聖女の加護

LUKA

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「・・・好きだ・・・」
 手はピンクに染まる頬から細い首筋へ下り、華奢な肩の終わりまで滑ると、近くへ引き寄せられたネルは、ダンスを踊っているかのように、頬と頬を合わせたアッシュの囁きを耳の中に聴いた。
 囁きは実に甘美かつ蠱惑的で、これほどまで強く人を魅了する言葉を聴いたことがなかったネルは、それこそ強い酒に酔ってしまったかの如く、心地よい気分がフワフワ朦朧として、有頂天だった。
 空いた片手はアッシュのもう片方の手で絡み取られ、男の骨ばったごつごつした指を感じ取るだけで、期待と欲望が入り混じったものが頭の中で弾け、もう何が何だか分からないネルの困惑は凄まじかった。
 狂ったように拍を急速に刻む胸が張りつめて痛い。
 この辛く悩ましい苦しみから解放されるなら、それこそ彼女は死ぬ以外恐らく何でもしただろう。
 「・・・好きだ・・・、ネル・・・」
 アッシュは囁きを繰り返し、耳から顔の輪郭にかけて優しく食むように口づけを重ねた。
 「・・・あっ・・・♡♡」
 唇は熱く、情熱的であるにもかかわらず、キスは非常に繊細で豊かな愛情に富み、ネルはため息にも似た甘い吐息を自然と漏らした。
 「あっ・・・♡♡ふぁ・・・っ♡♡」
 時折、緩急をつけた唇が彼女の白い首筋をそっと触れるだけでなく、跡を残さんばかり強く吸い付いたりして、大いに翻弄されたネルはただひたすら、感じた身体を揺することしかできなかった。
 「ん・・・♡♡んッ・・・♡♡」
 甘美な口づけは首の付け根から鎖骨辺りまでゆったりと下り、もどかしさを感じたネルは欲望と自制の間で揺れた。
 「――・・・あぁ・・・っ♡♡」
 唇が淡紅色の実へ触れたとたん、痺れる鮮烈な快感に貫かれたネルは堪らず仰向き、大胆な吐息を漏らした。
 「~~~♡♡ひぅ・・・っ♡♡!」
 立てた歯で軽く甘噛みされると、ネルはそれこそ泣きたくなるくらいの快感に見舞われた。
 「・・・~~」
 アッシュはじれったそうに、闇色のマントを真紅の床へかなぐり捨てると、残ったチュニックの裾へ手を掛けて、一息に脱いでしまおうと試みた。
 「・・・待って・・・!」
 びっくりしたネルは、気づいた時には叫んでいた。
 しかしながら、黒衣はあっという間にアッシュの黒い頭から脱ぎ去り、後には鋼のように鍛え抜かれた男の重厚な肉体が残った。
 「・・・――!」
 「待たない」
 アッシュは一言告げると、大いに驚くネルの唇をまたしてもかっさらい、彼女もろとも紅い寝台の上へ押し倒した。



鋭敏な獣の本能のように、何かを感じ取ったリサイクルの目が急に見開かれた。
 それが何だったかは分からなかったものの、起きたばかりの老執事は主人の帰還を直感的に悟った。
 昨夜はまるで悪夢のような一晩だった・・・。
 それというのも、一時は偽者かと危うんだ聖女をせっかく捕まえたというのにもかかわらず、みすみす迷いの深林へ逃がしてしまったからだ!
 全く、アッシュ様はお優しすぎる!
 取り返しのつかない失態をしでかしたピケに対して何の咎めもなしに、自ら行方をくらましたネルを探しに夜の森へ行かれるなど、全くもって甘すぎる!
 とはいえども、アッシュ様は本当に聖女を探し当てられたのだろうか?
 本当に、あれほど聖女なぞ生かしておいてはろくなことにならないと、ご忠告差し上げたのに・・・。
 そうだ!舌!
 唐突に、主人の魔法で消された舌を思い出したリサイクルは、ハッと我に返った。
 したがって、老ゴブリンは急いで布団から出ると、隣の小部屋へあらん限りの早歩きで、ちょこちょこと急いだ。
 しかし、はじめから洗面所の石壁には鏡ははめられておらず、リサイクルは慌てるあまり、事実を忘れていたことに気が付いた。
 「~~~」
 苛立たしいやら歯がゆいやらで、苦い表情の老ゴブリンは、元いた寝室へ舞い戻った。
 そして次は、衣装ダンスの取っ手に手をかけると、彼はまたしても目論見が外れたことを思い知った。
 「~~~!」
 むしゃくしゃしながら開けた扉を閉じると、ようやく、鈍い飴色に光る鏡台へちょこちょこと赴き、慣れた仕草で背の高い椅子へ乗り込んだ。
 ひび割れ薄汚れた鏡の中には、禿げあがった額に醜いコブを設けた、黒目のずれた滑稽な老魔物が映っていた。
 意を決し、リサイクルは古ぼけた鏡に向かって、舌を口から出してみた。
 「・・・!」
 ・・・ある!
 昨夜、アッシュに消された舌がある!
 今更のように、老いたしもべは鏡に映った赤い舌をまじまじと眺めた。
 こうしてはいられない!
 早速、帰ってきたアッシュの無事を確かめて、彼が偉大な恐怖を持って世界を牛耳るための供物である、真の聖女を再び、手中に収めているかどうかを、この目で見なければならない!
 よって、この急を要した老ゴブリンは、あらん限りの早さで身支度を済まし、あらん限りのちょこちょこ歩きで、城内を駆け巡った。
 食堂ダイニングホール。――いない。
 厩。・・・いない!
 作業場。――いない!!
 とすれば残るは・・・寝室!
 老骨にムチ打ちながら、リサイクルは小さな歩みをえっちらおっちら寄せて、主人の寝室へ向かっていった。
 いつも通り、寝室への扉は固く閉ざされていて、取っ手は彼の中途半端に梳かした白髪頭の遥か上だ。
 「~~くっ・・・」
 革靴のつま先で立ち、長い褐色の爪を生やした指を懸命に伸ばすが、努力虚しくも届かなかった。
 ああもう、何てじれったいのだろう!
 こんな時、もしアッシュと同じ高度な魔法さえ使えたなら、こんな戸一枚粉々にしてやるのに!
 イライラと募る焦燥のあまり、リサイクルは地団駄を踏んだ。
 「アッシュま!?お帰りでか~!?」
 厚い扉に向かって、切羽詰まったリサイクルはしゃがれ声をかけた。
 「・・・」
 しかし当然のことながら、扉の奥からは無言の応答が返ってきた。
 主人は城から逃げ出した聖女を連れて帰っているのだろうか!?いないのだろうか!?
 気になるあまり、居ても立っても居られない老魔物は、やきもきした。
 「アッシュまー!聖女ネルめはどうないましたかー!」
 彼と主人を隔てる板を拳でうるさく打ち鳴らしつつ、焦ったリサイクルは答えを求めた。
 だがしかし、扉は依然と静かな沈黙を貫き、まるで関わってくれるなと言わんばかり、老執事の前に冷たく立ちはだかっていた。
 「~~~!!」
 焦りと懸念ゆえに斜視の黒目がぎょろぎょろと回り、興奮したリサイクルの禿げ頭に熱い血が上った。
 「アッシュまー!いいでか、お戻りなのは分かっているのでからね!このリイクルめが老いぼれているからといって、なめないでくだいまこえていまか、アッシュま!知らんぷりしたってうはいん!こちらにも考えがあるんでよ!ニーをここへ呼んで、こじ開けてやりまから!!あの疎ましいい女めは、お捕まえになったのでかー!?」
 すると、興奮したリサイクルの目の前、閉ざされた扉の上に文字が浮かび上がった。
 「『・・・うるい・・・。邪魔をるな・・・?』」
 リサイクルはずれた瞳で、扉に浮き上がった文字を読み上げた。
 やはり彼の睨んだとおり、主人アッシュは寝室にいるのだ!
 「邪魔者だろうと、れこ小うるい老魔物だろうと何だろうと構いまん!アッシュま、ネルは!あの卑しいい女めはこにいるのでかー!?」
 ああ、さながらうるさい蠅のようにまとわりつく、彼は何といううっとうしい従者だろう!
 扉の向こう側、アッシュは太鼓のようにけたたましいノックを聞き流しながら、赤いベッドの上で恥じ入るネルを寵愛した。
 彼の筋肉質な腕の中にすっぽりと収まってしまう小柄な肉体は、全身を駆け巡る熱い血によって汗ばみ、彼の愛撫を必死に拒もうとするが、土台かなう訳がないのだ。
 ああ、どこもかしこも滑らかで柔らかい!
 絹糸のようなクリーム色の髪の毛も、汗が弾ける熱い肌も、尖りを帯びた胸の頂も、豊潤な雨にしっとりと濡れた花園も、彼女のすべてが愛おしい!
 時折か細い懇願の声が小さく漏れ出はするものの、女は火の点いた雄から抗い逃げる術を持ちえないのだ。
 指は自然と芽吹いたばかりの淫靡な花芽を捉え、官能的な悲鳴をよそに、擦り切れてしまうまで摘まみ取ってしまうのだった。
 「やだ・・・っ♡♡離して・・・っ♡♡!」
 「いいや、離してやるもんか。お前は俺のものなんだ、ネル。俺は可愛いお前を味わい尽くす権利がある」
 「~~いや・・・っ♡♡!ゆび、止めてぇ・・・っ♡♡!」
 「信じられないな。そう言うお前は俺の指で何度達した?」
 「――♡♡!やめ・・・♡♡!ゆび、つよ・・・っ♡♡!」
 「カマトトぶるのはよせ。白状するんだ、お前は俺の指が好きだろう?」
 「ん♡♡だめ・・・♡♡!またイっちゃ・・・♡♡!―――~~~♡♡!!」
 「ああ、ネル。お前は最高だ・・・。お前の果てる姿は何回見ても飽き足らないどころか、この俺を捉えて離さない。俺はお前について満足を知らない・・・」
 「――ん♡♡!んむ・・・っ♡♡!」
 先ほどからずっと、彼女ばかりが悦楽の果てへ追いやられているために、息も絶え絶えのネルの口は何度となく塞がれ、涙が独特の苦しさゆえに眦からポロリと零れ落ちた。
 男の熱烈な求愛は、女のなけなしの気力さえも根こそぎ奪い取り、頭の芯はおろか、身体の芯もすでにぐずぐずにとろけてしまい、機能は全然果たされていなかった。
 「・・・ネル・・・、好きだ・・・。俺の名前を呼べ・・・」
 「~~・・・ア、アッシュ・・・っ」
 「ネル・・・。俺にもっとお前を教えてくれ・・・。お前のここ・・を――、お前はどうすれば喜ぶのか教えてくれ・・・」
 「!」
 と、ネルのひどく驚いたことに、アッシュの角ばった長い指が彼女の狭い泥濘を分け入り、甘い秘密に満ちた深部を探っているではないか!
 「あん・・・ッ♡♡っそこ・・・♡♡だめぇ・・・ッ♡♡!」
 「ネル・・・。俺はお前ほど嘘が下手な奴を見たことがない。お前が口では嫌がっても、お前の淫乱なここは俺を嫌がるどころか、もっと奥まで来いと、誘うように蠢いている」
 「~~っやだ♡♡!擦っちゃいや・・・ぁっ♡♡!」
 指は女の空洞をこじ開けたが最後、滑る肉壁を押し退け、ひそやかな最奥まで行きついては、敏感な先端・・を掠めた。
 「も、やめ・・・♡♡あっ♡♡!あん♡♡!おかしくなっちゃ・・・~~♡♡!」
 「おかしくなるんだ、ネル。好きなだけ乱れろ。俺の指でおかしくなったお前ほど、俺を惹きつけてやまないものはない」
 「~~お願・・・♡♡!やっ、そんなにしたら・・・♡♡!イっ―――~~~・・・♡♡!!」
 凄まじい快楽の爆発の前では、ネルはためらいをも一瞬で吹き飛ばされることを知った。
 それこそ何も考えることができなくなるくらい、頭の中は真っ白に塗りつぶされ、絶頂のとてつもない威力は電気を帯びた荒波となって、身体の隅々まで痺れ行き渡った。
 めくるめく悦楽の波に、幾度となくもまれた身体は甘い痺れに鈍くなり、同時に歓喜の悲鳴を上げていた。
 溺れてしまいそうなほど愛され、火照った女の肉体は完熟して、男を惑わす甘い香りをはち切れんばかりに放っていた。
 これは甘美な罠だ。
 アッシュはネルを籠絡するつもりが、逆に彼女の底知れない婀娜あだにはまってしまった。
 この食べごろに熟した果実を存分に齧り付け、いや齧り付かなければならないと、アッシュの中で何かがしきりに叫んでいた。
 一呼吸おいてから、ネルはぐったりと力の抜けた背中もろとも、甘い痺れに苛まれた全身が、紅いマットレスの上へ沈みこむことをぼやけた意識で理解した。
 乱れる吐息を整える傍ら、薄く開いた目蓋の内側から見えたのは、汗に濡れた黒髪をかき上げる男のしなやかな裸体と、男の立派な証が見えた。
 「・・・♡♡!」
 伏した灰色の視線は、とろみのある濃厚な蜜が溢れ、雌の顔をむき出しにした、あられもない花芯を捉え、ネルは花芯が目の前の男の雄蕊で埋められていく未来に震えた。
 引き返すなら今しかない。
 嘘泣きでも失神でも、それこそ頬を張ってでも、阻止しなければならない。
 しかしそれは――、阻止するつもりの話であったならば、だが。
 「あ・・・♡♡あ・・・♡♡あ・・・っ♡♡」
 太い管が閉じようとする女の内気な扉をこじ開け、狭い室内をいっぱいに満たしてくる感触が、粟立つ肌を通してゾクゾクと伝わってきた。
 「ネル・・・。俺を見ろ」
 手を鮮やかなバラ色に染まった頬へやったアッシュは、真向かいの碧い目を覗き込んだ。
 「~~~ッッ・・・♡♡」
 ああ、彼女はついに迎えて・・・しまった!
 だがしかし、それにしても、この男の瞳は何と綺麗な銀色をしているのだろう!
 このような時にも拘わらず、定めし魔法にかけられたかの如く、うっとりと見惚れてしまいそうだ。
 「・・・ネル・・・、好きだ・・・。お前の中は居心地がいい・・・」
 アッシュは言うと同時に、腰を器用にくねらせ、ふしだらなリズムを刻んだ。
 瞬間、細かな愉悦の火花がまぶたの裏でちりちりと弾けて、あまりの快さにネルは身動きがとれなかった。
 「やぁ・・・っ♡♡!~~お願・・・♡♡!許して、アッシュ・・・♡♡!~~許して・・・っ♡♡!」
 「~~だめだ、ネル・・・!許してやるもんか。お前のすべてが愛おしい・・・。好きなんだ、お前が!」
 「ん♡♡ん、ん、ン~~~ッッ・・・♡♡!!――らめ、イっちゃ♡♡もうイっちゃ・・・―――♡♡!~~~ッッ・・・♡♡!!」
 ネルは脳天を貫くそれは甘美な稲妻に打たれ、アッシュの逞しい腕に抱かれて思いきり果てた。
 (・・・も・・・だめ・・・♡♡・・・こんなの・・・初めて・・・♡♡)
 このまま甘く痺れた身体を休ませて、度重なる快感の果てのために遠のく意識を風に乗せて、ふわふわと夢の中を漂ってしまいたいところだったが、愛を知った獣の目からは貪欲の光が爛々と灯っていた。
 「まだだ、ネル・・・。もっとだ、もっとお前が欲しい・・・。それこそ俺なしでは生きていけないくらいに、可愛いお前を深く愛したい」
 「ん♡♡・・・でも・・・っ♡♡」
 「――でも?」
 「・・・でも・・・っ。もう・・・、無理・・・っ」
 「無理?何故だ?」
 「・・・だって・・・。こんなに気持ちいいの・・・したことない・・・から・・・っ」
 すると、軽やかな笑い声が真紅のベッドに立ち、アッシュは喜びに目を細めた。
 「まさか拒むどころか褒められるとはな・・・。だめだ、ネル。許さないと言ったろう。俺の命令は絶対だ。お前は俺の求めに応じるしかないんだ・・・」
 「~~・・・そんな・・・!」
 「――ああ、そうなんだ。お前は俺から逃げることなど、できやしないんだ・・・」
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