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決意
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桜が結芽に連れ去られて1週間が過ぎた。
桜自身の意思でついて行ったのかもしれないけど。
あの事件の後、すぐに花梨様に呼び出された。
そして桜について話を聞いた。
桜はもともと天の国で生まれたらしい。
休戦の条件に桜を渡すように要求したそうだ。
桜には守り人という役目がある。
北美家が守る凶方の獄門の門番。
その話は桜と婚礼をする前に聞いていた。
天の国の住人という話は初めて聞いたけど。
鍵には二種類あるという。
一つは獄門から鬼が出てこないように結界を張り、門を閉じる鍵。
そしてその門の結界を断ち切る鋏。
桜は鋏の方だった。
だから倭の国が桜を要求した。
桜を執拗に狙う理由は鬼を解き放つ鋏が必要だったんだ。
そして桜は今天の国にいる。
遅かれ早かれ獄門を解き放ちにやってくるだろう。
宮ではその防衛策に躍起になっている。
だが、俺はどうすればいいか分からなかった。
桜に「さよなら」と言われたのを未だに引きずっている。
絶対に守ると誓ったのに守れなかった。
俺は自分の無力さを痛感していた。
食欲もない。
ただじっと庭を眺めていた。
父上も俺の心情を察してくれたのか、何も言ってこなかった。
今家にいるのは、俺と新しい世話係。
このまま時が過ぎるのをただ見ていた。
しかし今日になって来客が来たと世話係が言う。
帰ってもらうようにお願いした。
今は誰にも会う気はない。
だけど……。
「お、お待ちください!困ります」
「五月蠅い!竜樹はどこにいるの!?」
この声は竜樹の姉の梓紗だ。
梓紗は俺を見るなり俺の襟を掴み立ち上がらせる。
「あんた何やってんの!?桜を取り戻す気はないのかい!?」
その桜が自ら別れを告げたんだ。
鬼とか門とか俺には関係ない。
「……放っておいてくれませんか?」
面と向かって「さよなら」と言われた俺の気持ちは絶対に解らない。
すると梓紗は怒鳴りつけた。
「ふざけんじゃないよ!桜の事を何一つ分かってないのかい!?あの子がどれだけ竜樹の事を想っていたのか」
俺の事を?
それから梓紗は説明した。
初めて桜と対面した時、桜は梓紗に興奮を隠せずに色々話していた事。
その後もひたすら俺の事を考えていたらしい。
好きな人が他にいるんじゃないだろうか?
どんな女性が好きなのだろうか?
そして婚礼が決まった時、嬉しさのあまりに死んじゃうんじゃないかって不安になっていたらしい。
死んでしまっては婚礼は出来ないから。
そんな桜がどんな思いで別れを告げたのだろうか?
「思い出しなさい!桜が別れを告げた時、どんな表情をしていたのかを!?」
無理に笑ってはいたけど涙を流していた。
どちらが本当の桜なのだろう?
「竜樹の気持ちはどうなんだい!?このままでいいのかい!?今桜がどんな気持ちでいるのかよく考えな!」
俺の気持ち……。
そんなの決まってる。
「桜に会いたい」
取り戻さなければならない。
冷めていた心が熱を帯びていく。
取り戻したい、取り戻さなければ。
体に力が戻ってくる。
そんな俺を見て梓紗は言った。
「……ついてきな。竜樹が再び立ち上がることができたなら、話があると花梨様に言われてるんだよ」
俺はすぐに身支度をして、宮に向かった。
そんな俺を見て花梨様は言う。
「決意したようね」
俺は頷いた。
すると一振りの刀を俺に授けた。
「秘刀・八咫烏。とっておきの奥の手をあなたに委ねます。それを使って桜を救ってみせなさい」
俺はそれをしっかりと握りしめる。
「……今天の国に密偵を送っています。どうやら最後の決戦の準備をしているようです」
目的はもちろん獄門。
間違いなく桜も連れて来るはず。
必ず連れ戻すと八咫烏に誓う。
数日後大勢の天の国の鬼が橋を越えて来たと聞いた。
「お前は獄門を守りなさい」
父上がそう言うと、俺は楓と一緒に獄門に向かう。
この日倭の国で大規模な戦が始まった。
民を守りながら戦う父上たち。
無事だろうか?
そんな事を思っていた時だった。
目前の空間が歪んで見える。
そしてその空間の裂け目から出て来たのは、天の国の者と変わり果てた桜の姿だった。
桜自身の意思でついて行ったのかもしれないけど。
あの事件の後、すぐに花梨様に呼び出された。
そして桜について話を聞いた。
桜はもともと天の国で生まれたらしい。
休戦の条件に桜を渡すように要求したそうだ。
桜には守り人という役目がある。
北美家が守る凶方の獄門の門番。
その話は桜と婚礼をする前に聞いていた。
天の国の住人という話は初めて聞いたけど。
鍵には二種類あるという。
一つは獄門から鬼が出てこないように結界を張り、門を閉じる鍵。
そしてその門の結界を断ち切る鋏。
桜は鋏の方だった。
だから倭の国が桜を要求した。
桜を執拗に狙う理由は鬼を解き放つ鋏が必要だったんだ。
そして桜は今天の国にいる。
遅かれ早かれ獄門を解き放ちにやってくるだろう。
宮ではその防衛策に躍起になっている。
だが、俺はどうすればいいか分からなかった。
桜に「さよなら」と言われたのを未だに引きずっている。
絶対に守ると誓ったのに守れなかった。
俺は自分の無力さを痛感していた。
食欲もない。
ただじっと庭を眺めていた。
父上も俺の心情を察してくれたのか、何も言ってこなかった。
今家にいるのは、俺と新しい世話係。
このまま時が過ぎるのをただ見ていた。
しかし今日になって来客が来たと世話係が言う。
帰ってもらうようにお願いした。
今は誰にも会う気はない。
だけど……。
「お、お待ちください!困ります」
「五月蠅い!竜樹はどこにいるの!?」
この声は竜樹の姉の梓紗だ。
梓紗は俺を見るなり俺の襟を掴み立ち上がらせる。
「あんた何やってんの!?桜を取り戻す気はないのかい!?」
その桜が自ら別れを告げたんだ。
鬼とか門とか俺には関係ない。
「……放っておいてくれませんか?」
面と向かって「さよなら」と言われた俺の気持ちは絶対に解らない。
すると梓紗は怒鳴りつけた。
「ふざけんじゃないよ!桜の事を何一つ分かってないのかい!?あの子がどれだけ竜樹の事を想っていたのか」
俺の事を?
それから梓紗は説明した。
初めて桜と対面した時、桜は梓紗に興奮を隠せずに色々話していた事。
その後もひたすら俺の事を考えていたらしい。
好きな人が他にいるんじゃないだろうか?
どんな女性が好きなのだろうか?
そして婚礼が決まった時、嬉しさのあまりに死んじゃうんじゃないかって不安になっていたらしい。
死んでしまっては婚礼は出来ないから。
そんな桜がどんな思いで別れを告げたのだろうか?
「思い出しなさい!桜が別れを告げた時、どんな表情をしていたのかを!?」
無理に笑ってはいたけど涙を流していた。
どちらが本当の桜なのだろう?
「竜樹の気持ちはどうなんだい!?このままでいいのかい!?今桜がどんな気持ちでいるのかよく考えな!」
俺の気持ち……。
そんなの決まってる。
「桜に会いたい」
取り戻さなければならない。
冷めていた心が熱を帯びていく。
取り戻したい、取り戻さなければ。
体に力が戻ってくる。
そんな俺を見て梓紗は言った。
「……ついてきな。竜樹が再び立ち上がることができたなら、話があると花梨様に言われてるんだよ」
俺はすぐに身支度をして、宮に向かった。
そんな俺を見て花梨様は言う。
「決意したようね」
俺は頷いた。
すると一振りの刀を俺に授けた。
「秘刀・八咫烏。とっておきの奥の手をあなたに委ねます。それを使って桜を救ってみせなさい」
俺はそれをしっかりと握りしめる。
「……今天の国に密偵を送っています。どうやら最後の決戦の準備をしているようです」
目的はもちろん獄門。
間違いなく桜も連れて来るはず。
必ず連れ戻すと八咫烏に誓う。
数日後大勢の天の国の鬼が橋を越えて来たと聞いた。
「お前は獄門を守りなさい」
父上がそう言うと、俺は楓と一緒に獄門に向かう。
この日倭の国で大規模な戦が始まった。
民を守りながら戦う父上たち。
無事だろうか?
そんな事を思っていた時だった。
目前の空間が歪んで見える。
そしてその空間の裂け目から出て来たのは、天の国の者と変わり果てた桜の姿だった。
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