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15話 初恋の人との再会
「マイハニーが今日も可愛くてさあ」
橘先輩は相変わらず、のろけ話をずっとしてくるけど警備会社の人たちは俺を冷めた目で見たり、学歴で差別したり、罵倒したりしない。3か月前みたいに体調が急に悪くなって休んだりすることもなく、ちゃんと毎日通っていた。仕事で一番重要なのは人間関係なのではないかと思う程に、ここに来てから仕事が楽しいという感覚にまで陥って驚いている。
「宝丸くん、橘、飲みにいかない?」
たまに、会社の人に飲みに誘われるようにもなった。
「……あ、えっと、俺も恋人が待っているので」
「あー、そうそう、宝丸くんにも俺と同じでマイハニーがいるから、飲みにいかないの、一途なんだよ」
数か月たって、なんとなく俺は、橘先輩の「マイハニー」について、一つの仮説を立てている。
「ハニーとは、男子校で出会ったんだよ、ほんと、一目ぼれでさ。大学までストーカーみたいについていって、同じテニスサークル入って、女共に言い寄られているハニーを守るの大変だったんだよ」
「男子校で出会ったんですか」
「うん、隣の席でね」
……。
「橘のマイハニーは、教員だっけなあ」
「いやーほんと、女子にモテてるみたいで、バレンタインのチョコをもらいまくってて、嫉妬しまくりですよ、イケメンだから困っちゃう、俺の前では柴犬みたいなのに」
……。
「マイハニーと最近近くの銭湯行ったんだけど、また俺の知らないところにほくろが増えててさ、なんか嬉しくなっちゃったんだよね」
「あの……」
この会社に就職して半年ほどたった時、たまたま2人だけで休憩に入った時、俺はどうしても気になって聞いてしまった。季節は肌寒い11月後半。コーヒーカップを休憩室に持ち込んでポットでお湯を沸かして温かいお茶やコーヒーを休憩中に飲む季節だ。
こんなことを聞いていいのか、でも半年間ずっともやもやしていた。俺は今だにナナオと外に出る時は手を繋いだりはしない。背中に冷たい汗がつたった。喉がからからになる感覚と、これ以上聞くなと、KEEPOUTの線が口に引かれていくような感覚に襲われた。
「橘先輩のこ、恋人って、その」
「ああ、“男”だよ」
あっさりと、俺が言うのをためらったこと自体が失礼とでもいうように、橘先輩はさらりと表情一つ変えずに答えた。
「……そう、なんですか」
「うん、もしかして宝丸くんのハニーも?」
「……」
高校の時ゲイであるとバラされて、不登校になった時のことが古い映写機で脳内に流れ込んできた。頭がじんわりと痛くなり、背筋が寒くなっていく。
「別に性別なんか関係なくない?好きな人に」
橘先輩は、今日は自分が2人分作ったんだと嬉しそうに話しながら不格好なおにぎりを食べていた。俺は、ナナオが作った弁当を机に置いたまま、俯いた。俺の肩に、がっしりとした温かい手が乗せらせた。橘先輩の手だった。
「俺は、宝丸くんが恋人のことがすごく好きだって話してて伝わってきてたよ、大丈夫大丈夫、結局そこが一番大事じゃない?」
「……好きです」
「えっ、ごめん、俺、恋人がいるから」
「橘先輩のことじゃありません」
俺は、ぐっと込み上げる涙を袖で拭きながら、はっきりと答えた。
「俺、彼が好きなんです」
「うん」
「ゲイドールなんですけど」
「待って、それは予想外だ」
橘先輩は物凄く驚いていたけど、休憩の一時間中泣きながらナナオへの愛を語る俺の話をずっと聞いてくれた。橘先輩の話を半年間聞いていたが、それと同じくらいの熱量で語る一時間だった。
「まだ心の準備ができていないので、職場の他の職員さんには言えませんけど、本当はこんなこと、他の誰にも言えなかったので、聞いてくださってありがとうございました」
「ちょっと驚いたけど、いいってことよ。誰にも言わんし」
ひらひらと手を振る橘先輩に、心が一瞬ざわついた。
「誰にも言わないで」
その言葉は、紙より薄い約束であることを知っている。
「……おはよう、宝丸くん」
その話をした翌日初めて吐きそうになりながら仕事に向かったが、全くもって問題なく、橘先輩は俺に約束した通り、誰にも言わずにいつもの日々が当たり前に過ぎていった。
もうすぐ、1月になり年が明ける。最近ずっと夜更かしをしていたから、眠い。欠伸をしながら、ずきずきと少し痛む指先をすり合わせる。
ナナオと一緒に年を過ごすのは始めてだ。仕事も流石に覚えて安定してきたし、このまま何事もなく年を越せるといいな。そんなことを考えていた俺の胸に、鋭い矢が刺さるような出来事が起きるのが一週間後の12月24日。クリスマスイブだった。
クリスマスイブは、早く帰宅してナナオの作ったクリスマスケーキを食べる約束をしていた。クリスマスプレゼントだって、ナナオに用意していたのだ。
「早く、ナナオに会いたい……!」
こんなにわくわくするクリスマスは初めてだった。クリスマスなんて、俺には関係ないイベントだったから。どうせコンビニでクリスマスケーキを売らされるだけだったし。
でも、今年はナナオが俺にクリスマスケーキを作ってくれる!手作りケーキを食べるなんて初めてだ。少し小走りで家に向かう。
街頭がキラキラと街を照らして、バス停から宝石箱を眺めているようだった。街が、クリスマスというイベントのために着飾っているような、煌びやかで楽しい雰囲気を感じられた。
バス停から降りると、自然と足が速くなる。早く帰って、ナナオに会いたい。いつもそうだ。ナナオが来てから家に帰るのが楽しみになった。
「……幸彦くん」
「……」
「あ、やっぱり幸彦くんだ」
なんで、こんなところに。
そう問いかけようとしたが驚きで声が出なかった。高校の時の面影は確かにあるが、髪をオールバックにしていて、茶髪から黒髪になっている。お腹の大きい髪の長い女性を連れているのもあって、なんだか別人のように見えた。
「僕だよ、覚えてない?橋田だよ、橋田翔太」
橘先輩は相変わらず、のろけ話をずっとしてくるけど警備会社の人たちは俺を冷めた目で見たり、学歴で差別したり、罵倒したりしない。3か月前みたいに体調が急に悪くなって休んだりすることもなく、ちゃんと毎日通っていた。仕事で一番重要なのは人間関係なのではないかと思う程に、ここに来てから仕事が楽しいという感覚にまで陥って驚いている。
「宝丸くん、橘、飲みにいかない?」
たまに、会社の人に飲みに誘われるようにもなった。
「……あ、えっと、俺も恋人が待っているので」
「あー、そうそう、宝丸くんにも俺と同じでマイハニーがいるから、飲みにいかないの、一途なんだよ」
数か月たって、なんとなく俺は、橘先輩の「マイハニー」について、一つの仮説を立てている。
「ハニーとは、男子校で出会ったんだよ、ほんと、一目ぼれでさ。大学までストーカーみたいについていって、同じテニスサークル入って、女共に言い寄られているハニーを守るの大変だったんだよ」
「男子校で出会ったんですか」
「うん、隣の席でね」
……。
「橘のマイハニーは、教員だっけなあ」
「いやーほんと、女子にモテてるみたいで、バレンタインのチョコをもらいまくってて、嫉妬しまくりですよ、イケメンだから困っちゃう、俺の前では柴犬みたいなのに」
……。
「マイハニーと最近近くの銭湯行ったんだけど、また俺の知らないところにほくろが増えててさ、なんか嬉しくなっちゃったんだよね」
「あの……」
この会社に就職して半年ほどたった時、たまたま2人だけで休憩に入った時、俺はどうしても気になって聞いてしまった。季節は肌寒い11月後半。コーヒーカップを休憩室に持ち込んでポットでお湯を沸かして温かいお茶やコーヒーを休憩中に飲む季節だ。
こんなことを聞いていいのか、でも半年間ずっともやもやしていた。俺は今だにナナオと外に出る時は手を繋いだりはしない。背中に冷たい汗がつたった。喉がからからになる感覚と、これ以上聞くなと、KEEPOUTの線が口に引かれていくような感覚に襲われた。
「橘先輩のこ、恋人って、その」
「ああ、“男”だよ」
あっさりと、俺が言うのをためらったこと自体が失礼とでもいうように、橘先輩はさらりと表情一つ変えずに答えた。
「……そう、なんですか」
「うん、もしかして宝丸くんのハニーも?」
「……」
高校の時ゲイであるとバラされて、不登校になった時のことが古い映写機で脳内に流れ込んできた。頭がじんわりと痛くなり、背筋が寒くなっていく。
「別に性別なんか関係なくない?好きな人に」
橘先輩は、今日は自分が2人分作ったんだと嬉しそうに話しながら不格好なおにぎりを食べていた。俺は、ナナオが作った弁当を机に置いたまま、俯いた。俺の肩に、がっしりとした温かい手が乗せらせた。橘先輩の手だった。
「俺は、宝丸くんが恋人のことがすごく好きだって話してて伝わってきてたよ、大丈夫大丈夫、結局そこが一番大事じゃない?」
「……好きです」
「えっ、ごめん、俺、恋人がいるから」
「橘先輩のことじゃありません」
俺は、ぐっと込み上げる涙を袖で拭きながら、はっきりと答えた。
「俺、彼が好きなんです」
「うん」
「ゲイドールなんですけど」
「待って、それは予想外だ」
橘先輩は物凄く驚いていたけど、休憩の一時間中泣きながらナナオへの愛を語る俺の話をずっと聞いてくれた。橘先輩の話を半年間聞いていたが、それと同じくらいの熱量で語る一時間だった。
「まだ心の準備ができていないので、職場の他の職員さんには言えませんけど、本当はこんなこと、他の誰にも言えなかったので、聞いてくださってありがとうございました」
「ちょっと驚いたけど、いいってことよ。誰にも言わんし」
ひらひらと手を振る橘先輩に、心が一瞬ざわついた。
「誰にも言わないで」
その言葉は、紙より薄い約束であることを知っている。
「……おはよう、宝丸くん」
その話をした翌日初めて吐きそうになりながら仕事に向かったが、全くもって問題なく、橘先輩は俺に約束した通り、誰にも言わずにいつもの日々が当たり前に過ぎていった。
もうすぐ、1月になり年が明ける。最近ずっと夜更かしをしていたから、眠い。欠伸をしながら、ずきずきと少し痛む指先をすり合わせる。
ナナオと一緒に年を過ごすのは始めてだ。仕事も流石に覚えて安定してきたし、このまま何事もなく年を越せるといいな。そんなことを考えていた俺の胸に、鋭い矢が刺さるような出来事が起きるのが一週間後の12月24日。クリスマスイブだった。
クリスマスイブは、早く帰宅してナナオの作ったクリスマスケーキを食べる約束をしていた。クリスマスプレゼントだって、ナナオに用意していたのだ。
「早く、ナナオに会いたい……!」
こんなにわくわくするクリスマスは初めてだった。クリスマスなんて、俺には関係ないイベントだったから。どうせコンビニでクリスマスケーキを売らされるだけだったし。
でも、今年はナナオが俺にクリスマスケーキを作ってくれる!手作りケーキを食べるなんて初めてだ。少し小走りで家に向かう。
街頭がキラキラと街を照らして、バス停から宝石箱を眺めているようだった。街が、クリスマスというイベントのために着飾っているような、煌びやかで楽しい雰囲気を感じられた。
バス停から降りると、自然と足が速くなる。早く帰って、ナナオに会いたい。いつもそうだ。ナナオが来てから家に帰るのが楽しみになった。
「……幸彦くん」
「……」
「あ、やっぱり幸彦くんだ」
なんで、こんなところに。
そう問いかけようとしたが驚きで声が出なかった。高校の時の面影は確かにあるが、髪をオールバックにしていて、茶髪から黒髪になっている。お腹の大きい髪の長い女性を連れているのもあって、なんだか別人のように見えた。
「僕だよ、覚えてない?橋田だよ、橋田翔太」
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