暗殺者からの成り上がり 

ケン・G

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王都治安維持部隊

外道

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ウィルの確保失敗から二日が経っていた。あれからウィルは消息をたった。
共犯者と見られる男も殺してしまい何の情報も得られず、任務は完全に失敗に終わった。

「何処に隠れているのかしらね、あの男」

ため息をつきながらラフィアは言った。
その言葉に三人は苦い表情で答えるだけだった。
第一特別班の詰め所は沈んだ空気に包まれていた。それは先日の失敗が原因だった。
西方同盟の王都における資金獲得ルートの解明をするチャンスを潰してしまった。逃した魚は大きい。
トントン、詰め所のドアがノックされた。
ドアに一番近いクガンが立ち上がり開けると白髪をオールバックにした男が立っていた。

「失礼するよ」

男はそう言うと部屋の中へ入った。

「おはようございます、ラース部隊長」

「おはようございます」

「おはようございます」 

男を見た三人は大きな声で挨拶をした。
 
「君達に新しい任務を持って来た……本来なら先の失敗の責任で君達に暇を出しても良かったんだが、私は君達の腕を買っている」

「ありがとうございます、ラース部隊長」

ラフィアが頭を下げた。

「うむ、今回の仕事は今までの仕事より簡単だ……君達が逃したウィルの妻と娘を殺せ、奴らも反王勢力の可能性がある、何せ一家の大黒柱がそうだったのだからな」

「えっ……」

クガンは思わず声を漏らしていた。
その声を聞いたのかラースはすぐに顔を向けた。

「何かね?何かあるのかね?」

今回の作戦、当然ながらウィルの家族にも調べが出ていた。その内容は全くの白だったはずだ。あの日突然決行した理由はもちろん西方同盟の構成員と接触している現場を抑えるのが第一ではあったが無関係のウィルの家族を巻き込まない為でもあった。
彼女らが西方同盟と繋がっている可能性は低い。なら、なぜ殺すのか。
それは、見せしめの為だ。王都治安維持部隊から逃げた者は家族を殺される。

「いえ、なんでもありません」

「そうか、なら良い、君にも期待しているよ」

「ありがとうございます」

終始無表情のラースに戦慄しながらもクガンは礼を述べた。

「何か手を打たれる可能性もある、決行は今日中だ……ウィルの住所はわかるね?ラフィア班長?」

「はい、資料に」

答えを聞いたラースは満足げに部屋を出て行った。
部屋の中の空気は重い。
全員が知っているのだ、ウィルの家族に罪は無いのだと。

「嫌な仕事ね」

最初に口を開いたのはラフィアだった。

「そうですね」

「はい」

続けてレイン、ガーナが答えるがその後の会話は続かない。

「クガン、貴方は出なくても良いわ、内容的に三人もいれば十分よ」

黙っていたクガンに気付いたラフィアが提案した。

「いや、俺だけ手を汚さないでのうのうとしているわけにはいきません」

しかし、クガンはそれを断った。理由は自らが言った通りだった。
覚悟は出来ていた。

「そう、なら来なさい」

ラフィアは静かに了承した。



夕暮れ時の王都。
街は家に帰る者と繰り出す者が交錯し混雑していた。
人混みの通りから外れて暫く歩くと店の少ない居住区域へと辿り着く。
第一特別班はある建物の前に止まる。
二階建てで一階は一面が扉になっていておそらく倉庫になっている建物だ。

「ここ、ね」

「はい」

場所を確認するラフィアとレインの声は重い。
建物の横に階段が伸びており先にはドアがある。おそらく二階に居住しているのであろう。

「行きましょう」

ラフィアが先頭に立ち階段を登りノックした。少しすると中から女が出て来た。おそらく女はウィルの妻だ。

「はい、どちらさまですか?」

女は第一特別班の面々を見て固まった。
その表情は真顔で驚いているようにも恐怖しているようにも、殺意を抱いている様にも見えた。

「な、何の、用ですか?主人はここには、がぁぁぁ」

女が言葉を言い終える前にラフィアは切り掛かった。
左肩から斜めに斬撃を入れられ血潮が噴き出しながら女は倒れた。

「失礼します」

ラフィアはそう告げると第一特別班は家の中へ入っていった。
最後尾のクガンが女の前を通り過ぎた瞬間だった。

「ま、まって、あの子だけは、見逃して」

がっしりと女はクガンの足を掴んでいた。
あの子というのは情報にあったウィルの娘の事だろう。

「殺してあげて、どうせ助からない」

すぐ前のガーナが言った。
クガンは剣を抜いた。しかし手は震えている。
口では一丁前な事を言っていたがクガンは女を殺す事を躊躇していた。
罪のない市民を見せかけの為に手にかける。
それは許される事なのだろうか。
クガンは頭を振る。
成り上がる。その為に、覚悟を決めた。
たとえそれが他人の道を踏み外した外道の道だとしても。
そう、言い聞かせて、女の頭に剣を突き下ろした。

「おねぇちゃん達、誰?」

部屋に入ると小さな少女が首を傾げていた。

「やりますよ」

レインが剣に手をかけるがラフィアが止める。

「私が、やるわ」

思い詰めた暗い瞳のラフィアを見てレインが無言で下がった。

「ママは?ママはどこ?」

少女の問いかけに答える者は誰一人としていない。誰一人として答えられなかった。

「え?」

一瞬の出来事だった。
超速のラフィアの居合によって少女の首が宙に舞っていた。
せめてもの情け、一瞬で苦しみさえ感じない死。
一家団欒の空間はたったの数分で血の海と化していた。

「帰りましょう」

帰り道は全員無言だった。
血を多く浴びたラフィアは街でとても目立ったが一団は無言で歩き続けた。




数日後、ラフィアは夜の街を歩いていた。
治安維持部隊の制服をしっかり着こなした彼女の表情は暗い。
それは先ほどまで行われていた治安維持部隊の会議のせいだった。
第一特別班に対する風当たりは強い。
今まで結果で黙らせてきた、しかし先日の一件をなじられ少し落ち込んでいた。

「はぁ」

ラフィアは見つけたベンチに腰掛けため息を吐いた。
頭に浮かぶのは自分が殺した、少女。
この仕事をすると決めた時、命令さえあれば誰でも殺す覚悟はしていた。
しかし、なにも思わないなどできない。

「うぁぁぁぁぁぁぁぁ」

大声と誰かが走り向かってくる音。目を向けると茶髪の男がラフィアに向かって剣を振り上げながら走ってきていた。

「え……くっ」

咄嗟に腰の剣を抜き男の斬撃を受け止める。
そして男の顔を見たラフィアは目を見開いた。
その男はウィルだった。

「なぜだ、なぜ殺したぁ……関係なかったのにぃ」

ウィルは泣いていた。
ぐちゃぐちゃの顔で、そうラフィアに叫んだ。

「貴方が、逃げたからよ?…だから見せしめに殺した」

ウィルに対してラフィアはそう返した。

「な、あああああああ」

その言葉を聞いたウィルは雄叫びを上げながら剣を大きく振り上げた。
それを見たラフィアはウィルの腹を水平に切りつけながらバックステップ。
ウィルの振り下ろしの斬撃はラフィアの鼻先を掠めたがラフィアは気にする事なく剣を構え、隙だらけのウィルの体に深い斬撃を与えた。
大量の血を出しながら仰向けに倒れるウィル。

「お、れ、が……悪かったのか?、リン、エマ」

ウィルは口から血を出しながら虚空に向かって呟いていた。
ラフィアはそんなウィルに近づき剣を突き立てる構えを取る。

「貴方だけが悪いわけじゃない、一番悪いのは私だから」

ラフィアは剣をウィルの頭に下ろした。
本当はウィルを生け取りにした方が良い。当初の目的は達成されラフィアの評価も少しは回復する。
しかしラフィアは殺した。
もしウィルを生け取りにしたら拷問にかけられあらゆる情報を喋らされた上に殺されるだろう。
これはウィルとその家族に対するせめてもの情けだった。
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