姉妹チート

和希

文字の大きさ
465 / 535

因果

しおりを挟む
(1)

「見ろよ海翔!あれ絶対向こうに四国見えるぜ!」

 そう言って隣に座っている桐谷優奈がはしゃいでいる。
 今日から1泊2日の修学旅行。
 長崎に向かっている。
 内容はだいたい結莉から聞いている。

「いい?チャンポンとか皿うどん、佐世保バーガーは二日目のテーマパークで食べられるから!」

 石原家で旅行となると大体食べ物の話になるのは片桐家と変わらないらしい。

「トルコライスも美味しいんだけどね。さすがに小学生が夜ホテルを抜け出すのは無理だからね」

 じいじが言っていた。
 
 ぽかっ

「冬夜さんはどうしていつも食べ物の話ばかりするんですか!」
「でもさ、愛莉。原爆資料館なんて見てもしょうがないだろ?」
「平和の大切さとか親として教えるべきものがあるのでは?」
「愛莉、そりゃ無理だ。私の時もせいぜいぐろいくらいしか感想なかったぞ」

 後は復讐してやるとかと天音が言ってた。
 それにどうせ家に帰ったらFPSで遊ぶから意味ないだろと言ってた。
 平和授業も似たようなもんだったな。

「いつまでもうじうじ根にもちやがって。そんなに殺されたいなら私が殺してやる!」

 だいたいやられたのは日本だろ!?
 一発くらい米国に実験で打ち込んでも問題ないだろ!

「天音は子供をまともに教育するつもりはないのですか!?」
「愛莉ちゃん、大丈夫。実験なら韓国あたりにぶち込めばいいでしょ?」

 恵美も撃ちたい派らしい。
 非核三原則のある日本で核兵器を所有しているのは4大企業くらいだ。
 それが後々天音の機嫌でスイッチを押されるのだから恐怖だろう。
 その先には結莉や茉莉が待っている。

「海翔は他人事だと思ったらだめだよ」

 大地がそう言っていた。
 まともに生きていれば石原家を継ぐのは僕だから。
 天音は新年度が始まって早々学校で暴れた。
 職員室で放火した。
 あとで愛莉からしっかり怒られたそうだ。
 恵美は大地を叱っていた。

「殺虫剤にライターなんて手を火傷したらどうするの!?火炎放射器買ってあげたでしょ!」
「恵美……そういうのは学校に持ち込むのはまずいと思うんだけど」
「愛莉ちゃん。ゴキブリは徹底的に駆逐しないと増殖する一方なのよ?」

 いっそ校舎を爆破したいくらいだと恵美が言ってた。
 愛莉はじいじと相談していたらしい。
 相談と言えば僕も江木智也から相談を受けていた。
 修学旅行が始まる前だった。

「ごめん、桐谷さん。ちょっと海翔借りてもいいかな?」
「どうしたの智也?」
「ああ、ちょっと今は言えない」
「分かった」

 帰ったら連絡してね。と言って優奈は愛菜と帰って行った。
 あ、そういうことかな。

「ひょっとして……愛菜と会わせろって話?」
「そうなんだけどいいかな?」
「いいけど、そうなるとやっぱり優奈には言っておいた方がいいかも」
「それは海翔に任せる」
「そもそもばれてもいいんじゃないの?」

 どうせ伝えるんでしょ?

「海翔、事前にそう言う情報を愛菜に与えた時の事考えたか?」
「どういう事?」
「伝えようとした時に私興味ないからとかいきなり言われたらショックだろ?」

 ああ、そう言う事か。

「分かった。愛菜には言わないように言っておく」
「悪いな……」

 で、今日は色々あって智也の隣には愛菜が座っている。
 感じ的には上手く行っているようだ。

「で、いつ話すのか考えたの?」
「こういうのはべたなのがいいってにいにが言ってたんだ」

 お風呂後に会うのがいいんじゃないだろうか?

「それさ、女子的には微妙じゃないのかなと思うんだけど」
「なんで?」

 優奈も水奈から色々聞いたらしい。
 女湯を覗く変態共が首を並べているんだそうだ。
 そんなの見た後で大丈夫なのか?と優奈が言う。
 そう言われると不安になって来たな。
 そんな僕を見て優奈は言う。

「私にいいアイデアがあるんだけど」
「アイデア?」
「私達同じ班でしょ?」

 琴音たちも一緒だから自由行動の時どうするか考えていたらしい。
 長崎の観光スポットなんて小学生が見て何が面白いのか悩んだらしいけど。
 そんな中に一つ琴音たちが見つけたところがある。
 地元にもいくつかある恋愛のパワースポット。
 もちろんいきなりそこで言うんじゃない。
 いくつかそう言う場所があるからそれで雰囲気作って告ればいけると優奈は説明していた。

「でも、それって愛菜にバレるんじゃない?」

 バレるのはまずいんじゃないのか?

「それが間違ってるんだって」

 優奈は違う意見らしい。
 愛菜だってああ見えて女の子だ。
 そんな場所で親密になっていけば「この人ひょっとして……」って感じになる。
 ちなみに愛菜に好きな人がいると言う話は優奈は聞いてないらしい。
 琴音も同じだった。
 なるほど、2人には確信があったわけか。
 
「じゃあ、そうするように智也に言うよ」
「うん、それとさ交換条件があるんだけど?」
「ああ、僕は何をすればいいの?」
「私達恋人だよね?」
「そうだよ」

 そう言うと優奈は僕の腕に抱き着いた。

「少しは恋人らしいことしようよ」

 せっかくの修学旅行だから。
 だけどとりあえず優奈の柔らかい物を腕が感じ取って少し恥ずかしかった。
 それを察した優奈がこつんと僕の頭を叩く。

「そんなに期待しても無駄だよ。私水奈の娘だから」

 学の話だとそう思っていたら水奈は急に成長したと言っていたけど。
 食事の後原爆資料館に行く。
 結莉達の言ったとおりだった。
 だからどうした?
 同じ目にあいたいのなら協力してやる。
 だけどこれを見て違う事を考えていた。

「どうしたの?急に考え込んで」
「いやさ、雪の事考えてたんだ」
「雪?」

 結ならこれよりもっと惨たらしい死をプレゼントすることが出来ると天音達が話していた。
 だけどじいじに言わせるとそれでも雪はにいにでも太刀打ちできない力を持っているらしい。
 
「じゃ、問題ないじゃん」
「それが問題なんだって天音が言っていた」

 雪に何をしても無駄だと知ったら次の手に出る。
 にいにや茉奈を誘拐なんて馬鹿な真似はしないだろうけどSHの勢力のはいい意味でも悪い意味でもデカすぎる。
 全部を守るなんていくら何でも無理だ。

「で、対策は考えてるのか?」

 そばで聞いていた智也が聞いていた。

「すべては雪次第」

 今までは総力戦をしていたけど、それは雪にとって邪魔でしかない。
 SHを脅かすという行為が如何に愚かな事だと相手が理解するまで雪に任せるしかない。
 にいにや空、じいじですら雪の能力を恐れている。
 全ての事象の全否定。
 雪は特殊能力やあらゆるあり得ない状況を否定する能力を持っている。
 それだけでない。
 どんな訓練を受けていようと雪の”王の権威”の前では無力化されるらしい。
 雪はあらゆる抵抗も許さない能力を持っていて、かつあらゆる能力を無力化する。
 例え核ミサイルをもってきたところで”この世界にふさわしくない”と雪が判断すれば消滅することが出来る。
 尚も雪は新しい知識を常に手に入れようとしている。
 好奇心の強さと雪の特性が見事にマッチしている。
 SHは世界で巨大な勢力に立ち向かう強さがある。
 だけど雪は一人で全人類を相手にすることが出来る。
 世界を否定すればそれで物語は終わる。
 だけど雪はそれをしない。
 それが無意味なことだと雪は理解しているから。

「あの子は不器用なんだ」

 一人にしてほしいと願いながら一人ぼっちは寂しいと分かっている。

「その件なんだけどさ」
 
 優奈が言っていた。
 誠司郎はあの日から雪とさらに距離を縮めた。
 すると誠司郎にも雪の悩みが分かるようになったらしい。
 自分が化け物染みた能力を持っていた。
 だけどどうか嫌わないで欲しい。
 だから誠司郎は「ずっとそばにいる」と伝えた。
 その結果今は雪と二人で話をしながら過ごしているらしい。
 その話は天音達も聞いていた。

「そっか、雪もやっと心を開くようになったんだな」
「でもまだ雪に言ったらだめだよ」

 じいじが言っていた
 雪が心を開くのは誠司郎だけ。
 他人が指摘したらまた閉じこもってしまう。
 
「でも私達にも相談するようになったんです」

 瞳子だって母親。
 雪は髪型を気にするようになったらしい。

「誠司郎って髪の毛長い人と短い人どっちが好きなのかな?」
「そうね、女性の先輩としてアドバイスしてあげるね」
「どうしたの?」
「本人に聞いても無駄」

 どっちでも似合ってるよって言うに決まってるから。
 だから普段どんな女優やアーティストを好むのかを見ていればいい。
 後はそれに任せたらいいんだから。

「でも緑の髪の毛とか良いとか言われても無理だよ」
「そもそもそうなら雪を選ばないでしょ」
「私……選ばれてるのかな?」
「振り向いてくれるように努力するのも恋愛なのですよ」

 愛莉もじいじの好みに合わせて服を買ったりしたらしい。

「ようやく孫娘と普通の会話が出来るようになったのですね」
「今まではちがうんですか?」
「天音や冬莉……茜だったから」

 さらに結莉や茉莉に菫と陽葵。
 冬華や椿と続いて絶望していたらしい。
 まだ3歳だ。
 3歳でそんな感情を飲み込めるわけがない。
 そんな話をしているうちに観光地に着いた。
 計画通り班で行動して恋愛のパワースポットを回っていく。
 優奈が言っていた通り、愛菜は感づいたらしい。
 そして本命の場所で智也が話し出そうとする。
 だけど愛菜は「ちょっと待って」と言った。
 ミスった?

「あのさ、さすがにそう言う話は二人きりでしたいんだよね」

 だから集合時間と場所だけで決めて二人きりにしてほしいと言った。
 僕達は二人を残してお土産を買いに行く。
 集合場所に戻った時には一見何もなかったかのように見えるが、愛菜は楽しそうにしていた。
 智也はなんか照れくさそうだった。 
 上手くいったんだな。
 夕飯を食べてお風呂に入る時に智也と話した。

「なんでこんなぎりぎりに言うんだ馬鹿!もっと早く言っていれば楽しい修学旅行になったのに!」
「ご、ごめん」
「ごめんで済むか!……明日はちゃんと準備しておけよ」
「それって……」
「私みたいな女でいいなら喜んで。……よろしくな」
「こちらこそ」

 その後は買い物を2人で楽しんでいたらしい。

「よかったね」
「二人ともありがとう」
「そうなると次は悠翔だよね?」

 誰か好きな人いないの?

「優翔はそういうの苦手だって言ってた」

 優奈や愛菜に水奈の世話で大変らしい。
 茉奈にもにいにがいるのだから関係ないと思ったんだけど。
 
「しかしあれも意味が分からないよな」

 そう言って智也は壁をよじ登ってる愚かな男子を見ている。
 明日は愛菜との初めてのデートだからと智也が寝たから僕達も寝た。
 翌日待ちわびた皿うどんやチャンポンが待っていると思っていた。
 だけど……。

「私は結莉や茉莉じゃないの!食べ物だけじゃなくて少しは私に構え!」

 そう言って怒られてあまり食べる事が出来なかったと家に帰って天音達に伝える。

「ああ、そう言う問題があったか……」
「それはちょっと問題だね」

 結莉がじいじに相談してみたら?と聞いたので片桐家のグルチャで聞いてみた。

「海翔、今からが訓練なんだ」

 どんな食べ物を犠牲にしようと絶対に大事にしないといけないのが彼女の機嫌だ。
 じいじも数々の食べ物を諦めて来たらしい。
 食べ物を一度諦めたくらいどうってことない。
 だが彼女の機嫌を損ねると後が面倒だ。

「パパらしい意見だな」
 
 天音が言っていた。

「冬夜さんが食べ物を諦めてくれた事がどのくらいあったか教えてください!」

 そう言って愛莉に怒られていた。

(2)

 それは突然訪れた。
 梨衣さんが亡くなった。
 まるでお義父さんの後を追うように。
 泣いている愛莉さんを冬夜さんが優しく抱いてた。
 お義父さんの命を奪った連中はまだ見つかっていない。
 警察の捜査がが悪いわけじゃない。
 その証拠に捜査本部長の純也は葬儀に少し顔を出すだけでずっと捜査本部に張り付いていた。

「無理しないで」
「分かってるよ」

 まさか次は純也?
 そんなの私にはもう耐えられない。
 でも母親の情けない背中を見せるわけにはいかない。
 葬儀を終えて愛莉さんと一緒に遺品を整理していた。

「ねえ、梨々香。前から気になっていたことがあるの」
「え?」

 多分聞かれることを分かっていた。
 純也にももう話した。 
 秘密にする必要もない。

「どうしてそんなにりえちゃんの世話を頑張ってくれたの」

 あれだけ不満を言われたら普通なら一度くらいは喧嘩してもいいはずなのにそれすらなかった。
 だから不思議だったそうだ。
 だから私は話すことにした。

「私が純也の下に嫁いでこの家に引っ越して間もない頃でした」

 縁側でのんびり過ごしていて眠りかけていた梨衣さんにひざ掛けを用意した時だった。

「ありがとうね」
「いえ、このくらいなんて事無いです」
「そうじゃないの」
「どういうことですか?」

 私が梨衣さんに尋ねると梨衣さんは説明した。
 愛莉さんが嫁に行って後は二人でのんびり余生を過ごす。
 財産はすべて冬夜さんに渡そう。
 そんな事を話しながら過ごしていたら純也が突然お義父さんたちの世話をしたいと言い出した。
 あの時お義父さんは泣いていた。
 梨衣さんも同じだった。
 純也は立派に育ってくれた。
 頑張った甲斐があった。
 それは純也だけじゃない。
 純也は立派な嫁を貰った。
 その証拠にその嫁が梨衣さんの世話をしている。
 大体は時期がきたら施設に放り込んでろくに見舞いに来ずに死んだときだけ泣く者ばかり。
 親の世話を見るなんて面倒だってやらないのが普通だ。

「あんた長男なんでしょ?あんたの親の世話なんてみないからね」

 そんな事を平然と言う嫁。
 自分の親の面倒しか見ない。
 そんなに私に残してやれるものはない。
 なのにそんな事を顧みず梨衣さん達の世話を見ている私がとても立派だと褒めてくれた。

「これから私達は梨々香に迷惑をかける事になる。もし、それで梨々香と純也の仲が悪くなるのなら遠慮なく私達を施設に入れて欲しい」

 老後に備えてそれなりの貯えがある。
 それは愛莉さんに預けてある。
 それを使ってくれ。
 だから私は言った。

「純也に会えたのは梨衣さん達のお陰なのだから、梨衣さんの世話をするのは私の当然の務めです」
「立派に育てられていたのね」

 その時の梨衣さんの笑顔は今でも思い出せる。
 それが今の私を作っていた。
 本当はもっと上手く出来たかもしれない。
 だから梨衣さんが亡くなった時に安堵はなかった。
 ただ悲しかった。

「愛莉さん。私上手く嫁を務められているのでしょうか?」

 私が梨衣さんの世話をしている間家族を蔑ろにしてきたんじゃないのか?
 どちらにも傾けられない天秤を上手くコントロール出来たのだろうか?
 その時私の目には涙がにじんでいた。
 愛莉さんは私の手を取る。

「十分頑張りました。だけどこれからも育児を頑張らないといけない。母親に休みはない」

 それは愛莉さんも梨衣さんから聞いたそうだ。

「夫婦喧嘩をしている時間も子供達は生きようとしている」

 だからまだ立ち止まっていられない。

「梨々香の質問の答えは、香澄達が大きくなった時に証明される」

 自分が間違ってないときっと子供達が証明してくれる。
 だからまだ泣いている時間はない。
 ずっと止まってはいけない。

「やっぱり嫁も大変ですね」
「それを分かってくれる夫を見つけるのが大変なの」

 そう言って愛莉さんは笑っていた。
 愛莉さんももう育児を終えている。
 だけど孫の世話に追われている。
 私が正しいのかどうかは私自身で証明するしかない。
 いつか来るゴールの時にそれは証明されるはずだから。

(3)

 神奈が心配だった。
 どうしてこう不幸が重なるのだろう?
 それは突然だった。

「母さん、朝ごはん出来たぞ」

 そう言って神奈が義母さんの部屋に行く。
 しばらくして神奈の叫び声が聞こえた。
 すぐに俺が駆けつける。
 俺に気づいた神奈が振り向いて言う。

「誠、母さんが起きないんだ!」

 え?
 俺も一緒になって義母さんに声をかける。

「父さん、救急車呼ぼうか?」

 騒ぎに気付いた誠司がそう言っている。
 誠司に救急車の手配を頼みながら義母さんに声をかけ続ける。
 だけど救急車がたどり着いて救急隊員が声をかけてもダメだった。
 救急車で病院に搬送する。
 様子を見た医師はその場で確認をしていく。
 老衰。
 それが義母さんの死因だった。
 泣き叫ぶ神奈。
 俺は神奈を落ち着かせる間に誠司に水奈達に知らせるように頼む。
 学も仕事を途中で抜けだして駆けつけていた。
 泣き崩れる水奈をしっかりと支える学。
 歩美たちも急遽帰還を認められた。

「自分の親族が死んでいるのにレースに出ろというほど非道じゃない」

 そんな不安を抱えて命懸けのレースに出すわけにもいかない。
 それが理由だった。
 お通夜や葬儀を慌ただしく行っていく。
 渡辺班の殆どのメンバーが弔問に来てくれた。
 喪主は俺が務めた。
 葬儀が終わった後冬夜達が家に来ていた。
 神奈が心配だったみたいだ。

「お前んところだって愛莉さんの母親亡くなって大変だろうな」
「梨々香がいるからそっちに任せてる」

 それに神奈だって初めてだろ?
 短期間で両親を失うなんて。
 だから心配だったんだと冬夜は言う。
 すると雪が誠司郎に声をかけていた。

「ちょっと二人で話がしたいんだけど」
「どうしたんだ?」
「誠司郎の心配したらだめ?」
「え?」

 俺と冬夜も驚いていた。
 雪が誠司郎に心を寄せている事は薄々気づいていたとはもうそこまできていたのか。

「2人で話をしておいで」

 俺が誠司郎に言うと誠司郎は自分の部屋に案内した。

「あれもお前の手腕なのか?」

 神奈が聞いていたけど冬夜は首を振っていた。

「あの子は文字通り僕を超えているよ」

 いつかその感情について説明してやろうと思っていたけど自分で自問自答を繰り返して答えを探っている。
 今もまだその感情の正体を掴めないでいるだろうけど少しずつ進んでいってる。
 きっといつか光の方に行ける気がする。
 
「雪はきっと自分で自分なりの解答を出すよ」

 雪ほどの能力の所有者を恐れずに「守ってやる」って言ってくれる男はそうはいないだろう。
 夕方頃になると「お腹すいた」と雪が部屋から出てくる。

「じゃ、そろそろ帰るね」

 そう言って冬夜が帰ると俺達も夕飯を食べて風呂に入って寝ようとしていた。

「ついに来たんだな」
「何のことだ?」

 神奈が質問してくると俺は答えた。

「神奈の孫と冬夜の孫が結ばれる時がきたんだなって」
「結と茉奈もいるけどな」
「厳密に言うと桐谷家だろ?」
「まあ、素直に嬉しいかな」

 こんな長い夜を抜けてついに雪解けの時が近づいてくる。
 そんな気がしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...