悪役のちに救世主

犬神まつり

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5. 迷子のお知らせです。

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「やばい、迷った」


 放課後。
 結局、ぼっちから抜け出す事の出来なかった私は一人で学園内を散策していた。
 食堂に図書室、体育館にガーデンテラス、庭園
あらかた回り終えて、さぁ帰るかと思った所でハッと気が付く。
 あれ、そういえば校門ってどこだっけ。と。


 私が通うことになった鬼まにの舞台でもあるこの学園『私立鬼ヶ島学園』はその名の通り学園の敷地は鬼の顔の形になっており、部位の位置に学園の施設が設置されている。
 

 例えば現在地である庭園だが、ここは鬼の部位で表すと左角辺りに位置している。学園の出入り口になる校門は鬼の首辺りに位置するのでここから少し歩くことになるのだが。


「どっちの方角に進めばいいんだっけ……」


 この学園、かなり敷地が広い。
 更に、この庭園は私の背を悠々と超える高い草花の壁が入り組んでいる造りになっているので不用意に立ち入れば何年も学園にいる先生でも迷うという話を聞いていた。


 乙女ゲームのシナリオ的な問題なのか?
 広大すぎる学園内や出口の見えない庭園で迷子になったヒロインを颯爽と助けるイケメン。二人の恋はそこから始まる。……みたいな感じだろうか。


  悪役わたしが迷ってどうすんだ。


 くっそ。こんなんになるなら道がわかんなくなる前に切り上げとくんだった。ちょっと回るだけなら大丈夫だろうと慢心したせいで校内マップは教室の机の中だ。
 この庭園だって軽く見て回るだけの筈が、珍しい花や面白い花が多くてつい見入ってしまい、気が付けば完全に方向感覚を失ってしまった。

 
暖かい春の風に吹かれて揺れる色取り取りの草花達が美しい庭園も今の私にはただのカラフルな植物の迷宮にしか思えない。


 どうしよう。携帯で学園の事務に電話して救助要請する?と思ったが、そもそも私学園の電話番号知らなかった。こうなったらわかる所に出るまでとことん歩き回ってーー。
 


 グォォォ……グォォォォ……


 静寂を裂くように豪快ないびきの音が庭園に響き渡った。
もしかして、向こうに誰か居る!?
藁にも縋るような思いで花の壁の向こう側を覗くと丁度私がいる反対側にベンチが置いてあり、その上で誰かがお昼寝をしていた。

 男子生徒だろう。顔を制服のブレザーで覆っているから見えないけれど、履いているのがズボンだ。

 気持ち良くお昼寝しているところを起こすのは非常に心苦しいけどこっちも緊急事態だ。ホント、申し訳ないです。


 「あの、すいません」


 寝ている相手の肩を軽く揺さぶって声を掛ける。
 けれど、相手はピクリとも動かない。声が小さかったかもしれない、もう一回ーー。


 ガシッ


 「うわっ!?」


 
 もう一度伸ばした私の手首をいきなり思い切り掴まれる。反射的に手を引っ込めようとしたが、掴まれたままの手首を逆に強く引かれて、私の身体は寝ていた男子生徒に覆い被さるように傾いた。



 「あ"ぁ?……誰だ、お前」

  
 不機嫌そうな台詞共にブレザーがパサリと地面に落ちて、目の前に見覚えのありまくる美男子の顔が現れた。
 

 「酒呑しゅてん  咲夜さくや……」


 一瞬にして頬が引きつる。
 鬼まにの攻略対象にしてタイトル画面のセンターを飾る超メインキャラクター。
 その性格は非常に血の気が多く、好戦的で俺様というガッツリ破天荒キャラ。
  嫌な予感がする。いや、嫌な予感しか・・しない。


 「折角クソ面倒くせぇ授業サボってここまで来たってのにもう人が来やがったのかよ。……まぁいいや。お前、ちょっと相手しろよ」


  「丁重にお断りしまっきゃあっ!?」  


 まだ喋ってる途中なのに、彼は立ち上がり様に掴んでいた私の手を引き上げて無理矢理立たせた後、その手を私の背後で固定して、更に開いた方の手で私の顎を掴んでクイっと上に上げる。
 私は自分の首筋を彼に突き出しているような形で止められて動けない。
 

「……ふーん。まぁ、匂いは悪くなさそうだな」


 
えっ。何これ、なんのプレイ!?
というか、これ悪役じゃなくて、彼女ヒロインのイベントじゃなーー。



 ーーガブッ


「いっ!?」


 
 刹那、首筋に激痛が走る。
 噛まれた。首筋を。酒呑に。
痛さとショックで目の両端から一粒涙が溢れ落ちる。



 「や……めてっ!」


  捕まっていない方の手で彼の胸を押し返すがビクともしない。そうしている間にも、彼の牙が皮膚を突き破って首筋の奥の方へと沈んでいく。そして、そこから流れ出す血液を舌先で舐めとるようにして飲んでいるみたいだ。



 「味もまぁまぁ悪くねぇ。なんか変わった味だが」



 しかも普通に味わってるし。
 なんで。と思ったけど、そういえば鬼まにで鬼は人間の生き血が好物だって言ってたのを思い出した。
 ……つまり、私今捕食されてるって事!?
 

「んっ……っ!」


 さっきから全力で拒絶してるのに、なおもしつこく傷口を舐め続けるこいつに段々と苛立ちが募り始めた。

 
 「やめろって……」


 「あ?」





 「言ってんでしょーがぁぁぁぁ!!」



 バシンッッッッッッ




  私の生きてきた十八年間で、恐らく今日ほど本気でやった事ないだろうと思うくらいの平手打ちが、盛大な音と共に相手の右頬に綺麗にクリーンヒットした。

 

 

 
 


 

 
  



 

 

 

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