ゲイドールを拾った

ガイア

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13話 ナナオのお守り

「行ってきます」

 基本的に、一人でナナオが外に出ることはない。俺が一緒だ。だからこそ、俺が一人で外に出る時は、寂しそうにしているのでいってらっしゃいのキスをする。でも、今日はなんだかもじもじしていて、様子がおかしい。

「どうした?ナナオ、寂しいのか」
「……寂しいけど、あの、これ」

 ナナオが俺に差し出してきたのは、赤い布で作ったお守りだった。

「これ、もしかして手作り?」
「……うん、ちょっと作ってみたんだ。仕事、頑張ってね」

 ナナオが最近俺のシャツのボタンが取れかけているから針と糸を買ってほしいと頼んできたが、まさかそれでこんな素敵なお守りも作ってくれていたとは。

「布は、幸彦くんの服を片付けた時、幸彦くんが捨てるっていっていた服の中で綺麗な布を選んで作ったけど、どうかな」
「……ありがとう、ありがとう、ナナオ。元気が湧いてくるよ」

 俺は、ナナオを抱きしめてキスをした。離れるのが名残惜しくていつもより長くキスをしていると、初めてナナオが俺から顔を離した。

「……遅刻しちゃうよ、いってらっしゃい」

 初出勤だ。俺は少し小走りでアパートからバス停に向かった。
コンビニバイトを辞めて、ナナオと過ごして美味しいご飯を食べたり、セックスという名の運動をしてきたお陰で、歩いて15分ほどのバス停からバスに乗って、職場まで30分。少し緊張と不安はあるが、なんとかバスにも乗ることができたし、大丈夫。

「大丈夫……」

 自分に言い聞かせる。ナナオがくれたお守りを握りしめて職場へと向かった。警備会社は、男性が多かった。俺が一番若くて、後は年上が多い。

「今日からよろしくお願いします」
「若い人が入ってきてくれて助かるよ」

 俺は、ナナオのために精一杯ここで働くことに決めた。コンビニの時は、生きていくために働かなくちゃいけないから仕方なく働いているという感じだったが、ここでは愛するナナオのために、いくらでも一生懸命になれた。

「橘だ、よろしくな。橋本くん」
「よろしくお願いします」

 時間制で交代で、ホテルの見回りなどを行う仕事だが、一緒に回る先輩が気さくな人で嫌な感じがしなかった。
 先輩は、35歳と言っていたが若々しく、気さくに話しかけてくれた。休憩時間は、一緒の休憩の人たちとこじんまりとした休憩室でお弁当を食べることになった。

「橋本くんの弁当、愛妻弁当?」
「……あ、えっと、まあ、はい」
「へえ、いいねえ。俺もそうなのよ、ハニーが作ってくれてさ」

 橘先輩にも、恋人がいるらしいことはなんとなくわかった。

「また始まったぞ、橘のハニーの話は長いから橋本くん、気をつけて」

 はははと笑い声が休憩室に響く。前はシフトの都合上休憩室で一人で賞味期限切れ1日前の弁当を食べていたが、今はナナオの手作り弁当を食べることができる。橘先輩と同様愛妻弁当だ。橘先輩は、俺と違ってがっしりとした筋肉質で、よく笑うし、よくのろける。スポーツマン的な見た目だし、明るいし、警備会社の人たちからも慕われているのがよく分かった。

「今日は仕事の簡単な説明だけで終わっちゃったけど、明日からは実際に現場に入ってもらうから、よろしくね」
「はい、お願いします!」
「元気があってよろしい、よろしく!」

 橘先輩は、親指をたてて歯を見せて笑った。他の先輩もみんないい人そうだった。バスに乗って揺られながら俺はなんだか泣きそうになった。宝物を手繰り寄せるように、ナナオが作ってくれたお守りをおでこの上でぎゅっと握りしめた。

「ああ、大丈夫だ」

 ナナオが来てから、俺の毎日は変わった。灰色の世界から、今窓に映る鮮やかな茜色の空のように色づいた日々が訪れた。

「大丈夫だ」

 自分に言い聞かせているのではない、俺は今安心してそういったんだ。茜色の景色がにじんだ水彩画のように俺の心に溶けていく。俺はこの景色を二度と忘れないだろう。

 バスから降りた俺は、ふと思った。あの時死ななくてよかった、と。あの時というのは明確にいつを指すのかということはない、だってずっと死にたかったから。でも、ナナオが来てから俺は変わった。

「ただいま」

 アパートの扉を開けて、大好きなナナオがぱたぱたと走って俺に抱き着いてくる。

「おかえりなさいっ、お疲れ様」

 顔をあげたナナオは相変わらず無表情だが、子犬のように尻尾を振っているのが見える。可愛い。

「ありがとう、ナナオのお守りのお陰で頑張れたよ」

「……そっか、よかった」
 ナナオは、俺の胸に顔をうずめてきた。可愛い、どうしよう、ここでもうセックスしたい。
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