深夜のコンビニバイト始めたけど魔王とか河童とか変な人来すぎて正直続けていける自信がない

ガイア

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深夜のコンビニバイト十四日目 吸血姫来店

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深夜のコンビニバイト十四日目。

いつものようにコンビニのゴミ箱を確認に行く時、ふと違和感を覚えて空を見上げる。
何か...今日月、赤くない?

ザアッと風が吹いて、生暖かい風が俺の頰を撫でた。

「風が強いな。さっさとこの溢れかえったゴミを...」

ゴミに気を取られていた俺は、背後に立っていた人影に気がつかなかった。

「そこの人間よ」

声から判断するに、俺より年上の女性の声だった。

「は、はい」

そこの人間よ、その時点で俺は普通の人じゃないという事は大体察した。
ゆっくり後ろを振り返ると、月明かりに照らされて浮かび上がった美しい女性に、俺は目を奪われた。

月明かりに照らされサラサラと流れる銀髪に、胸元の大きく開き、黒いレースが所々に施された豪華なドレス、ドレスとお揃いの赤と黒のレースの扇をひらひらさせながら、切れ長の真っ赤な瞳が俺を捉えて離さなかった。

「妾の名はセルフィッシュ・エゴイスティア。この場所は妾好みのいい香りがする。妾は腹が減ったぞ。お主、その身を持って、妾をもてなすがよい」

白くて美しい手が俺の頰を撫でる。
頭がボーっとして、この人になら従ってもいいかなという気持ちになる。
いや、俺は元々彼女のセルフィ様の下僕だったんだ。
セルフィ様...美しいセルフィ様...セルフィ様万歳...。

「.....はい、仰せのままに」

「ふふ、人間は簡単だな.....この芳醇な香り...やっぱりこの場所から匂ってるようだ...」

セルフィ様は、扇を胸の谷間にしまい、俺の頰をその美しい手で挟んだ。
そして、俺の耳元に朝露に濡れた薔薇の花のような唇を近づける。

「若くて汚れも知らなさそうな純粋そうな男よ.....妾がこれからお前を汚すのだ....」

「はい.....仰せのままに」

「今宵は良い月だ.....いい食事ができそうだな」

愛おしそうに俺の首筋を撫でながら、俺の首元に唇を近づけ、カパッと口を開いた。
開いた口から鋭い二本の歯がギラリと光る。

「では、いただくとし...っなっ!?」

突然、俺は何者かに凄い速さで後ろに突き飛ばされ、セルフィ様は俺から飛び退くように離れた。

「なっ!?なんじゃお主は!?」

風で目がさめるような美しい黒髪がなびいていた。

「あっ...あれ、俺...何してたんだ?」

俺の前に俺を守るように立っていた彼女──目の前の銀髪の女性と同じ赤い、身体のラインが出るようなミニスカートのシャツワンピースに、威嚇するように鋭い鎌の刃先を銀髪の女性に向けていたのは、いつぞやの口裂け女さんだった。

「.....殺す....殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す私のハルに...何気安く触ってるの...?私とハルは恋人同士なのよ?私以外の女がハルに触れて言いわけないじゃない...?死になさい破廉恥ビッチ女!いや、私が殺す今すぐ殺す」

いやなんて?
今なんか、あの、あれ?俺と口裂け女さんが恋人?

ズカズカと銀髪の女性に鎌の刃先を向けたまま近づいていく口裂け女さんに俺は急いで立ち上がって止めるべく突っ込んでいった。

「やめて!やめてください!口裂け女さん!」

「綾女(あやめ)って名前で呼んで」

淡々と言いながら足は全く止まらない口裂け女さんの鎌を持った手を俺は追いついてがしっと掴んだ。

「やめてください!綾女さん!」

「ひゃっ!!」

左手も封じるべく左手も掴んでおいた。

「は、ハル...離して、あの女...許せないのよ。私のハルを...」

「外が騒がしいと思ったら...どうしたんだぃ...」

眠い目をこすりながら店長が店から出てきた。もうこれ色々どうしよう。

店長は、銀髪の女性に向かって鎌を振り上げる女性の腕を掴んで止める俺達の様子を見て、

「村松君、ちょっとこっちきなさい。話がある」

「な、なんですか。あっだめですよ口裂け女さん」

「綾女って呼んで」

「綾女さん、俺が店長と話し終わるまでそのままストップですよ。あなたもそうですよ」

ビシッと銀髪の女性を指差して、俺はちょいちょいと手招きする店長の所に小走りで向かう。

店長は、俺が来るなりなんとも言えない顔をしながら俺に耳打ちした。

「村松君...二人の女性を同時に愛するってのは器用な男でも難しいもんだ」

「...何の話ですか店長」

店長絶対何か勘違いしてるだろ。

「村松君、浮気して修羅場なんだろ...?見かけによらずそういう所だらしないんだね」

「ちっがいます!!店長俺はそんな男じゃありませんからね!!」

「なぁ...お主」

俺は、店長との話に夢中になっていて背後に近づいていた銀髪の女性に気がつかなかった。

「い、いつの間に!?ハルの方に!?ハル!」

口裂け女さんの叫び声が響く中、銀髪の女性は、

「ハァッ...アッ...アァアッ...何だお主、何でそんな...甘く芳醇な香りを放っておるのだ」

息を荒くしながら、店長の太いムキムキの腕に自分の腕を絡めた。
俺は口裂け女さんに引っ張られて口裂け女さんの後ろに回るように施された。

「この妾好みの甘い香り...お主だったのだな...もっと...もっと近くで...妾の目を見ろ...妾の下僕になれ...お前が欲しい」

銀髪の女性はじっと店長の顔を覗き込んだ。

「ハッ!店長!目を見てはいけません!俺はきっとその人の目を見たことで──」

俺の呼びかけは遅かった。もう店長は...。

「クハハッ...妾は吸血鬼の姫...吸血姫、妾に魅了されぬ男などこの世で一人もおらぬのだ。ほら、男よ服を脱いで妾にその身を捧げよ」

谷間から扇をだして余裕の笑みで自分をパタパタと仰ぐ吸血姫に、店長は自らの制服を脱ぎだした。

「て、店長!!だめです!店長!!正気を保ってください!」

俺の呼びかけにも答えず服を脱いだ店長は、白いタンクトップ一枚になって筋肉でのびのびの制服を──そのまま吸血姫の肩にふわりとかけた。

「なっ....!?」

吸血姫は、面食らった様子でパタンと扇を閉じた。

「...そんな乳丸出しの格好じゃ、風邪引きますよ」

「ち、乳丸出しだと!?」

顔を真っ赤にして店長の制服できゅっと胸を隠した吸血姫に、今更なぜ隠そうとするのかと問いたい。

「じゃない!何でお主、妾に魅了されてないのだ!?妾の目を見て催眠にかけたはずでは!?」

「...催眠?よくわかんないが、俺は...その、女の人と目を合わせて話したりとか...できねぇよ。小っ恥ずかしくて」

そう言って店長は、両手で顔を覆った。
奥手な店長(奥店長)キタ!!!!

「なっ!!何だお主は!!こら!みろ!妾の顔をみよ!こら!人と話すときはちゃんと目を見て話せと言われなかったのか!こら!お主!」

そしてそれで催眠にかからず救われた店長に、吸血姫は、岩のような腕を引っ張ったり、ぴょんぴょんと飛んだり、店長の両手を引き剥がそうと引っ張ったりして、頑張っているがびくともしない。
ちょっと可愛い。

ムキー!と地団駄を踏む吸血姫に、店長は、目をそらし続けて会話している。

「妾はお主の美味そうな血の匂いに誘われてこのコンビニに来たのだ」

「お腹空いてるんですかぃ...もうそんな寒そうな格好でこんな時間に出歩いちゃいけませんよ。何でそんなに俺なんかの血が欲しいんですかぃ」

「妾はこの変な世界に来てから一度も血を飲んでない。しかもこの世界の人間はどいつもこいつも血がヤニやら油やらで汚れていて不味そうだ。お主のような美味そうな奴は初めて見た。もう我慢ならん!血を吸わせろ!」

店長を引っ張っていた腕に、吸血姫はガブリと噛み付いた。

「店長!!」

叫んだ俺に、

「いひゃい...いひゃっあっいひゃい」

痛がっていたのは店長ではなく吸血姫の方だった。
痛すぎるのか口を押さえて寝っ転がってのたうち回っている。

「俺の腕...ちょっと筋肉質ですからね。腕を女性に掴まれると余計に恥ずかしくて力入っちゃって」

えへへと笑いあたまをかく奥店長強すぎる。可愛すぎる。

「バカなのかお主は!バカなのか!何だその岩石みたいな腕は!歯が通らぬではないか!妾の歯が折れるかと思ったわ!!」

目に涙を浮かべながら立ち上がり店長を指差しながら吸血姫はめちゃくちゃ怒っていた。

「くぅっ...美味いものにたどり着くには難易度が高かったり、それなりの代償が必要なのだな。ハイリスクハイリターンなのだな...」

「俺...柔らかい部分がないですからね。耳も硬いし...顔も硬いし」

柔らかい部分がないってのはちょっと面白すぎる。
申し訳なさそうにしてるのが余計にじわじわくる。

「吸血鬼って事は、確かトマトジュースを飲むって聞いたことがありますが...」

「何だそれは...?」

***

店長がコンビニでトマトジュースを一瓶買って吸血姫に飲ませると、凄い勢いで瓶一本飲み干した。

「ハーっ、美味だ何だこの飲み物は。少し血の味に似ているな。大分栄養が取れた。これで数日は持つであろう」

ニコニコと休憩スペースでトマトジュースを飲み干した吸血姫。

「吸血鬼がトマトジュースが好きって本当だったんだな...」

感心する店長に、

「だがまだ妾はお主の血を吸う事を諦めたわけではないぞ。いつか必ず近くにいるだけでクラクラするようなお主のその血を必ず...」

「俺の血なんて体に悪そうだからやめときなよお嬢さん...トマトジュースまた買ってあげますから」

二人の会話を俺はレジで、口裂け女さんはレジ台にもたれかかって聞いていた。

「あの...それで口裂け女さん、俺と口裂け女さんが恋人って話なんですけど」

「そうよ。今更何を言っているのハル」

当たり前のようにさらりという口裂け女さんに、

「えっと...いつ恋人になりましたっけ?」

「ハル、私に可愛いって言ったでしょう?つまりそれは私の事が好きって事じゃない?それはつまり告白って事じゃない?私もあなたのことを気に入ったからまたくるわって言ったら、ありがとうって」

アッ...そうなの。今時の女の子に可愛いっていうと告白になるんだ...それは俺も知らなかったな...今度店長に聞いてみよう。

「えっと....」

「あれから、ずっとハルの事見てたのよ。コンビニの外からずっと。でも話しかけるのが恥ずかしくて、ずっと見るだけだったの、でもこうしてあなたとまたお話ができてよかったわ」

マスク越しに口裂け女さん...もとい綾女さんはにっこりと微笑んだ。
不覚にもドキッとしてしまった俺は、思わず可愛いと口に出してしまいそうだった。

「またくるわ、ハル。またハルが何かピンチになった時は私を呼んでね、恥とか捨てて今日みたいにすぐにかけつけるから」

ぐいっと俺に顔を近づける口裂け女さんに、

「わ、わかりました」

思わず店長のように顔を背ける。
 
「それと、あんまり女の子に愛想振りまいちゃダメよ天使の子は男の子だって女の勘ですぐわかったからいいけど...浮気したら許さないんだからね」

人差し指を立てて、忠告だぞって感じだったのに、最後の浮気したら許さないんだからね、は突如として低くて重くて綾女さんの闇が感じられた。

「わ、分かりました。今日は助けてくれて、ありがとうございました。本当に、助かりました綾女さん」

にっこり笑うと、綾女さんは顔をまっかにして、

「なっ...そ、その、こ、恋人のピンチを助けるのは彼女として、その当然だから...(はぁ、可愛い...ハル君可愛いよ」

小声で何か聞こえた気がするけど、何て言ったんだろう?

「そ、それじゃあ!ハル君、ま、またね?」

小さく手を振ると、デート後に恋人が各々の家に帰るように、綾女さんはコンビニを後にした。

「可愛い」

.....今のは聞かなかった事にしてくれ。





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