吸血鬼だって殺せるくせに、調査と謎解きばっかりじゃん

大野原幸雄

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聖なる力は煙の奥に

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「まずはこの街から一番近いキャローズ農園に行ってみるか…タバコを育てて加工している業者だ…」

「はぁ…タバコかぁ…」

「…?なんだ?」

「いや、タバコ嫌いなんだよねぇ…くさいから」





ディページを走らせること1時間。

欲深き死人の願いの一つ、濃厚で豊潤な香りを持つタバコを手に入れるため…
ヨルデシンド領有数のタバコ生産農家キャローズ農園に2人は到着した。

農園はバ―ネジィ街の南東に位置する広い平原にあった。
広大な土地を持ち、敷地内にはたくさんの畑と加工を行うための木造作りの建物が数棟並んでいる。

敷地に入ってから、邸宅だと思われる建物に入るまで結構な距離だ。
ディページは人間の姿に戻り、2人は歩いて邸宅に向かう。


「見てジェイス!ピンクの可愛い花がいっぱい!」


ディページの指さす方向を見ると、規則正しくピンク色の花が植えられている畑があった。
小ぶりの花びらが規則正しく並ぶさまは、帽子をかぶった子供たちが整列しているようでたしかに可愛い。

畑は幾つかブロックに分けられていたが、花が咲いているのはその畑だけだった。


「タバコの花だな…」

「へぇ…タバコって花咲くんだねぇ」

「でも…」

「ん?」

「おかしいな…タバコはつぼみの段階で花を摘み取ってしまうものだが…」

「…そうなの?」

「あぁ…タバコは葉っぱの部分を加工する製品だからな…葉に栄養を送るために花は咲くまえに摘み取られるんだ」

「へぇ詳しいね…実はへびーすもーかー?」

「吸うわけないだろ…タバコのニオイは衣服につくからな…お前みたいに鼻のいい怪物を追っている最中に自分の位置を教えるようなもんだ」

「そりゃそうか…」


そんなことを話しながらタバコ畑を過ぎ…
ジェイスとディページはキャローズ農園の主の邸宅前についた。


カンカン…


ベル型の呼び鈴を鳴らして、待つ間改めて風景を見る。

とてものどかな場所だ。
見ただけでは何か問題を抱えているようには見えない。

しばらくすると、鍵を開けるような音と共に…
年季の入った声が2人を出迎えてくれた。


ガチャ…

「はい…」


中から出て来たのは、背の低いおじいさんだった。


「突然すまない…ヴェル・トゥーエ家からの使者としてやってきた…モンスタースレイヤーのジェイスだ…」

「モンスタースレイヤー様…ですか?」


ジェイスはティナリス伯爵からもらったヴェル・トゥーエ家の書類を見せる。
お爺さんはさっと目を通すと、説明しなくてもジェイス達がどんな人間なのか、すぐに理解してくれたようだ。

ヴェル・トゥーエ家の印書…とても便利。


「たしかに…ヴェル・トゥーエ家の家紋がありますね…どんな御用でしょうか?」

「いきなりで申し訳ないんだが、タバコを売ってほしいんだ」

「かまいませんが…うちのタバコは街にも卸していますので、よろしければ組合を通じて購入していただきたいのですが…」


ヨルデシンド領の物流は、その物品ごとに組合が存在する。
生産者は生産物を一度組合を介して街の商人などに卸す。

組合を通すと少し値は上がるものの、生産者は直接の税金対象から外れ、その分組合がまとめて税金を納めることで地域全体の節税となる仕組みだ。
組合は生産者によって構成されているため、発生した仲介料がそのまま納税に使われるという非常に健全な仕組み。


「街の小売業者では用意できないほどの数がいるんだ…ヴェル・トゥーエ家のパーティで振舞われる」

「そういうことですか…ですが…その…」

「…?」

「ヴェル・トゥーエ家の方ならご存じだと思いますが…今、うちのタバコはまとまった数を出荷できない状態でして…」




「キャローズ農園は先々月トラブルを起こしてな…今は私の指示でタバコの出荷を制限している状態だ…」




「聞いたよ…トラブルがあって、今出荷に制限が設けられている…だっけか?」

「はい…」

「申し訳ないが…俺は外部の人間で詳しく状況がわからないんだ…説明してくれれば役に立てることもあるかもしれない」


そう言うと、お爺さんは2人を家の中にいれてくれた。
リビングで温かいコーヒーが差し出し、キャローズ農園で起きたトラブルについて話し始めた。


「あらためて…この農園を切り盛りしているヘンリケ・キャローズと申します」


簡単な挨拶を終えて、本題に入る。


「実はもう先々月になりますか…領内で大きな嵐がやってきた時があるのです…その数日後…うちで作ったタバコを吸って体調を崩した方が大勢現れたのです…」

「タバコを吸って体調を崩す…」

「はい…」

「タバコがもともと健康に良いじゃないしな…具体的にはどんな症状なんだ?」

「寝込んでしまう者や…ひどい熱がでる者…中には錯乱して、街中で踊りだした人もいまして…」

「錯乱…」

「しかし、逆に妙に元気になった者なども現れまして…麻薬の類を混入させたのではないかと疑われたりもしました…」

「なるほど…それでヴェル・トゥーエ家が被害者をそれ以上増やさないため、出荷に制限をかけた…と」

「左様です…ウチのタバコは領内外に多く出荷していたので被害者も結構な数になりまして…」


寝込んでしまうもの…
酷い熱が出るもの…
錯乱し踊りだすもの…
妙に元気になるもの…

その症状にはなんの統一性もない。
ジェイスはさらに話に踏み込んでいく。


「他に何か被害者に共通点はなかったのか?」

「他に…ですか…?そうですね…あ、そう言えば、被害者は皆、数日後に症状が無くなりました」

「…症状がなくなった?…皆?例外なくか?」

「私の知っている限りでは、1~2日程度で症状が無くなった人ばかりです」

「(症状は色々あるのに…治るまでの期間が一致してるということか…)」


ジェイスは少し頭の中を整理する。


「そのタバコ、在庫はまだ残っているか?」

「えぇ…大量に残っていますよ…焼却廃棄することもできないので…」

「見せてもらいたい…ちなみに、仮にこの問題が解決したら、まとまった数のタバコは用意できるものなのか?」

「領主であるヴェル・トゥーエ家からのお許しがでれば…いくらでも」

「わかった…なんとしても助けよう…」


ジェイス達はヘンリケに事件の解決を約束し…
タバコの在庫が保管されている家の裏手にある倉庫に向かった。





倉庫はとても大きい作りだったが…
中には大量の大きな紙包みが天井高くまでつみあげられており、非情に狭く感じる。


「これが…タバコの在庫です…」

「全部同じ銘柄か?」

「えぇ…ウチは一つの銘柄しか生産していませんから…」


そう言いながら、ヘンリケは紙包みの一つを破る。
中にはさらに小さな紙の小包があり、それを破くと5本セットになったタバコが入っていた。

ヘンリケはタバコを一本を取ってジェイスに渡す。


「俺が見る限り特に変わった様子はないが…アンタから見て、何か普段と違う部分はないのか?」

「香りや色を見比べましたが…どれも普段どおりですね」


ジェイスはそれを聞いて少し考え込んだ後…


「そうか…なら実際に吸ってみるしかないか」

「…え?」

「…」

「…」

「…」

「ディページが」

「…えぇ!?」


のんきにあくびをカマしていたディページだったが…
その言葉を聞いてすぐに身体全体で拒否をアピールする。


「やだよ!俺タバコのニオイが嫌いって言ったろ?」


それを聞くと、ジェイスはディページの耳元でヘンリケに聞こえないようにこう言った。


「悪魔のお前に、人間の病や呪いはかからないだろ」

「まぁそうだけど…」

「お前に何か影響があるとすれば魔法の類だけだ…仮に魔法の一種が原因でも、魔法耐性のない一般の人が吸って体調を崩す程度のものだろ?」

「悪魔の俺なら吸っても耐えられると…しかも魔法ならどんな魔法なのかもわかる可能性があると…」

「わかってくれて嬉しい」

「労働環境の改善を要求します!」


しかしその願いは届けられず。
労働環境の改善はなされぬまま、ディページは数分後にタバコをくわえていた。


「もう…」

「火をつけますから…火がタバコに移るまで吸いこんでいてください…」

「…うぅ…くっさ」


目の前に生産者がいるのにも関わらず、ディページは文句を言い続ける。

しかしなんだかんだジェイスの言うことを聞かなければならない『使役された悪魔』という自分の立場を思い出し…
文句をたれながらも煙を口に含んだ…


「…」

「煙を口に含んだら、呼吸する感覚でその煙を肺にいれてください」

「すぅ…」



その時…
ジェイスはあるものを見た。


「(タバコが…光った…?)」


火をつけてディページが吸いこんだとたん…
火のついたタバコの先端が光った。

火の光にしてはずいぶんと明るく…キラキラと断続的で小さい光だった。

それが一体なんなのか…
ジェイスは頭の中で自分の知識と照らし合わせようとするが…


「がハッ!!!ゲホッゲホッ!!!」

「!?」

「ディページ!!!???」


ディページの表情が…一変した。


「ゲホッゲホッ!!!ゲホッゲホッ!!!」


普段、辛そうな顔を一切見せないディページが…
まるで人間のように表情を歪ませてせき込む。

しかも…


「がはッ!!!」


ビシャッ!!!


吐血した。


「どいてくれッ!!!」


これにはジェイスも焦りを隠せず、ヘンリケさんを半ば強引に払いのけ…


「ゲホッゲホッ!!!ゲホッゲホッ!!!」


ゴッ!!!!


「ごふッ!!!」


ディページの腹を強く殴る。
するとディページは一気に息を吐き出し、肺の中の煙がボフッと口から放出された。

しかし…


「ああああッ!!!」


ディページはまだ苦しんでいる…
顔面の血管が浮き出ており…白い顔がもっと白くなる。

そして髪の毛が不規則に伸びたり縮んだりしている。
どうやらあまりの苦痛に、人間の姿を維持できなくなっているようだ。



「『ガイーシャ・エイロ・デ―ン』」



ジェイスはディページの身体を自分に引き寄せ、おでこに手を当てた。
そして使役した悪魔の傷を癒す術をかける。



「はぁ…はぁ…」

「ディページッ!大丈夫か!?ディページ!!!」

「はぁ…けほっけほっ…」

「おいッ!!!!」

「じぇ…ジェイス…こ…これ…」

「…?」

「…けほっけほっ!!」

「…喋らなくていい…」

「ベッドがあります!こちらに」

「しっかりしろ!」


こんなことになるとは思わなかった。
ジェイスは、心の底から後悔をした。

予想できなかった…
ディページほどの悪魔でさえ、対抗できないほどの何か。

悪魔さえ苦しめる…
タバコの正体を。






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