明日の空

鍵山 カキコ

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第一章

アタシの想い③

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 ──蘭・杏奈のメール──
【ねえ杏奈、聞きたい事があるんだけど】
【何? 今ムカついてるから変な事だと返信しないからね】
【分かった分かった。あのさ、杏奈はどうして木嶋夕梨の事を悪く言ったりするの?】
【はあ? 何でって、それは蘭だってよく分かってるでしょうが。つかアンタの方が言ってたじゃん】
【そ、そうだけど……。海斗に言われて、変わったの!】
【ふ~ん】
【アタシのことは良いんだって! 杏奈のことを知りたいんだから】
【あーウザ。だから、あのナリで海斗と付き合ってるからよ! あり得ないでしょ!?】
【まーそうなるわよね。杏奈、海斗のこと好きだし】
【何でアンタそんな上から言ってくんの? 誰かに変な事命令されたんじゃないでしょうね。……木嶋夕梨とか】
【そんな訳無いでしょ。単純に、気になっただけだから。根拠もないのに人を疑うの、杏奈の悪いとこだと思う】
【だから、それ!! その話し方! 明らかに偉そうじゃない! 絶対アイツに何か言われたんだ】
【もう、そう思うんなら思ってればいいじゃん。話が通じないんだから】
【うるさい。アンタとはもう二度とメールしないわ。木嶋夕梨に何されたんだか知らないけれど】

(ウフフ。怒った馬鹿って楽♪ 木嶋夕梨に変な事しないって言ったけど、これは間接的なものだし……大丈夫でしょっ)

     ○ ○ ○

「赤江に訊いた?」
 朝から真剣な面持ちで蘭さんに問い掛ける戸山君。
 対する蘭さんは、少し表情を暗くした。
「えっと。アタシはね、全然そういうつもり無かったんだけど……。上から物を言うなって怒られちゃって、ロクな事聞けなかったわ」
「怒られた?」
「うん。ただ普通に話してただけなのに……」
 しゅんとした様子の蘭さんであるが、どうも怪しい気がする。
 彼女を信用していないというのも勿論あるが、何だろう……少し臭う。
「ただでさえ腹が立つ事ばっかりだろうからね。仕方ないとも言えるけど」
「でも、アタシのせいで怒っちゃったのよ。どうしよう。折角海斗の役に立てるチャンスだったのに」
 蘭さんの顔が強張っているのが分かる。危機感を覚えているというのは、痛い程伝わってくる。
 けれど、けれど──!
(あれは本物?)
 どうしても疑ってしまうのだ。

「木嶋夕梨。どうせ来てるでしょ。──出てきなさい」

 え……?
 突如響いたその声によって、時が止まったかのように教室が静寂に包まれた。
 そして、鋭い視線が体に突き刺さる。
「出てこいって言ってんの。日本語分かる?」
 声が大きくなった。怒りを放出させているみたいだ。
 怖くてたまらなかったけれど、私が呼び出しに応じなければ戸山君達にまで危害を加えられてしまうかもしれない。
 そう思って私は席を立った。
「木嶋さん……」
『行っては駄目だ』。戸山君は目で訴える。
 そんな事は分かっている。けれども、私が彼女に指名された。されてしまった。
 私があちらに向かえば、万事解決。ならそれで良い。
「やっと来たわね。おっそ」
 杏奈さんが明らかに不機嫌そうに呟く。
「……いきなりで悪いんだけどさぁ、アンタ蘭に何か言ったでしょ」
「えぇっ!?」
 ど、どういう事なのだろう?
「とぼけんじゃないわよ。昨日の蘭、怪しかったもの。それにさっきまで、一緒に居たみたいだし?」
 確かにそうだけれど……。
 ただでさえ彼女の放つ存在感に気圧されて、口から言葉を紡ぐことすら困難だというのに。これでは一方的に勘違いされたまま終わってしまうかも。
「と、と、戸山君とひ、日暮さんは幼馴染でな、仲が良いから……えっと」
 言葉足らず過ぎる。
(恐れ多くて目を合わせられない……)
 杏奈さんが眉を吊り上げた。
 まずい、まずいぞ。
「今まではそこまで喋ってなかった気がするけど? 蘭としても、海斗以外の誰かと話さなくちゃいけないから教室に来るんじゃなくて?」
 先程よりも、声が冷たくなっている。変に怒鳴り散らされるよりも全然怖い。声が心に刺さるから。
「…………ど、ど、どど、どうして?」
「ハアァァァァア? 何が」
「わ、わたっ私にそこまで、つ、つっかかってくる事」
 言った。
 私は言ったぞ。杏奈さんに歯向かうような事を、目の前で。
「アンタが海斗とまぁったく釣り合ってないのに、付き合ってるとか言うからよ! どうせ、買収かなんかしたんでしょ!?」
 杏奈さんは冷静さを失ったかのように怒鳴り散らした。怒りで歪んだ顔が勢いよく近付いてくる。
「そ、そんな事してな──」
「嘘をつくな! でなきゃアンタみたいな奴に、海斗が心を許すはず無いでしょ!」
「そんなのは勝手なイメージだよ」
 目は合わせられなかったけれど、一度もつかえずに話せた。
「なっ!」
 案の定、杏奈さんは驚いたような表情を見せた。
「私も、た、他人の心を読むことや、察することが出来ないけれど、戸山君は、わたっ私に良くしてくれるし、その……」
「良くしてるから何なの? 少しも自慢になってないけど。分からないでしょ。人の心は透けて見えないんだから。海斗のアンタに対する気持ちだって、それは本人にしか分からない」
 私だって初めは彼の気持ちを疑ってかかったものだ。今でも信頼度百パーセントとは言えないが、告白された当初よりかは信じられるようになった。
 だからといって、戸山君の気持ちを完全に理解するなんて不可能。だが人間というものは関係を深めることで、相手を知れる。視れる。
「た、確かな気持ちを知る方法なんて無いと思う。だけど沢山話したりして、し、信じることくらいはできるから」
「それなら、アタシの方が海斗と信頼し合ってる筈じゃない。アタシはずっと前から海斗と話したり、出掛けたりしてたのよ。それなのに──」
「おいおい赤江、朝から何に熱くなってるかは知らんが、そろそろ教室に入りなさい」
 突如、杏奈さんの背後に担任の林田先生が現れ、彼女の頭をポンと叩いた。
「……わかりました」
 杏奈さんは魔法にかけられたかのように静かになり、教室へ入っていった。
「大変だな、木嶋も」
 林田先生は、私に意味有りげな笑顔を向ける。
 戸山君等と交流したりするようになってから、私は教師に話し掛けられるようになった。ついこの間までは私から拒絶していたのに。不思議なものだ。
 返す言葉が見つからなかったので会釈をだけを返し、私は教室へ入った。
(何だろう。あの台詞、私達の話を聞いていたみたいだったけど……)
 なんの事情も知らない人間が『大変だな』なんて声を掛けるとは到底考えられない。
 しかし今一番気になるのは、教師が生徒に頭をポンッとするのは別に普通の行為なのだろうか? という事。
 杏奈さんは特に気にした様子もなかったのだが、もしかして私が異常なのだろうか。

 キーンコーンカーンコーン。
「よし。これで連絡は以上だ」
「起立、礼、着席」
 今は朝のHRが終了したところだ。
(さて。次の授業の準備をしないと)
「あ、木嶋、ちょっといいか?」
「え? はい」
 林田先生が手招きをして私を呼んでいる。何の用なのだろう。
 もしや、先程の杏奈さんとのやり取りに関する事……?
「な、何でしょうか?」
「えっと、その……お前に協力させてくれないか」
 ブレる事なくジッと私の瞳を見つめる林田先生に恐怖を覚える。
「……な、何の話ですか?」
「大きな声でできる話ではないんだ。放課後、進路相談室に来てくれ。そこで全て伝えよう」
 深刻そうな表情のまま、林田先生は教室を後にした。
(え……。一体何が?)
 混乱気味だが、一応頭の中を整理しておこう。
 まず朝。登校して早々杏奈さんからの呼び出しをくらい、蘭さんの事で何かを疑われた。
 それから変につっかかってくる理由を問うて彼女が熱くなった所に林田先生が現れ、私達を解散させた。
 しかしHRの後、私はその林田先生に呼び出され、『協力させてくれ』と言われて今に至る。
(先生は何に協力したいんだろう……。私なにかしようとしてるっけ?)
 まあ今は、いくら悩んだところで彼の考えは分からない。ひとまずは──杏奈さんをどうするか、だ。
 熱弁も中途半端に終わってしまい、ストレスが積もりに積もっているに決まってる。だからだろう。「話し掛けるな」という雰囲気が、彼女の周りを覆っているように見えた。
「赤江はすごい怒ってるし、先生からは何か言われてたみたいだし……何があったの?」
「あ、えっと……」
 私は一連の出来事の詳細を、包み隠さず全て戸山君に伝えた。
「そっか。結果的に赤江はずっとキレてるみたいだけど、木嶋さん凄いよ!! そんなことが言えるなんて!」
「あ、ありがとう。でも……本来の目的は達成できなかった」
「ううん、それでも立ち向かえる事自体が凄いんだよ! 誇って良いんだよ!」
 落胆する私を戸山君は鼓舞しようとしてくれる。
 確かに、ウジウジしていても仕方ないかも。
「だけど俺、先生の方が気になるな。それ俺も行っちゃ駄目?」
「わ、分からない……。あ、後で確認してみるね」
「いや、いいよ。自分で訊くから」
 私の手間を減らそうとしてくれているのだろう。実を言うと先生と話すのは苦手なため、助かった。

     ○ ○ ○

 遂に訪れた放課後。私は進路相談室の前でその扉を見つめている。
 林田先生から許可をいただき、私の隣には戸山君が。
「さて……、は、入ろうか」
「う、うん」
 ガラガラガラ……。
「やあ、待っていたぞ」
 林田先生は壁際の椅子に腰を掛け、腕を組んでいた。醸し出す雰囲気がことの真剣さを物語っているような気がする。
「そこに座ってくれ」
「は、はい」「はい」
 先生に促され、彼の向かいの椅子に座る。
 さて、時は来た。
 林田先生の口から、何が発せられるのか……? 
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