悪役のちに救世主

犬神まつり

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3. 溢れ出るオーラの持ち主

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  家から歩く事十数分。
  住宅街を抜け、目の前の大通りを挟んだ向こう側に学園へと続く桜並木の下を真新しい制服に身を包んだ新入生達が流れていくのが見えてくる。
 

  その流れに乗って桜舞う一本道を進んでいる時、不審がられるのを承知で辺りを見回してみると、どの生徒も緊張からか顔を強張らせながら背筋をピンと伸ばして真っ直ぐ前だけを見つめて歩いている。
 

 「若いなぁ……」

 私なんてあと数ヶ月で高校卒業の筈だったのに。 また高校の入学式からやり直す事になるなんて思っても見なかった。というか、これでまた高校の勉強が最初からになったのか……。はぁぁぁぁ……。
 

 希望溢れる齢16達に力無く押される齢18。
たかが二年。されど二年の違いだ。あぁ、若者達が眩しい。


ーードンっ。


「きゃっ!」


ふざけてよろけた拍子に誰かにぶつかってしまった。私の方はかなり軽い衝撃だったけど、相手の子は倒れてしまったようだ。


「ごめんなさい!大丈夫です、か……。」



 振り返り様に驚きのあまり思わず体が硬直してしまう。まるでそこだけ月の光が照らしているかのような、そんな圧倒的美少女オーラを放つ少女がすぐ目の前で私を見上げていたから。


 ヒロインだっ!?"鬼まに"の完璧ヒロイン、姫野かぐや!!うそ、本物……っ!?
 体中から一気に嫌な汗が噴き出る。顔から血の気がサァァァと音を立てて引いていくのがハッキリ分かるほど、私は今の状況に動揺していた。


  ど、どうしよう!?とんでもないお方とぶつかってしまった。これでこの綺麗なお顔やお身体の何処かに傷でも付けてしまっては今後の彼女の攻略に影響が出てしまいかねない。


 「ご、ごごごごごめんなさいぃぃぃ!!大丈夫でしたかっ!?!?」


 周りがドン引く程の高速ヘドバンをかまして、立ち上がろうとしている彼女の手助けをしようと手を差し伸ばした。



ーーパシンっ。


 刹那、手に走った痛み。
 何が起こったのか理解出来ずに差し出した手を見ると掌が少し赤くなっていた。
 は、た、かれた……?


 「本当にありえない。この綺麗な体に傷でも残ったら、どうしてくれるわけ?(ボソッ」

「えっ……?」

 
  目の前の天使が俯きながら蚊の鳴くような細い声で何かを呟いた。良く聞き取れなかったけれど、なんでだろう、なんだか少し雰囲気が怖いようなーー。


「……いいえ、大丈夫です。お気遣い、ありがとうございます」


 と思ったが、顔を上げた彼女はまるで花が咲いたかのような満面の笑みだった。そのあまりに可憐な笑顔に周りが少し騒めき立つのが聞こえる。
 そりゃそうだ、こんなに可愛いらしく笑う女子なんてこの世の何処を探してもまず見つからないだろう。流石はヒロインスマイル。女の私ですらつい見惚れてしまうほどだ。


「ごめんなさい。私もちゃんと前を見ていなかったから……貴女のこそ、お怪我はありませんか?」


  申し訳なさそうに眉尻を下げながら彼女は私の手を取ってその小さくて柔らかな手で優しく包んだ。
 あまりに自然に手を取られたものだから拒むことも出来ず、なんだか少し恥ずかしくなって顔を赤くしながらぶんぶんと首を横に降るので精一杯だった。それを見た彼女は「良かった」と笑って手を離す。


 うん、さっき手を叩かれたように見えたのは気のせいだろう。だって彼女はこんなに優しい。今だって一方的にぶつかって来た私に対して咎めるどころか怪我の心配までしてくれて、まるで本物の天使じゃないか。
 彼女のヒロイン力の高さに内心感激していると彼女があれ?っと呟いてグイッと顔を近づけて来た。
 お互いの鼻と鼻がくっ付きそうになるくらい。


「!?」


 ち、近くない?
 えっ、ヒロインってこんなにグイグイ来るもんなの?それとも、これがこの世界の距離感の標準?

 
 「もしかして。貴女、矢田川鈴鹿?」


 「そ、そうだけど」


 「ふーん。そうなんだ」



 私が頷くとなんだか意味ありげに笑うかぐや。
 その笑みはさっきの可憐な笑みとはどこか違って見えた気がしたのだが、きっと、これも気のせいなのだろう……か。
 




 


 



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