都市伝説と呼ばれて

松虫大

文字の大きさ
8 / 205
第一章 都市伝説と呼ばれて

8 ギルド

しおりを挟む
 かつてアルテミラが建国される以前は、世の中が乱れ、いつ果てるともわからない長い戦乱が続いていた。長引く戦火により各地は疲弊していく中で、急速に力を付けてきたのが、後にアルテミラを建国する事になるレイド・アルテミラであった。
 彼は本来アドワと呼ばれた商業都市を根城にしていた小勢力に過ぎず、出ては消える泡沫勢力のひとつでしかなかった。
 だが当時、敵対する勢力がアドワに迫ってくると、街のギルドは結束してレイドに資金援助をおこなった。その援助によりギルドの守護者となったレイドは、アドワの防衛に成功すると、その潤沢な資金を元手に勢力を拡大していった。

「だが、レイド王がアルテミラを建国したときは、まだ現在の版図を手に入れた訳ではなく、兵力はまだまだ必要な状態だった。しかし長く続いた戦乱で、国土も麻のように乱れ、早急に立て直さなければならないほど疲弊していた。そこで王は、国内の住民の管理と税収に、自らの兵ではなくギルドを使ったんだ」

 少年はアルテミラ建国時の話を聞かせていたが、唐突にされた話にユーリを始めほとんどの者は、興味がない様子できょとんとした表情を浮かべていた。しかしギルドの単語が出た時だけは、憎悪の籠もった目をぎらつかせるのみだった。
 アルテミラが建国されてレイドが初代の王となると、拠点だったアドワは王都アルテミラへと名を変えた。
 その頃にはアドワの街にあった商業ギルドは、アルテミラの支配領域への影響力を行使できるほど巨大な組織へと変貌していた。
 ギルドと手を結んで僅か十五年というスピードで、建国を果たしたアルテミラだったが、このカモフを初めとした辺境地域には、まだ独立した勢力が点在していた。さらに疲弊していた各都市の治安維持にも、兵力が必要な状況であったため、余剰兵力を他に回す余裕がなかった。
 そこで利用したのがギルドだ。
 王は、ギルドに税の徴収権を与え、アルテミラの全国民に、ギルドへの加盟を義務付けた。
 ギルドは、全土に蜘蛛の巣のように張り巡らされた組織力を使い、為政者に代わり役所としての徴税代行権を手に入れたのだ。
 制度としては古くから存在していたギルドは、ある程度の規模の村になると必ずといっていいほど組織されていた。そのため役所代わりとして機能するのは、レイド王が期待した以上に早かった。
 またギルドとしても、多くの加盟者を獲得できれば、それだけ懐に入る金額も大きくなるため、各ギルドで競い合うように住民を登録していくことになる。
 そのため建国当初には、多い者で最大七種のギルドに登録していたという記録も残っている。
 この制度は結果的に国力の回復を早め、乱れた国内に安定をもたらすことに繋がった。しかし重複がない限り、登録後のギルドの離脱や移籍を禁じていたため、実質的に身分制度として定着することになった。

「ギルドに住民の管理を任せるという政策は成功した。だが同時にギルドに分不相応の権力を与えることになり、気付いた時にはすでに王でさえ、徴税権を取り戻することは不可能になってしまっていた」

 現在のギルドは納税や住民の管理など、領主以上に市井の生活に密着しているが弊害はもちろんある。
 業種ごとにギルドが乱立しているが、違う街の同種のギルド間は別として、同じ街の別のギルド間では連携がまったくないことだ。近くの街に自分の所属するギルドがない場合、別のギルドで代行することはなく、数日掛けてでも所属ギルドまで足を運ばなければならなかった。
 住民の管理を容易にするため、一度登録したギルドからの離脱ができなくしたことで、登録したが最後、一生をそのギルド所属となってしまうのだ。
 先ほど少年がユーリたちに『縛られてる』と語った理由だ。つまり塩抗夫は塩抗ギルドに所属させられているため、坑夫を辞めたくても辞めることができなかったのだ。

「この国は王の権力とギルドの組織力の二重構造からなっているが、建国から三〇〇年が経ち王の権力は最早失墜している。ドーグラス公を筆頭に各地を治める領主は、ギルドの力を借りながら、王国の支配から外れて己の勢力拡大に走っている。遅かれ早かれこの国は、ギルドに滅ぼされるだろう」

 戦乱が身近になっているとはいえ、長く続いた国が滅びるなど、ユーリたちには想像もできない。流石に永遠に続くとは思わないが、国は『』という感覚しか彼らにはなかった。
 現に今の国王は何という名で、何代目の王か、などというのは知らなかった。もちろん崩御や即位によって、喪に服したり祝ったりはするが、この国に生きる大多数の人にとって、国王とはそこまで身近な存在ではないのだ。

「だからって、それが俺たちに関係あるのか?」

 彼らにとっても当然の反応だった。
 『国が滅ぶ』と言われても、王国への帰属意識の低い彼らには、遠い所での出来事でしかなく、少年が何のためにこんな話をするのか理解できなかった。

「もちろん関係ある。ドーグラス公にしろ、他の誰かにしろ、ギルドが後ろ盾となっている者が国を盗ってみろ。以前のサザンのように、商人が私利私欲で国を動かすことになるぞ」

「なっ!?」

 少年の言葉にユーリたちは言葉を失う。
 遠い場所での出来事だと思っていたことが、急に身近なことになったからだ。

 辺境の地であるカモフは、岩塩を商う商人によって発展してきた土地だ。そのためその中心となる商業ギルドの影響力は、他の地域のギルドに比べても強大であった。
 商業ギルドは、岩塩の産出計画から流通までを扱っていたため利権も大きく、坑夫が所属する塩坑ギルドはその下請的な扱いとなっていた。
 その影響力は凄まじく、カモフ領主といえども無視することは困難であり、彼らの意向にそぐわない場合は、その座を奪われることもあった。
 前領主タイト・トルスターの死去に伴い、ザオラルとオイヴァの間で後継者争いが巻き起こったが、これにもギルドは当然のように介入した。
 ザオラルはタイトの長女であるテオドーラの婿であるのに対し、オイヴァはテオドーラの弟でトルスター家の長男だった。

 トルスター家は、長くキンガ湖で水運業を営んでいた一族だった。
 陸路を運ぶより遙かに安全で早く、しかも安価に運べるとあって、商人たちも重宝し運搬を全面的に任せていた。最初は彼らの下請けだった水運業だったが、塩坑が発展していくにつれて、トルスター家も彼らに比肩しうる存在へとなっていった。
 サザンが大きくなるにつれて、商人たちの主導権争いが激しくなり、それぞれが傭兵を集め出し、一触即発の状況へとなった。
 それをとりなして矛を納めさせたのが、トルスター家三代目当主だったアブラハムだ。商人たちから一目置かれていたアブラハムは、その功績から彼らに請われる形でサザンの初代主となった。
 アブラハムは商人たちと結束し、アルテミラの支配から最後まで抵抗し、サザンを守った英雄となる。当時レイドも継戦する余裕はなく、サザンは自治都市として自由を認められたのだった。

 現在ではサザンの自治権は消滅し、辺境の地カモフの領都に過ぎない。またトルスター家の力も当時からは見る影もないほど没落していた。
 ギルドの操り人形と揶揄されることの多かったタイトだったが、婿であるザオラルを後継に据えることだけは頑として譲らなかった。そのためタイトの死因についてはギルドによる暗殺説が囁かれるほどだった。
 争いはザオラルとオイヴァの両者ともに、辞退しあうという珍しい展開となったが、最後はオイヴァがザオラルを説き伏せたため、無血のまま後継はザオラルと決まった。
 ザオラルが領主となった当初は、まだ信頼できる部下も少なく、ギルドの息のかかった騎士が多かったため、領地経営に苦労したという。
 ザオラルとギルドとの確執は十五年にもおよび、命の危険に晒されることも少なくなかったと言われている。その綱渡りのような経営が改善される切っ掛けとなったのが、ユーリの運命を変えた事件だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜

るあか
ファンタジー
 僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。  でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。  どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。  そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。  家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...