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第二章 『厄介な日常』
やっぱり多少は変わる事もあるよね
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コツ、コツ……。
全員のスタンバイが完了し、広いこの部屋には沈黙がやってきた。そのため、小熊さんのものと思われる足音が耳に届く。
「どんな顔を、なさるんでしょうね」
「きっといつもみたいに、微笑んでくれるんじゃないかな」
「……。どうせなら殻を破って泣いたりしていただきたいものです」
「どうだろう。なんてったって、小熊さんだからね」
「です、よね。分かってます」
巨大クラッカーを小脇に抱え、複雑そうな顔の愛ちゃん。
小熊さんは香山とはまた違った系統だが、あまり本心を顔や言葉に出さないイメージだ。なんというか、ロボットのような。
メイドという仕事上仕方の無いところもあるだろうが、一応2人って友達でもあるはずだし。
しかし「これが私達の友情の形だ」と言われたら、もう何の口出しもできないが。
キイィィ。
俺達が入る時には聞こえなかったのに、今は静寂すぎて場に響くドアの音。それと共に耳に入るのは、「えっ」という女の子の声だった。
──パン、パンパアァァン!!
「う、うわっ」
驚いている割にはトーンの低い声をかき消す勢いでクラッカーが鳴らされていく。耳が痛くなりそうだ。
いや、すでに痛いな。
「え、何なのですか、これは」
『お誕生日おめでとう(ございます)!』
口調やスピードはバラバラだったけれど、まずはこの一言、伝えられてよかった。
そしてこの言葉が合図だったのか、照明が点灯。光に照らされた小熊さんが目に入る。
「えっ。……え!? 誰も知らないと思っていたのに」
「友達の誕生日。それはとってもおめでたい日。調査しない手はありませんよ」
(あれっ)
俺の隣に居た愛ちゃんがいつの間にか入り口付近まで移動していた。行動が早いなぁ。
「あ、愛様……」
小熊さん、感慨深そうに呟く。
すると。
「凛々ー!!」
「ん? この声ってもしかして──」
「そのもしかしてだよ~! 元気してた?」
彼女が振り返り確認する前に、答えの方から飛びついた。
栗色の髪を笹の葉のように細く小さく束ね、小熊さんの胸に顔をうずめるこの少女は。
おそらくだが、中学か小学校の頃の友人だろう。
大人びた印象の小熊さんと比べると、やや幼い見た目をしている。どんな経緯で親しくなったのだろうか。
「うわあぁゆま! めっちゃ元気だった! 仕事にも就けたし」
「まさか凛々がメイドさんやってるとは思わなかったからすごいビビったよ! でも意外と似合ってるね」
「ありがとっ。────ってあれ、皆居るじゃん! 母さん、父さんも!」
「やっほー凛々」
「す、すごいです。愛様っ」
家族や昔からの友人に囲まれて、いつになく生き生きした様子の小熊さん。「こんなに沢山私の知り合いを招待して下さって、ありがとうございます!」
「当然ですよ。……たまには凛々さんに、心から喜んでいただきたいですから」
自分の知らない小熊さんを見たからなのだろうか。愛ちゃんは彼女と視線を合わせようとしない。
自ら企画し行ったことなのにそれが原因で嫌な気持ちになるなら、初めからやらなければいいのに。
なんて、こんな小学生みたいなことは流石に考えない。ただ、あんな愛ちゃん、見ていて良い気分にはならないな。
「たま、には……? どういうことですか、ソレ」
「あぁ、いえ。忘れてくださいっ。一年に一度の記念日ですから、ごちそうを召し上がって楽しむべきですよ」
「そ、そうですね」
主人が明らかに何かを誤魔化そうとしているのに彼女が気付かなかった筈がない。しかしだからといって、変に追及はしないのだ。
それが愛ちゃんと小熊さんの友情。と、言うべきなのだろうか。
○ ○ ○
愛ちゃんと本日の主役にできてしまった小さな溝。それが気になってしまい、俺は素直にこのパーティーを楽しむことができなかった。
「いや~。肉が美味かったなぁ、多田」
「お前ってこういう時呑気だよな。俺なんてすごい冷や冷やして全然料理食べられなかったわ」
「いくらなんでも他人のことを気にし過ぎだろう。疲れないか?」
「そりゃ、疲れるかもしれないけど……。やめよう、って言って抑まるものではないし」
「まあな。とりあえずは、様子見しかないけど」
いつもと変わらぬ態度。
いつもと変わらぬ表情。
(俺、香山のことで誰かに(友情的な)嫉妬ってしたことあったか?)
愛ちゃんを思い出して、ふと疑問が湧いてきた。
「そうだな」
妬くことなんて無いくらい、深い関係って事なのだろうか。改めてそう考えてみるとちょっとだけ、照れくさい。
全員のスタンバイが完了し、広いこの部屋には沈黙がやってきた。そのため、小熊さんのものと思われる足音が耳に届く。
「どんな顔を、なさるんでしょうね」
「きっといつもみたいに、微笑んでくれるんじゃないかな」
「……。どうせなら殻を破って泣いたりしていただきたいものです」
「どうだろう。なんてったって、小熊さんだからね」
「です、よね。分かってます」
巨大クラッカーを小脇に抱え、複雑そうな顔の愛ちゃん。
小熊さんは香山とはまた違った系統だが、あまり本心を顔や言葉に出さないイメージだ。なんというか、ロボットのような。
メイドという仕事上仕方の無いところもあるだろうが、一応2人って友達でもあるはずだし。
しかし「これが私達の友情の形だ」と言われたら、もう何の口出しもできないが。
キイィィ。
俺達が入る時には聞こえなかったのに、今は静寂すぎて場に響くドアの音。それと共に耳に入るのは、「えっ」という女の子の声だった。
──パン、パンパアァァン!!
「う、うわっ」
驚いている割にはトーンの低い声をかき消す勢いでクラッカーが鳴らされていく。耳が痛くなりそうだ。
いや、すでに痛いな。
「え、何なのですか、これは」
『お誕生日おめでとう(ございます)!』
口調やスピードはバラバラだったけれど、まずはこの一言、伝えられてよかった。
そしてこの言葉が合図だったのか、照明が点灯。光に照らされた小熊さんが目に入る。
「えっ。……え!? 誰も知らないと思っていたのに」
「友達の誕生日。それはとってもおめでたい日。調査しない手はありませんよ」
(あれっ)
俺の隣に居た愛ちゃんがいつの間にか入り口付近まで移動していた。行動が早いなぁ。
「あ、愛様……」
小熊さん、感慨深そうに呟く。
すると。
「凛々ー!!」
「ん? この声ってもしかして──」
「そのもしかしてだよ~! 元気してた?」
彼女が振り返り確認する前に、答えの方から飛びついた。
栗色の髪を笹の葉のように細く小さく束ね、小熊さんの胸に顔をうずめるこの少女は。
おそらくだが、中学か小学校の頃の友人だろう。
大人びた印象の小熊さんと比べると、やや幼い見た目をしている。どんな経緯で親しくなったのだろうか。
「うわあぁゆま! めっちゃ元気だった! 仕事にも就けたし」
「まさか凛々がメイドさんやってるとは思わなかったからすごいビビったよ! でも意外と似合ってるね」
「ありがとっ。────ってあれ、皆居るじゃん! 母さん、父さんも!」
「やっほー凛々」
「す、すごいです。愛様っ」
家族や昔からの友人に囲まれて、いつになく生き生きした様子の小熊さん。「こんなに沢山私の知り合いを招待して下さって、ありがとうございます!」
「当然ですよ。……たまには凛々さんに、心から喜んでいただきたいですから」
自分の知らない小熊さんを見たからなのだろうか。愛ちゃんは彼女と視線を合わせようとしない。
自ら企画し行ったことなのにそれが原因で嫌な気持ちになるなら、初めからやらなければいいのに。
なんて、こんな小学生みたいなことは流石に考えない。ただ、あんな愛ちゃん、見ていて良い気分にはならないな。
「たま、には……? どういうことですか、ソレ」
「あぁ、いえ。忘れてくださいっ。一年に一度の記念日ですから、ごちそうを召し上がって楽しむべきですよ」
「そ、そうですね」
主人が明らかに何かを誤魔化そうとしているのに彼女が気付かなかった筈がない。しかしだからといって、変に追及はしないのだ。
それが愛ちゃんと小熊さんの友情。と、言うべきなのだろうか。
○ ○ ○
愛ちゃんと本日の主役にできてしまった小さな溝。それが気になってしまい、俺は素直にこのパーティーを楽しむことができなかった。
「いや~。肉が美味かったなぁ、多田」
「お前ってこういう時呑気だよな。俺なんてすごい冷や冷やして全然料理食べられなかったわ」
「いくらなんでも他人のことを気にし過ぎだろう。疲れないか?」
「そりゃ、疲れるかもしれないけど……。やめよう、って言って抑まるものではないし」
「まあな。とりあえずは、様子見しかないけど」
いつもと変わらぬ態度。
いつもと変わらぬ表情。
(俺、香山のことで誰かに(友情的な)嫉妬ってしたことあったか?)
愛ちゃんを思い出して、ふと疑問が湧いてきた。
「そうだな」
妬くことなんて無いくらい、深い関係って事なのだろうか。改めてそう考えてみるとちょっとだけ、照れくさい。
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