都市伝説と呼ばれて

松虫大

文字の大きさ
146 / 205
第三章 カモフ攻防戦

49 若気の至りと残念な変態

しおりを挟む
 カントでの戦いは三日目を迎えていた。
 ユーリたちは一段目の塹壕ざんごうを失ったものの、その塹壕を二段構えにしていたお陰で何とか防衛戦を維持できていた。
 しかし塹壕の一段目を失陥してしまったことで、この二段目が絶対防衛ラインとなってしまった。ここを突破されれば、アーリンゲ川を挟んで中途半端な防壁があるだけのカントのみとなる。そのカントを突破されればサザンはすぐ目の前だ。
 文字通り後がなくなったトルスター軍は、ルーベルトだけではなくこの日からユーリも防衛に加わって、何とか防衛戦を維持していた。

「弾薬は!?」

「まだ十分残っています。ですがこのままでは・・・・」

「それは分かってる! とりあえず手を動かせ!」

 ユーリはルーベルトと並んで、必死で鉄砲を撃ち続けていた。
 弾薬はこのペースで撃ち続けていても、十日は戦える程度は確保していたが、肝心の兵の体力が保ちそうになかった。

「相手の動き、明らかにこちらが疲れるのを待ってますね」

「ああ。この分だと夜も寝かせてくれないだろうな」

 この日の戦いからイグナーツ隊の攻めが変化していた。
 戦力差を活かした力攻めから、休み無く、それでいて万遍なく攻め寄せてくるようになったのだ。
 緒戦のラドスラフ隊を殲滅せんめつしたことで戦力比は縮まってはいる。それでもまだストール軍とは三倍の開きがあった。敵はそれを最大限活かして朝から三交代で休みなく攻め寄せていた。
 対するユーリもできる限り交代させながら迎撃させていたが、余剰の兵力は殆どなくこのままでは疲弊していくことは明らかだった。
 この二日間、夜間は敵も兵をしっかりと休ませ夜襲などはなかったが、この分だと今夜からは夜襲への警戒も必要になるだろう。

「久しぶりにそれの出番があるんじゃないですか?」

「・・・・そうだな」

 ルーベルトがあごで示したものにチラリと視線を動かしたユーリは、苦い顔を浮かべながらも否定はしなかった。
 早朝からルーベルトと共に戦線に出てきたユーリの背には、昨日までなかった長大な剣が背負われていた。彼の代名詞となっていた両手剣ツヴァイヘンダーだ。
 騎士に任じられた頃より背負わなくなっていた両手剣だったが、久しぶりに日の目を見た格好だ。
 昔と同じように背負っていたが、剣は当時のものとは全くの別の剣だ。
 かつての剣は兵士崩れの旅人から譲り受けたものだった。幅広い刀身で頑丈な作りだったが、手に入れた時点で刃はのこぎりのように欠けていて、さらによく見れば少し曲がっていた代物だった。そんな剣でも街中で振りかざせば、大抵は相手が逃げ出したものだ。
 そんな状態なまくらだったため、実戦では役に立たないものだったのだ。
 今背負っている剣はで、ユーリが騎士に叙任された際にトゥーレより新たに贈られた両手剣だった。
 以前の剣と全長や重量にそれほど違いはなかったが、ユーリ専用に特別にあつらえたというだけあって、彼の手にしっくり馴染み重量のバランスも調整されている。
 以前のものと比べると刀身の幅は半分程度になっていたが、フランベルジュと呼ばれる加工が施されていて刀身が炎のように波打っていた。これで切られると肉が裂かれ止血も難しくなるため、通常の刀身に比べると殺傷力は段違いに高まっている。また傷口を適切に処理しないと破傷風に感染する恐れもあり、見た目の美しさに反して凶悪な刀身であった。さらに刀身の根元には刃の付いていないリカッソと呼ばれる部分があり、その部分を持って振り回すことができ、間合いに入られた際の両手剣の取り回しの悪さを解消していた。

「そんなに嫌そうな顔をしなくてもいいじゃないですか?」

「いや他の得物に比べると、これはこれで使いやすいからな。使うとなればこれしかないんだ。だがなぁ・・・・」

 何とも歯切れの悪いユーリの態度だったが、これには理由があった。
 彼がトゥーレの側近として仕えることになった際、両手剣は破壊力はあったが槍などと比べればやはり長さで不利だった。そのため槍や槍斧ハルバードなどの長柄ながえの扱いも一通り叩き込まれた。
 しかしその結果彼が選んだのが両手剣だった。それが一番使いやすいと落ち着いたのだ。そして叙任された際にトゥーレが贈ったのである。
 だがユーリに対してトゥーレが普通に贈り物をする訳はなく、その両手剣の銘に態々わざわざワカゲノイタリ若気の至り』と刻んでいたのだ。
 もちろん彼がかつて零した『あれは若気の至りみたいなもんです』と言ったことを、悪戯心でそのまま銘としていたのだった。
 怖いもの知らずで暴れていた頃はそれでもよかったが、トゥーレに敗れ配下に下ったことで自分が知らなかった世界の大きさを知った。その自嘲の意味を込めて言った言葉が、今現在背負っている両手剣『ワカゲノイタリ』の誕生となったのだ。

「そんなに嫌なら自分であつらえればよかったんじゃ?」

「そんなことしてみろ。トゥーレ様にどれだけ嫌味を言われるか分かんねぇだろうが!」

 冗談めかしたルーベルトの言葉に、ユーリは顔を歪めて即座に否定する。
 そう軽口を叩き合っている時だ。弾幕の隙を縫うようにして敵兵が塹壕へと迫ってきていた。
 気付いたユーリが照準を合わせて鉄砲を放つが外れてしまう。

「あ、やべぇ!」

 焦った声を上げるユーリに対し、素早く五式銃に持ち替えたルーベルトは、落ち着いて散弾を放つ。
 五式弾を正面からまともに喰らった敵兵は、血飛沫ちしぶきを上げて文字通り霧散した。

「ちょっと、手は止めないでくださいよ。敵が来るじゃないですか!」

「すまん! だがこの状況で普段と変わらん命中率を出せるのはお前くらいだぞ」

 文句を言うルーベルトに、安堵したような表情でユーリも言い返す。

「大丈夫です。ユーリ様だってこのくらいできます。私が保証します」

 軽口を叩き合っていた二人だったが、その間も手は休ませずに鉄砲を放ち続けていた。しかしルーベルトに保証されたからといえ、喋りながらだと流石に彼のような命中率は出ない。そのため敵の接近を許したのだ。

「お前に保証されてもなぁ。そう思うなら少し黙っててくれないか。お前と違って喋りながらだと当たる気がしない」

「ええっ!? そんなことないでしょう? 誰だってこれくらいできますよ」

「普通に会話しながら命中率が落ちないのはお前ぐらいだよ」

「そんなこと言ったら、私が変人みたいじゃないですか!?」

 納得いかないといった表情を浮かべたルーベルトが文句を言うが、ユーリは逆に彼に自覚がなかったことに驚く。周りで黙々と迎撃していた兵も、ルーベルトのその言葉に思わず手を止めて振り返る程だった。

「知らなかったのか? お前は充分変人だよ」

「何ですかそれは!? 誰がそんなことを言ってるんですか?」

「知らないのはお前だけだ。正確を期すならば変人ではなく変態の方だな。ついでに言えばトゥーレ様はお前のことを『残念な変態』だと呼んでいるぞ」

 最後にユーリは『変人ではなく変態だからな』と念押しし、ルーベルトは自分の思いがけない評価にがっくりと項垂うなだれるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜

るあか
ファンタジー
 僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。  でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。  どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。  そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。  家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...