都市伝説と呼ばれて

松虫大

文字の大きさ
70 / 205
第二章 巨星堕つ

21 山頂の奪還

しおりを挟む
 その日の深夜、ユーリたちはサザンの港から舟に乗り込み、月明かりの中をタステ山へと出航した。風は凪いでおり彼らは静かに櫓を漕ぎながら湖面を滑るように進む。
 およそ二時間後にタステ山の麓に上陸した彼らは、視界の効かない闇の中を息を切らせながら山頂を目指して登っていった。

「はぁ、はぁ、やっと着いた?」

「ぜぇ、ぜぇ、もう少し早く登れると思ったが・・・・」

 空が明るくなり始めた頃、ようやく山頂へと辿り着いた彼らは、残していた見張りと合流した。暗く足元の見えない中の登山に相当疲弊した様子で、全員荒い息を吐いていた。
 水分を補給し息を整えた彼らは、見張りの三名にねぎらいの言葉を掛けると早速情報を聞き出す。

「それで、何か分かったか?」

「現在の所、十六名を確認。今は二基に分散して休んでます」

「残り一基はどうなっている?」

「監視中に人の出入りはありませんでした。おそらく予備か倉庫に使われていると思われます」

 山頂に残った三名に監視対象についての説明を受けた。
 二基のユルトに十六名。その大きさからおそらく最大限の人数だろう。
 彼らの見つめる先では、二名がユルトから出てきて朝餉の準備のためか火を起こし始めていた。しばらく待てば残りの人員も起きてくることだろう。
 彼らはユーリたちが登ってきたルートと丁度反対側から出入りしているという。見張りがこっそり確認したところ、カモフラージュされているものの登りやすいように階段状に道が作られているそうだ。

「さて、どうしますか?」

「逃がしたくないからな。ルーベルトは三名を連れて奴らの退路を断ってくれ。他は散開して包囲だ。相手が食事中を襲う! ヨニとユハニの弓でまず先制するぞ。騒ぎが起こったら突入だ。一人も逃がすな!」

「了解!」

「それとルーベルト。その大事そうに抱えてる鉄砲は置いて行けよ!」

 ルーベルトが当然のように抱えている鉄砲にユーリが呆れた声で告げる。

「えっ!?」

「お前なぁ・・・・、出発前に説明しただろう。今回は音や光で周りに気付かれたくないから鉄砲や魔砲はいらないと」

「こ、これは私の一部です」

 溜息を吐きもう一度説明するがルーベルトはそれでも鉄砲を大事そうに抱きかかえ、持っているだけで決して使わないと苦しい言い訳をする。
 そもそもわざわざ鉄砲を背に背負ってこの山の急斜面を登ってきたのだ。予定よりも遅れたのは、枝に引っかけたりズレた鉄砲に気をとられて何度も足を滑らせたルーベルトが大きな原因だ。彼一人だけ所々服がほつれたり破れたりしているのも頷けるだろう。

「わかった。ならお前はここで待機だ。特訓の延長もトゥーレ様に具申してやろう」

「ぐっ・・・・、わかりました。置いていけばいいんでしょう?」

 特訓期間の延長を持ち出されると、渋々であるがさすがに鉄砲を手放すのであった。

「よし、襲撃のタイミングは奴らが揃う朝餉の時間だ。では散開!」

 気を取り直してユーリが散開の指示を出すと、彼等は無言で斜面を下り持ち場へと移動していく。
 開けているといってもそれほど大きくはない山頂だ。九名でも包囲するには充分な大きさだ。夜が明けるまでには配置が完了し、後は攻撃のタイミングを待つだけとなった。
 つぎの入ったチュニックを身に着けて農夫のような格好をしているが、家族もなく男たちだけでユルトで生活する農夫などは存在するはずがない。また農地のない山頂に隠れるように居住するなど彼らは明らかに不審だった。
 そんな男たちが十六名、焚き火を囲んで車座に座って食事を摂っていた。料理番らしき二人の若者が、焚き火の傍に立って差し出される椀に鍋からスープを順番によそっていた。
 串焼きにした肉が火に炙られて香ばしい匂いを辺りに漂わせていて、焼き上がった肉を料理番が年配の男から順番に配っていく。
 全員に行き渡ると料理番も自分の椀にスープをよそい、焼きすぎて焦げ目の多い肉を手に車座に入る。

「ふわぁ・・・・眠ぃ」

「お前、今日は何処まで行くんだ?」

「今日は引き続きコッカサで地形を調べるつもりだ。お前は?」

「俺は今日は待機日だ」

 スープを啜りながら隣の若者に話しかける。その男は連日の任務によって今日は非番となっているようだ。

「いいじゃねぇか。俺は待機日まであと三日もあるぜ」

「だけどよ、待機っていったって、ここには女っ気もねえからなぁ」

「ネアンまで行きゃいいじゃねぇか?」

「馬鹿言え! ネアンまで行ったって時間なんかねぇじゃねぇか! 抱いたりすりゃ明日までに帰ってこれねぇだろ!?」

 非番とはいえ一番近い歓楽街があるネアンまでは半日は掛かる。往復するだけで、折角一日しか無い非番の半分を費やすのは勿体ない。結局、この場に残って他の者達と一日中酒を飲んで賭け事をして過ごすことになるだろう。

「そうなんだよ。この任務は楽なんだけど娯楽が酒しかねぇっていうのが欠点だよな」

「まぁいいじゃねぇか。三か月我慢すりゃ交代でカントに帰れるんだからよ・・・・ん? どうしたんだ!?」

 今まで会話していた男が不意に黙り込むと、ふらりと後ろに倒れる。
 何気なく視線を向けた男の目に入ってきたのは、額に矢が刺さり既に事切れている男の姿だった。

「おい、どうした!?」

 焚き火を挟んだ向かい側でも、慌てたような男の声が聞こえてくる。

「て、敵しゅ・・・・」

 料理番をしていた若い男が叫ぼうとしたその時、飛来した矢が彼の喉を貫いた。
 喉に熱く焼けるような痛みが走り、ヒューヒューと呼気が漏れ口から血の混じった泡が零れ落ちる。呼吸ができない苦しさに、喉に爪を立て搔きむしるように空気を求める。だがその苦しみは続けざまに飛来した無慈悲な矢によって強制的に断たれたのだった。

「よし、突撃!」

 ユーリの合図によって一斉に木立から槍を手に飛び出していく男たち。
 ヨニとユハニの二人によって、既に半分近くの排除に成功していた。突然の攻撃に相手の混乱はまだ収まっていない。既に勝負は決していると言えた。
 僅か数分後、抵抗らしい抵抗を受けることなく制圧が完了し、山頂には血生臭さだけが残されていた。

「逃げた者はいるか?」

「いえ、これで全員です」

 淡々と状況を確認したユーリは、残されたユルトに向かう。
 中を覗くと二基には報告通り十六名が生活を共にしていた跡があった。

「これは・・・・!?」

 残りの一基を覗いたユーリは思わず絶句する。彼に続いて覗き込んだルーベルトたちも同様に言葉を失った。
 見張りが予想していた様に倉庫代わりとして使われていたユルトには、武器や食料はもちろん保管されていたが、それ以上に目を引いたのは保管スペースの半分以上を占める爆薬だった。

「何に使う気だったんでしょう?」

「さぁな。分かってるのはこれは俺たちに使うつもりだったってことだ」

「これだけあればサザンの城壁も崩せそうですね」

「早めに発見できたのは僥倖ぎょうこうだな。それよりもこれだけの量をよくここまで運んだものだ」

 木箱で何十箱もある爆薬だ。これだけの量を運んでいれば嫌でも目立つだろう。少しずつ運んでいたのだとすればどれだけ掛かるかは想像もつかない。

「ルーベルトこの爆薬はサトルトに運ぶようにオレクに手配しておいてくれ」

「承知した」

「それから、まだ特訓は短縮はされてないからな。どさくさに紛れてお前がサトルトに運ぶなよ」

「え!? ・・・・わかりました」

 ユーリに機先を制されて釘を刺されたルーベルトの顔は渋いものだった。
 その後数か月にわたって監視を続けることになるが、交代要員や追加で人員が派遣されてくることはなかった。おそらく連絡が途絶えたことで、彼らは見捨てられたのだろうと考えられた。

「ほう! これは凄いな!」

 敵の工作員を撃退してから十日後、タステ山頂にトゥーレの姿があった。
 広場は三方を木立に囲まれているが、北のタステ狭道側は切り立った崖となっている。その縁に立ったトゥーレの眼下には、翡翠を溶かしたような翠色みどりいろの水を湛えたキンガ湖が広がっていた。
 キンガ湖の対岸は岩がカーテンの様に反り立つ岸壁が広がり、カモフのU字谷の様子がよく分かる。岩壁の所々に湧水なのか滝が数本流れ落ちていた。右に目を向けると枯れたカモフにあって唯一と言っていいコッカサの農地が広がり、その先に城壁に囲まれたネアンの街が小さく霞んで見えていた。
 上から見ればネアンの付近の湖水は透明度が高い。塩分濃度の影響かどうかは知らないが、キンガ湖の奥からネアンに向かって翡翠色から徐々に色が薄くなっていくのが良くわかった。
 その後、奪還作戦参加者の内、ルーベルト以外の乗馬の特訓が緩和される事になった。一人蚊帳の外に置かれたルーベルトはトゥーレにしつこく食い下がったものの、彼だけはその言動から馬術特訓の緩和とはならず、きっちりと最後まで訓練が続けられ、その後もサトルトに入浸ることのないよう馬術訓練が日課とさるのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

湖畔の賢者

そらまめ
ファンタジー
 秋山透はソロキャンプに向かう途中で突然目の前に現れた次元の裂け目に呑まれ、歪んでゆく視界、そして自分の体までもが波打つように歪み、彼は自然と目を閉じた。目蓋に明るさを感じ、ゆっくりと目を開けると大樹の横で車はエンジンを止めて停まっていた。  ゆっくりと彼は車から降りて側にある大樹に触れた。そのまま上着のポケット中からスマホ取り出し確認すると圏外表示。縋るようにマップアプリで場所を確認するも……位置情報取得出来ずに不明と。  彼は大きく落胆し、大樹にもたれ掛かるように背を預け、そのまま力なく崩れ落ちた。 「あははは、まいったな。どこなんだ、ここは」  そう力なく呟き苦笑いしながら、不安から両手で顔を覆った。  楽しみにしていたキャンプから一転し、ほぼ絶望に近い状況に見舞われた。  目にしたことも聞いたこともない。空間の裂け目に呑まれ、知らない場所へ。  そんな突然の不幸に見舞われた秋山透の物語。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

出来損ないと追放された俺、神様から貰った『絶対農域』スキルで農業始めたら、奇跡の作物が育ちすぎて聖女様や女騎士、王族まで押しかけてきた

黒崎隼人
ファンタジー
★☆★完結保証★☆☆ 毎日朝7時更新! 「お前のような魔力無しの出来損ないは、もはや我が家の者ではない!」 過労死した俺が転生したのは、魔力が全ての貴族社会で『出来損ない』と蔑まれる三男、カイ。実家から追放され、与えられたのは魔物も寄り付かない不毛の荒れ地だった。 絶望の淵で手にしたのは、神様からの贈り物『絶対農域(ゴッド・フィールド)』というチートスキル! どんな作物も一瞬で育ち、その実は奇跡の効果を発揮する!? 伝説のもふもふ聖獣を相棒に、気ままな農業スローライフを始めようとしただけなのに…「このトマト、聖水以上の治癒効果が!?」「彼の作る小麦を食べたらレベルが上がった!」なんて噂が広まって、聖女様や女騎士、果ては王族までが俺の畑に押しかけてきて――!? 追放した実家が手のひらを返してきても、もう遅い! 最強農業スキルで辺境から世界を救う!? 爽快成り上がりファンタジー、ここに開幕!

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

処理中です...