姉妹チート

和希

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passion

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(1)

「それじゃ、メリークリスマス」

 僕が言うと6人で乾杯をした。
 大地も天音も善明と翼も子供はもう自分たちで遊んだりデートするようになった。
 すると去年善明が困っていたみたいなので美希に相談した。

「本当にしょうもないことで悩むのですね」

 まあ、クリスマスイブにホラーゲームやってる天音の夫の大地なら善明の苦労が分かるのだろう。
 
 善明が言う。

「でも、それが嫌なら嫌ってちゃんと言えばよかったのに」

 楽しそうにしている妻にクレームつけたら僕は年を越せないと善明が言う。

「翼はそう言うの嫌いじゃなかったの?」
「ほら、私も大人になったんじゃないかな?」

 翼はそう言っていた。
 主婦層しかみない時間帯のドラマなんてドロドロしたドラマか韓流くらいしかない。
 ワイドショーもコメンテーターの勉強不足が酷すぎて聞くに堪えないから見たくないと美希が言っていた。

「じゃあ、翼は昼間何してるんだ?」
「夕飯何にしようかなとか麗華やなずなとグルチャしてる」

 たまに気になった映画を見たりしてるそうだ。
 時間があった時は母さんや神奈さんとお茶をしているそうだ。
 黙っていたのは僕が働いてる時にそんな長閑な一時を過ごしているのが後ろめたいと思ったらしい。
 だから美希に伝えた。

「美希、父さんが言ってた。主婦に休みはないんだって」
 
 だからほんの少しでもリラックスできるなら自由にさせてあげなさいって父さんの経験談らしい。
 ようやく子供も親の手から離れてゆっくりできる時が来た。
 でも今度は違う問題が発生する。
 もっとも天音と翼はそうでないらしいけど。

「あの禿、昼寝でもしようかと思ったらしょうもないことで呼び出しやがるんだ」
「……まだ茉莉達は問題を起こしてるの?」

 FGがいないから問題を起こさないといつから錯覚していた?
 FG以外でもしょうもないいじめや嫌がらせが起こるのが学校。
 違うのは茉莉や菫がその学校にいた事。
 授業中だろうがお構いなしに暴れ出す二人。
 結莉は大人しくしているけど、結局結莉の怒りを買う事になる。
 理由は説教が長引いて焼きそばパン買う時間が無くなって売り切れてしまったから。

「てめーらのせいで今日焼きそばパン食えねーぞ!どうしてくれるんだ!?」

 ちなみに結莉が芳樹の分と二人分弁当は作ってる。
 あとはそれに学食でかつ丼とかを食べるか焼きそばパンにするかの選択。
 菫も同じだ。
 進学校のはずなのに訳の分からない族車や単車が構内に入ってくるらしい。
 すると菫が「お前勝手に校門くぐっておいて生きて帰れると思うなよ!」と暴れ出す。
 天音も美希も恵美さんや晶さんに色々教わっていた。
 
「ぐだぐだうっせーぞ!その禿げ頭狩り取ってやってもかわまわねーぞ!」

 もはやモンペ以上の存在になりつつある天音と美希。

「先生方がそうやってごねていると娘たちは買い食いの時間が無くなったと騒ぎ出しますよ?」

 菫はゲーセンでゲームをする時間が無くなったと怒り出す。
 あの子達は何をしに学校に行っているのだろう。
 唯一服装だけは校則を守っていた。
 馬鹿丸出しの格好をして彼氏に恥をかかせたくないのは茉莉も同じようだ。
 結は単にいじるのが面倒なだけ。

「ほら、寝癖くらい直さないとダメだよ。困った彼氏さんだね」

 そう言って茉奈がブラシで結の髪を整えてるらしい。

「それにしても面白そうだな」
「……何が?」

 大地は薄々気づいていたんだろう。
 恐る恐る天音に聞いていた。

「来年私達も旅館の部屋をとろうぜ!」

 絶対言うと思った。
 他のカップルが聖夜を楽しんでいる声を聞きたいらしい。
 翼が不倫のカップルの行為の最中の声を聞いたらしいから。
 翼はそんな物に興味は示さない。
 夫のお陰で生活出来てるのに。
 昼ドラを見ない理由もそこに嫌悪感を示していたから。

「天音、趣味悪いよ」

 翼が天音を叱っていた。
 だけど天音は反論する。

「ヒールで人体に穴開けるお前がゾンビゲーム出来ない方が意味が分かんねーぞ!」
「だって普通に気持ち悪くない?」

 指の骨折るのは気持ち悪くないのだろうか?

「翼。それがさ、ゾンビでも絵が凄く可愛いんだよ」

 美希が説明していた。
 それでもゾンビ物なんだけど。
 翼はそう言うのを見るとひとりで夜トイレにも行けないらしい。
 でも確か光太が言っていたな。
 なぜか人妻が旦那以外の男と寝るジャンルが多いって。
 人妻という物に何か特別な意味があるのだろうか?

 ぽかっ

「旦那様はそういうのに興味持たないでください!」

 美希に叱られた。

「空や、少し考えてごらん。美希が知らない男に襲われていたら一番真っ先にキレるのは空じゃないか」

 ああ、確かにそうだな。

「本当にしょうがない主人なんだから」

 そう言ってため息を吐く美希。

「美希はまだいいじゃないか!大地の野郎は結莉達が家にいない時でも全く構ってくれないんだ!」

 天音が怒り出す。
 それを聞いた美希が大地を注意する。

「大地!あなたそんな事が母さんに知れたら大変だよ」
「それ姉さんに相談したかったんだ」
「え?」

 僕も善明も興味があったので聞いてみた。
 そんなに大したことじゃなかった。
 大地ももう30代後半になる。
 そんなに女性にがっつく歳じゃなくなってきた。
 なのに天音は「少しは嫁の相手しろ!ババアが嫌なんてふざけた事言ったらセメントにするぞ!」と脅迫する。
 女性はそういう事は無いのだろうか?
 性欲の衰えを知らないのだろうか?
 美希が説明をしていた。

「男性の事は分からないけど母さんから聞いたことがある」

 女性は40後半くらいになると子供をつくるメカニズムが無くなってしまう。
 その影響でなぜか男性ホルモンが分泌されるらしい。
 で、その男性ホルモンが女性の性欲を強くするんだそうだ。
 どうせ子供は出来ないから気にせず出来るというのもあるんだろう。
 
「ああ、そういう事なら主人も悩んでた」

 美希が説明する。
 僕もそんなに美希を抱きたいと思わなくなっていた。
 それより一緒にテレビを見ていたり、そばにいるだけでいいと形のない物に頼ってしまう。
 それでも美希が求めてくるならなるべく応じていた。
 理由はさっきも言ったけど「主婦に休みはない」から。

「つまり大地にはそういう気づかいが全くないという事か!?」

 使い物にならなくなったわけじゃないだろ!
 精力剤でも買ってくるから意地でも相手しろ!
 大地はただ笑っていた。

「善明はどうなの?」
「僕は翼が落ち着いてきたからね」

 で、無かったら今頃「折角の聖夜なんだよ!」と二人きりになりたがるはずだと説明した。
 菫もすぐに感づくようになって覗こうとするらしい。
 そんな菫に気遣うのに疲れたらしい。
 親の行為なんてそんなに気になるのかな?

 ぽかっ

「だから旦那様はそういうしょうもないことを考えるの止めて!」

 美希に怒られた。

「しかし参りましたね」

 大地が話題を変えた。
 多分父さん達の事だろう。
 渡辺班の主導権を僕に委ねるという。
 大地も善明もそろそろ総裁の座を譲ろうかと望さんや善幸さんが言い出したらしい。
 そろそろ定年だからそうなるんだろう。
 それを言いだしてから急に仕事が増えた。
 もちろん家庭を大事にすることが前提。
 挙句多分来年くらいから動くだろうリベリオンとやらの相手も僕に指揮を任せるらしい。

「具体的な案はあるのか?さっさと見つけて潰した方が面倒じゃないだろ?」
「天音はパパ達の話聞いてた?それが出来ないから待つしかないの」

 しかし悠長なことを言ってられないのも確かだ。
 奴らの狙いは間違いなく雪と誠司郎。
 あの2人で対処できるだろうけど、雪の力は世界ごと壊してしまいかねない。
 今のうちに策は考えておく必要がある。
 僕がSHの王であるうちの最後の仕事だと思っていた。

(2)

「うぅ……」

 茉奈がテレビを見て悩んでいた。
 テレビはちょうどアニメをやっていたからそれを見ていた。
 俺と茉奈はホテルの最上級の部屋が用意されていた。

「片桐家の息子にふざけた対応したらこんなぼろ屋敷潰してやる」

 そうやって恵美が脅しをかけたらしい。
 料理も美味しかったけどやはり物足りない。
 近所に焼き肉屋があるからそこで食べた方が良かったんじゃないだろうか?
 ただクリスマスイブに焼き肉屋ってどうなんだろう?と茉奈が悩んでいたからホテルのレストランを利用した。
 でもやっぱりお腹は空くからコンビニで買って来たおにぎりやカップラーメン等を買って食べていた。
 馬鹿みたいに広い部屋。
 俺と茉奈だけなのにこんなに無駄に広い部屋どうしろというんだろう。
 お風呂も広かった。
 ベッドを別々になんてことは言わない。
 だってこの部屋ベッド一つしかないから。
 俺の家のベッドの2倍くらいあるけど。
 で、どうして茉奈はこのアニメを見て悩んでいるのだろう?

「ひょっとして茉奈の趣味じゃなかった?」
「……結はどうしてこの番組を選んだの?」
「魔法少女ものだから」

 日曜にやってる物理で殴る魔法少女のシリーズじゃないけど。
 しかし最近の少女はこんなストーリーが好きなんだな。
 母さんだったらすぐにチャンネル変えそうな感じだった。
 魔法使いに憧れる少女と魔法使いになってはいけないと警告する友人。
 警告を無視して魔法少女になった少女は魔女と戦って苦戦……することもなく首から上を食いちぎられていた。
 結構有名なシーンだ。
 それがまずかったのだろうか?

「茉奈はグロイの苦手?」
「そういう問題じゃくてさ……」

 今日はクリスマスイブだよ?
 こんなアニメ見る日じゃないはずだよ?
 せっかく2人でいるんだから俺にムードという物を考えて欲しい。
 ああ、ムースも買って来ればよかったかな?
 
「ごめんね。そういうの分からなくて」
「大丈夫だよ。そういう結とずっと一緒にいたいんだから」

 他の男子なら風呂から出て来た途端彼女を押し倒してもおかしくないのに俺はすごいねと褒めていた。
 そんな男子に彼女が出来るのかは知らないけど。

「じいじもそうだったって愛莉が言ってたよ」
「そうなんだ」

 とはいってもこのままいきなりベッドはダメだろうな。

「じゃあクリスマスだから抱いてもいい?」

 言葉にするとこれほど間抜けな物はない。
 ただがっついてるだけだと茉奈に思われたくない。
 何かいい方法が無いだろうか?
 あ、クリスマスっぽい空気にすればいいんだ。
 確かカミル達が見ていたはずだ。
 チャンネルを変えるとオーケストラが演奏していた。
 
「結こんなの興味あるの?」
「そういうわけじゃないけど」

 あのアニメを見た後に茉奈と寝るなんて自信はない。
 少しでもそんな空気を呼び込みたいと思った。
 第九で知られる有名な曲。
 誰もがその合唱は聞いたことがあるだろう。
 結莉も知っていたみたいだった。
 その後に他のチャンネルにするとクリスマスの曲をやってる。
 決して軽いのりのラブソングじゃない。
 普通のクリスマスに歌う小学生でも知っている曲を歌姫と呼ばれる歌手が歌っていた。
 冬莉が歌っていた年もあった。
 すると結莉がしびれを切らしたみたいだ。

「結、まだ駄目?」

 こういう時の対処法はちゃんと聞いておいた。
 茉奈の腰に手を回すと、茉奈は俺に抱き着いてくる。

「そろそろ寝ようか?」
「……うん」

 ここで本当に寝たら俺は明日生きているかわからない。
 しっかりと茉奈と聖夜を楽しんだ。

(3)

「あ、トーヤ」

 カンナ達が僕を探していたみたいだ。
 今日は渡辺班の年越しパーティ。
 渡辺君と話をしているとカンナ達がやって来た。

「どうしたの?」

 愛莉が聞いている。
 愛莉や瞳子が知らないって事は雪の事じゃないのかな?

「何があったの?」
「いや、ちょっと孫の事で相談が」

 やっぱり結が何かやらかしたのか?
 しかし雪は身に覚えがないらしい。
 
「誠司郎の事?」
「いや、そっちじゃないんだ」

 そう言ってカンナは水奈を睨みつける。
 水奈は今日はやけに神妙にしていた。
 天音は紗理奈達と盛り上がっている。

「水奈。どうしたの?」

 愛莉が聞くと学が説明を始めた。
 話は冬休みが始まる前の期末考査の時期まで遡る。
 珍しく愛菜が水奈にテスト用紙を見せたらしい。
 いつもはゴミ箱に捨ててるらしい。
 それを一々確認するような母親じゃない。
 水奈は通知票に押す親の認印すら「悠翔ハンコ押してやれ。学にバレると多分面倒だから急げ」と言っていたらしい。
 まずはその事で2人は大ゲンカしたらしい。
 カンナも呆れていたそうだ。
 で、問題は通知票じゃなくて期末テストの結果だった。
 愛菜は得意気にテスト用紙を水奈に見せたらしい。
 珍しいこともあるんだなと見たら酷い点数の答案用紙があった。
 これのどこに愛菜が誇らしげにする要素があるのか分からなかった。
 分かったのはやっぱり彼氏の智也と一緒に勉強をするようになってそんなに間がないから仕方ないかと思っていた。

「これから頑張ればいい」

 あと1年あればなんとかなるだろう。
 しかし愛菜は水奈の想像を超えていた。
 子供はいつか親を超える時が来るというらしい。
 今がその時だったんだろう。

「水奈。私生れて初めてテストで点数もらえたぞ!」
「は?」
 
 水奈もさすがに驚いた。
 どう反応すればいい。
 ここで叱って愛菜のやる気を削ぐのは良くない。
 だけど同じ事を学に言ったらまずい。

「愛菜。それは学には絶対に言うな!」
「なんで?」
「母さんを助けるつもりで……頼む!」

 叱られるのは愛菜じゃなくて水奈だろう。

「まあ、水奈が言うなら分かった」
「夕飯までのんびりしてろ」
「うん。あ、また明日から勉強しようって智也が言ってた」
「そうか、頑張れよ」

 無理するなと言えるレベルじゃない。
 しかしやっぱり夕食の時に愛菜が学に自慢する。
 学の表情は険しかったらしい。

「愛菜……今までのテストは?」
「見せても意味が無いから捨ててた」

 それで学と水奈は喧嘩したそうだ。
 しかし問題はまだある。

「で、点を取れたのはその教科だけなのか?」
「そんなわけないじゃん。全部ちゃんと点数とれたよ」

 期末考査は中間考査よりも科目が多い。
 その科目数で合計点数が二桁あると愛菜は嬉しそうにしていた。

「愛菜すごいね」

 優奈のその一言が水奈と学は嫌な予感しかしなかったらしい。

「優奈の答案用紙はあるのか?」
「捨てたよ?記念にもならないでしょ?いつも同じだし」

 いつも同じという普通の言葉に恐怖を感じたらしい。

「まだゴミ箱にあるのか?」
「うん」
「ちょっと持って来てくれ」
「別にいいけど、いつも通りだよ?」

 そう言って部屋に戻る優奈を見ながら学は水奈に聞いた。

「天音が教えてるんじゃなかったのか?」
「あ、それは……」

 愛菜は智也が教えている。
 だから天音は優奈にだけ教えたらいいはずだった。
 しかしやはり天音だった。

「天音~言ってる事全然わかんない」
「そうか。そういう時は気分転換が大事なんだ」
「じゃあ、いつものやる?」
「お、そろそろだと思ったんだよな」

 そう言って水奈も混ざってすぐゲームを始めるらしい。

「何が”そろそろ”だ!水奈が注意するべきだろうが!」
「でも気分転換必要なのは学だって言ってたじゃねーか!」
「今がどういう時期か分かってるのか!?優菜たちはもうすぐ入試だぞ!」

 で、天音は気分転換だけして家に帰るらしい。
 その時点で愛莉は鬼の形相で天音を探しに行った。
 そして話はまだ続く。
  
「in Japanese Write! This Fuck!」

 自分が理解できない問題は日本語になってないと優奈は解釈したらしい。
 それをみて学は悩んだ。
 ここで優奈を叱っても意味が無いのは水奈の勉強の面倒を見てきた学だから分かる。
 さすがにこれはやばいと思った水奈は学に怒られるとびくびくしていたらしい。
 言い訳ができるわけがない。
 で、いつもと同じなのは点数の所に〇があるだけ。
 全教科変わらなかった。

「で、冬休みの宿題は?」
「最終日に海翔の見せてもらうから大丈夫」
「……母さんとちょっと話がしたいから部屋に戻ってなさい」
「わかった~」

 そう言って子供達が部屋に戻るのを見ると水奈が先に謝りだした。

「ごめん、ここまでとは思ってもみなかった」

 水奈でも全教科0点なんてことはなかったそうだ。
 そうだろう。
 〇×の2択問題もあるのに全部華麗に外す方が凄い芸当だ。
 それをやってしまって自分が犯人だと自白した漫画があったな。
 
「……もう仕方ない。父さん達に相談しよう」
「私のせいだよな……」
「俺も娘の勉強を見なかった責任もある」
「私を信頼してくれてたんだろ?」

 母親失格なのかな。
 今頃になってそんな事を言いだす水奈。

「それは思っても絶対に口にしたらいけないって空の父親から聞いたろ?」
「分かってるんだけど情けなくて……」

 で、誠達に相談した結果僕に振って来たわけか。

「天音は優奈の勉強の邪魔をしに行ってるのなら今後水奈の家に行ってはいけません!」
「愛莉だって同じだったってパパから聞いたぞ?優奈が何が理解できないのかさっぱり分からないんだ」
「……確かに愛莉の説明が次元が違っていたな」

 そんなの2に決まってるじゃない。
 そんな風に愛莉は答えだけを分かってしまって過程をすっ飛ばす。
 それでも愛莉なりに僕達に分かりやすいように必死に公式とかを睨んでいた。
 ……あれ?

「天音。おかしくないか?」
「どうしたんだパパ」
「翼は空にちゃんと教えてたろ?」
「私は説明する方法が分からなかったから必死に黒板写してた」

 どうやったら空が理解できるか解読しようとしたらしい。
 結局空も教科書を見ただけで理解するという能力があったから問題なかったけど。
 翼や天音は寝ていても授業を理解する。
 だから桜子が頭を悩ませていた。
 冬吾も同じだ。
 だけど冬吾はもっと詳しく知りたいからと桜子に質問攻めして困らせていた。

「ご家庭でもう少し勉強を見てあげてください」

 教師が音を上げた瞬間だった。

「私は学校に通ってるわけじゃないから黒板を写すなんて無理だぞ!」
「じゃあ、なんで勉強を見るなんて言ったの!?」
「中学生の問題如きどうでもなると思ったんだよ!」
「じゃあ、それを放ってゲームをしていた理由を説明しなさい!」
「天音。それは間違ってる。天音にはわからないかもしれないけど……」

 カンナが説明した。
 人間の脳というのは面白いことになっている。
 例えば僕は大学を出て税理士になった。
 税理士の知識はちゃんと頭に入っている。
 細かい箇所で分からない時は資料を見て調べる事が出来る。
 だけどできない事がある。
 それは小学校高学年や中学校レベルの数学が分からないという場合がある。
 だから前に言った通り父親の威厳を保つために子供から教科書を借りて一から学びなおす。
 小学校高学年の勉強なんて甘くみてるだろうけど自分が現役の時なら出来て当然。
 だけど大人になってそういう分野に触れなくなると途端に忘れてしまう。
 昔あった高学歴のタレントが現役の名門小学生に負けたりするあれが一番わかりやすい。
 大卒だからこのくらい簡単だろ?
 そんな事は絶対にありえない。
 大学を出たから何でもできるなんて事になったら建築士の図面を見て施工業者が「これだと多分扉が開きませんよ」なんて事態にならない。
 小説家に数学の質問をしたり、プログラマーに法律の事を聞くわけがない。
 
「あちゃあ、やっぱりその話だったか」

 亜依さんと桐谷君が来た。
 2人の孫でもあるんだから当然だ。

「優奈。海翔と同じ高校行きたいなら勉強ちゃんとしないとダメでしょ」

 亜依さんが優しく言うけど先に桐谷君がアドバイスしたらしい。

「恋の神様を信じてたらなんとかなるから面倒な事する必要ないって瑛大が言ってたよ?」
「……瑛大!お前孫娘に何教えてるんだ!」
「父さん、勘弁してくれないか……」
「だって、浪人生活を調べるなんて面倒な事するはず無いって言ってたじゃないか」
「お前はそう言って高校生活大変な目にあったの忘れたのか!?」

 大学は亜依さんも医学部志望だったからいい。
 しかし地元大学くらい行くかと思ったら3年の時の進路相談で「無理」と言われて私立になったそうだ。
 うちのクラスで私立大学に行ったのは桐谷君だけだった。
 カンナですらバイトと勉強を必死に両立して地元大学に入った。
 だから努力しない者に恋の神様が力を貸すわけがない。
 それを立証したのはほかならぬ桐谷君だった。

「亜依だって大学くらい好きな所でいいよって言ったじゃないか!?」
「お前は好きで言ったわけじゃないだろ!」

 普通科なのに高卒じゃ就職が難しいから、どこでもいいから大学行っとけで私立大学に入ったらしい。
 話はそれだけじゃないらしい。
 夏休みになると毎日ゲームしたりスマホで亜依さんと話をしていたそうだ。

「お前課題ちゃんとやってるんだろうな?」
「当たり前だろ」

 当たり前にやっていなかった。
 で、2学期が始まる直前に亜依さんに泣きついて大ゲンカしながら課題を仕上げたらしい。
 空や翼は不思議そうに聞いていた。
 夏休みの課題は7月中に終わらせてあとたっぷり遊ぶ。
 そんな片桐家の学生の常識を作り出した3人には理解できない状況だろう。
 それは海翔達も同じらしい。
 海翔か……。
 まあ、そうした方が良いだろうな。
 僕は結莉に声をかけた。

「結莉は冬休みの課題終わらせたの?」
「うん、クリスマスに芳樹と遊ぶからそれまでに二人で終わらせた」

 やっぱり無茶やるな。
 多分愛莉に似たんだろうな。
 だけど僕の狙いは違うところにある。

「結莉は芳樹と課題をしたの?」
「うん。芳樹の家は部屋が空いてるから泊まり込みでしてた~」

 うん、愛莉の学生時代とあまり生活が変わらない。
 だから海翔に話を振る。

「海翔は優奈と勉強したりしないのかい?」
「優奈は勉強嫌いみたいだから……」
「それはダメだと思うよ」

 僕が言うと皆が僕を見る。
 だけど僕は淡々と話を続ける。

「海翔は優奈と一緒の高校行きたくないの?」
「行きたい」
「愛莉はね、カンナと僕と一緒の学校に行きたいからってもっと高レベルの高校に行けるのに志望校を下げてまで一緒に勉強したんだ」

 危うく三重野に行くところだったのは黙っておこう。

「優奈もそうだよ。恋の神様を信じるってのはそういう事なんだ」

 好きな人と一緒の学校に行きたいから必死で勉強する。
 そういう人たちの願いを叶えるのが恋の神様。
 ただ恋人がいるってだけなら容赦なく切り捨てていく。
 普通に恋愛して結婚するはずだったのに別れというゴールにたどりついてしまった者がSHにもいるだろ?
 神様がいるから大丈夫なんて信頼の上に胡坐をかいてる者は容赦なくネタにする。

「……今からでも間に合うかな?」
「そうだな。じゃあ、お爺さんが試練を与えようか」
「試練?」
「そう。冬休みの課題を海翔と2人でちゃんと期限内に終わらせる事」

 まずはそれを頑張ってみたらどうだ?
 すぐ勉強を始めたから結果が出るなんてことはない。
 だから愛菜の成績を見て学達は怒らなかったんだ。
 それがやる気の証拠なのだから。
 だから優奈も頑張ってみたらいい。
 そしたらきっと願いはかなうよ。

「分かった。海翔、手伝ってくれる?」
「うん、いいよ。帰ったら早速やろう?」

 多分海翔は終わらせてるだろうけど、丸写しさせるなんて事はしないだろう。
 そんな事をしてもやってないと一緒だ。
 多分優奈の進歩に合せて懸命に説明するだろう。

「じゃ、あと楽しんでおいで」
「わかった」

 そう言って孫たちはまた食べ物を取りに行った。

「悪いな。こういうのはトーヤに任せた方が良いと思って」
「カンナも自分の孫くらい面倒見てやらないと」
「だから俺が教えてやると言ったんだ」
「お前と孫娘を二人っきりにできるわけないだろ!」

 相変わらずの誠とカンナだった。

「しかし相変わらずの手腕だな。お前まだ現役続けられるんじゃないのか?」

 渡辺君がそう言って笑っていた。
 ちょうどそのころ外で花火が打ちあがる。
 どうやら年が明けたようだ。
 皆と挨拶をする。

「いよいよ誠士郎達も小学生か」

 誠が言う。

「やっぱり狙ってくるのか?」
「諦めてくれはしないだろうね」

 情勢的にも問題は無い。
 僕達が平和ボケしていると油断しているだろう。
 だから空に任せる事にした。
 決着をつけてお終いじゃない。
 終幕はもっと先にあるのだろうから。
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