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第一章 芦堂高校

第14話 情報のスペシャリスト

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「お兄ちゃん、おかえりー! って、あれ? なるせお兄ちゃん?」

「愛花ちゃん、こんにちは」

「こんにちは! あそびにきてくれたの!?」

芦堂高校を後にした俺は、八崎の自宅を訪れていた。これからどうするか、話し合いをするためだ。

「おう成瀬待ってたぜ。愛花、コイツと遊ぶのは後でな。今日は先に兄ちゃんの部屋で大事な話をするから、入ってきちゃ駄目だぞ?」

「ちぇー」

「ちぇーじゃありません」

「つぇー」

「た行で攻めるな、た行で」

八崎の家は綺麗な外観の一軒家だった。玄関の扉を開けると、愛花ちゃんが出迎えてくれた。遊べないと分かると口を尖らせて拗ねていたけど、お土産にとコンビニで買ったお菓子を渡した途端、「なるせお兄ちゃんだいすきー!」と言って二階へと続く階段を物凄いスピードで駆け上がっていった。


「騒がしくて悪いな、成瀬」

「気にしなくていいよ。愛花ちゃん、喜んでくれてよかった」

「土産ありがとうな。愛花のやつ、お菓子に目がなくてよ」

そう言って笑う八崎は、とても優しい表情をしていた。愛花ちゃんのこと、本当に大事にしてるんだな。


「さ、入ってくれ。何もない部屋だけど」

八崎に招かれるまま、部屋まで案内された。不要な物がない、綺麗な部屋だった。というか、本当に物がない。あるのはベッドと勉強机くらいで、あとは段ボールが積まれているだけだった。

「最近またこっちに引っ越してきてさ。まだ片付いてないんだ」

「昔この辺に住んでたのか?」

「そうだ。色々あって何年か他所で生活してたんだけど、まあ色々あってな」

「そうなのか」

「話をする分には困らねえだろ。適当に座っててくれ。お茶持ってくるわ」

「ああ。ありがとう」

そう言うと八崎は部屋を出て、一階へと降りていった。部屋に残された俺は、一人天井を見つめた。なんか、色んなことが一気に起きすぎた気がする。頭の中で、情報を整理できていない。モヤモヤする感じだ。

俺はこれから、どうなっていくんだろうか。叔母さんが入院して、これまでやってくれていた家のことは俺と叔父さんでやっていかないといけない。いや、叔父さんも毎日遅くまで仕事を頑張っている。家のことは、俺がしないといけないな。

今まで、料理や掃除なんかほとんどしてこなかった。そりゃ、自分の部屋くらいはやっていたけど、ほとんど叔母さんにまかせっぱなしだった。買い物だって、昨日初めて手伝おうとしたくらいだ。

そんな俺が、この先やっていけるのだろうか。そんなことを考える。もちろん、金髪野郎を捕まえることが最優先だけど、生活もしっかりしていかないと。叔父さんにこれ以上負担をかけたくない。


……どうしてこうなったんだろうか。俺はただ、毎日何事もなく過ごせればそれでよかったのに。それだけが、俺の望みだったのに。


「…………」

ドタドタドタ!! 
突然、物凄い足音が聞こえてきた。誰だ? また愛花ちゃんが走ってるのかな?

「おい八崎ー!!! 邪魔するでー!!」

「……?」

「お? 兄ちゃん誰や?」

扉を開けたのは、見たことのない男子小学生だった。オレンジ色のニット帽を被り、レンズの大きい眼鏡をかけていた。身長は150前後、とても幼い顔立ちをしている。

その少年は部屋の中をキョロキョロと見回すと、うーん? と腕を組んで頭を捻った。

「もしかして、家間違えたんかな? 住所あっとったはずなんけど……。いや、申し訳ない! 勝手に人様ん家にお邪魔してもうて……」

「おい小宮山。そんなとこで何してんだ」

「あ、八崎!!! なんや、やっぱりあってたやん! ややこしい奴やでホンマ」

「ややこしいのはお前だ。ほら、さっさと部屋入れ」

小宮山、と呼ばれた少年は八崎の言葉に頷き、部屋の中へと入ってきた。よっこらっしょと俺の目の前に腰を降ろし、八崎が運んできた麦茶を一気に飲み干した。

この小学生、八崎の知り合い? それとも、愛花ちゃんの友達? 

「さて、役者も揃ったし、本題に入るか」

「ん? 役者って?」

「そうか、紹介がまだだったな。コイツは小宮山 雄嗣(こみやま ゆうじ )。俺とは幼なじみというか、腐れ縁ってやつだな」

幼なじみ!!??

「小宮山 雄嗣です。こう見えても高二やから、君とは同い年やな。馴れ馴れしいかもしれんけど、タメ語でええ?」

同い年!!!!!!!!??????

「あ、うん。大丈夫です」

目の前で起こっていることが理解できず、つい敬語が出てしまった。この見た目で高校生……? 

……駄目だ、人を見た目で判断するのは良くない。みんなそれぞれ事情を抱えてるんだ。よく知りもしないのに、見ただけでその人の全てを知った気になるなんて、最低じゃないか。

「君もタメ語でええよ? 気を遣わんでも」
「え!? あ、ああ! よろしく!」
「お、元気ええやん。よろしくな!」

小宮山と熱い握手を交わした。


「それじゃあ自己紹介も済んだことだし、今度こそ本題に入ろうぜ」

ごほんとひとつ咳払いをしてから、八崎が話を進めた。小宮山の登場には驚かされたが、八崎が呼んだということは、何かしら理由があるはず。恐らく、金髪野郎を捕まえるための力になってくれるはず。

危険なことに巻き込むのは、かなり気が引けるけど。もし彼が協力してくれるなら、どんな形であれ助かる。

「小宮山、お前から頼むわ」

「おっけおっけ。えーっと、君の叔母さんを襲ったって奴を探してるって話やったな?」

「知ってるのか?」

「大体の話は八崎から聞いとる。あんま時間なかったけど、こっちでも色々と調べといたで。何や、その金髪野郎って奴は芦堂の生徒なんやな?」

「ああ、そうだ」

「せやけど、昨日突然現れた謎の仮面男に連れ去られて行方は分からずと……。ほんで、ソイツが今どこにおんのかについて情報が欲しいってとこやな」

話が早いな。八崎が事前に状況を説明してくれておかげで話が早く進みそうだ。

「小宮山……話を聞いてるなら分かると思うけど、金髪野郎を連れ去った奴が何者か分からない。危ない奴かもしれないんだ。君にも危険が及ばないとは限らない。協力してくれるのは嬉しいけど、無理にとは……」

「優しいな、兄ちゃん」

「え?」

「大丈夫やで。その辺も分かって協力すんねんから。なーんも気にせんでええよ」

「小宮山……」

「さ、話を進めよか」

八崎といい、愛花ちゃんといい、随分とお人好しな奴だ。本当に、感謝してもしきれない。


「情報収集といえばこの小宮山先生に任せとけって相場は決まっとるもんな。予め情報は集めといたで。ちょっと待ってや」

小宮山はそう言うと、持参していたリュックサックからノートPCを取り出した。緑色のボディに、パンクな感じのシールステッカーが至るところに貼られていた。

もしかして小宮山は、情報収集のスペシャリストなのか?
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