48 / 58
第4章 露れるのは真実と嘘
10.秘密
しおりを挟む
もしも、と司は考える。
住人のすべてが隠邪ならば、この異界は『元の世界によく似た隠邪だけの世界』なのかもしれない。
本来なら隠邪は獣や爬虫類などに似た姿をしている。人の姿を取るなど聞いたことはないが、異界ならそのような不思議も起こりうるだろうか。
(だとすれば、ここにいる隠邪を全部倒せば異界は消える?)
異界に隠邪がどれほどいるかは分からないし、自分の力がどれほど持つのかも分からない。そもそも司に残る時間だって多くないが、それでもやってみる価値はあるだろうか。
そう考えた司が他の人物を消すために外へ向かおうとしたとき自動扉が開いた。入って来たのは先ほどと同じ店員だ。小さく呻き、司は右手に印を作る。
「隠邪逐滅――烈斬!」
店員が消滅する。しばらく待ってみると、やはり同じ店員が現れた。
「隠邪逐滅――清浄!」
さらに同じ店員が。
「隠邪逐滅――烈斬!」
そうしてまた店員が来て、消して、来て、消して。
司が消すたびに同じ姿の店員は延々とやってくる。
(くそっ、しつこいな! だけどなんで一人ずつ、しかも同じ店員が来るんだよ?)
理由は分からないが、他の場所でも同じことになるのなら異界の隠邪すべてを倒すなんて不可能だ。
コンビニの中から隠邪が出現しても良さそうだがそれはないので、もしかしたらあの闇からしか出現しないのかもしれない。
またしても扉が開き、無表情な店員が「いらっしゃいませ、いらっしゃいませ」と呟きながらゆらゆらと入ってくる。それに向かって右手の刀印を構えたとき、店員の後ろに小さな影が見えた。
(ユクミ!?)
司は思わず動きを止めた。
小さな人物は開いたままの自動扉から店内を覗く。そこで司に目を留めて「わあ」と声を上げた。
「つかさくんだ!」
いたのは知穂だった。
自分の胸の中に去来した感情が落胆だったことに司はまず驚く。次に、知穂に対してどのような態度を取るべきかを悩んだことも。
この世界において聡一は創造主ともいえる存在のはずであり、その聡一に近い場所にいるのが知穂だ。知穂を人質にすれば聡一も司の言うことを聞くかもしれない。
店員はのっそりとした動きでレジカウンターの向こうに入った。聡一も美織もここにはいない。知穂と司を遮るものは何もなく、しかも知穂は司に向かって駆け寄ってきている。これは好機ではないだろうか。
司は右手でそっと刀印を作る。
本来の世界で知穂がいなくなった後、聡一はひどく取り乱して冷静ではいられなくなった。もしかするとこの異界でも同じことが起きないだろうか。知穂が消えた聡一には、隙が出来たりしないだろうか。
そう考える傍らで、司は自分の考えがうまくいかないことを既に悟っている。
あの聡一のことだ。自分がどうなるかの想定もしているはず。なのに司のことも知穂のことも自由にさせているのだから、司は知穂に危害を加えられないか、もしくは知穂もこの店員のように何度でも現れるのかもしれない。
(まあ、試してみるか。どうせ俺は遅かれ早かれ、いなくなる)
司は顔の前で印を構える。
これで聡一に一矢報いることができたらいい。
しかし司は最終的に右手を下ろし、印を解いた。屈託のない笑顔を見せたままの知穂に術を使うことがどうしてもできなかった。
こんな異界にいて、隠邪にたちに囲まれ、ユクミまで連れていかれたというのに、まだ知穂に術を向けられない自分の甘さがなんだか情けない。
「つーかーさーくーん!」
一方の知穂は司の葛藤もどこ吹く風で、いつものように抱きついてきた。司の腰の辺りで黒い瞳がキラキラと輝く。
「つかさくんも、お買いもの?」
「ああ、まあ……。知穂ちゃんは一人でここまで来たのか?」
「ううん。ママといっしょだよ。あたしが『一人でお買いものしたい』って言ったから、ママは車でまってるの」
見ると駐車場には見覚えのあるミニバンが停まっていた。司も何度も乗ったことがある車だ。先ほど納賀良家の駐車場が空だったのは、やはり美織と知穂がでかけていたためらしい。
「そっか。じゃあ、聡……いや、パパは?」
「パパはおしごと。きのうも、その前も、ずっとおしごとだよ」
言い切った知穂の顔が曇る。
「パパはね。毎日、あたしのためにおしごとしてるんだって。だからあたしはいつも、ママとおるすばんなの。……だけどあたし、パパにおしごとなんてしてほしくない。本当は、パパとママといっしょにいたい。そうしたらあたし、他にはなんにも、いらないのに……」
そう言って知穂は黙った。
この異界には時間の概念があり、一応は『過去』もある。ただしあくまで設定として植え付けられた記憶であり、連続した時間軸による『昨日』ではない。それは司も体感したし、友介の言葉からも察せられた。
だけど知穂の言葉はなんだか友介から聞いたものは違うように思える。司と同じように“続きの今日”を生きている感じがするのだ。
(気のせいか?)
踏み込んで尋ねてみたいが、この違和感をどう表現していいのか分からない。
迷いの中で沈黙を破ったのは「ピ」という電子音だった。続いて店員が無機質な声で値段を告げると、知穂が顔を上げ、レジカウンターを見てにこりと微笑む。
「つかさくん。いっしょに食べるんだね」
何のことか、と思いながら司もレジカウンターの方を見る。
そこに置かれているのは三本入りの団子だった。どうやら司が先ほど適当に手に取った商品はレジ前に置かれたこの団子だったらしい。
店員は正面に顔を向けたまま、焦点の合わない瞳で値段と「お支払いはどうなさいますか」との言葉を虚空に向かって投げる。
別に団子が欲しかったわけではない。店員の反応を見るために適当に置いただけの品なので買わずにこのまま出たって構わないのだ。だけど知穂が小首をかしげて、
「どうしたの? 買わないの?」
と不思議そうに問いかけてくるので、司は仕方なく青い巾着を取り出す。支払いが終わって団子を手にすると、「良かった」という明るい声がした。
「あのね。前に見たご本にかいてあったよ。“しょくたくをかこむ”と仲良くなれるんだって! つかさくんも、もっと仲良くなれるといいね!」
司に向かって嬉しそうに笑う知穂は、司と“誰”との話をしているのだろう。
「あたしもー、おだんごにしよ! えっと、ふくろは、いらないです!」
言いながらカウンターに手を伸ばした知穂の姿を見て司は気づき、辺りを見回して納得した。
このレジカウンターも、棚も、本来の世界より低い位置にある。
(……なるほどな……)
支払いを終えた知穂は団子を大事そうに持つと、司に顔を向け、
「つかさくん! またね!」
と言って自動扉へ向かう。
知穂はどうやらご機嫌のようだ。小さな背からは小さな歌声が聞こえてくる。
「こぎつね きつね
はんぱな キツネ
なかまに 入れてと なく キツネ……」
司は目を見開いた。これは司がふと口ずさんだ時、ユクミが「いやなうた。もう、うたわないで」と言った歌ではなかったか。
(そうだ。知穂ちゃんが歌ってたから、俺はこの歌を知ったんだ)
「知穂ちゃん! そのキツネの歌はどこで覚えたんだ!」
「んー?」
自動扉の手前で立ち止まった知穂が振り向く。
「この歌はね、ママがおしえてくれたんだよ」
「美織さんが……」
それは意外な返事だった。
「知穂ちゃんはその歌について、何か他に知ってることはある?」
問われた知穂は小さく首を傾げる。左右二つに結んだ長い髪がさらりと揺れた。あれも美織が結んだのだろうか。
「あるよ」
「本当に? それを教えてほしいんだけど」
「ダーメ」
「頼むよ、知穂ちゃん」
「ダメったらダメー」
知穂の表情は強固だった。気まぐれや意地悪で「ダメ」と言っているようには見えない。
「どうして駄目なんだ?」
「ナイショにするって、ママとやくそくしたんだもん。だからパパにも、つかさくんにも、ナイショなの」
知穂は人差し指を唇に当てて笑い、再び司に背を向けた。そうして歩き出そうとし、ふと思い出したように立ち止まって上を見上げ、
「サクラ。きれいだね」
そう残して自動扉を開け、今度こそ歩み去った。車から美織が出てくる。あそこにいる美織は何か知っているだろうかと考え、司は首を横に振った。
知穂は「パパにも」内緒、と言ったのだ。
以前、ユクミは「知穂と友介に陽の気を感じる」と話していたが、美織の名前は出さなかった。ならばきっとそういうことだ。美織の会話や行動パターンが多いのは、聡一の最も近くにいた人物だからという理由でしかない。
司は美織が知穂をジュニアシートに乗せる様子をぼんやりと見つめ、車のエンジンがかかる頃に店を出た。店員が隠邪なことは分かっていたが、今は術を使う気になれなかった。
走り去る車の窓から知穂が手を振ってくるのに緩く手を振り返し、司は道へ出る。
世界の果てと思しき場所はコンビニエンスストアに入るときより遠ざかっていた。そちらを右側に見ながら司は歩き出す。
ビルの一階にある美容室では美容師らしき男女がぼうっと立っていた。お洒落なカフェでは店員が一枚の皿を延々と拭き続けている。不動産業者や保険受付窓口に明かりがともっておらず、中に人もいないのは、“今日”が土曜日だからか、それとも、小さな女の子が訪ねてくることはないからか。
司は少し前にこの世界をゲームのようだと思った。ならばこの世界の主人公は女の子だ。
(そうだ。女の子なんだ。……五歳の)
ビルの隙間から誰もいない公園が見える。植えられている木の中には桜もあるようだ。
一月の今は桜の花なんて、コンビニの店内はもちろんのこと、あの公園にだって見当たらない。
住人のすべてが隠邪ならば、この異界は『元の世界によく似た隠邪だけの世界』なのかもしれない。
本来なら隠邪は獣や爬虫類などに似た姿をしている。人の姿を取るなど聞いたことはないが、異界ならそのような不思議も起こりうるだろうか。
(だとすれば、ここにいる隠邪を全部倒せば異界は消える?)
異界に隠邪がどれほどいるかは分からないし、自分の力がどれほど持つのかも分からない。そもそも司に残る時間だって多くないが、それでもやってみる価値はあるだろうか。
そう考えた司が他の人物を消すために外へ向かおうとしたとき自動扉が開いた。入って来たのは先ほどと同じ店員だ。小さく呻き、司は右手に印を作る。
「隠邪逐滅――烈斬!」
店員が消滅する。しばらく待ってみると、やはり同じ店員が現れた。
「隠邪逐滅――清浄!」
さらに同じ店員が。
「隠邪逐滅――烈斬!」
そうしてまた店員が来て、消して、来て、消して。
司が消すたびに同じ姿の店員は延々とやってくる。
(くそっ、しつこいな! だけどなんで一人ずつ、しかも同じ店員が来るんだよ?)
理由は分からないが、他の場所でも同じことになるのなら異界の隠邪すべてを倒すなんて不可能だ。
コンビニの中から隠邪が出現しても良さそうだがそれはないので、もしかしたらあの闇からしか出現しないのかもしれない。
またしても扉が開き、無表情な店員が「いらっしゃいませ、いらっしゃいませ」と呟きながらゆらゆらと入ってくる。それに向かって右手の刀印を構えたとき、店員の後ろに小さな影が見えた。
(ユクミ!?)
司は思わず動きを止めた。
小さな人物は開いたままの自動扉から店内を覗く。そこで司に目を留めて「わあ」と声を上げた。
「つかさくんだ!」
いたのは知穂だった。
自分の胸の中に去来した感情が落胆だったことに司はまず驚く。次に、知穂に対してどのような態度を取るべきかを悩んだことも。
この世界において聡一は創造主ともいえる存在のはずであり、その聡一に近い場所にいるのが知穂だ。知穂を人質にすれば聡一も司の言うことを聞くかもしれない。
店員はのっそりとした動きでレジカウンターの向こうに入った。聡一も美織もここにはいない。知穂と司を遮るものは何もなく、しかも知穂は司に向かって駆け寄ってきている。これは好機ではないだろうか。
司は右手でそっと刀印を作る。
本来の世界で知穂がいなくなった後、聡一はひどく取り乱して冷静ではいられなくなった。もしかするとこの異界でも同じことが起きないだろうか。知穂が消えた聡一には、隙が出来たりしないだろうか。
そう考える傍らで、司は自分の考えがうまくいかないことを既に悟っている。
あの聡一のことだ。自分がどうなるかの想定もしているはず。なのに司のことも知穂のことも自由にさせているのだから、司は知穂に危害を加えられないか、もしくは知穂もこの店員のように何度でも現れるのかもしれない。
(まあ、試してみるか。どうせ俺は遅かれ早かれ、いなくなる)
司は顔の前で印を構える。
これで聡一に一矢報いることができたらいい。
しかし司は最終的に右手を下ろし、印を解いた。屈託のない笑顔を見せたままの知穂に術を使うことがどうしてもできなかった。
こんな異界にいて、隠邪にたちに囲まれ、ユクミまで連れていかれたというのに、まだ知穂に術を向けられない自分の甘さがなんだか情けない。
「つーかーさーくーん!」
一方の知穂は司の葛藤もどこ吹く風で、いつものように抱きついてきた。司の腰の辺りで黒い瞳がキラキラと輝く。
「つかさくんも、お買いもの?」
「ああ、まあ……。知穂ちゃんは一人でここまで来たのか?」
「ううん。ママといっしょだよ。あたしが『一人でお買いものしたい』って言ったから、ママは車でまってるの」
見ると駐車場には見覚えのあるミニバンが停まっていた。司も何度も乗ったことがある車だ。先ほど納賀良家の駐車場が空だったのは、やはり美織と知穂がでかけていたためらしい。
「そっか。じゃあ、聡……いや、パパは?」
「パパはおしごと。きのうも、その前も、ずっとおしごとだよ」
言い切った知穂の顔が曇る。
「パパはね。毎日、あたしのためにおしごとしてるんだって。だからあたしはいつも、ママとおるすばんなの。……だけどあたし、パパにおしごとなんてしてほしくない。本当は、パパとママといっしょにいたい。そうしたらあたし、他にはなんにも、いらないのに……」
そう言って知穂は黙った。
この異界には時間の概念があり、一応は『過去』もある。ただしあくまで設定として植え付けられた記憶であり、連続した時間軸による『昨日』ではない。それは司も体感したし、友介の言葉からも察せられた。
だけど知穂の言葉はなんだか友介から聞いたものは違うように思える。司と同じように“続きの今日”を生きている感じがするのだ。
(気のせいか?)
踏み込んで尋ねてみたいが、この違和感をどう表現していいのか分からない。
迷いの中で沈黙を破ったのは「ピ」という電子音だった。続いて店員が無機質な声で値段を告げると、知穂が顔を上げ、レジカウンターを見てにこりと微笑む。
「つかさくん。いっしょに食べるんだね」
何のことか、と思いながら司もレジカウンターの方を見る。
そこに置かれているのは三本入りの団子だった。どうやら司が先ほど適当に手に取った商品はレジ前に置かれたこの団子だったらしい。
店員は正面に顔を向けたまま、焦点の合わない瞳で値段と「お支払いはどうなさいますか」との言葉を虚空に向かって投げる。
別に団子が欲しかったわけではない。店員の反応を見るために適当に置いただけの品なので買わずにこのまま出たって構わないのだ。だけど知穂が小首をかしげて、
「どうしたの? 買わないの?」
と不思議そうに問いかけてくるので、司は仕方なく青い巾着を取り出す。支払いが終わって団子を手にすると、「良かった」という明るい声がした。
「あのね。前に見たご本にかいてあったよ。“しょくたくをかこむ”と仲良くなれるんだって! つかさくんも、もっと仲良くなれるといいね!」
司に向かって嬉しそうに笑う知穂は、司と“誰”との話をしているのだろう。
「あたしもー、おだんごにしよ! えっと、ふくろは、いらないです!」
言いながらカウンターに手を伸ばした知穂の姿を見て司は気づき、辺りを見回して納得した。
このレジカウンターも、棚も、本来の世界より低い位置にある。
(……なるほどな……)
支払いを終えた知穂は団子を大事そうに持つと、司に顔を向け、
「つかさくん! またね!」
と言って自動扉へ向かう。
知穂はどうやらご機嫌のようだ。小さな背からは小さな歌声が聞こえてくる。
「こぎつね きつね
はんぱな キツネ
なかまに 入れてと なく キツネ……」
司は目を見開いた。これは司がふと口ずさんだ時、ユクミが「いやなうた。もう、うたわないで」と言った歌ではなかったか。
(そうだ。知穂ちゃんが歌ってたから、俺はこの歌を知ったんだ)
「知穂ちゃん! そのキツネの歌はどこで覚えたんだ!」
「んー?」
自動扉の手前で立ち止まった知穂が振り向く。
「この歌はね、ママがおしえてくれたんだよ」
「美織さんが……」
それは意外な返事だった。
「知穂ちゃんはその歌について、何か他に知ってることはある?」
問われた知穂は小さく首を傾げる。左右二つに結んだ長い髪がさらりと揺れた。あれも美織が結んだのだろうか。
「あるよ」
「本当に? それを教えてほしいんだけど」
「ダーメ」
「頼むよ、知穂ちゃん」
「ダメったらダメー」
知穂の表情は強固だった。気まぐれや意地悪で「ダメ」と言っているようには見えない。
「どうして駄目なんだ?」
「ナイショにするって、ママとやくそくしたんだもん。だからパパにも、つかさくんにも、ナイショなの」
知穂は人差し指を唇に当てて笑い、再び司に背を向けた。そうして歩き出そうとし、ふと思い出したように立ち止まって上を見上げ、
「サクラ。きれいだね」
そう残して自動扉を開け、今度こそ歩み去った。車から美織が出てくる。あそこにいる美織は何か知っているだろうかと考え、司は首を横に振った。
知穂は「パパにも」内緒、と言ったのだ。
以前、ユクミは「知穂と友介に陽の気を感じる」と話していたが、美織の名前は出さなかった。ならばきっとそういうことだ。美織の会話や行動パターンが多いのは、聡一の最も近くにいた人物だからという理由でしかない。
司は美織が知穂をジュニアシートに乗せる様子をぼんやりと見つめ、車のエンジンがかかる頃に店を出た。店員が隠邪なことは分かっていたが、今は術を使う気になれなかった。
走り去る車の窓から知穂が手を振ってくるのに緩く手を振り返し、司は道へ出る。
世界の果てと思しき場所はコンビニエンスストアに入るときより遠ざかっていた。そちらを右側に見ながら司は歩き出す。
ビルの一階にある美容室では美容師らしき男女がぼうっと立っていた。お洒落なカフェでは店員が一枚の皿を延々と拭き続けている。不動産業者や保険受付窓口に明かりがともっておらず、中に人もいないのは、“今日”が土曜日だからか、それとも、小さな女の子が訪ねてくることはないからか。
司は少し前にこの世界をゲームのようだと思った。ならばこの世界の主人公は女の子だ。
(そうだ。女の子なんだ。……五歳の)
ビルの隙間から誰もいない公園が見える。植えられている木の中には桜もあるようだ。
一月の今は桜の花なんて、コンビニの店内はもちろんのこと、あの公園にだって見当たらない。
41
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
婚約者の幼馴染?それが何か?
仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた
「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」
目の前にいる私の事はガン無視である
「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」
リカルドにそう言われたマリサは
「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」
ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・
「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」
「そんな!リカルド酷い!」
マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している
この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ
タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」
「まってくれタバサ!誤解なんだ」
リカルドを置いて、タバサは席を立った
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる