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第三章 紅巾族
第27話 生還
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「…………うっ」
「成瀬?! 目覚めたか?!」
「八崎……?」
目を開けると、そこは外だった。眩い光に、思わず目を細める。あれ? 俺はさっきまで地下道にいたんじゃ?ブラッド・レーベルの連中に襲われて、それで……。
「良かったよ。死んじまったんじゃないかって、ひやひやしたぜ」
「八崎、ここは……?」
「安心しろ。もう大丈夫だ。地下道脱出して、外に出れた。アイツらのアジトからもだいぶ離れてる。すぐには追ってこれねえだろ」
「そうか……」
そうだ。俺は、言え猿からの攻撃を喰らって、意識を失っていたんだ。原因は分からない。体が限界を迎えたのかもしれないし、言え猿の投げたナイフに毒か何か塗られていたのかもしれない。
何にせよ、あの窮地は脱することができたようだ。安堵のため息をこぼすと同時に、一抹の不安が頭をよぎる。俺は死猿に足を撃ち抜かれたんだ。
出血も多かったし、そのままにしておくとまずいか。自分の足を見ると、足の付け根に縄のようなものが巻かれている。どうやら止血してくれたらしい。そのおかけで、出血は大分治まっていた。しかし、油断はできない。俺は痛みを感じることができない分、体のSOSに気付けない。ひとまず、病院に行って治療を受けないと。
「成瀬、コイツが医者を紹介してくれるらしい。何でも、かなり腕が立つらしく、お前をすぐに歩けるようにしてくれるんだと」
「医者?」
「ああ。この女が言うことが本当なら、だけどな」
この女、八崎がそう言って指を差した先には、彼女がいた。地下道で出会った、女子高生くらいの女の子だ。先程までのおどおどした雰囲気とは違い、冷たい視線が俺を刺す。
「……何よ?」
「あ、いや……」
最初に出会った彼女は、すべてに怯え、逃げ惑う小鹿みたいな感じだった。けれど、今目の前にいる彼女は、姿形は一緒なのに中身だけが別人なんじゃないかと思うほど、纏っている空気が違っていた。
「目覚めたんたなら、さっさと歩いてくれる? アンタたち方向音痴っぽいし、案内はしてあげるから」
彼女はそう言って、スタスタと歩き出した。俺は思わず声をかける。
「ま、待って!」
「なに?」
「あ、えっと。ありがとう。助けてくれたんだよな?」
俺の言葉に、彼女は冷たい笑いを返した。その瞳には一切の感情が宿っていないように見える。
「そりゃね。そうしないと私まで死んじゃうところだったし。私からもお礼を言っておくわ。どうもありがとう。これでいい?」
その言葉にさえ、何も宿っていない。彼女の言葉は空っぽだった。それでいて、どこか哀愁を感じる。彼女は、一体何者なんだ?
「待てよ。お前、本当に医者のところまで案内するつもりがあるのか?」
「何よ、アンタまで。か弱い乙女の言うことが信じられないの?」
「ぬかせ。俺はお前を完全には信じてない。さっきの銃の扱いといい、お前一般人じゃないだろ」
「はぁ。めんどくさい男ね。怖がらなくでも、ちゃんと治してくれるってば。見た目はあれだけど、腕は確かだから。それに、そんなに心配なら、普通の病院行けば?」
「……」
彼女の返答に、八崎は言葉を詰まらせた。そうだ。彼女は確か、言え猿に向かって銃を放っていた。俺はそこで意識を失ってしまったから、その後どうなったかは分からない。
でも、死猿との戦闘中も、所々で彼女の戦闘力の高さは感じ取れた。普通の女子高生、ってわけではないだろう。
「それに、私が持ってた解毒剤がなかったら、今頃死んでるわよ、その人。言え猿は、厄介な毒をナイフに塗ってるから。そのままピクピクして死んでもらったほうが良かった?」
「てめえ……!」
「わ、分かった! もういいよ。ありがとう。付いていくよ」
俺は慌てて二人の間に割って入る。このまま喧嘩でもされたらたまらない。とりあえず、彼女のおかげで助かったのは事実なんだ。
「あいつの罠だったらどうする? なんでブラッド・レーベルから逃げてたのかも分からないんだぞ?」
「それはそうだけど、それ以上言ってもキリがない。彼女にも何か事情があるんだろう。それに、彼女の話が本当なら、早く治せるんだろ?」
怪我が治らなくても、歩くのは歩けるけどな。痛みはないし。でも、それはさすがに体への負担がでかいだろうし、早く治るに越したことはない。
「お前がそう言うなら……。確かに、こうやってちんたらしてる間に、あの金髪野郎がどうなってるかも分からねえしな」
「ああ。そうだな」
あいつは、絶対に捕まえる。叔母さんの仇を取るんだ。
でも、ブラッド・レーベルが金髪野郎を捕縛しているとなると、思っていたより厄介だ。アイツらの戦闘力は予想より遥かに高かった。下手に突っ込めば、今回のように痛い目を見る。
小宮山からの情報によれば、アイツがどこに捉えられているかは不明。そのあたりは、今後探っていく必要があるな。何にせよ、焦ってはいけない。
目的を果たすためには、回り道も必要だ。本当なら、今すぐ走り出して探しに行きたい。だがそんなことをしても、見つけることはできないだろう。冷静に、確実に見つけるんだ。そのためなら、俺はどんな手段も厭わない。
「そうだ、小宮山はどうなった!? 無事なのか!?」
「ああ、大丈夫だ。ただ、地上に出てから様子が変なんだよ」
「変?」
「ほら。あそこに座り込んで、ずっとブツブツ何か言ってんだよ。俺が話しかけても、うんともすんともいいやしねえ」
八崎が苦笑しながら言った。見ると、道端に座り込んで何やら独り言を呟いている様子の小宮山がいた。無事なのは良かったけど、一体何を呟いているんだ?
「おーい小宮山!成瀬が目覚ましたぞ!」
「……ん? おっ、成瀬! 気がついたんか?!」
小宮山はそこでようやくこちらを向き、俺の方に駆け寄ってきた。心配そうに俺の体を見回した後、ホッとしたようにため息をついた。
「怪我しとることに変わりはないけど、無事で良かったわ。命あっての物種やからな。ホンマ良かった……」
「小宮山……。ありがとう。それからごめん。こんな危険な目に巻き込んじゃって」
「それはええねん。八崎も無事やし。危険な目に遭うのは覚悟の上やったしな。とりあえず、成瀬が起きたんやったら、早いこと医者のところに行かんと! 八崎!」
「はいはい。ほら、成瀬。おぶってってやるよ」
八崎はそう言うと、俺に背を向けてしゃがんでくれた。「悪い」と一言詫びてから、その好意に甘えることにした。俺も平均的な体重があると思うが、八崎は全く意に介いさずひょいと持ち上げてしまった。
「女、さっさと案内頼むぞ」
「……はいはい」
このままついていってもいいのか不安な部分もあるが、ここに留まっていてもしょうがない。早く怪我を直し、捜索を再開しないと。俺は八崎の背中に体を預けながら、色々と思考を張り巡らせた。
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「成瀬?! 目覚めたか?!」
「八崎……?」
目を開けると、そこは外だった。眩い光に、思わず目を細める。あれ? 俺はさっきまで地下道にいたんじゃ?ブラッド・レーベルの連中に襲われて、それで……。
「良かったよ。死んじまったんじゃないかって、ひやひやしたぜ」
「八崎、ここは……?」
「安心しろ。もう大丈夫だ。地下道脱出して、外に出れた。アイツらのアジトからもだいぶ離れてる。すぐには追ってこれねえだろ」
「そうか……」
そうだ。俺は、言え猿からの攻撃を喰らって、意識を失っていたんだ。原因は分からない。体が限界を迎えたのかもしれないし、言え猿の投げたナイフに毒か何か塗られていたのかもしれない。
何にせよ、あの窮地は脱することができたようだ。安堵のため息をこぼすと同時に、一抹の不安が頭をよぎる。俺は死猿に足を撃ち抜かれたんだ。
出血も多かったし、そのままにしておくとまずいか。自分の足を見ると、足の付け根に縄のようなものが巻かれている。どうやら止血してくれたらしい。そのおかけで、出血は大分治まっていた。しかし、油断はできない。俺は痛みを感じることができない分、体のSOSに気付けない。ひとまず、病院に行って治療を受けないと。
「成瀬、コイツが医者を紹介してくれるらしい。何でも、かなり腕が立つらしく、お前をすぐに歩けるようにしてくれるんだと」
「医者?」
「ああ。この女が言うことが本当なら、だけどな」
この女、八崎がそう言って指を差した先には、彼女がいた。地下道で出会った、女子高生くらいの女の子だ。先程までのおどおどした雰囲気とは違い、冷たい視線が俺を刺す。
「……何よ?」
「あ、いや……」
最初に出会った彼女は、すべてに怯え、逃げ惑う小鹿みたいな感じだった。けれど、今目の前にいる彼女は、姿形は一緒なのに中身だけが別人なんじゃないかと思うほど、纏っている空気が違っていた。
「目覚めたんたなら、さっさと歩いてくれる? アンタたち方向音痴っぽいし、案内はしてあげるから」
彼女はそう言って、スタスタと歩き出した。俺は思わず声をかける。
「ま、待って!」
「なに?」
「あ、えっと。ありがとう。助けてくれたんだよな?」
俺の言葉に、彼女は冷たい笑いを返した。その瞳には一切の感情が宿っていないように見える。
「そりゃね。そうしないと私まで死んじゃうところだったし。私からもお礼を言っておくわ。どうもありがとう。これでいい?」
その言葉にさえ、何も宿っていない。彼女の言葉は空っぽだった。それでいて、どこか哀愁を感じる。彼女は、一体何者なんだ?
「待てよ。お前、本当に医者のところまで案内するつもりがあるのか?」
「何よ、アンタまで。か弱い乙女の言うことが信じられないの?」
「ぬかせ。俺はお前を完全には信じてない。さっきの銃の扱いといい、お前一般人じゃないだろ」
「はぁ。めんどくさい男ね。怖がらなくでも、ちゃんと治してくれるってば。見た目はあれだけど、腕は確かだから。それに、そんなに心配なら、普通の病院行けば?」
「……」
彼女の返答に、八崎は言葉を詰まらせた。そうだ。彼女は確か、言え猿に向かって銃を放っていた。俺はそこで意識を失ってしまったから、その後どうなったかは分からない。
でも、死猿との戦闘中も、所々で彼女の戦闘力の高さは感じ取れた。普通の女子高生、ってわけではないだろう。
「それに、私が持ってた解毒剤がなかったら、今頃死んでるわよ、その人。言え猿は、厄介な毒をナイフに塗ってるから。そのままピクピクして死んでもらったほうが良かった?」
「てめえ……!」
「わ、分かった! もういいよ。ありがとう。付いていくよ」
俺は慌てて二人の間に割って入る。このまま喧嘩でもされたらたまらない。とりあえず、彼女のおかげで助かったのは事実なんだ。
「あいつの罠だったらどうする? なんでブラッド・レーベルから逃げてたのかも分からないんだぞ?」
「それはそうだけど、それ以上言ってもキリがない。彼女にも何か事情があるんだろう。それに、彼女の話が本当なら、早く治せるんだろ?」
怪我が治らなくても、歩くのは歩けるけどな。痛みはないし。でも、それはさすがに体への負担がでかいだろうし、早く治るに越したことはない。
「お前がそう言うなら……。確かに、こうやってちんたらしてる間に、あの金髪野郎がどうなってるかも分からねえしな」
「ああ。そうだな」
あいつは、絶対に捕まえる。叔母さんの仇を取るんだ。
でも、ブラッド・レーベルが金髪野郎を捕縛しているとなると、思っていたより厄介だ。アイツらの戦闘力は予想より遥かに高かった。下手に突っ込めば、今回のように痛い目を見る。
小宮山からの情報によれば、アイツがどこに捉えられているかは不明。そのあたりは、今後探っていく必要があるな。何にせよ、焦ってはいけない。
目的を果たすためには、回り道も必要だ。本当なら、今すぐ走り出して探しに行きたい。だがそんなことをしても、見つけることはできないだろう。冷静に、確実に見つけるんだ。そのためなら、俺はどんな手段も厭わない。
「そうだ、小宮山はどうなった!? 無事なのか!?」
「ああ、大丈夫だ。ただ、地上に出てから様子が変なんだよ」
「変?」
「ほら。あそこに座り込んで、ずっとブツブツ何か言ってんだよ。俺が話しかけても、うんともすんともいいやしねえ」
八崎が苦笑しながら言った。見ると、道端に座り込んで何やら独り言を呟いている様子の小宮山がいた。無事なのは良かったけど、一体何を呟いているんだ?
「おーい小宮山!成瀬が目覚ましたぞ!」
「……ん? おっ、成瀬! 気がついたんか?!」
小宮山はそこでようやくこちらを向き、俺の方に駆け寄ってきた。心配そうに俺の体を見回した後、ホッとしたようにため息をついた。
「怪我しとることに変わりはないけど、無事で良かったわ。命あっての物種やからな。ホンマ良かった……」
「小宮山……。ありがとう。それからごめん。こんな危険な目に巻き込んじゃって」
「それはええねん。八崎も無事やし。危険な目に遭うのは覚悟の上やったしな。とりあえず、成瀬が起きたんやったら、早いこと医者のところに行かんと! 八崎!」
「はいはい。ほら、成瀬。おぶってってやるよ」
八崎はそう言うと、俺に背を向けてしゃがんでくれた。「悪い」と一言詫びてから、その好意に甘えることにした。俺も平均的な体重があると思うが、八崎は全く意に介いさずひょいと持ち上げてしまった。
「女、さっさと案内頼むぞ」
「……はいはい」
このままついていってもいいのか不安な部分もあるが、ここに留まっていてもしょうがない。早く怪我を直し、捜索を再開しないと。俺は八崎の背中に体を預けながら、色々と思考を張り巡らせた。
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