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第1章

第1話 転校生 06 趣味の街(シュミノマチ)

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 あれから少し打ち解けて談笑した後、
本格的に“作り方がバレない心霊写真”の製作にのりだした。
参考程度にスマートフォンでそれなりに検索はかけてみたものの これといった手掛りはなく、
其処いらを当てもなくぶらつく事に…

 アダルトショップ多い所を避け 電器街北側を歩く。


「そういや あの綺麗な先輩見なかったけど どうしたの?」唐突に松葉は聞いた。
「ん?お嬢の事? お嬢なら撮影厳禁の本屋この電器街なら漫画屋辺りに居るんじゃないかな」周りを伺いながら答える雪鈴。
「なんで?」
「盗撮されるから逃げているの」何か怪しい処はないか歩道上アーケードを見る。
「あぁ 目立ちそうだもんね」釣られて同じ方を見てあきらめる。
「情報収集のためついでに行ってみる?お嬢が居そうな場所 此処から近いし」指をさし勧める。
「~ん そうだね そうしよっか」周り確認をし、
これ以上歩いても何もなさそうと悟ると雪鈴の案に乗る松葉。
二人は蘭子の居そうな漫画店に向かった。

 電器街通りとは違い西に抜けたちょっとした大通りはマニアオタクに向けた商店が立ち並び賑わっていた。
そこの丁字路ティじろの一角に一際ひときわ目立つビルがあり そこのテナントは全てアニメショップでうまっている。雪鈴の言っていた漫画屋とはそれだ。
二人は一階から総当たりで蘭子を探す事に、

 その少女は別に中古本を読みあさるというわけでも無く 新書のお試し本をパラパラとめくっては次へ、かと思うとフィギアを覗いてみたり 暇つぶしと言うより外国人観光客と言った振る舞いで周りに溶け込んでいた。
「ほらやっぱりいた」
聞き慣れた声に反応する蘭子 声のする方に振り向く。
「おつ~」此処だよというアピールで右手を挙げ挨拶する雪鈴。
一際目立つ大男とその横の少女を見つけ、
「あらユキお疲れ それに、月見さんで良かったっけ?お疲れ様」と声を掛ける。
「はいお疲れ様です あと松葉で結構です」今まで運悪く話せて無かったせいか緊張する松葉。
「そう 私は蘭子か みんなが呼んでいる“お嬢”でも結構よ」身長で松葉の方が年上に見えた所為かお姉さんぶる蘭子。
「了解しました」一応 行儀良く言う。
「別にそんなにかしこまらなくていいわよ それで何しに来たの?」察して優しく聞く。

 事の経緯を聞きつつ雑学やサブカルチャー類を集めている本コーナーへ。
「なるほど 心霊写真ねー それでヒント探しに此処に来たと なら手品関連とかが良いのかも知れないけどその手の類いの本はこういった店には無いわね オカルト本でも神話とかになっちゃうし…あぁ科学本ならあったわ」そう言って科学本の棚を指す。しかし本は全てビニールでパッケージしてあり、
「別に買えって訳じゃなくて題名とか表紙とかからインスピレーションを受けるのも一つの手って事よ 何だったら題名で検索掛けるのありね あっでも店内で検索かけるのはいらない誤解を招くマナー違反だから絶対にやらないでね」
蘭子はある種のコツを語った。
「題名ですか?」松葉は本棚を覗き込む。
「ミリタリー物とかも良いかも?」本を手に取り提案する雪鈴。
「あんた軍物なんて何の役に立つのよ?」眉をひそめ雪鈴を見る蘭子。
「いや役に立つかもしれないよ いかに相手の死角を突くかと現代戦は手品みたいなもんだし」
「ん~本来ならツッコミ入れるとこだけど 何か変な説得力あるわね」
「死角?」松葉は分からない様子。
そんな松葉を見て蘭子は基本的な事に気付く。
「そういやリーダー 芦美笙弥あのいけ好かないイケメンのにーちゃんの事ね この件で何か言っていた?」別に笙弥の事が嫌いという訳ではなく冗談の延長で言う蘭子。
「そうですね津和吹 ユキが町中で5~6mジャンプしているところを激写すれば良いんじゃないかって 冗談を言ってました」蘭子との距離を詰めようとするが 逆によそよそしくなってしまう松葉
「ん~アレが言う分にはあながち冗談でもなさそうだけど」目線を斜め下に向き考える。
「よし今から飛んでくるか」何かしら案が出易い空気にするべくはしゃぐ雪鈴。
「あんたはちょっと黙ってらっしゃい それにそれはあんたの能力であって彼女の能力じゃないでしょ」真面目に返される。
「私の能力ですか?」訝し気いぶかしげになる。

 蘭子はサブカルチャーの棚 映画の欄に目線をやりながら、
「そうねぇ 答えを聞いて良い時点で発案者やプロデューサー的な事は問われてない訳で 現場監督やディレクター的な事を問われているんじゃないかしら」語り出した。
「現場監督…」耳は立てながら考え込む。
「例えばユキが普通に高くジャンプしている写真を撮ったとしても 今の時代“パソコンで加工された物”と言う人が大多数で 疑わない人でもユキが高い所から落下している写真と捉えるかもしれない、ようは怪奇現象には見えないという事ね」右手を腰に手をやり明るい表情で決める。 
「なるほど でもパソコン加工の話が出ちゃうと何も出来ませんよ」納得したものの少し反論。
「あぁ それは僕も思っていた」
「そこはそれ 現場の目撃者という第3者がいればOK」悪い笑顔で返す。
「騒ぎを起こすの?」何かちょっとやる気を出す雪鈴。
「そう心霊写真じゃなくてUFO写真の作り方ね 第3者の証言によって捏造ではありませんよ~って言うアレ」
「でも騒ぎを起こすな目立つなって監督さんが…」蘭子の笑顔とは対称に心配顔の松葉。
「フフフッ 言ってなかった騒ぎを起こすな目立つなってこのデカブツに対して言われてたの」グーで雪鈴の腹をノックする蘭子
「あぁそう言えば」希望が見えてきたのか少し明るい顔。
「えっ じゃぁ僕は何するのさ?」冗談交じりで困り顔。
「そんなの知らないわよ 大体あんたが何時も悪目立ちするから そんな注意受けるんじゃない 少しは自重しなさいな」
「ええぇー せっかく 面白ポーズ考えていたのに…」ブー垂れる雪鈴。
「気に入ってたんだモデル…」呆れる松葉。

 ほんのちょっとの
二人と周りを見渡し視線を左斜め上に上げる蘭子。
少し考え「よし!」と小さく一呼吸。
そして、
「さてと、じゃぁ 私も付き合ってあげる」と無邪気な笑顔で言った。
どうやら松葉の適性検査の課題を本格的に手伝ってくれる様子。
「いやあの そこまでして頂く訳には…」遠慮する松葉。
「いいの いいの んじゃまぁ行くわよ」近所のおばちゃんの様に図々く。
「別にお嬢がサポートに入るのは構いはしないんけどさ ていうか何処に行くのさ? 此処には情報収集に来たのに」両手を腰にやり真面目に聞く雪鈴。
「あんたは黙って付いてらっしゃい ほら行くわよ」
強引に二人を連れ出す蘭子。
3人はアニメショップを後に…


 少し北へ
そこは昔の税控除の名残で8階建てのテナントビル
入り口直ぐに階段とエレベーターがあり奥に部屋がある感じ。
向かいに目新しいガラス張りのファッションビルがある。
「ここよ」テナントビルを見上げながら言う蘭子。
「此処ですか?」別にこれと言った説明もなく連れてこられた松葉 不満はない様子。
「さて登るわよ」軽く足首をまわし準備体操をする。
「じゃぁエレベーターで… 何階?」エレベーターの呼び出しボタンを押す雪鈴。
「階段から行くわよ ていうか階段側がメインだし」エレベーターに見向きもせず直ぐ横の階段にむかう。
何も言わずに蘭子に付いて行く松葉 雪鈴は置いてけぼりを喰らう。

 階と階との間 階段の折り返しに大きい窓があり、日当たりは良い。
6階ほど上がり 蘭子は、
「この高さならある程度周りが見渡されるわ」大きい窓から街を見渡した。
「何だ物見櫓ものみやぐらか なら」エレベーターから…あれ閉まっている」雪鈴は階段とエレベーターを繋いでいる踊り場の扉に手をかける。扉はエレベーター側から施錠してある様だ。
「店があるテナント階しか開いてないわよ」釘を刺す。
「非常階段じゃぁあるまいし…」困った顔をし扉から離れる。
「っあのう ここから街を見て心霊写真のヒントを探せと?」少し疲れ息を飲み込みたまらず声を出す松葉。
「そういう事 必ずあるはずよ あと“心霊”じゃなくて“怪奇現象”枠を広げて考えた方があなたの能力に合っていると思うの」雪鈴同様鍛えているため平然とした顔で提案する蘭子。
松葉を窓に誘う。
「発案するだけなら まだ漫画屋に残っといた方が良かったんじゃないの?もしくは電器街大通りが見渡される所とかさ?」松葉を気にして問う雪鈴。
「あんたと私が揃っただけで悪目立ちし過ぎるのよ」しかめっ面で。
「別にカメラ向けられた訳じゃないのに…」少し文句気味に。
「お店の迷惑考えなさいって事」窓の方に向き直す。
松葉は窓から俗に言うオタク通りを注視している。
人気ひとけのない所に行きたいならそう言えば良いのに わざわざ階段まで使って…」聞こえない様に愚痴る。
きっと此処は蘭子の避難場所の一つなのだろう、雪鈴はやれやれと思い、
「そう言う事ね ならもうちょっと上がろうよ」納得した様子で言う。
「これ以上は駄目 この上はメイド喫茶ならぬメイドキャバクラがあるから それこそ私等が付近に居たら迷惑なるでしょ」雪鈴の方を向く蘭子。
「あれ?キャバクラってこのビル ヤクザの物だっけ?」右手で帽子の様に被っている仮面を直しながら窓に向かう雪鈴。
「あんたキャバクライコールヤクザってなってない?」あきれ顔。
「別になってないよ 監督に良心的な店とか教えて貰ったし」窓から景色を楽しむ不用意な発言をしている事に気付いていない様子。
「んー教えて貰った?」直ぐ横に居る松葉が引っかかる。
ハっとし、
「いや まだ行った事無いよ 店の近くを通ったついでにね そら大人になったら行くかもしれないけど 付合いとかでさ ね」取り繕う雪鈴。
「あんた ただでさえゴツいオッサンなのに その歳でそんな物に興味があるの?」じと目の蘭子。
「せめてゴリラボーイと言って」泣きが入る。

 階段は雪鈴を問いただしている為か説教している為か 少しだけ騒がしい様子。

 不意に聞こえる声

 上の階から放たれる。
「誰?誰かそこに居るの?」女性の物だ。
見知らぬ声に反応し口を結ぶ松葉と雪鈴。
一瞬で静まり返る。
「あっすみません 何か五月蠅くしちゃったみたいで直ぐ出て行きます」こういった事に慣れているのかに即座に対応する蘭子。上を向き声の主に聞こえるよう言う。
「そういう事じゃなくって別にいいのよ その…ご遺族方?」弱々しく優しく応えられる
『ご遺族?』3人声が揃う…
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