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9話 愛する彼(ドール)ために、就活を決意
ジャージ姿の俺とTシャツに薄いズボン一枚のナナオは、手を繋いで6月のじめじめした曇り空の下を歩いていく。いつも俯いて歩いている俺が、今日はナナオに手を引かれて歩いていく。
スーパーにはすぐにたどり着いた。コンビニより近いのに、面倒くさいという理由で全く訪れていなかった。
「一か月の食費はいくらだったの……?」
「……えっと、今までは料理一切してないし、一か月2万くらい」
「じゃあ、全然余裕だね」
ナナオはそう言って、どんどん野菜を買い物かごにいれていく。米とか色々買って、5000円くらいになった。それを軽々と持ち上げて、袋を肩からかけまくって、
「お金、ありがとう。これで美味しい料理沢山作るね」
「ありがとう、こちらこそ」
小さい身体のどこにそんなパワーがあるのか、ナナオは米袋を抱えてずっしりとした買い物袋を2、3肩からかけている。
「持つよ、ナナオ」
「え?いいよ、幸彦くん、あれ?なんで笑ってるの?」
「いや、土木作業の人みたいに肩に米袋担いで肩に沢山袋下げてるから……あははっ」
「え?いいよ、幸彦くん、あれ?なんで笑ってるの?」
ナナオは、無表情で本当に俺が笑っている理由が分からない様子だった。そんな様子がたまらなく可愛らしくて面白かった。
「持つよ」
「いいよ、買ってもらったし僕が持っていく」
「いいって、ナナオ」
「いやだ、僕が持つの」
そんなことを言いながら、なんだか俺が笑っているのが恥ずかしかったのか。無表情だけど少しすねたような話し方でナナオと俺は帰路についた。家に帰る時間さえ楽しかった。いつも外に出る時は周りの目が気になるのに、今日は2人でいるからか、気にならなかった。
「すぐ作るから、待ってて」
ナナオは、買った物を手早く冷蔵庫にしまっていた。新婚の妻のようだ。俺がいたところで邪魔をしてしまうだけだし、汗をかいたからさっとシャワーを浴びることにした。
それにしても、脱衣所で服を脱ぐ際にはたと手が止まる。
ナナオには、咄嗟に帽子とマスクで顔を隠すようにしたけれど、今日ゴミ捨て場でナナオを拾ったことは……なんとなく誰にも知られたくない。捨てられたものを拾うこと自体は、多分悪いことじゃない、だって捨ててあるんだから。でも、それが550万円のゲイドールで、近所のゴミ捨て場に捨ててあったとなればまた話は変わってくるだろう。
「ナナオは、俺の天使だ」
渡したくない、誰にも。
シャワーを浴びて、着替えて机に座っていると目の前でナナが手際よく料理をしている後ろ姿が見える。
「何作ってるの?」
「たんぱく質を沢山とった方がいいかと思って、唐揚げとお味噌汁と、ご飯と、あとサラダも」
本当に料理ができるらしい、包丁さばきもお手の物といった感じだ。
「……人のあったかい手料理とか、久しぶりだ。ナナオが来てくれてよかった」
ナナオは、唐揚げを揚げながら俺の言葉にぴくりと反応したようだった。
「……僕、前のご主人様のところで本当に、何もお役に立てなくて……料理や家事だけは役に立てるかな、って思ったんだけど。ゲイドールの手で作った料理なんて精子臭くて食べたくないって言われたんだ」
「……」
ぱちぱちと、唐揚げの幸福の香りが俺の部屋に広がっていく。こんな奇跡みたいなことが本当に起きていいのだろうか。ずっとお腹がすくことがなかったのに、匂いを嗅いだだけで俺のお腹がぐうとなった。
「ありがとうって言ってくれて、ありがとう。幸彦くん」
俺は、立ち上がって唐揚げを揚げるナナオを後ろから抱きしめた。
「あ、危ないよ、幸彦くん」
「……ごめんね、でも俺ナナオの手料理なら喜んで食べるよ」
振り返ったナナオは、無表情だったがなんだか泣いているようにも見えた。
ナナオの手料理を食べながら、俺はこの日常をずっと続けていければいいのにと思った。誰かが俺なんかのために手料理を作ってくれる。それがどれだけ幸せなことか。
「ナナオ、俺就活頑張るよ」
「しゅうかつ?」
ナナオは、頭の中で何かを検索するようにぼーっと一点を見つめた。
「仕事を探すことだよ」
先に答えると、ナナオは「ああ」と少し口を開いた。
「クビになっちゃったからね、この先ナナオと生きていくためにお金は必須だし」
そういうと、ナナオは固く口を閉じて俯いた。何かを言いずらそうに言い淀んだ後、ゆっくりと、口を開いた。
「ナナオ?」
「……僕、もう、あの……販売停止になってしまったので、サポートされていない型で、アップデートされるかも、もう怪しくて、回収はされなかったんですけど、何か壊れたりしたら、修理費とか凄くかかっちゃうかもしれなくて」
「うん」
「僕は、僕を拾ってくれた幸彦くんとずっと一緒にいたいけれど、もし僕のことが重荷になるんだったら、早めに廃棄してほしいんだ、幸彦くんに、迷惑かけたくないから」
そういえば、とふと気づかされるほどにナナオはとても人間らしい。他人のことを心配して、優しくて、こんな俺のことを労わってくれる。しかも、今日会った俺の金銭面のことまで心配してくれるなんて。
「ナナオ、立って」
「……うん」
俺は、テーブルを挟んだナナオのところまで歩いて、無表情のまま立っているナナオを抱きしめた。
「幸彦くん?」
「ナナオ、ありがとう。俺は、ナナオとずっと一緒にいたいんだ。だから仕事探して、働いてナナオが病気になっても大丈夫なように頑張るから、廃棄してほしいなんて言わないでくれ」
「……幸彦くん」
「お願いだ、ナナオ。俺がナナオにずっと一緒にいてほしいんだ」
縋るようにナナオを抱きしめると、ナナオも優しく俺の背中に手をまわして、包み込むように抱きしめてきた。
「ありがとう、幸彦くん、僕なんかに優しくしてくれて」
こっちのセリフだよ、ナナオ。“俺なんかに”優しくしてくれて、ありがとう。しばらく俺とナナオは抱き合っていた、ずっとこうしていたいと思った。
スーパーにはすぐにたどり着いた。コンビニより近いのに、面倒くさいという理由で全く訪れていなかった。
「一か月の食費はいくらだったの……?」
「……えっと、今までは料理一切してないし、一か月2万くらい」
「じゃあ、全然余裕だね」
ナナオはそう言って、どんどん野菜を買い物かごにいれていく。米とか色々買って、5000円くらいになった。それを軽々と持ち上げて、袋を肩からかけまくって、
「お金、ありがとう。これで美味しい料理沢山作るね」
「ありがとう、こちらこそ」
小さい身体のどこにそんなパワーがあるのか、ナナオは米袋を抱えてずっしりとした買い物袋を2、3肩からかけている。
「持つよ、ナナオ」
「え?いいよ、幸彦くん、あれ?なんで笑ってるの?」
「いや、土木作業の人みたいに肩に米袋担いで肩に沢山袋下げてるから……あははっ」
「え?いいよ、幸彦くん、あれ?なんで笑ってるの?」
ナナオは、無表情で本当に俺が笑っている理由が分からない様子だった。そんな様子がたまらなく可愛らしくて面白かった。
「持つよ」
「いいよ、買ってもらったし僕が持っていく」
「いいって、ナナオ」
「いやだ、僕が持つの」
そんなことを言いながら、なんだか俺が笑っているのが恥ずかしかったのか。無表情だけど少しすねたような話し方でナナオと俺は帰路についた。家に帰る時間さえ楽しかった。いつも外に出る時は周りの目が気になるのに、今日は2人でいるからか、気にならなかった。
「すぐ作るから、待ってて」
ナナオは、買った物を手早く冷蔵庫にしまっていた。新婚の妻のようだ。俺がいたところで邪魔をしてしまうだけだし、汗をかいたからさっとシャワーを浴びることにした。
それにしても、脱衣所で服を脱ぐ際にはたと手が止まる。
ナナオには、咄嗟に帽子とマスクで顔を隠すようにしたけれど、今日ゴミ捨て場でナナオを拾ったことは……なんとなく誰にも知られたくない。捨てられたものを拾うこと自体は、多分悪いことじゃない、だって捨ててあるんだから。でも、それが550万円のゲイドールで、近所のゴミ捨て場に捨ててあったとなればまた話は変わってくるだろう。
「ナナオは、俺の天使だ」
渡したくない、誰にも。
シャワーを浴びて、着替えて机に座っていると目の前でナナが手際よく料理をしている後ろ姿が見える。
「何作ってるの?」
「たんぱく質を沢山とった方がいいかと思って、唐揚げとお味噌汁と、ご飯と、あとサラダも」
本当に料理ができるらしい、包丁さばきもお手の物といった感じだ。
「……人のあったかい手料理とか、久しぶりだ。ナナオが来てくれてよかった」
ナナオは、唐揚げを揚げながら俺の言葉にぴくりと反応したようだった。
「……僕、前のご主人様のところで本当に、何もお役に立てなくて……料理や家事だけは役に立てるかな、って思ったんだけど。ゲイドールの手で作った料理なんて精子臭くて食べたくないって言われたんだ」
「……」
ぱちぱちと、唐揚げの幸福の香りが俺の部屋に広がっていく。こんな奇跡みたいなことが本当に起きていいのだろうか。ずっとお腹がすくことがなかったのに、匂いを嗅いだだけで俺のお腹がぐうとなった。
「ありがとうって言ってくれて、ありがとう。幸彦くん」
俺は、立ち上がって唐揚げを揚げるナナオを後ろから抱きしめた。
「あ、危ないよ、幸彦くん」
「……ごめんね、でも俺ナナオの手料理なら喜んで食べるよ」
振り返ったナナオは、無表情だったがなんだか泣いているようにも見えた。
ナナオの手料理を食べながら、俺はこの日常をずっと続けていければいいのにと思った。誰かが俺なんかのために手料理を作ってくれる。それがどれだけ幸せなことか。
「ナナオ、俺就活頑張るよ」
「しゅうかつ?」
ナナオは、頭の中で何かを検索するようにぼーっと一点を見つめた。
「仕事を探すことだよ」
先に答えると、ナナオは「ああ」と少し口を開いた。
「クビになっちゃったからね、この先ナナオと生きていくためにお金は必須だし」
そういうと、ナナオは固く口を閉じて俯いた。何かを言いずらそうに言い淀んだ後、ゆっくりと、口を開いた。
「ナナオ?」
「……僕、もう、あの……販売停止になってしまったので、サポートされていない型で、アップデートされるかも、もう怪しくて、回収はされなかったんですけど、何か壊れたりしたら、修理費とか凄くかかっちゃうかもしれなくて」
「うん」
「僕は、僕を拾ってくれた幸彦くんとずっと一緒にいたいけれど、もし僕のことが重荷になるんだったら、早めに廃棄してほしいんだ、幸彦くんに、迷惑かけたくないから」
そういえば、とふと気づかされるほどにナナオはとても人間らしい。他人のことを心配して、優しくて、こんな俺のことを労わってくれる。しかも、今日会った俺の金銭面のことまで心配してくれるなんて。
「ナナオ、立って」
「……うん」
俺は、テーブルを挟んだナナオのところまで歩いて、無表情のまま立っているナナオを抱きしめた。
「幸彦くん?」
「ナナオ、ありがとう。俺は、ナナオとずっと一緒にいたいんだ。だから仕事探して、働いてナナオが病気になっても大丈夫なように頑張るから、廃棄してほしいなんて言わないでくれ」
「……幸彦くん」
「お願いだ、ナナオ。俺がナナオにずっと一緒にいてほしいんだ」
縋るようにナナオを抱きしめると、ナナオも優しく俺の背中に手をまわして、包み込むように抱きしめてきた。
「ありがとう、幸彦くん、僕なんかに優しくしてくれて」
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