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第二章 巨星堕つ
21 山頂の奪還
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その日の深夜、ユーリたちはサザンの港から舟に乗り込み、月明かりの中をタステ山へと出航した。風は凪いでおり彼らは静かに櫓を漕ぎながら湖面を滑るように進む。
およそ二時間後にタステ山の麓に上陸した彼らは、視界の効かない闇の中を息を切らせながら山頂を目指して登っていった。
「はぁ、はぁ、やっと着いた?」
「ぜぇ、ぜぇ、もう少し早く登れると思ったが・・・・」
空が明るくなり始めた頃、ようやく山頂へと辿り着いた彼らは、残していた見張りと合流した。暗く足元の見えない中の登山に相当疲弊した様子で、全員荒い息を吐いていた。
水分を補給し息を整えた彼らは、見張りの三名にねぎらいの言葉を掛けると早速情報を聞き出す。
「それで、何か分かったか?」
「現在の所、十六名を確認。今は二基に分散して休んでます」
「残り一基はどうなっている?」
「監視中に人の出入りはありませんでした。おそらく予備か倉庫に使われていると思われます」
山頂に残った三名に監視対象についての説明を受けた。
二基のユルトに十六名。その大きさからおそらく最大限の人数だろう。
彼らの見つめる先では、二名がユルトから出てきて朝餉の準備のためか火を起こし始めていた。しばらく待てば残りの人員も起きてくることだろう。
彼らはユーリたちが登ってきたルートと丁度反対側から出入りしているという。見張りがこっそり確認したところ、カモフラージュされているものの登りやすいように階段状に道が作られているそうだ。
「さて、どうしますか?」
「逃がしたくないからな。ルーベルトは三名を連れて奴らの退路を断ってくれ。他は散開して包囲だ。相手が食事中を襲う! ヨニとユハニの弓でまず先制するぞ。騒ぎが起こったら突入だ。一人も逃がすな!」
「了解!」
「それとルーベルト。その大事そうに抱えてる鉄砲は置いて行けよ!」
ルーベルトが当然のように抱えている鉄砲にユーリが呆れた声で告げる。
「えっ!?」
「お前なぁ・・・・、出発前に説明しただろう。今回は音や光で周りに気付かれたくないから鉄砲や魔砲はいらないと」
「こ、これは私の一部です」
溜息を吐きもう一度説明するがルーベルトはそれでも鉄砲を大事そうに抱きかかえ、持っているだけで決して使わないと苦しい言い訳をする。
そもそもわざわざ鉄砲を背に背負ってこの山の急斜面を登ってきたのだ。予定よりも遅れたのは、枝に引っかけたりズレた鉄砲に気をとられて何度も足を滑らせたルーベルトが大きな原因だ。彼一人だけ所々服が解れたり破れたりしているのも頷けるだろう。
「わかった。ならお前はここで待機だ。特訓の延長もトゥーレ様に具申してやろう」
「ぐっ・・・・、わかりました。置いていけばいいんでしょう?」
特訓期間の延長を持ち出されると、渋々であるがさすがに鉄砲を手放すのであった。
「よし、襲撃のタイミングは奴らが揃う朝餉の時間だ。では散開!」
気を取り直してユーリが散開の指示を出すと、彼等は無言で斜面を下り持ち場へと移動していく。
開けているといってもそれほど大きくはない山頂だ。九名でも包囲するには充分な大きさだ。夜が明けるまでには配置が完了し、後は攻撃のタイミングを待つだけとなった。
継の入ったチュニックを身に着けて農夫のような格好をしているが、家族もなく男たちだけでユルトで生活する農夫などは存在するはずがない。また農地のない山頂に隠れるように居住するなど彼らは明らかに不審だった。
そんな男たちが十六名、焚き火を囲んで車座に座って食事を摂っていた。料理番らしき二人の若者が、焚き火の傍に立って差し出される椀に鍋からスープを順番によそっていた。
串焼きにした肉が火に炙られて香ばしい匂いを辺りに漂わせていて、焼き上がった肉を料理番が年配の男から順番に配っていく。
全員に行き渡ると料理番も自分の椀にスープをよそい、焼きすぎて焦げ目の多い肉を手に車座に入る。
「ふわぁ・・・・眠ぃ」
「お前、今日は何処まで行くんだ?」
「今日は引き続きコッカサで地形を調べるつもりだ。お前は?」
「俺は今日は待機日だ」
スープを啜りながら隣の若者に話しかける。その男は連日の任務によって今日は非番となっているようだ。
「いいじゃねぇか。俺は待機日まであと三日もあるぜ」
「だけどよ、待機っていったって、ここには女っ気もねえからなぁ」
「ネアンまで行きゃいいじゃねぇか?」
「馬鹿言え! ネアンまで行ったって時間なんかねぇじゃねぇか! 抱いたりすりゃ明日までに帰ってこれねぇだろ!?」
非番とはいえ一番近い歓楽街があるネアンまでは半日は掛かる。往復するだけで、折角一日しか無い非番の半分を費やすのは勿体ない。結局、この場に残って他の者達と一日中酒を飲んで賭け事をして過ごすことになるだろう。
「そうなんだよ。この任務は楽なんだけど娯楽が酒しかねぇっていうのが欠点だよな」
「まぁいいじゃねぇか。三か月我慢すりゃ交代でカントに帰れるんだからよ・・・・ん? どうしたんだ!?」
今まで会話していた男が不意に黙り込むと、ふらりと後ろに倒れる。
何気なく視線を向けた男の目に入ってきたのは、額に矢が刺さり既に事切れている男の姿だった。
「おい、どうした!?」
焚き火を挟んだ向かい側でも、慌てたような男の声が聞こえてくる。
「て、敵しゅ・・・・」
料理番をしていた若い男が叫ぼうとしたその時、飛来した矢が彼の喉を貫いた。
喉に熱く焼けるような痛みが走り、ヒューヒューと呼気が漏れ口から血の混じった泡が零れ落ちる。呼吸ができない苦しさに、喉に爪を立て搔きむしるように空気を求める。だがその苦しみは続けざまに飛来した無慈悲な矢によって強制的に断たれたのだった。
「よし、突撃!」
ユーリの合図によって一斉に木立から槍を手に飛び出していく男たち。
ヨニとユハニの二人によって、既に半分近くの排除に成功していた。突然の攻撃に相手の混乱はまだ収まっていない。既に勝負は決していると言えた。
僅か数分後、抵抗らしい抵抗を受けることなく制圧が完了し、山頂には血生臭さだけが残されていた。
「逃げた者はいるか?」
「いえ、これで全員です」
淡々と状況を確認したユーリは、残されたユルトに向かう。
中を覗くと二基には報告通り十六名が生活を共にしていた跡があった。
「これは・・・・!?」
残りの一基を覗いたユーリは思わず絶句する。彼に続いて覗き込んだルーベルトたちも同様に言葉を失った。
見張りが予想していた様に倉庫代わりとして使われていたユルトには、武器や食料はもちろん保管されていたが、それ以上に目を引いたのは保管スペースの半分以上を占める爆薬だった。
「何に使う気だったんでしょう?」
「さぁな。分かってるのはこれは俺たちに使うつもりだったってことだ」
「これだけあればサザンの城壁も崩せそうですね」
「早めに発見できたのは僥倖だな。それよりもこれだけの量をよくここまで運んだものだ」
木箱で何十箱もある爆薬だ。これだけの量を運んでいれば嫌でも目立つだろう。少しずつ運んでいたのだとすればどれだけ掛かるかは想像もつかない。
「ルーベルトこの爆薬はサトルトに運ぶようにオレクに手配しておいてくれ」
「承知した」
「それから、まだ特訓は短縮はされてないからな。どさくさに紛れてお前がサトルトに運ぶなよ」
「え!? ・・・・わかりました」
ユーリに機先を制されて釘を刺されたルーベルトの顔は渋いものだった。
その後数か月にわたって監視を続けることになるが、交代要員や追加で人員が派遣されてくることはなかった。おそらく連絡が途絶えたことで、彼らは見捨てられたのだろうと考えられた。
「ほう! これは凄いな!」
敵の工作員を撃退してから十日後、タステ山頂にトゥーレの姿があった。
広場は三方を木立に囲まれているが、北のタステ狭道側は切り立った崖となっている。その縁に立ったトゥーレの眼下には、翡翠を溶かしたような翠色の水を湛えたキンガ湖が広がっていた。
キンガ湖の対岸は岩がカーテンの様に反り立つ岸壁が広がり、カモフのU字谷の様子がよく分かる。岩壁の所々に湧水なのか滝が数本流れ落ちていた。右に目を向けると枯れたカモフにあって唯一と言っていいコッカサの農地が広がり、その先に城壁に囲まれたネアンの街が小さく霞んで見えていた。
上から見ればネアンの付近の湖水は透明度が高い。塩分濃度の影響かどうかは知らないが、キンガ湖の奥からネアンに向かって翡翠色から徐々に色が薄くなっていくのが良くわかった。
その後、奪還作戦参加者の内、ルーベルト以外の乗馬の特訓が緩和される事になった。一人蚊帳の外に置かれたルーベルトはトゥーレにしつこく食い下がったものの、彼だけはその言動から馬術特訓の緩和とはならず、きっちりと最後まで訓練が続けられ、その後もサトルトに入浸ることのないよう馬術訓練が日課とさるのであった。
およそ二時間後にタステ山の麓に上陸した彼らは、視界の効かない闇の中を息を切らせながら山頂を目指して登っていった。
「はぁ、はぁ、やっと着いた?」
「ぜぇ、ぜぇ、もう少し早く登れると思ったが・・・・」
空が明るくなり始めた頃、ようやく山頂へと辿り着いた彼らは、残していた見張りと合流した。暗く足元の見えない中の登山に相当疲弊した様子で、全員荒い息を吐いていた。
水分を補給し息を整えた彼らは、見張りの三名にねぎらいの言葉を掛けると早速情報を聞き出す。
「それで、何か分かったか?」
「現在の所、十六名を確認。今は二基に分散して休んでます」
「残り一基はどうなっている?」
「監視中に人の出入りはありませんでした。おそらく予備か倉庫に使われていると思われます」
山頂に残った三名に監視対象についての説明を受けた。
二基のユルトに十六名。その大きさからおそらく最大限の人数だろう。
彼らの見つめる先では、二名がユルトから出てきて朝餉の準備のためか火を起こし始めていた。しばらく待てば残りの人員も起きてくることだろう。
彼らはユーリたちが登ってきたルートと丁度反対側から出入りしているという。見張りがこっそり確認したところ、カモフラージュされているものの登りやすいように階段状に道が作られているそうだ。
「さて、どうしますか?」
「逃がしたくないからな。ルーベルトは三名を連れて奴らの退路を断ってくれ。他は散開して包囲だ。相手が食事中を襲う! ヨニとユハニの弓でまず先制するぞ。騒ぎが起こったら突入だ。一人も逃がすな!」
「了解!」
「それとルーベルト。その大事そうに抱えてる鉄砲は置いて行けよ!」
ルーベルトが当然のように抱えている鉄砲にユーリが呆れた声で告げる。
「えっ!?」
「お前なぁ・・・・、出発前に説明しただろう。今回は音や光で周りに気付かれたくないから鉄砲や魔砲はいらないと」
「こ、これは私の一部です」
溜息を吐きもう一度説明するがルーベルトはそれでも鉄砲を大事そうに抱きかかえ、持っているだけで決して使わないと苦しい言い訳をする。
そもそもわざわざ鉄砲を背に背負ってこの山の急斜面を登ってきたのだ。予定よりも遅れたのは、枝に引っかけたりズレた鉄砲に気をとられて何度も足を滑らせたルーベルトが大きな原因だ。彼一人だけ所々服が解れたり破れたりしているのも頷けるだろう。
「わかった。ならお前はここで待機だ。特訓の延長もトゥーレ様に具申してやろう」
「ぐっ・・・・、わかりました。置いていけばいいんでしょう?」
特訓期間の延長を持ち出されると、渋々であるがさすがに鉄砲を手放すのであった。
「よし、襲撃のタイミングは奴らが揃う朝餉の時間だ。では散開!」
気を取り直してユーリが散開の指示を出すと、彼等は無言で斜面を下り持ち場へと移動していく。
開けているといってもそれほど大きくはない山頂だ。九名でも包囲するには充分な大きさだ。夜が明けるまでには配置が完了し、後は攻撃のタイミングを待つだけとなった。
継の入ったチュニックを身に着けて農夫のような格好をしているが、家族もなく男たちだけでユルトで生活する農夫などは存在するはずがない。また農地のない山頂に隠れるように居住するなど彼らは明らかに不審だった。
そんな男たちが十六名、焚き火を囲んで車座に座って食事を摂っていた。料理番らしき二人の若者が、焚き火の傍に立って差し出される椀に鍋からスープを順番によそっていた。
串焼きにした肉が火に炙られて香ばしい匂いを辺りに漂わせていて、焼き上がった肉を料理番が年配の男から順番に配っていく。
全員に行き渡ると料理番も自分の椀にスープをよそい、焼きすぎて焦げ目の多い肉を手に車座に入る。
「ふわぁ・・・・眠ぃ」
「お前、今日は何処まで行くんだ?」
「今日は引き続きコッカサで地形を調べるつもりだ。お前は?」
「俺は今日は待機日だ」
スープを啜りながら隣の若者に話しかける。その男は連日の任務によって今日は非番となっているようだ。
「いいじゃねぇか。俺は待機日まであと三日もあるぜ」
「だけどよ、待機っていったって、ここには女っ気もねえからなぁ」
「ネアンまで行きゃいいじゃねぇか?」
「馬鹿言え! ネアンまで行ったって時間なんかねぇじゃねぇか! 抱いたりすりゃ明日までに帰ってこれねぇだろ!?」
非番とはいえ一番近い歓楽街があるネアンまでは半日は掛かる。往復するだけで、折角一日しか無い非番の半分を費やすのは勿体ない。結局、この場に残って他の者達と一日中酒を飲んで賭け事をして過ごすことになるだろう。
「そうなんだよ。この任務は楽なんだけど娯楽が酒しかねぇっていうのが欠点だよな」
「まぁいいじゃねぇか。三か月我慢すりゃ交代でカントに帰れるんだからよ・・・・ん? どうしたんだ!?」
今まで会話していた男が不意に黙り込むと、ふらりと後ろに倒れる。
何気なく視線を向けた男の目に入ってきたのは、額に矢が刺さり既に事切れている男の姿だった。
「おい、どうした!?」
焚き火を挟んだ向かい側でも、慌てたような男の声が聞こえてくる。
「て、敵しゅ・・・・」
料理番をしていた若い男が叫ぼうとしたその時、飛来した矢が彼の喉を貫いた。
喉に熱く焼けるような痛みが走り、ヒューヒューと呼気が漏れ口から血の混じった泡が零れ落ちる。呼吸ができない苦しさに、喉に爪を立て搔きむしるように空気を求める。だがその苦しみは続けざまに飛来した無慈悲な矢によって強制的に断たれたのだった。
「よし、突撃!」
ユーリの合図によって一斉に木立から槍を手に飛び出していく男たち。
ヨニとユハニの二人によって、既に半分近くの排除に成功していた。突然の攻撃に相手の混乱はまだ収まっていない。既に勝負は決していると言えた。
僅か数分後、抵抗らしい抵抗を受けることなく制圧が完了し、山頂には血生臭さだけが残されていた。
「逃げた者はいるか?」
「いえ、これで全員です」
淡々と状況を確認したユーリは、残されたユルトに向かう。
中を覗くと二基には報告通り十六名が生活を共にしていた跡があった。
「これは・・・・!?」
残りの一基を覗いたユーリは思わず絶句する。彼に続いて覗き込んだルーベルトたちも同様に言葉を失った。
見張りが予想していた様に倉庫代わりとして使われていたユルトには、武器や食料はもちろん保管されていたが、それ以上に目を引いたのは保管スペースの半分以上を占める爆薬だった。
「何に使う気だったんでしょう?」
「さぁな。分かってるのはこれは俺たちに使うつもりだったってことだ」
「これだけあればサザンの城壁も崩せそうですね」
「早めに発見できたのは僥倖だな。それよりもこれだけの量をよくここまで運んだものだ」
木箱で何十箱もある爆薬だ。これだけの量を運んでいれば嫌でも目立つだろう。少しずつ運んでいたのだとすればどれだけ掛かるかは想像もつかない。
「ルーベルトこの爆薬はサトルトに運ぶようにオレクに手配しておいてくれ」
「承知した」
「それから、まだ特訓は短縮はされてないからな。どさくさに紛れてお前がサトルトに運ぶなよ」
「え!? ・・・・わかりました」
ユーリに機先を制されて釘を刺されたルーベルトの顔は渋いものだった。
その後数か月にわたって監視を続けることになるが、交代要員や追加で人員が派遣されてくることはなかった。おそらく連絡が途絶えたことで、彼らは見捨てられたのだろうと考えられた。
「ほう! これは凄いな!」
敵の工作員を撃退してから十日後、タステ山頂にトゥーレの姿があった。
広場は三方を木立に囲まれているが、北のタステ狭道側は切り立った崖となっている。その縁に立ったトゥーレの眼下には、翡翠を溶かしたような翠色の水を湛えたキンガ湖が広がっていた。
キンガ湖の対岸は岩がカーテンの様に反り立つ岸壁が広がり、カモフのU字谷の様子がよく分かる。岩壁の所々に湧水なのか滝が数本流れ落ちていた。右に目を向けると枯れたカモフにあって唯一と言っていいコッカサの農地が広がり、その先に城壁に囲まれたネアンの街が小さく霞んで見えていた。
上から見ればネアンの付近の湖水は透明度が高い。塩分濃度の影響かどうかは知らないが、キンガ湖の奥からネアンに向かって翡翠色から徐々に色が薄くなっていくのが良くわかった。
その後、奪還作戦参加者の内、ルーベルト以外の乗馬の特訓が緩和される事になった。一人蚊帳の外に置かれたルーベルトはトゥーレにしつこく食い下がったものの、彼だけはその言動から馬術特訓の緩和とはならず、きっちりと最後まで訓練が続けられ、その後もサトルトに入浸ることのないよう馬術訓練が日課とさるのであった。
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