせたくない。
だから終わりにしよう。
そう伝えて地元に来たらしい。
だから将暉の意見に同感なんだ。
中山さんだっていつか耐えられなくなる時が来るかもしれない。
たださっき言ったようにそれを思い込んでる瞳子に言っても逆効果だ。
いつか苦しんでるときに相談に乗ってやればいい。
それが友達だろ?
「……そうだね」
「納得した?」
「ありがとう」
「じゃあ、帰ろうか」
今日も寄っていくんだろ?
「ねえ、研斗」
「どうした?」
「あんた準備出来てる?」
「……俺だって男だ。冴と一緒に寝ていて平気だったわけじゃないぞ」
そう言って研斗は笑った。
その日初めて研斗と交わった。
それが運命の歯車が狂い始めた合図だった。
「それじゃ、皆今年は楽しもう」
遠坂梨々香さんがそう言って宴会が始まった。
基本的に大学生だけで集まるようにしていたけど、医学部の先輩くらいしかいない。
それに梨々香さんの夫の純也さんがSHの仕切り役を任せられていたので梨々香さんが代わりに席を用意してくれたらしい。
旦の原キャンパスには私達1年生がいるだけ。
だから来年からは私達の席を用意してやれと梨々香さんが純也さんに言われていた。
「純也さんは夜勤とかですか?」
私が梨々香さんに聞いてみたけど、梨々香さんは首を振った。
「純也は基本的に日勤だけなの」
刑事クラス並みになると夜勤はない。
だけどそれじゃ夜に事件が起きたら対応できない。
だから当直は夜残るようになっている。
当直じゃなくても大事件が起きれば関係なしに呼び出しを受ける。
当直が警察署から出たら同じことになるから。
だから非番でも、待機でもなくても関係なしにいつでも出られるようにしておかなければならない。
飲み会になんてとてもじゃないけど出られる状態じゃない。
特別に呼ばれない場合のみ梨々香さんと飲んでいるんだそうだ。
あとはSHのキャンプや花見でしか飲まない。
それに大抵の社会人組が気を付けていること。
「刑事が未成年に酒を勧めたなんて話が流れたら大事だ」
せっかく渡瀬本部長や遠坂のお爺さんが道を用意してくれているのに台無しにしてしまったら申し訳がない。
それは純也さんだけじゃない。
渡辺正俊さんみたいに教師なんて立場でそんなのがばれたら大変だ。
学生だけで飲むなら自己責任。
だけど大人が一人でもいたらマスコミが容赦なくたたく。
不思議な話だけどそう言う理由で高久隼人君も来てなかった。
有名人も大変みたいだ。
冬莉や志希も来ていない。
「そう言うわけだから悪いけど私も旦那の足を引っ張るわけにいかないから挨拶済んだし先に帰るよ」
またね。と言って梨々香さんも帰って行った。
「なんか聞いてたのと全然違うんだね」
江口劉生君が言っていた。
冬吾君のお父さん達の渡辺班はそんなの関係なしに参加していたらしい。
それでも愛莉さんが妊娠してから次々と妊娠が発覚して活動が停止したそうだ。
「俺達もそうなるのかな?」
颯真が言うと頼子さんが笑った。
「そうならないように私達に任せると言ったんでしょ?」
「そうだな」
「大丈夫、来年からは続いてくるから何とかなるよ」
それよりせっかくなんだからみんなで楽しもうよ。
寧々や藍佳がそう言うので楽しんでいた。
良くも悪くも私達の世代の男子は皆まじめだ。
変な真似はしない。
「実際に同棲初めてどうだった?」
とか当たり障りのない話で盛り上がっていた。
だけど私達だってまだ若い。
私は冬吾君との約束があるからアルコールは断っていたけど、白けさせるような真似はしなかった。
「瞳子は寂しくないの?」
冴が聞いていた。
「毎日相手してくれるから」
「さすがは片桐家だね」
頼子が言っていた。
「冴はどうなの?さとりとの同棲生活」
「え?ああ、普通じゃないかな……」
そう言って言葉を濁していた。
どうしたんだろう?
「どうしたんだ、せっかく集まったんだからもっと盛り上がって行こうぜ!」
2次会来るだろ?
優斗が言うので行くつもりだと伝えた。
「心配しなくてもただのカラオケだよ」
寧々が笑って言う。
冬吾君に今日は新歓あるからとは伝えてある。
「いっぱい食べてくるといいよ」
それが彼女に言う言葉なのだろうか?
そもそも冬吾君は新歓というものを理解しているのだろうか?
「知ってるよ、先輩達と交流を深めたりするんだろ?」
それでもお酒飲まないのならやっぱりただの食事会じゃないか。
冬吾君らしい発想だな。
カラオケで頼子やりさと楽しく話をしていると、さとりが「ちょっとだけ瞳子借りてもいいかな?」と声をかけてきた。
「私はいいけど」
部屋の外の方がいい?
そう聞いてみたけど「それだと却って誤解を生むから」とさとりが断った。
「どうしたの?」
「実は冴の事なんだけど……」
さとりは冴を見ながら言った。
やっぱり何かあったのだろうか?
「最近サークルに入ったそうなんだ」
「それだけ?」
「だと、思ってたんだけど妙なんだ」
帰るのがいつも遅い。
翌日帰ってくると服装が違う。
冴はサークル仲間の家に泊まっていたという。
そういうものなのだろうか?
さとりはSH以外に同い年の女子を知らない。
だから私に相談していた。
私に限らずSHの女子は「SHに所属してるから」という理由でサークル勧誘を断っていた。
運動系は苦手だし、他のサークルも怪しいから彼氏を不安にさせたくない。
他の女子も同じだろう。
「どんなサークルなの?」
「それがよくわからないんだよね」
ただみんなで騒ぐサークル。
だから休日は殆ど家にいない。
お互いバイトをしているのにシフトはサークルの活動に合わせてる。
あまりそんなところまで注意すると喧嘩になりそうだから迂闊に追及できない。
それで他の女子はどうなんだろうと相談するつもりになったみたいだ。
「こら、さとり。何他の女子口説いてるのよ」
冴がそう言ってやってきた。
「そうじゃないよ。ただ……」
冴がサークル活動してるって話を聞いただけ。
「それなら私に聞けばいいのにどうして瞳子に聞いたの?」
「他の女子はどうしてるのか気になっただけ。別に浮気を疑ってるわけじゃないよ」
「それならいいけど……。そうだ、瞳子さ来週予定空けておいて欲しいんだけど」
「どうして?」
私が聞くと冴はあっさり答えた。
冴の入ってるサークルで女性が足りないから知ってる友達誘って欲しい。
「……わたし冬吾君いるんだけど?」
そういうのに参加して冬吾君を不安にさせたくない。
冴だってさとりの前でそういう話は止めた方がいいんじゃないの?
だけど冴は笑って言う。
「私だってさとりがいるのに馬鹿な真似しないよ、ただカップルだらけで一人あぶれたらしらけちゃうでしょ」
私の事情は知ってる。
お酒は飲めないってちゃんと伝えてあるからお願い。
結局最後まで断り切れずに冴のサークルの合コンに参加することになった。
もちろん翌日に冬吾君に知らせておいた。
「ごめんね」
「大学生ってそういうもんだって父さんが言ってたから心配してないから安心して楽しんできてよ」
「そう言えば冬吾君はそう言う話聞かないね」
「皆が嫌がるんだ」
え?
冬吾君は笑って説明してくれた。
やっぱり冬吾君は強豪チームの中ですでに自分のポジションを確保している。
突然現れた新星。
当然飲み会でメンバーが「冬吾連れてきて」と頼まれるそうだ。
だけど「あいつまだ飲めないから無理」って断ってるらしい。
何が笑えるのかはその後の話だ。
「お前が来ると女性全員持っていかれるからダメだ!」
チームメイトがそう言って笑ったらしい。
「誠司君はどうなの?」
「相変わらずだよ」
風俗には行くけど彼女は作らない。
「お前風俗に行きたいからわざと作らないつもりでいるんじゃないだろうな?」
「それなら風俗くらい許してくれる彼女探せって父さんが言ってた」
「ば、馬鹿誠司。それを神奈には言うなって言っただろ?」
「親子そろって馬鹿かお前は!?」
そんな調子でまだ当分彼女は出来そうにないと冬吾君が笑っていた。
「だから僕の事は心配しないで」
「わかった」
「どんなんだったか感想聞かせてね」
「うん」
そう言ってその日のビデオ通話は終わった。
だけど私も初めての合コンで浮かれていたのだろう。
肝心なことを気づけないでいた。
冬吾君は気づいていたのだろうか?
男子が一人あぶれてるから彼氏いてもいいから女性を探してきてくれ。
その意味を後で知る。
(2)
着替えて化粧をすると、家を出て地元大前駅まで歩いて行った。
仕送りは両親からもらっているけど、やはり無駄な消費はしたくない。
合コンの場所は当然のように別府だった。
別府は特殊でお店は多いけど駐車場がない。
だから適当な駐車場に止めるしかない。
1時間300円くらいであるけど当然3時間くらいはかかるだろう。
それに別府までのガソリン代だって結構する。
せっかく駅前のアパートを借りたのだから電車を使った方が安上がりだろう。
どうせ別府で飲む場所なんて別府駅からそこまで離れていない。
2次会には参加しないから終電には間に合うはずだ。
そう思って電車にしておいた。
別府駅に着くと冴たちが迎えに来てくれた。
メンバーに紹介される。
私の事も冴が紹介していた。
「へえ、めっちゃべっぴんじゃん!」
そう言ったのが私が今夜適当に話を合わせておけばいい相手の福士将暉君。
見た目はそんなに悪くない。
福士君ならすぐ相手見つかるだろうに、どうしてだろう?
そんな風に思いながら福士君と話をしながら焼肉屋さんに向かった。
私は飲めないから烏龍茶で我慢する。
それを見た福士君が言った。
「いいじゃん、18歳だぜ。選挙権なんてめんどくさいもの押し付ける割に酒とたばこはダメって方がおかしいっしょ」
18歳以上なら風俗に行けるけど酒はダメって理屈はおかしくないか?
福士君はそう言って私の分のビールを頼もうとしていた。
「そう言う理由じゃないのよ。将暉。前に話したでしょ?」
冴は私が初めて飲むときは冬吾君と2人っきりでと決めているから無理強いするなとくぎを刺す。
しかし福士君の価値は違うようだ。
「……ま、いいや。とりあえず乾杯しようぜ」
サークルの代表の人が言うと乾杯する。
ちなみに食事代は男性が払う。
冬吾君なら関係なしに食べるんだろうけど。
店の肉を全部食らいつくしてしまいかねない冬吾君の胃袋と収入は冬莉達も同じだそうだ。
「あのさ、さっきの話なんだけど」
「え?」
「ほら、瞳子ちゃんがお酒飲めないって言ってた理由」
会って間もないのに瞳子ちゃんって、馴れ馴れしいなと思いながらも黙って聞いていた。
「それが何かあるの?」
「俺さ、高校卒業してから別れたんだよね」
彼女が九州大学に行くから。
遠距離なんて無理だからさよなら。
彼女はそう言ったらしい。
「地元と北九州で遠距離って言われるんだ。スペインと日本じゃ無理じゃないの?」
他人に言われるとしっかり効いてくる。
冬吾君だから大丈夫。
電話でもそんなことないって言うから信じてる。
「でも、それを4年間だよ?一度も帰国してこないんだろ?」
ビデオ通話だけで本当に我慢できる?
私が出来たとしても片桐さんは男だ。
若い男が禁欲4年なんて無理だ。
よくても風俗とかに通うさ。
それでも私は我慢するのか?
止めといた方がいい、苦しいだけだ。
聞いてるうちにだんだんイライラしてきた。
「私の事を色々心配してくれるのはいいけど、冬吾君の事を馬鹿にするのはやめて」
冬吾君だって気を付けてくれる。
エッチな動画見るくらい仕方ないって言ったのに「そう言うの見ないで済むように瞳子の裸写真撮っておこうか?」って言ってくれた。
最初は冗談かと思ったけど、そうじゃなかったんだ。
福士君が言うように冬吾君だって男の子だ。
懸命に私の裸をイメージしようと努力してた。
そんな冬吾君が風俗に行ったり浮気するなんて思えない。
黙っておけばいいのに中学の時に他の女子たちとカラオケで遊んだ事を反省して私に電話してくるような人だ。
福士君が冬吾君の何を知っているの?
冬吾君を噂や人気、見た目だけで判断しないで!
だけど福士君は反省しなかった。
「そんな堅物のどこがいいの?」
私ももう我慢できない。
この男と一緒に居ることに嫌悪感を感じた。
すると慌てて冴が福士君を注意していた。
「将暉何やってるの!?女性の扱い上手いんじゃなかったの?」
「俺もどうして瞳子ちゃんがこんなに熱くなってるのか理解できないんだ」
自分とあまりに違う価値観に戸惑っている。
「価値観が違うのが分かってるならいい。私がここにいる必要はないよね」
そう言って立ち上がろうとすると、冴が私を抑える。
「ごめん。でもさ、瞳子みたいな生き方してる人の方が少数派なんだって」
「分かってる。だから福士君に私の価値観を押し付けるつもりはない」
だから私も自由にさせて。
「まあ、そんなに熱くならないでよ。中山さんだって全く非がないわけじゃない」
福士君の過去にケチをつけたのは確かだろ?
もっと他に言い方あったんじゃないの?
なんでも自分と合わないからと敵視してるんじゃ世の中渡っていけない。
そんな人たちがたくさんいる世界なんだから。
「お互いの事をもう少し理解する必要だってあるんじゃないの?」
もちろん福士君の発言も反省するところだらけだけど。
要は福士君は遠距離無理だったから私も無理だって決めつけていた。
「それは謝るよ。機嫌直してくれないから。せっかくだから楽しく飲みたい」
「私も至らないところがあったのは認めます。だけど謝らなくてもいいよ」
もう2度と会うことがないから。
そう言って帰ろうとすると、冴が腕をつかむ。
「瞳子、2次会だってあるんだよ?」
「私は2次会に行くって約束はしてない」
「お店変えて冷静に話そうよ」
「その必要がそもそもあるの?」
大体私がいなくても冴が相手すればいいじゃない。
……あれ?
今頃になって気づいた。
私は福士君の相手に選ばれた。
どうして?
冴もさとりがいるから?
そう思ったけどさとりは来てない。
「さとり、私をどうして呼んだの?」
「それは言ったじゃん、男が一人あぶれるからって」
「それおかしくない?冴だってさとり来てないじゃん」
「さとり?」
そう聞き返す男性がいた。
よく日焼けしている好青年。
「ご、ごめん!ちょっと瞳子と話してくる」
「分かった。その間にこのバカを注意しとくよ」
代表の人が言ってた。
冴は私を洗面所に連れてきて話す。
「この事はさとりには黙っておいて!」
「どういう事?」
すると冴は話した。
比嘉研斗。
冴が大学で知り合った男性。
沖縄から来たらしい。
その人も同じサークルにいる。
だから一緒に遊んでるうちに仲良くなった。
そのサークルは夜遅くまで遊んでいる。
だからそんな時間に帰ってさとりを起こしたらまずい。
結論からすると比嘉君の家に泊まっていた。
「冴のやってる事はただの浮気じゃない!」
「友達と彼氏は違うでしょ!」
「そんなの関係ない!」
言い方がどうであれやってることは浮気だ。
だからさとりに言えないんじゃないの?
自分が悪い事してるって自覚してる証拠じゃない。
「……この際だから私も言いたいことがある」
冴はそう言って私を見た。
「あんたノリ悪すぎ!まじめに暮らしていて相手が冬吾君だからって安心してる」
「そうよ、私は冬吾君を信じてる」
「そんな生き方してても絶対後悔する。学生なんだからもっと楽しもうって思わないの?」
「浮気することのどこが楽しいの?」
「さとりは言ってた。友達付き合いも大事だって」
だから浮気にならない。
「だったら今すぐ他の男の家に泊まってたってさとりに言ったら?」
「それは……、私は瞳子のように強くない。些細な優しさが染みてくるの」
やっぱり浮気じゃない。
「やっぱり帰る。心配しないでさとりには黙っておくから」
SH内でも私と冴だけの秘密にしよう。
「けど、そんな事してたらいつかきっと苦しむ時が来るよ」
冴は何も言わなかった。
私は早く家に帰りたいと思った。
変えて冬吾君と話をしたいと思った。
初めて会えないって意味を痛感した。
(3)
大学生活が始まってすぐに感じたのは孤独感。
さとりがいるけどすれ違いの生活が続いていた。
頑張って地元大学行っておくべきだった?
今更そんな後悔しても始まらない。
そんな事を考えながらいつものように構内を歩いていると彼にぶつかった。
「ちょっと、ちゃんと前見て歩きなさい」
「ご、ごめん……」
それが研斗との出会いだった。
「ちょっと道に迷っててさ」
「どこ行こうとしたの?」
研斗が言うと私が笑顔で返した。
「それなら私も次の時間がそうだから一緒に行こう」
そう言って研斗と話しながら次の講義を受けに行った。
その間に色々話をしていた。
連絡先の交換もしていた。
住んでるところも近いらしい。
「冴はサークルとか入ってる?」
「いや、私はSHだから」
「セイクリッドハート?」
研斗は知らないらしい。
「まあ、小学生の時からの仲良しグループってところ」
仲良しグループにしてはずいぶん物騒なことやってるけど。
「それなら問題ないよ」
女性を一人必ず捕まえてこいと言われてるらしい。
「そもそもどんなグループなの?」
「ひたすら遊んでる」
公園でキャッチボールしたり神社で隠れんぼしたり。
「それサークルの意味あるの?」
「そもそもサークルの意味って何?」
言われてみれば確かにそうだ。
「分かった。入るよ」
そう言って今のサークルに入った。
皆気さくな連中で一緒に居る時間が楽しかった。
そうしているうちにSHとのつながりが薄れていく。
たまに帰ると「最近何してるの?」とさとりが聞いてくる。
「ただのサークル活動」
「そっか。大変だね。バイトもあるのに」
さとりはあまりうるさく言う人じゃなかった。
ただ、罪悪感くらい感じる。
だから帰るのが億劫になっていた。
すると研斗が言った。
「うちに泊まる?」
「研斗は彼氏持ちの女を家に泊めるの?」
「彼氏いるから出来ないって言うなら誘わないけど」
その彼氏といるのが辛そうに見えたから誘ってみた。
「じゃあ、そうしようかな」
そう言ってずるずると流れていって今は殆ど研斗の家にいる。
「ただの浮気じゃない!」
瞳子に言われた時はさすがにグサッときた。
後になって苦しむ。
そんなことはない。
だって今苦しんでるから。
そんな私を見て研斗は言った。
「あれ?中山さんは?」
「帰って行った」
「中山さんと喧嘩したの?」
「まあね……」
「ま、過ぎたことは仕方ない。飲みなおそう」
代表が言うと皆いつものように騒いでいた。
ただ、私はこのままでいいのか悩んでいた。
2次会が終わって次行こうぜという時に研斗が「冴がそろそろ限界みたいだから帰ります」といった。
しかし研斗はまったく違う方向に連れていく。
一軒のバーにたどり着いた。
「中山さんに何言われたの?」
研斗は聞いてきた。
「私のやってることはただの浮気じゃないかってさ」
笑って答えた。
「そうじゃないだろ?」
研斗はそう言った。
女子と男子が二人っきりになったら浮気なんてお子様の考えだ。
問題はそこに感情があるかどうか?
そういえば研斗は私に迫ってこない。
着替えくらいは見られるけど研斗は何とも思ってないようだった。
なんとなく気になったから聞いてみた。
「研斗は彼女とかは?」
「俺だって18だぜ?いない方がおかしいだろ」
研斗はそう言って笑った。
「……今は?」
「いないよ、地元に来るときに分かれた」
理由は将暉と同じ。
離れるから別れよう。
微妙に違うのはそれを言ったのは研斗から切り出したから。
「大丈夫、長期連休の時とか帰ってこれるんでしょ?」
「保証できない。生活費だけで精いっぱいかもしれない」
「ビデオ通話とかもあるやん」
「本当にそれで我慢できるのか?」
彼氏に抱かれたい。
そんなときどうするつもりだ。
一人で我慢して寂しい思いをするのか?
俺はいい。
でもお前にそんな思いさせたくない。
だから終わりにしよう。
そう伝えて地元に来たらしい。
だから将暉の意見に同感なんだ。
中山さんだっていつか耐えられなくなる時が来るかもしれない。
たださっき言ったようにそれを思い込んでる瞳子に言っても逆効果だ。
いつか苦しんでるときに相談に乗ってやればいい。
それが友達だろ?
「……そうだね」
「納得した?」
「ありがとう」
「じゃあ、帰ろうか」
今日も寄っていくんだろ?
「ねえ、研斗」
「どうした?」
「あんた準備出来てる?」
「……俺だって男だ。冴と一緒に寝ていて平気だったわけじゃないぞ」
そう言って研斗は笑った。
その日初めて研斗と交わった。
それが運命の歯車が狂い始めた合図だった。
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