竜と桜 異国風剣劇奇譚

和希

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終幕

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 結解の向こう側から異様な気配が迫ってくる。
 禍々しく強大な恐ろしい気配。
 じっとしている間も確実に距離を詰めてくる。
 背後の事は楓達に任せた。
 俺は前方にただ集中する。
 その巨大な鬼がやがて現れると息をのむ。
 俺の腕にしがみつく桜が震えている。

「ご、ごめん。足手まといだよね……」

 邪魔にならないように離れようにも足が震えて動けないらしい。
 だから俺は左手で桜の身体を支えてやる。

「大丈夫。俺から絶対に離れるな」
「でも竜樹の邪魔になっちゃう」
「どんな時でも二人で一緒だって誓っただろ?」
「臭い芝居ね」

 様子を見ていた結芽がくすっと笑う。
 
「あなた達にあの大鬼は止める事は出来ない……あの世からの怨念の塊をどうしようというの?」

 怨念の塊……?
 昔父さんから聞いたことがある。
 この世界にあった一つの箱。
 開けると絶望と恐怖が解き放たれた。
 それでも箱の中に残っていたのは……希望。
 ひょっとして。
 俺は八咫烏を見る。
 ……行けるかも。

「桜……一緒に刀を握って欲しい」
「え?」

 不思議そうに俺の顔を見る桜。
 
「一緒に刀を握って念じるんだ」
「どういうことですか?」
「あらゆる恐怖も絶望も振り払って未来を信じて……希望を刀に込めて欲しい」

 2人でいることが最強なんだ。
 恐れることはない。
 
「……分かった。竜樹を信じる」

 そう言ってそっと刀を持つ俺の手の上に自分の手を重ねる。

「無駄よ!たった二人の念で振り払える程の物じゃない!」

 結芽が言うけど桜の意思は固まったみたいだ。

「終わったら一緒にお家に帰ろうね。けがの手当てしなくちゃ」
「また桜の料理が食べたいな」
「父上たちに赤ちゃんを見せてあげないとね」
「ああ、俺達の夢はこんなところでは終わらない」

 2人で覚悟を決めると刀を振り上げる。
 それに反応して大鬼がこちらに突進してくる。
 どんなに絶望しても希望がある限り終わらない。
 どんなに挫折しても夢がある限り終わらない。

「桜!」
「はい!」

 俺達は刀を思い切り振り下ろす。
 すると光輝く刃が天井にまで伸びそして大鬼を両断する。
 けたましい絶叫と共に消え失せる大鬼。
 
「馬鹿な!」

 美琴が信じられないといった表情でそれを見ていた。

「人の心に希望がある限り……諦めない限り夢はつづくのです」

 いつの間にか来ていた花梨様が言った。
 生きようとする意思は何よりも強い。
 だからその事を極めた俺に八咫烏を託した。
 夢であらゆる困難を断ち切る八咫烏の秘伝”夢斬”
 それは己自信を信じるしかないと花梨様は言う。

「ふん、結解が解き放たれている限り何度でも大鬼は呼び出せる」

 絶望も欲望も、怨念も無尽蔵に湧き出る獄門の結解を再び閉じなければいくらでも現れる。

「……それはないわ」

 そう言ったのは結芽だった。
 美琴も驚いている。

「私にも竜樹のような人がいれば……こうはならなかったのかもね」

 桜と結芽は双子の姉妹。
 桜が鋏なら結芽は鍵。
 結芽は獄門の中に入ろうとする。

「何をするつもり!?」

 桜が結芽に声をかけると結芽は立ち止まって振り返った。

「あなた達が羨ましかった。だからあなた達に賭けてみた。本当に希望というものがあるのか」
「どうするつもりなの?」
「獄門の内側から結解を展開する。外側に鋏がある限り絶対に断ち切れない」

 それでこの戦争は終わり。
 だけど……

「それだと結芽が……」
「私の夢は貴方に託すわ。平和な世の中を楽しんで」
 
 向こう側から見守っていると言って夢は獄門の中に消えていった。
 そして獄門は消え、戦争は終わった。
 美琴が何を企んでいるかわからないけど、俺と桜がいればきっと何とかなる。
 その事を夜確かめ合った。
 それから数か月の時が過ぎた。
 倭の国では平穏を取り戻していた。
 
「竜樹、瑞希の世話をお願い」

 俺達は娘を設けていた。
 父上たちが毎日のように見に来ている。

「しかし世継ぎを考えると男の子も欲しいぞ」
「だってさ、頑張ってね。竜樹」

 あの日から徐々に明るさを取り戻し平穏な日常を取り戻していた。
 もう桜を狙うものはいない。
 だから朝になると弁当を作ってもらって橋への見回りの役目に戻った。

「じゃあ、行ってくるよ」
「うん……。きをつけてね」
「ああ」

 そして今日もまた新しい一日が始まる。
 
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