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第四章 伝説のはじまり
14 ボス争奪戦(一、二回戦)
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「そこまで!」
審判を務めるデモルバの凜とした声が訓練場に響く。
見応えのある激しい攻防が繰り広げられたケビとアダルベルトの第一試合は、ケビが勝利を掴んだ。
勝ったケビも惜しくも敗れたアダルベルトもすぐに喋る事ができない程、大きく肩で息をしていた。
「あぁくそっ!」
アダルベルトが口惜しそうに叫ぶと、ケビがアダルベルトの首筋に寸止めしていた木剣を引いた。
「ツチラト様を彷彿させる思い切りの良さ。私ももっと精進しなければすぐに追い越されてしまいそうです」
息を整えたケビがアダルベルトに右手を差し出す。
「またお相手をお願いしてもよろしいですか?」
アダルベルトが手を掴みながら問い掛ける。
全力を尽くしたためか両者とも清々しい表情を浮かべている。
「もちろん、私からもぜひお願いしたい」
手を引いて起き上がらせると、二人は笑顔を見せがっちりと握手をして左右に分かれた。
「第一試合、勝者右翼大隊三番隊隊長、ケビ・バーレク卿!」
デモルバが改めて勝ち名乗りを上げると、見物していた兵からやんやの喝采が沸き起こった。
なし崩し的に始まった総司令争奪戦だった。
勝ち残り戦で戦い、最終勝者が全軍の総司令となる事をトゥーレが明言した事で初戦から異様な盛り上がりを見せていた。
ルールは両者とも片手半剣を模した木剣による一対一で戦い、先に一本を取れば勝利という単純なものだ。また木剣を取り落としたり降参を申告しても勝負ありとなる。
場所は屋外の訓練場だった。
普段から兵に解放されている訓練場のため、この日も多くの兵が思い思いに訓練をしていたが、突然始まった真剣勝負に固唾を飲んで見守っていた。
参加者は右翼大隊からクラウス、ヘルベルト、ケビ、アダルベルト。左翼大隊からユーリとピエタリが参加していた。木剣というルールにルーベルトは興味を示さず早々に辞退し、新参であるデモルバも出場を遠慮したため、総勢六名による勝ち残り戦となっている。
訓練場には結果を見届けようとこの争奪戦を提案したトゥーレのやリーディアの姿ももちろんあった。
また騒ぎを聞きつけた多くの兵や役人が続々と集まり始め、一種のお祭りの様相を呈していた。
訓練場の中央に次の出場者であるピエタリが進み出た。
「疲れたなら棄権したらどうですかい?」
「確かに多少疲れはしましたが船乗り相手には丁度いいハンデでしょう?」
挑発するピエタリにケビも負けじと口角を上げて言い返す。
十分の休憩があったとはいえ、激しかった初戦からの連戦となるケビの疲労が抜けきっていないのは明らかだった。
「ピエタリ様は漁師だったって言うのは本当なんですか?」
「ああそうだな。カモフに来る前は王都の近くで鯨を捕っていたそうだ」
トゥーレの傍で見物しているリーディアが問い掛けた。
騎士に任じられたとはいえ、荒くれ者の多い船乗りたちを纏めるために粗野な言動がどうしても抜けないようである。言動や態度よりも行動や結果を重視するトゥーレは『気遣い不要』と気にしていないが、それをよくは思っていない者がいるのも事実だった。
「トゥーレ様の配下って色々な経歴の方がおられますよね?」
「そうだな。ユーリは抗夫だしオレクやボリスは商人だ。おまけにクラウスの息子であるルーベルトは変態ときてる。俺は余程素行に問題がなければ多少の態度や言葉の乱れは気にしない。彼らが支えてくれなければ俺は何もできないからね。言動をいちいち気にしていたら俺の周りから人がいなくなるよ」
そう言って笑う。
幼少期に存在を隠されていたトゥーレは、当然ながら配下に騎士を持つ事もできず、当時は家族以外ではシルベストルくらいしか会う事を許されていなかった。
存在が公になった頃には、めぼしい者は既に誰かに仕えていて側近として登用できなかったのだ。
そこで彼が取った行動は街に出る事だった。そこで出会ったユーリやオレクなど経歴が怪しいが見込みがありそうな人材を広く集めた。そのお陰か今では彼の配下たちは、他の者たちにはない柔軟な発想で大いに役立っていたのだった。
「第二試合、右翼大隊三番隊隊長、ケビ・バーレク卿」
どう見ても文官にしか見えないケビが進み出る。
「左翼大隊三番隊隊長、ピエタリ・ドルスン卿」
反対側から進み出たピエタリも、とても騎士とは思えない粗野な雰囲気を纏っている。
共に木剣を装備しているが知らない者が見れば、どう見ても襲われる執事と盗賊といった構図に見え、別の意味で注目の一戦だった。
「第二試合、始め!」
観客の声援が加熱していく中で第二試合が始まった。
合図と共に一気に距離を詰めるピエタリ。
「どらぁぁぁ!」
「くっ!」
序盤は見た目通り盗賊が執事を一方的にいたぶる展開が繰り広げられた。
でたらめな剣術だが圧倒的な手数で攻め立てるピエタリ。ケビは防戦一方になりながらも全て裁ききっていた。
だが時間が経ってもピエタリの猛攻は治まる気配はなくむしろ激しさを増していき、それにつれて徐々にケビがジリジリと押され攻撃を喰らう事が増えていく。
「そこまでっ!」
ケビが木剣を弾かれたところでデモルバの制止の声が響いた。
息を切らせたケビが呆然とした表情をピエタリに向ける。
「すごい・・・・」
一方的な勝負だったがリーディアもすぐに言葉が出てこない。
それだけピエタリの気合いが凄まじかった。
「剣術はでたらめだが船乗りで鍛えた強靱な足腰があの攻撃を生んでるんだろう」
トゥーレは苦笑しながらピエタリの剣術について解説した。
漁師の頃は村一番の銛撃ちだったピエタリは、カモフに来るまでは殆ど剣を握った事はなく、騎士に任じられた際に基本の構えを習った程度だ。普段は船乗りとして水軍の指揮を執っているため、剣よりも舶刀の方が馴染みが強いが、最近ではもっぱら鉄砲を好んで使っていた。
まともに打ち合えば技量に勝るケビに勝てる見込みを見出せなかったため、手数で圧倒するしかなかったのである。
「・・・・参りました」
ケビが口惜しそうに唇を噛んだ。
「いえ、私の方こそでたらめな戦い方しかできず申し訳ありません」
「いやこちらこそ勉強になりました。より精進しなければなりませんな」
「これからは船乗りだからといって剣術を疎かにせず、まともに握れるよう努力します。よかったらまた手合わせしてくだせぇ」
「それはこちらとしても願ったりです。ぜひお願いします」
二人は握手すると笑顔で分かれた。
「第二試合、勝者左翼大隊三番隊隊長、ピエタリ・ドルスン卿!」
勝ち名乗りが上がると水兵たちが屯する一画から歓声が起こった。
ピエタリがその声に応えるように右腕を上げると、それは大歓声へと変わる。
「ちょっと彼奴らはルーベルトとは違う意味で異質だな」
「そ、そうですね。何というか、・・・・海賊? みたいな?」
品のない野卑た声が上がるのを聞いたリーディアは、若干顔を引きつらせながらも何とか言葉を濁そうとするものの、諦めたか最後はそのままを口にするのだった。
「くくっ、ここでは遠慮する必要はない、思った事を口にすればいい。ユーリを見て見ろ、あれだけ俺に暴言を吐きながらピンピンしてるだろ?」
トゥーレは笑顔を浮かべながら、正面で出番を待つユーリを顎で示した。
ユーリの配下には特に抗夫出身の者が多い事もあり、他と比べて言葉遣いの乱れは酷かった。ユーリらはトゥーレの護衛を務めていた頃にシルベストルから直接言葉遣いを矯正させられたが、トゥーレ自身がそれを嫌ったため公的な場以外では言葉遣いは自由としていた。それが影響したのか今ではクラウスやヘルベルトですらトゥーレに遠慮する事なく冗談を飛ばすようになっていた。
また今回は一般兵が大勢見物している訓練場でおこなわれているため、より直接的な言葉が飛び交っていた。流石にトゥーレらに対して下卑た言葉遣いをする事はなかったが、この試合に当てられたのか興奮した様子で普段より乱暴で下品な言葉遣いが増えてきていた。
「第三試合、右翼大隊二番隊隊長、ヘルベルト・ニグス卿」
「おう!」
気合い十分といった様子のヘルベルトが進み出た。
「左翼大隊三番隊隊長、ピエタリ・ドルスン卿」
疲れた様子を見せずにピエタリが仁王立ちする。
「お前とは一度戦ってみたいと思っていた」
「奇遇ですな。私もです」
訓練場中央で睨み合いながらお互いニヤリと凶悪な笑みを浮かべた。
いよいよ試合は三戦目を迎え、ますます盛り上がってきた。
訓練場には噂を聞きつけたのだろう、見物する人数がどんどん増えてきていた。今や兵だけでなく文官の姿も多く見える。
「第三試合、始め!」
開始の声と共に飛び出したのは、やはりピエタリだ。
第二試合の再現を見ているかと思う程、一気に距離を詰めたピエタリが怒濤の攻めを見せた。
ヘルベルトは巧みな剣裁きでピエタリの攻めを悉く受け流していく。
「いけぇ親方!」
「ヘルベルト様っ!」
ハイレベルな攻防に観客の声援が重なる。
強靱な足腰を活かしたピエタリがトリッキーな動きで攻め立てるが、ヘルベルトも負けてはいない。相手の手数の多さに攻勢に出る事はできないが、焦れる事なく冷静に対処して裁いていく。
「二人ともすげぇ・・・・」
何時果てるとも知れない戦いに観客は固唾を飲んで見守り、訓練場はいつの間にか木剣の打ち合う音だけが響いていた。
「くっ!」
一見一方的に攻めているように見えるピエタリだったが内心焦りを浮かべていた。どれだけ攻め立ててもヘルベルトを押し切れないどころか、守りを崩すことすらできなかったからだ。
それどころか彼の攻めに慣れてきたのか、手数は少ないものの時折ヘルベルトが攻勢に転じるようになってきていた。
その変化は周りで見物している者たちにも感じ取れ、徐々に訓練場の緊張感が増してきていた。
「そろそろ終わるぞ」
トゥーレが誰ともなく呟く。
その声にリーディアは、より戦いへと集中するように前方を睨み付ける。
その瞬間、ヘルベルトがいきなり攻勢に転じた。
「ちっ、くそったれ!」
ピエタリは防御に徹しながら悪態を吐く。
元より剣術ではヘルベルトには敵わないことは分かっていた。
幼少期から剣を握っていたヘルベルトと違い彼は漁師だ。技術でも経験でも現時点では圧倒的な差がある。だから相手が反撃に出る暇もないほど攻め立てて一気に勝負にいったのだ。しかしケビ相手には通用したが、流石にヘルベルトを攻め崩すまではいかなかった。
そうなると圧倒的な技術の差がものをいう。
ヘルベルトが攻勢に転じてまもなくあっさりと勝負が着くのだった。
審判を務めるデモルバの凜とした声が訓練場に響く。
見応えのある激しい攻防が繰り広げられたケビとアダルベルトの第一試合は、ケビが勝利を掴んだ。
勝ったケビも惜しくも敗れたアダルベルトもすぐに喋る事ができない程、大きく肩で息をしていた。
「あぁくそっ!」
アダルベルトが口惜しそうに叫ぶと、ケビがアダルベルトの首筋に寸止めしていた木剣を引いた。
「ツチラト様を彷彿させる思い切りの良さ。私ももっと精進しなければすぐに追い越されてしまいそうです」
息を整えたケビがアダルベルトに右手を差し出す。
「またお相手をお願いしてもよろしいですか?」
アダルベルトが手を掴みながら問い掛ける。
全力を尽くしたためか両者とも清々しい表情を浮かべている。
「もちろん、私からもぜひお願いしたい」
手を引いて起き上がらせると、二人は笑顔を見せがっちりと握手をして左右に分かれた。
「第一試合、勝者右翼大隊三番隊隊長、ケビ・バーレク卿!」
デモルバが改めて勝ち名乗りを上げると、見物していた兵からやんやの喝采が沸き起こった。
なし崩し的に始まった総司令争奪戦だった。
勝ち残り戦で戦い、最終勝者が全軍の総司令となる事をトゥーレが明言した事で初戦から異様な盛り上がりを見せていた。
ルールは両者とも片手半剣を模した木剣による一対一で戦い、先に一本を取れば勝利という単純なものだ。また木剣を取り落としたり降参を申告しても勝負ありとなる。
場所は屋外の訓練場だった。
普段から兵に解放されている訓練場のため、この日も多くの兵が思い思いに訓練をしていたが、突然始まった真剣勝負に固唾を飲んで見守っていた。
参加者は右翼大隊からクラウス、ヘルベルト、ケビ、アダルベルト。左翼大隊からユーリとピエタリが参加していた。木剣というルールにルーベルトは興味を示さず早々に辞退し、新参であるデモルバも出場を遠慮したため、総勢六名による勝ち残り戦となっている。
訓練場には結果を見届けようとこの争奪戦を提案したトゥーレのやリーディアの姿ももちろんあった。
また騒ぎを聞きつけた多くの兵や役人が続々と集まり始め、一種のお祭りの様相を呈していた。
訓練場の中央に次の出場者であるピエタリが進み出た。
「疲れたなら棄権したらどうですかい?」
「確かに多少疲れはしましたが船乗り相手には丁度いいハンデでしょう?」
挑発するピエタリにケビも負けじと口角を上げて言い返す。
十分の休憩があったとはいえ、激しかった初戦からの連戦となるケビの疲労が抜けきっていないのは明らかだった。
「ピエタリ様は漁師だったって言うのは本当なんですか?」
「ああそうだな。カモフに来る前は王都の近くで鯨を捕っていたそうだ」
トゥーレの傍で見物しているリーディアが問い掛けた。
騎士に任じられたとはいえ、荒くれ者の多い船乗りたちを纏めるために粗野な言動がどうしても抜けないようである。言動や態度よりも行動や結果を重視するトゥーレは『気遣い不要』と気にしていないが、それをよくは思っていない者がいるのも事実だった。
「トゥーレ様の配下って色々な経歴の方がおられますよね?」
「そうだな。ユーリは抗夫だしオレクやボリスは商人だ。おまけにクラウスの息子であるルーベルトは変態ときてる。俺は余程素行に問題がなければ多少の態度や言葉の乱れは気にしない。彼らが支えてくれなければ俺は何もできないからね。言動をいちいち気にしていたら俺の周りから人がいなくなるよ」
そう言って笑う。
幼少期に存在を隠されていたトゥーレは、当然ながら配下に騎士を持つ事もできず、当時は家族以外ではシルベストルくらいしか会う事を許されていなかった。
存在が公になった頃には、めぼしい者は既に誰かに仕えていて側近として登用できなかったのだ。
そこで彼が取った行動は街に出る事だった。そこで出会ったユーリやオレクなど経歴が怪しいが見込みがありそうな人材を広く集めた。そのお陰か今では彼の配下たちは、他の者たちにはない柔軟な発想で大いに役立っていたのだった。
「第二試合、右翼大隊三番隊隊長、ケビ・バーレク卿」
どう見ても文官にしか見えないケビが進み出る。
「左翼大隊三番隊隊長、ピエタリ・ドルスン卿」
反対側から進み出たピエタリも、とても騎士とは思えない粗野な雰囲気を纏っている。
共に木剣を装備しているが知らない者が見れば、どう見ても襲われる執事と盗賊といった構図に見え、別の意味で注目の一戦だった。
「第二試合、始め!」
観客の声援が加熱していく中で第二試合が始まった。
合図と共に一気に距離を詰めるピエタリ。
「どらぁぁぁ!」
「くっ!」
序盤は見た目通り盗賊が執事を一方的にいたぶる展開が繰り広げられた。
でたらめな剣術だが圧倒的な手数で攻め立てるピエタリ。ケビは防戦一方になりながらも全て裁ききっていた。
だが時間が経ってもピエタリの猛攻は治まる気配はなくむしろ激しさを増していき、それにつれて徐々にケビがジリジリと押され攻撃を喰らう事が増えていく。
「そこまでっ!」
ケビが木剣を弾かれたところでデモルバの制止の声が響いた。
息を切らせたケビが呆然とした表情をピエタリに向ける。
「すごい・・・・」
一方的な勝負だったがリーディアもすぐに言葉が出てこない。
それだけピエタリの気合いが凄まじかった。
「剣術はでたらめだが船乗りで鍛えた強靱な足腰があの攻撃を生んでるんだろう」
トゥーレは苦笑しながらピエタリの剣術について解説した。
漁師の頃は村一番の銛撃ちだったピエタリは、カモフに来るまでは殆ど剣を握った事はなく、騎士に任じられた際に基本の構えを習った程度だ。普段は船乗りとして水軍の指揮を執っているため、剣よりも舶刀の方が馴染みが強いが、最近ではもっぱら鉄砲を好んで使っていた。
まともに打ち合えば技量に勝るケビに勝てる見込みを見出せなかったため、手数で圧倒するしかなかったのである。
「・・・・参りました」
ケビが口惜しそうに唇を噛んだ。
「いえ、私の方こそでたらめな戦い方しかできず申し訳ありません」
「いやこちらこそ勉強になりました。より精進しなければなりませんな」
「これからは船乗りだからといって剣術を疎かにせず、まともに握れるよう努力します。よかったらまた手合わせしてくだせぇ」
「それはこちらとしても願ったりです。ぜひお願いします」
二人は握手すると笑顔で分かれた。
「第二試合、勝者左翼大隊三番隊隊長、ピエタリ・ドルスン卿!」
勝ち名乗りが上がると水兵たちが屯する一画から歓声が起こった。
ピエタリがその声に応えるように右腕を上げると、それは大歓声へと変わる。
「ちょっと彼奴らはルーベルトとは違う意味で異質だな」
「そ、そうですね。何というか、・・・・海賊? みたいな?」
品のない野卑た声が上がるのを聞いたリーディアは、若干顔を引きつらせながらも何とか言葉を濁そうとするものの、諦めたか最後はそのままを口にするのだった。
「くくっ、ここでは遠慮する必要はない、思った事を口にすればいい。ユーリを見て見ろ、あれだけ俺に暴言を吐きながらピンピンしてるだろ?」
トゥーレは笑顔を浮かべながら、正面で出番を待つユーリを顎で示した。
ユーリの配下には特に抗夫出身の者が多い事もあり、他と比べて言葉遣いの乱れは酷かった。ユーリらはトゥーレの護衛を務めていた頃にシルベストルから直接言葉遣いを矯正させられたが、トゥーレ自身がそれを嫌ったため公的な場以外では言葉遣いは自由としていた。それが影響したのか今ではクラウスやヘルベルトですらトゥーレに遠慮する事なく冗談を飛ばすようになっていた。
また今回は一般兵が大勢見物している訓練場でおこなわれているため、より直接的な言葉が飛び交っていた。流石にトゥーレらに対して下卑た言葉遣いをする事はなかったが、この試合に当てられたのか興奮した様子で普段より乱暴で下品な言葉遣いが増えてきていた。
「第三試合、右翼大隊二番隊隊長、ヘルベルト・ニグス卿」
「おう!」
気合い十分といった様子のヘルベルトが進み出た。
「左翼大隊三番隊隊長、ピエタリ・ドルスン卿」
疲れた様子を見せずにピエタリが仁王立ちする。
「お前とは一度戦ってみたいと思っていた」
「奇遇ですな。私もです」
訓練場中央で睨み合いながらお互いニヤリと凶悪な笑みを浮かべた。
いよいよ試合は三戦目を迎え、ますます盛り上がってきた。
訓練場には噂を聞きつけたのだろう、見物する人数がどんどん増えてきていた。今や兵だけでなく文官の姿も多く見える。
「第三試合、始め!」
開始の声と共に飛び出したのは、やはりピエタリだ。
第二試合の再現を見ているかと思う程、一気に距離を詰めたピエタリが怒濤の攻めを見せた。
ヘルベルトは巧みな剣裁きでピエタリの攻めを悉く受け流していく。
「いけぇ親方!」
「ヘルベルト様っ!」
ハイレベルな攻防に観客の声援が重なる。
強靱な足腰を活かしたピエタリがトリッキーな動きで攻め立てるが、ヘルベルトも負けてはいない。相手の手数の多さに攻勢に出る事はできないが、焦れる事なく冷静に対処して裁いていく。
「二人ともすげぇ・・・・」
何時果てるとも知れない戦いに観客は固唾を飲んで見守り、訓練場はいつの間にか木剣の打ち合う音だけが響いていた。
「くっ!」
一見一方的に攻めているように見えるピエタリだったが内心焦りを浮かべていた。どれだけ攻め立ててもヘルベルトを押し切れないどころか、守りを崩すことすらできなかったからだ。
それどころか彼の攻めに慣れてきたのか、手数は少ないものの時折ヘルベルトが攻勢に転じるようになってきていた。
その変化は周りで見物している者たちにも感じ取れ、徐々に訓練場の緊張感が増してきていた。
「そろそろ終わるぞ」
トゥーレが誰ともなく呟く。
その声にリーディアは、より戦いへと集中するように前方を睨み付ける。
その瞬間、ヘルベルトがいきなり攻勢に転じた。
「ちっ、くそったれ!」
ピエタリは防御に徹しながら悪態を吐く。
元より剣術ではヘルベルトには敵わないことは分かっていた。
幼少期から剣を握っていたヘルベルトと違い彼は漁師だ。技術でも経験でも現時点では圧倒的な差がある。だから相手が反撃に出る暇もないほど攻め立てて一気に勝負にいったのだ。しかしケビ相手には通用したが、流石にヘルベルトを攻め崩すまではいかなかった。
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