都市伝説と呼ばれて

松虫大

文字の大きさ
49 / 205
第二章 巨星堕つ

2 ガハラの城

しおりを挟む
 リーディアが見事な乗馬センスを披露してトゥーレたちを感心させた後、一行は予定通り昼食後にタカマ高原へ向けて出発した。
 既に彼らの世話をおこなう側勤めたちは、朝から準備のために先行している。そのため護衛を含めても総勢三〇名と少人数でのホーストレッキングとなった。
 トゥーレ側はいつもの側近たちが護衛を兼ねて脇を固めていた。
 騎士に叙任されたユーリたち以外も今回は全員騎馬にて轡を並べている。
 リーディアも彼女の護衛の騎士を供に、早速ホシアカリに騎乗してトゥーレと並ぶように歩を進めていた。
 目的地であるタカマ高原は、フォレスからは三〇キロメートル程度と比較的近く、馬なら並足なみあしでも五時間掛からない距離だ。
 高原には古くから良質の牧草が育ち、この地の牧草を食べて育った馬は強く育つという言い伝えがあるため、ストランド軍は定期的に軍馬をこの高原に放牧に出すほどだった。
 ゆったりした足取りで、のんびりと景色を堪能しながら歩を進めた彼らは、日の傾き始めた夕刻に高原にほど近いガハラの村に到着した。
 ガハラは小さい農村だがタカマ高原への入口に立地している。そのため村の外れに高原を管理するための城を構えていた。城と言っても放牧に出された軍馬を休ませるのが主な役割のため、砦を大きくしたような無骨な城で、普段は維持のために少数の使用人が住み込みで管理するだけの小城だった。

「リーディア姫様、トゥーレ様。ようこそいらっしゃいました。田舎の小さき城ゆえ、何かとご不便をお掛けすることもあるかと存じますが、ごゆるりと逗留くださいませ」

 まだ幼さの残る若者が、到着に合わせて城門で彼らを出迎えて歓迎した。

「アレシュ、出迎えご苦労様です。この度はよろしくお願いしますね」

「コウデラ卿、世話になる。よろしく頼む」

 リーディアがアレシュと呼んだ若い騎士を二人が労う。
 今回、接待役として抜擢されたのは、まだ二十歳を迎えたばかりのアレシュ・コウデラだ。彼はリーディアの側近のひとりで普段は護衛騎士を務めているが、武芸に優れているため将来を期待される若者だった。
 背はトゥーレとそう変わらないが、ガッシリとした体格で肩幅が広い。翡翠のような緑色の瞳が涼しげな印象を与えている。肩まで届きそうなほど伸びた茶色の頭髪を風に靡かせていた。
 ヨウコやヴィクトルが側近として欲しがるほどの人材であり、本来であればリーディアの護衛に就くような人物ではない。それが何故彼女の護衛騎士として採用されたかと言えば縁故によるところが大きかった。
 アレシュの姉に当たるのがリーディアの側勤めのセネイだ。セネイはリーディアが幼少の時より側勤めを務め、今では筆頭側勤めとして取りまとめる立場だ。アレシュがまだ小さい頃よりリーディアのことを聞いていた彼は、頭角を現して周りから注目される前から彼女の護衛騎士となることを決めていたのだ。
 これにはヨウコやヴィクトルだけでなく、領主であるオリヤンすらも思い直すよう説得に当たったほどだがアレシュの意思は変わらず、そのままリーディアの護衛騎士となったという変わり種だった。

「ようこそおいでくださいましたトゥーレ様。どうか私のことはアレシュと呼んでくださいませ。本日はガハラの住民がトゥーレ様のために宴の用意をしております。田舎ゆえ至らぬところもあるかと存じますが、旅の疲れを癒やしてください」

「わかった。ではアレシュ殿と呼ばせていただく。短い間だがよろしく頼む」

 トゥーレはそう言うと、アレシュと握手を交わした。



 日が落ちると城内の馬場の一角にぐるりと篝火が焚かれ、そこだけ昼間のような明るさに照らされていた。
 トゥーレらはガハラの住民の歓待を受けていた。村人は総出でも三〇〇名ほどと多くはなかったが、心から饗応してくれているのが分かる温かな宴だった。
 広場の中央には一際大きな篝火が焚かれ、その火を回りながら村に伝わる唄や踊りを披露していた。収穫に感謝を捧げるというそれは決して華美な踊りではない。だが、素朴でどこか剽げていてトゥーレたちを大いに楽しませてくれた。

「楽しんでおられますか?」

「ああ、命の息吹を感じる力強い踊りだ。何より村人の俺たちを喜ばせようという気持ちが嬉しく思う」

「ガハラにこのような踊りがあったのですね。フォレスの収穫祭とも違っていて、何故か不思議と懐かしい気分になります」

 トゥーレに続き、リーディアはそう言うと柔かい笑顔を浮かべて踊りを眺めている。

「ガハラの城内は手狭ゆえ、このような露天で申し訳ありません」

「これだけ歓迎して貰っているんだ、文句などあろう筈もない。それに満天の星の下での食事も良いものだ」

 トゥーレは隣に座るリーディアと目を合わせて頷きながら、アレシュや村人の労を労った。
 この城は元々放牧の際の拠点としての機能しかなかったため、防御設備も城としての機能も最小限しか有していない。城内には饗応のため数百名を収容できるような広間などなかったのだ。
 幸い多くの馬を収容するため広大な馬場や多くの厩舎など城域としては広いため、馬場の一角に急遽饗応できる場所を設けたのだった。

「俺たちも混ざろうぜ!」

「ようし、いっちょ踊るか?」

 やがて興が乗ってきたユーリたち元はみ出し者が、飛び入りで村人の輪に入って見よう見まねで踊り始める。

「ははは、お前なんだその踊りは?」

「意外と難しいんだぞ! そう言うお前こそ全然駄目じゃねぇか?」

「ほら、俺の踊りは完璧じゃね?」

「あははは、お前そりゃただの猿じゃねぇか!」

 彼らが輪に入って踊り始めたが意外と難しいようで、誰一人としてまともに踊ることが出来ずにその滑稽な姿に爆笑の渦が巻き起こる。

「そうじゃねぇ。ここはこうするんじゃ!」

 長年躍り込んできた村人達と違ってぎこちない踊りだったが、彼らの気さくな態度に喜んだ村人が手ずから踊りを教え始めるのだった。

「トゥーレ様もリーディア姫様も一緒に踊りましょう?」

「は? いや俺は遠慮しておくよ」

「わたくしも踊りは苦手なので・・・・」

「散々我々を笑っておいて、今更逃げるのは許されませんよ」

 最後には渋るトゥーレとリーディアの二人も、ユーリたちに引っ張られるようにして巻き込まれてしまい、さらに大きな笑いとなり大いに盛り上がるのだった。 





 饗応きょうおうがお開きとなり夜もすっかり更けた頃だ。
 煌々と焚かれていた篝火も始末され、会場となった馬場は僅かに燻ぶった臭いが残っていたものの、普段通りの静けさを取り戻していた。
 不寝番ふしんばんの姿と小さな篝火の明かりが所々見える中、音もなく城から出る不審な影があった。
 影は伴も連れず闇に紛れるように静かに歩いていく。背は低く猫背でこそこそと鼠のように歩く様は、明らかに不審な雰囲気を醸し出している。小柄な体型だが影からは男なのか女なのかは解らない。
 それは不思議なことに足音や衣擦れの音すら立てずに移動していた。途中で立ち止まると振り返り、闇夜に浮かぶ城というには烏滸おこがましい建物を見上げる。
 淡い月明かりに照らされた影は、黒い外套を羽織りフードで顔を隠すように被っているため、表情は分からない。

「・・・・」

 だが月明かりの中口元が微かに歪む。いやそれは笑ったのかも知れない。
 しばらく佇んでいたが、影はやがて踵を返すと再び歩き始める。辺りにはうっすらと靄が立ち込め始めたため、影の姿は靄の中に溶けていくのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

湖畔の賢者

そらまめ
ファンタジー
 秋山透はソロキャンプに向かう途中で突然目の前に現れた次元の裂け目に呑まれ、歪んでゆく視界、そして自分の体までもが波打つように歪み、彼は自然と目を閉じた。目蓋に明るさを感じ、ゆっくりと目を開けると大樹の横で車はエンジンを止めて停まっていた。  ゆっくりと彼は車から降りて側にある大樹に触れた。そのまま上着のポケット中からスマホ取り出し確認すると圏外表示。縋るようにマップアプリで場所を確認するも……位置情報取得出来ずに不明と。  彼は大きく落胆し、大樹にもたれ掛かるように背を預け、そのまま力なく崩れ落ちた。 「あははは、まいったな。どこなんだ、ここは」  そう力なく呟き苦笑いしながら、不安から両手で顔を覆った。  楽しみにしていたキャンプから一転し、ほぼ絶望に近い状況に見舞われた。  目にしたことも聞いたこともない。空間の裂け目に呑まれ、知らない場所へ。  そんな突然の不幸に見舞われた秋山透の物語。

現代ダンジョン奮闘記

だっち
ファンタジー
15年前に突如としてダンジョンが登場した現代の地球。 誰が何のために。 未だに解明されていないが、モンスターが落とす魔石はすべてのエネルギー源を代替できる物質だった。 しかも、ダンジョンでは痛みがあるが死なない。 金も稼げる危険な遊び場。それが一般市民が持っているダンジョンの認識だ。 そんな世界でバイトの代わりに何となくダンジョンに潜る一人の少年。 探索者人口4億人と言われているこの時代で、何を成していくのか。 少年の物語が始まる。

処理中です...