吸血鬼だって殺せるくせに、調査と謎解きばっかりじゃん

大野原幸雄

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夜の女王の真実

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それはジェイスも始めてみる呪術だった。

べスティナと思われる豚の怪物は…
肌が硬く灰色になり、ゴツゴツとまるでニンジンの表面のようだった。

サイズも肥大化し、髪はそのままに顔面は完全に豚。

巨大な身体とは裏腹に、部屋の隅に隠れるようブルブルと震えていた。


「べス…ティナ…なのか…?」

「見ないで…ぶ…見ないで…ぶひ…」


呼吸は荒く、ジェイスから自分の身を隠すように手で身体を覆うが…
小さな手にはその巨体は到底隠れない。

ジェイスはゆっくりと彼女に近づく。


「落ちついてくれ…君を助けられるかもしれない…落ちつくんだ」

「ぶッ!!!いやッ!!!いやぁッ!!」

「何もしないから…落ちつくんだ」

「いやよッ!見ないでッ!」


ドンッ!!!


「クッ!!!」


彼女を落ち着かせようと腕を開き警戒心を解こうと近づいたが…
それがアダとなって、ジェイスはべスティナに振り払われた。

とっさにガードしようと開いた腕を閉じたが、ガードの上からでもジェイスの身体を2mほど後方に吹っ飛ばした。


ガシャンガシャンッ!!


「ッ…!!」

「ぶ…こないでッ!!!ぶッ!…ぶッ!!」

「何もしない…ゴホッ!…いいか?よく聞くんだ…」

「いやッ!!!どこかに消えて!!!いやッ!!!いやッ!!!」

「(明らかに自分の精神状態をコントロールできていない…)」

「ぶひっ!…ぶぅ…ぶぅ…」


ジェイスはべスティナが後ろを振り向いたと同時に彼女に近づく。

そして優しく彼女に触れて…


「『アクシリオス』…」


と唱えた。


「…ぶぅ…ぶぅ…」

「落ちついたか?」

「…」


少しだけ平常心を取り戻したのか、ジェイスに触れられていることに気づいても心を乱さなくなった。


「いいか?よく俺の話を聞くんだ…俺は君の敵じゃない…」

「ぶぅ…ぶぅ…」

「俺の顔をゆっくり見るんだ…俺のことがわかるか?」

「ぶぅ…」


べスティナは、ゆっくりとジェイスの顔を見る。
しかし、互いの視線があった瞬間…


「見てる…私を…」

「…?」

「いや…いやああああああああああああああああああああッ!!!」

「!!」


ジェイスを振り払おうと、左腕でジェイスを攻撃する。
一度それを食らっていたジェイスはその攻撃を後ろでよけ、今度は彼女の目を塞ぐ。

そしてもう一度同じ魔法を唱えた。


「『アクシリオス』…」

「ぶぅ…ぶぅ…」

「すまん…もう君のことをジロジロ見ないようにするよ…だから落ちついてくれ…話がしたいだけなんだ…」


そう言って彼女から手をどけ…
ジェイスは視線を窓の外にむけて彼女に聞いた。



「俺はモンスタースレイヤーが本職だ…君の力になれるかもしれない…」

「はぁ…はぁ…」

「この呪術は…例のスト―カーから掛けられたのか?」

「ぶぅ…」


彼女に見ないようにしていたジェイスは、彼女の表情がわからなかった。
返答がないため、もう一度ゆっくり話を聞こうとする。


「今日の朝、俺は君と会っているんだ…それはわかるか?応えてほしい」

「わ…私…」

「…?」

「こわいの…こわい…ずっと…ずっと…」

「…」


ジェイスはゆっくりと彼女の方を見る。
べスティナはうずくまり、ブルブルと震えていた。

不安定な精神…
理由の無い恐怖に支配された心。

何度も呪術にかかった人を見て来たジェイスは、そんな彼女の精神状態をほぼ正確に把握していた。


「…」


その時…
ジェイスは彼女の身体にあるものを発見する。

彼女の服は肥大化に耐えられず伸びきっていて、お腹の部分が露出していた。

そこに金色に光る文字がゆらゆらと揺れていた。



「(あれは…呪術の構文…)」



呪術はいくつの方法で他者にかけることができる。
ジェイスはここで、べスティナにかけられた呪術が『言葉』を使った呪いであることに気付いた。

『言葉』を使って呪術の条件を書き込むことで、意図的に呪術の内容を変更することも出来る。
そしてこの方法は、呪術の知識がある魔術師しか使うことが出来ない呪いの手段だった。


「(やはりこの呪いをかけたのは、処刑されたストーカー魔術師だな…)」


ジェイスは彼女にバレないよう…
ゆっくりと彼女の身体に刻まれた構文を読んでいく。



――――

汝が最も恐れる物に、汝の真実あり

下向く者には絶望を、上向く者には幸福を
前向く者には真実を、横向く者には一律を

共に笑おう、共に泣こう
共に怒ろう、共に堕ちよう

悲しくありて、嬉しくありて
決して壊れず、揺るぎある

捕えぬ限り、汝、夜の恋人

――――


「汝が最も恐れるものに、汝の真実あり…」


詩的に装飾された呪術の構文は、ある種、定型文というものが存在する。
つまり、使われている言葉は変わっても、特定のルールがあるのだ。


「(『~が○○に○○あり』と言うのは典型的な呪術の構文…二節目以降が呪術の補足文…最終二節が呪術の解除に関する誓約だな…)」


ジェイスがその構文の作りから、その呪術の現状をすでに理解した。
さらに内容を考察しようとすると…


「やめてッ!!何見てるの!?見ないでッッ!!!」


と、べスティナがジェイスに気づき…
身体全体を使って、つき飛ばそうとする。


ぶんっぶんっ


「…」


ジェイスはそれを巧みによける。
ジェイスが少し距離を取ると、べスティナはまた隠れるように部屋の隅に戻った。


「…話は聞けないな


ジェイスは今の彼女に話を聞くことは無理だと判断した。
平常心を保つことができない…今はジェイスの顔すら認識できていないだろうと。

そして、これだけ物音を立てているのに、下の階にいる誰ひとりとしてここまでこない。
おそらく執事やメイド達は日常的に彼女の夜の叫び声を聞いていたのだろう。

『べスティナは毎夜奇声をあげている』という噂を聞かなかったことから、この家に仕える執事たちは優秀なんだな…とも思った。


「仕方ない…な…」


ジェイスはそう言って、部屋の反対側の隅に向かった。
沢山の荷物が置いてあるせいで、べスティナからは見えない。

ジェイスは仕方がないので、怯える彼女と同じ部屋で朝まで待つことにした。
彼女の視界に入らないようにして。

少なくとも彼女に視線を向けなければ、彼女は平静を装ったままだ。


ジェイスは呪いの構文を手帳に書き写し…
呪いを解除するための考察を始めるのだった。


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