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第一章 復讐編
06 - METIS SYSTEM
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蒼のオーリオウル。
二十二世紀初頭に登場したそのゲームは、当時発表されたばかりのフルダイブ型VRゲーム機専用ソフトだ。
啓人が住んでいた国、すなわち日本でも高い評価を得はしたが――それほど大流行した、とも言えないゲームだ。
何より、操作が難しかった。
当たり前だ。VRでいきなりロボットなど操縦できるわけがない。
操縦方法は三つ。「オート」「マニュアル」「フルマニュアル」だ。オートは単純に、ロボットそのものを感覚的に操作できる。マニュアルはでは、多少の操作は補助される。
対してフルマニュアルは……まさしくすべてを自分で操作する。
尋常ではない操作の難しさであり、おまけに機体ごとに違うマンマシンインターフェイスを完全に把握し乗りこなすなど、いかなゲーマーといえどできることではない。
しかし啓人は、その「フルマニュアル操作」の廃プレイヤーであった。
『標的、着弾確認!』
『信じられない、あれで今日が初めてだと!? 冗談だろう!』
人型強襲兵装『アサルトモービル』の最大の特徴は機動力にある。
その機動力を支えるのは、全身に備えられたスラスターだ。
電気エネルギーによりプラズマを発生させ推力を生み出す。旧来、少なくとも前世紀まで、電気推進は化学ロケットに比べて推力に劣っていたが、今ではほとんど互角と言える領域まで高出力化が進んでいる。
この電気推進型スラスタを全身に複数個所設置し、多角的な軌道を行う。
ヘッドマウントディスプレイ上に新たな目標対象が追加され、啓人はバックスラスタを点火させた。
海上ホバリングを続けていたアズールが前進加速を開始する。
鉄の巨人が空を飛ぶ。
Gも何かもを無視して、圧倒的な加速力で。
実際のところ、最高速度でいえば航空機、戦闘機に及ぶものではない。人型であるというそのフォルムの構造上、前進推力は固定翼機に遥か劣る。
しかし、高密度に形成されたフレームは、急激な加速にも悲鳴のひとつも上げない。
圧倒的な加速を見せた機体は基地を支える柱の一本へと突っ込んだ。戦闘機だとすれば明らかなオーバースピードだ。
サイドスラスタ。
横噴射による急激な加速は、まるで舞うように、鋭角にその軌道を変えた。
戦闘機では絶対にありえない、サイドステップを踏むような鋭角機動。
これこそが、アサルトモービルの真骨頂。多角的機動による圧倒的機動力。
「はは……ハハハハハ!!」
加速しながら突っ込んだ『アズール』は、ダガーを抜き放ち、的を綺麗に両断した。
その動きに――管制室は騒然となった。
「嘘だろ……」
つぶやいた誰かの言葉が、管制室に反響する。
全員が同じ想いだった。
――そもそも、最初、彼らは反対していた。
先日まで拷問を受けていた子供を、何の訓練もなくアサルトモービルに乗せることを。
もちろん皆無ではない。
カプセル型の催眠学習装置によって、『アズール』の扱い方は既に少年の脳に叩き込まれている。
しかしそれはただ『動かせる』だけであって、それ以上の感覚と経験に関しては皆無。
無理だ。不可能だ。
当たり前の意見だ。
アサルトモービルを乗りこなすためには、知識だけでは足りない。長い年月による習熟を必要とする。才能でどうこうなる問題ではない。
だが、目の前の現実が、そんな『常識』を破壊する。
「フロイド・チャイルド……」
その言葉は空想のものだったはずだ。
その空想が、現実のものとなっている。
最後に表示された目標に、ペイント弾が狙い違わず着弾するのを確認して、啓人は機体をホバリングモードに変えた。
水上を滑るように機体が減速する。水蒸気がほとんど最低限のものとなったのは、水蒸気爆発を警戒して足底部のバーニアスラスタを使用しなかったためだ。
『お見事だよ、ノイン。君は常に、私の期待の上を行ってくれる』
「…………」
端末から聞こえてきたベリオスの声に、急速に自分の中の熱が冷めていくのが分かった。
それは、水を差されたからではない。
興奮しすぎてのを恥じたからだ。
――この機体があれば、殺せるのではないか?
アサルトライフルに装備されているのはペイント弾だが、ダガーもある。基地の防衛戦力を無効化して、ベリオスを殺すことも……。
(いや、ダメだ)
それ以前の問題だ。
ゲーム知識によれば、この機体には致命的な欠陥がある。
この機体には、実は爆弾が仕掛けられている。ベリオスの指示によっていつでも啓人を殺せるように。
『では、次のテストに行こうか』
ベリオスがその言葉を発した瞬間だった。
首の裏――脊椎から、何かが入り込んでくるような感覚がしたのは。
「ぉっ……がっ――!」
『METIS SYSTEM――起動します』
無機質な機械音声。
視界が明滅する。思考が混濁する。頭が、割れそうになるほどに痛い――!
(メティス、システム……!)
知識としては、当然、知っている。
『アズール』に搭載される機体強化システム。
パイロットの脳処理領域に介入し――機体制御の能力を跳ね上げる、禁忌のシステム。
(痛い、痛い、痛い――!)
ゲームの中では、いわゆるただの『覚醒』システムだった。
一定時間の機体性能向上。そのかわりに、視界が赤く染まる。とはいえデメリットといえるデメリットはなかったはず、だった。
だが考えてみれば、パイロットの脳処理領域にAIが介入するなど、まさに狂気ともいえる設計思想だ。何のデメリットもなく、禁忌と呼ばれるはずがない。
ゲームの作中では、このシステムのせいで死人が出ていたのではなかったか……?
啓人はそれを、頭を刺すような痛みによって分からされる羽目になった。
『ターゲット確認。撃墜を推奨』
「あ、が、ぁぁあああ――!」
手が動く。機体が動く。
やめてくれと叫びながら、それでも、啓人の乗る『アズール』は飛翔した。
二十二世紀初頭に登場したそのゲームは、当時発表されたばかりのフルダイブ型VRゲーム機専用ソフトだ。
啓人が住んでいた国、すなわち日本でも高い評価を得はしたが――それほど大流行した、とも言えないゲームだ。
何より、操作が難しかった。
当たり前だ。VRでいきなりロボットなど操縦できるわけがない。
操縦方法は三つ。「オート」「マニュアル」「フルマニュアル」だ。オートは単純に、ロボットそのものを感覚的に操作できる。マニュアルはでは、多少の操作は補助される。
対してフルマニュアルは……まさしくすべてを自分で操作する。
尋常ではない操作の難しさであり、おまけに機体ごとに違うマンマシンインターフェイスを完全に把握し乗りこなすなど、いかなゲーマーといえどできることではない。
しかし啓人は、その「フルマニュアル操作」の廃プレイヤーであった。
『標的、着弾確認!』
『信じられない、あれで今日が初めてだと!? 冗談だろう!』
人型強襲兵装『アサルトモービル』の最大の特徴は機動力にある。
その機動力を支えるのは、全身に備えられたスラスターだ。
電気エネルギーによりプラズマを発生させ推力を生み出す。旧来、少なくとも前世紀まで、電気推進は化学ロケットに比べて推力に劣っていたが、今ではほとんど互角と言える領域まで高出力化が進んでいる。
この電気推進型スラスタを全身に複数個所設置し、多角的な軌道を行う。
ヘッドマウントディスプレイ上に新たな目標対象が追加され、啓人はバックスラスタを点火させた。
海上ホバリングを続けていたアズールが前進加速を開始する。
鉄の巨人が空を飛ぶ。
Gも何かもを無視して、圧倒的な加速力で。
実際のところ、最高速度でいえば航空機、戦闘機に及ぶものではない。人型であるというそのフォルムの構造上、前進推力は固定翼機に遥か劣る。
しかし、高密度に形成されたフレームは、急激な加速にも悲鳴のひとつも上げない。
圧倒的な加速を見せた機体は基地を支える柱の一本へと突っ込んだ。戦闘機だとすれば明らかなオーバースピードだ。
サイドスラスタ。
横噴射による急激な加速は、まるで舞うように、鋭角にその軌道を変えた。
戦闘機では絶対にありえない、サイドステップを踏むような鋭角機動。
これこそが、アサルトモービルの真骨頂。多角的機動による圧倒的機動力。
「はは……ハハハハハ!!」
加速しながら突っ込んだ『アズール』は、ダガーを抜き放ち、的を綺麗に両断した。
その動きに――管制室は騒然となった。
「嘘だろ……」
つぶやいた誰かの言葉が、管制室に反響する。
全員が同じ想いだった。
――そもそも、最初、彼らは反対していた。
先日まで拷問を受けていた子供を、何の訓練もなくアサルトモービルに乗せることを。
もちろん皆無ではない。
カプセル型の催眠学習装置によって、『アズール』の扱い方は既に少年の脳に叩き込まれている。
しかしそれはただ『動かせる』だけであって、それ以上の感覚と経験に関しては皆無。
無理だ。不可能だ。
当たり前の意見だ。
アサルトモービルを乗りこなすためには、知識だけでは足りない。長い年月による習熟を必要とする。才能でどうこうなる問題ではない。
だが、目の前の現実が、そんな『常識』を破壊する。
「フロイド・チャイルド……」
その言葉は空想のものだったはずだ。
その空想が、現実のものとなっている。
最後に表示された目標に、ペイント弾が狙い違わず着弾するのを確認して、啓人は機体をホバリングモードに変えた。
水上を滑るように機体が減速する。水蒸気がほとんど最低限のものとなったのは、水蒸気爆発を警戒して足底部のバーニアスラスタを使用しなかったためだ。
『お見事だよ、ノイン。君は常に、私の期待の上を行ってくれる』
「…………」
端末から聞こえてきたベリオスの声に、急速に自分の中の熱が冷めていくのが分かった。
それは、水を差されたからではない。
興奮しすぎてのを恥じたからだ。
――この機体があれば、殺せるのではないか?
アサルトライフルに装備されているのはペイント弾だが、ダガーもある。基地の防衛戦力を無効化して、ベリオスを殺すことも……。
(いや、ダメだ)
それ以前の問題だ。
ゲーム知識によれば、この機体には致命的な欠陥がある。
この機体には、実は爆弾が仕掛けられている。ベリオスの指示によっていつでも啓人を殺せるように。
『では、次のテストに行こうか』
ベリオスがその言葉を発した瞬間だった。
首の裏――脊椎から、何かが入り込んでくるような感覚がしたのは。
「ぉっ……がっ――!」
『METIS SYSTEM――起動します』
無機質な機械音声。
視界が明滅する。思考が混濁する。頭が、割れそうになるほどに痛い――!
(メティス、システム……!)
知識としては、当然、知っている。
『アズール』に搭載される機体強化システム。
パイロットの脳処理領域に介入し――機体制御の能力を跳ね上げる、禁忌のシステム。
(痛い、痛い、痛い――!)
ゲームの中では、いわゆるただの『覚醒』システムだった。
一定時間の機体性能向上。そのかわりに、視界が赤く染まる。とはいえデメリットといえるデメリットはなかったはず、だった。
だが考えてみれば、パイロットの脳処理領域にAIが介入するなど、まさに狂気ともいえる設計思想だ。何のデメリットもなく、禁忌と呼ばれるはずがない。
ゲームの作中では、このシステムのせいで死人が出ていたのではなかったか……?
啓人はそれを、頭を刺すような痛みによって分からされる羽目になった。
『ターゲット確認。撃墜を推奨』
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手が動く。機体が動く。
やめてくれと叫びながら、それでも、啓人の乗る『アズール』は飛翔した。
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