3 / 3
エピソード0-3 完結
しおりを挟む
男と名乗った者は、二十歳くらいの人間に見える。
右腰に魔道具?
左腰に細身の刀。
蒼い光を放つ左目は魔眼だろうか?
そして、銀色の金属製の首輪をしていた。
ウエストは細く、ヒップは小ぶりなプリケツをしている。
バストは、まったくない。
顔は良く見えないが、女性と言われればそう見える。
魔人だろうか?
ドラゴンの10倍ブレスは、その男の背中で霧散してしている。
「ありえない」
魔法が強制的に分解されているように見える。
男はドラゴンに向き直り、左手を伸ばし手のひらでブレスを受け止めている。
「ドラゴンの吐く炎って、本物の火じゃなくて魔法の火なんだな」
白い火焔は霧が晴れるように大気に溶け込んでいく。
「おれに魔法は届かない」
突然現れた男に10倍ブレスを消されてしまい、怒りで全身から殺気が溢れるドラゴンが唸り声を上げる。
「あ“💢
文句あんのか?
おれも、おまえのせいでウサギを食い損ねたんだ」
男が殺気を返すと、ドラゴンの唸り声が止んだ。
そして、男は思い出したように呟いた。
「そういえば、女神に言われていたな。
女神に助けを乞う者がいれば、女神の全権代理人として助けよ.....と」
男が傭兵達に視線を向ける。
「おまえ達が、女神に祈った者か?」
場違いな問いに皆が唖然とする中、トリィがすがるように答えた。
「そうです」
「.....そうか」
納得したように答えると、男は無造作に首輪を外した。
男の首にあった銀色の金属製の首輪が外された時、辺り一面の魔法が解除された。
「魔法が、強制解除.....いえ、これは分解?」
傭兵達が使う魔法が消えて無くなった。
魔道具も機能していない。
周囲のマナも活動を停止している。
この世界から色が無くなってしまったと感じるほど、魔法が消えてしまった。
「こんな天変地異みたいなことが、本当にあるのか?」
チャードは現実を受け入れられずにいた。
「ドラゴンの魔法も無くなっている」
ルーコラが驚いて叫んだ。
確かにドラゴンの様子が変わっている。
赤い光を放っていた鱗は、その光を失って煤けた赤になっている。
翼は小さく萎れてしまい、もう炎を纏うことはない。
息を吸い込んでブレスを放とうとしても、出るのは掠れた息遣いだけだった。
狼狽えて後ろに下がるドラゴン。
「こんなドラゴンは初めて見た」
普段無口なバキバキも興奮している。
「じゃあ、次はおれの番だな」
男は大きく左右に手を広げた。
轟!
風の唸りが聞こえる。
男が手のひらで風を吸い込んでいる。
周囲の空気を全て吸い込む勢いで、男は風を取り込んでいる。
「マナを吸い込んでいるの?」
トリィも興奮している。
手を握り締めると風の流れは収まり、男の拳が光を放つ。
集めたマナを変換して、両手の拳に集約させているようだ。
「トカゲの分際で、なにデカい顔してるんだ」
ドラゴンに無造作に歩み寄る男を、ドラゴンが牙で迎撃する。
男が右の拳で、ドラゴンを力任せに殴り付ける。
衝撃音とともにドラゴンの頭が後方に弾かれ、身体も首に引っ張られて吹き飛ばされた。
階段室の壁に叩き付けられたドラゴンが、頭を振りながら体勢を整える。
「彼は魔王なの?」
ルーコラの言葉に皆の心が凍える。
どう見ても、人間の限界を超えている。
再度挑むドラゴンに対して、男は左の拳でドラゴンの頭部を床に叩きつけた。
床に打ちつけられた反動で上を向いたドラゴンの頭が、もう一度ゆっくり床に落ちてきた。
脳震盪を起こしたドラゴンは、ふらふらと立ち上がり距離を取る。
魔法を封じられ飛ぶこともできず、生まれて初めて恐怖を感じているようだ。
ドラゴンにとどめを刺すべく、男が鞘から刀を抜く。
「あれは魔剣ではないですよね?
どうやって斬るんでしょう?」
細身の刀身は、それほど強度があるようには見えない。
「いくらなんでも、力任せに斬れる相手じゃないだろう?」
男は刀身を水平に構えた。
右手で刀の柄を握り、左手の人差し指と中指を刀身に当て気を込める。
「マナが......いえ、もっと初源的な力が彼と刀身を巡っています」
刀に気が満ちていく。
更に気を込めると、刃から気が溢れてくる。
溢れた気の密度が上がると、それは次元に歪を生じ始めた。
ガラスが割れるような音が響いた。
刀身に並行して黒い次元断層が発生した。
今、次元刀が顕現したのだ。
ゆっくりとドラゴンに歩み寄る。
男が刀を振り上げると同時に、次元刀が長さを増す。
ドラゴンが牙を剥いて唸り声を上げる。
容赦なく振り下ろされる次元刀が、ドラゴンの首を斬り落とす。
心臓の鼓動に合わせて、切り口から鮮血が迸る。
転がり落ちたドラゴンの首は、男を睨みつけて動かなくなった。
ドラゴンの身体もゆっくりと床に崩れ落ちた。
「本当に斬り落とした」
次元刀を解除して、刀を鞘に納め、男がゆっくりと傭兵達に近づいてくる。
傭兵達に不安が募る。
「どうしますか?」
「.....ドラゴンを倒す相手に、どうすることもできないだろう」
男がゆっくりと言葉を発した。
「おれは玉響(たまゆら)。
女神の全権代理人だ。
おまえ達の魔法を使えるようにするから、ちょっと待て」
玉響と名乗った男は、先程外した銀色の金属製の首輪を拾い、首にカチリとはめた。
今まで白黒のように感じていた世界に、突然色が溢れ出した。
消失していたマナが活性化している。
魔力が身体を巡っている。
また、魔法が使えるようになった。
玉響が傭兵達の前に立ち、真剣な表情で言葉を吐いた。
傭兵達は、固唾を飲んでその言葉を聞いた。
「おれは今、とってもはらぺこだ」
予想外の言葉に、傭兵達の頭が追いつかない。
「.....はらぺこ?」
その言葉を補足するように、腹の虫が大きな声で鳴いた。
エピソード0 完
右腰に魔道具?
左腰に細身の刀。
蒼い光を放つ左目は魔眼だろうか?
そして、銀色の金属製の首輪をしていた。
ウエストは細く、ヒップは小ぶりなプリケツをしている。
バストは、まったくない。
顔は良く見えないが、女性と言われればそう見える。
魔人だろうか?
ドラゴンの10倍ブレスは、その男の背中で霧散してしている。
「ありえない」
魔法が強制的に分解されているように見える。
男はドラゴンに向き直り、左手を伸ばし手のひらでブレスを受け止めている。
「ドラゴンの吐く炎って、本物の火じゃなくて魔法の火なんだな」
白い火焔は霧が晴れるように大気に溶け込んでいく。
「おれに魔法は届かない」
突然現れた男に10倍ブレスを消されてしまい、怒りで全身から殺気が溢れるドラゴンが唸り声を上げる。
「あ“💢
文句あんのか?
おれも、おまえのせいでウサギを食い損ねたんだ」
男が殺気を返すと、ドラゴンの唸り声が止んだ。
そして、男は思い出したように呟いた。
「そういえば、女神に言われていたな。
女神に助けを乞う者がいれば、女神の全権代理人として助けよ.....と」
男が傭兵達に視線を向ける。
「おまえ達が、女神に祈った者か?」
場違いな問いに皆が唖然とする中、トリィがすがるように答えた。
「そうです」
「.....そうか」
納得したように答えると、男は無造作に首輪を外した。
男の首にあった銀色の金属製の首輪が外された時、辺り一面の魔法が解除された。
「魔法が、強制解除.....いえ、これは分解?」
傭兵達が使う魔法が消えて無くなった。
魔道具も機能していない。
周囲のマナも活動を停止している。
この世界から色が無くなってしまったと感じるほど、魔法が消えてしまった。
「こんな天変地異みたいなことが、本当にあるのか?」
チャードは現実を受け入れられずにいた。
「ドラゴンの魔法も無くなっている」
ルーコラが驚いて叫んだ。
確かにドラゴンの様子が変わっている。
赤い光を放っていた鱗は、その光を失って煤けた赤になっている。
翼は小さく萎れてしまい、もう炎を纏うことはない。
息を吸い込んでブレスを放とうとしても、出るのは掠れた息遣いだけだった。
狼狽えて後ろに下がるドラゴン。
「こんなドラゴンは初めて見た」
普段無口なバキバキも興奮している。
「じゃあ、次はおれの番だな」
男は大きく左右に手を広げた。
轟!
風の唸りが聞こえる。
男が手のひらで風を吸い込んでいる。
周囲の空気を全て吸い込む勢いで、男は風を取り込んでいる。
「マナを吸い込んでいるの?」
トリィも興奮している。
手を握り締めると風の流れは収まり、男の拳が光を放つ。
集めたマナを変換して、両手の拳に集約させているようだ。
「トカゲの分際で、なにデカい顔してるんだ」
ドラゴンに無造作に歩み寄る男を、ドラゴンが牙で迎撃する。
男が右の拳で、ドラゴンを力任せに殴り付ける。
衝撃音とともにドラゴンの頭が後方に弾かれ、身体も首に引っ張られて吹き飛ばされた。
階段室の壁に叩き付けられたドラゴンが、頭を振りながら体勢を整える。
「彼は魔王なの?」
ルーコラの言葉に皆の心が凍える。
どう見ても、人間の限界を超えている。
再度挑むドラゴンに対して、男は左の拳でドラゴンの頭部を床に叩きつけた。
床に打ちつけられた反動で上を向いたドラゴンの頭が、もう一度ゆっくり床に落ちてきた。
脳震盪を起こしたドラゴンは、ふらふらと立ち上がり距離を取る。
魔法を封じられ飛ぶこともできず、生まれて初めて恐怖を感じているようだ。
ドラゴンにとどめを刺すべく、男が鞘から刀を抜く。
「あれは魔剣ではないですよね?
どうやって斬るんでしょう?」
細身の刀身は、それほど強度があるようには見えない。
「いくらなんでも、力任せに斬れる相手じゃないだろう?」
男は刀身を水平に構えた。
右手で刀の柄を握り、左手の人差し指と中指を刀身に当て気を込める。
「マナが......いえ、もっと初源的な力が彼と刀身を巡っています」
刀に気が満ちていく。
更に気を込めると、刃から気が溢れてくる。
溢れた気の密度が上がると、それは次元に歪を生じ始めた。
ガラスが割れるような音が響いた。
刀身に並行して黒い次元断層が発生した。
今、次元刀が顕現したのだ。
ゆっくりとドラゴンに歩み寄る。
男が刀を振り上げると同時に、次元刀が長さを増す。
ドラゴンが牙を剥いて唸り声を上げる。
容赦なく振り下ろされる次元刀が、ドラゴンの首を斬り落とす。
心臓の鼓動に合わせて、切り口から鮮血が迸る。
転がり落ちたドラゴンの首は、男を睨みつけて動かなくなった。
ドラゴンの身体もゆっくりと床に崩れ落ちた。
「本当に斬り落とした」
次元刀を解除して、刀を鞘に納め、男がゆっくりと傭兵達に近づいてくる。
傭兵達に不安が募る。
「どうしますか?」
「.....ドラゴンを倒す相手に、どうすることもできないだろう」
男がゆっくりと言葉を発した。
「おれは玉響(たまゆら)。
女神の全権代理人だ。
おまえ達の魔法を使えるようにするから、ちょっと待て」
玉響と名乗った男は、先程外した銀色の金属製の首輪を拾い、首にカチリとはめた。
今まで白黒のように感じていた世界に、突然色が溢れ出した。
消失していたマナが活性化している。
魔力が身体を巡っている。
また、魔法が使えるようになった。
玉響が傭兵達の前に立ち、真剣な表情で言葉を吐いた。
傭兵達は、固唾を飲んでその言葉を聞いた。
「おれは今、とってもはらぺこだ」
予想外の言葉に、傭兵達の頭が追いつかない。
「.....はらぺこ?」
その言葉を補足するように、腹の虫が大きな声で鳴いた。
エピソード0 完
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる