最近の美少女はお金で俺を買うらしい

鍵山 カキコ

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第二章 『厄介な日常』

冷えた見た目と熱い愛

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 ぴとっ♡
 二人の女生徒に睨めつけられながらも俺の右腕から離れない水色の髪を持つ少女は幸せそうに微笑む。
「あぁ、晃狩様♪」
「は、羽衣さん? あまりくっつかれると暑いんだけどなぁ」
「そうやって、「離れてくれ」とハッキリ言えない、優しい貴方が愛おしい」
「そ、そうなんだ……」
 俺に好意がありそうなのは何となく気がついていたけれど、ここまで積極的だなんて予想外だ。
「こ、晃狩さん! 引き剥がしてもいいんですよ⁉」
「そうよそうよ! 夏だってのにベタベタして、人の迷惑を考えない自分勝手な女なんてぞんざいに扱ったって罰は当たらないわ」
「アハハ。そ、そうだね」
 なんて口では愛ちゃんと加納院さんに同調するけど、さすがに「やめてよ気持ち悪い」と正面から拒絶を示せるわけ無いだろう。相手だって悪気があってやってるんじゃないんだし。
「また僻み。醜いって、言ったのに」
「ハアァ? 僻みとかそういうのじゃなくてね、単純にアンタの人間性がどうかしてるってことを言いたいのよ!」
 いくら今周りに人が居ないからって、騒ぎすぎるのも考えものではあるがな、加納院さんよ。
(あぁ、早く部活に行かないと先輩に怒られる……。全く、ツイてないなぁ)
「放課後になってまでひっついてるとか普通にありえないでしょ」
「でも晃狩様は、「嫌だ」って、言ってない。どうしてメイさんが口出ししてくるの?」
「ぐぬぬ。そんなの決まってるでしょ。アタシが不愉快だからよ」
「わーお、自己中」
「アンタだけには言われたくないわ!」
 分かりやすく激憤する加納院さんと、その後ろで不機嫌そうに下唇を噛む愛ちゃん。
 このままでは(精神的な)殺し合いが始まってしまうかもしれないな。
 だがそれは、防がなければならない。何故なら、俺の心が真っ先にやられてしまうからである。
「晃狩様。ぜひ、私の恋人になって」
 相変わらず肌を密着させながらも、表情は真剣そのもの。
「ごめんね、それは無理」
「え……」
 その頼みだけは、受けられない。俺には大切な人がいるのだから。
 しかし、羽衣さんは俺のどこを、いつ、好きになったのだろうか? 顔を合わせたのは今日が初めてだと思うのだが……。
 そういえば、愛ちゃんの時も加納院さんの時もそうだった。本当はどこか出会っていたのだろうか。いや、まさか。
 でも一目惚れだとしても、名前を知ってる筈がないし。
(考えれば考えるほど、訳が分からなくなってくる)
 いつかきっと、全て明らかになる日が来る、よな。
「俺、好きな人がいるんだよ。だから羽衣さんの気持ちには応えられないんだ。本当にごめんね」
「そんな。だ、誰。その、好きな人ってのは」
 この世の終わりみたいな顔をして、羽衣さんは俺の肩をぐわんぐわんと揺らす。痛い痛い。
「! 多田さん、駄目よ言っちゃあ」
 すかさず、加納院さんからの忠告。妙に切羽詰まった様子で、違和感を覚える。急にどうしてしまったんだ彼女は。
「メイさん、これは、私達の問題だから。口を挟まないで」
「羽衣さんの肩を持つ訳ではないけど、そこまで強く言うことではないんじゃないかな。どうせ知らない人なんだし」
「違うのよ多田さんっ。教えたらこの子、絶対に──」
「口を挟むなって、言ってるでしょ。聞こえないの」
 ようやく俺のじっとりと湿気った腕を開放したかと思うと、羽衣さんは加納院さんの胸ぐらを掴んで囁く。
「き、聞こえてるわよ。うっさいわね」
「さぁ、晃狩様。誰? 好きな人って」
 振り返った羽衣さんは怪しげな笑みを浮かべる。
「……市原愛花っていう、俺達と同い年の女の子だよ。もう何年間も片想いを続けてる」
 加納院さんの異常な態度があったから悩んだけれど、結局言うことにした。所詮は他人だし、別にどうということもあるまい。
「知らないから」
 しかめっ面で加納院さんはドンドン足音を立て歩き去っていく。「ま、待って下さいメイさん!」心配そうに愛ちゃんが後に続く。
「どうしたんだろうね、加納院さん」
「さぁ。別に大した問題じゃ、ないし。それよりも、市原愛花さんの方が大事」
「まだ何か訊きたいの?」
「当然」
 懐からメモ帳と消せるタイプのボールペンを取り出す羽衣さん。
 俺の好きな人愛花に関して、何をメモするというんだ……?
「市場の市に野原の原、愛情の愛に花。で、市原愛花。合ってる?」
「う、うん」
「なるほど」
 えっ。
(なになに、ちょっ、え? 名前をメモしてるの? いや、何に使うんだよ一体)
「住所は?」
「言う訳無いよ。さすがに」
「は?」
「名前からそうだけど、個人情報だし」
「ばら撒いたりだとか、絶対にしない。私を信用してくれないの」
 女子とは思えない強い力で、ガッシリと肩を掴まれた。
 このパワーは感情が昂ぶった故に漲ってきたものなのか。それとも、潜在的に備わっていたものなのか。
 どちらにせよ、状況は最悪。ストーカーじみているというか何というか、自分ばかり優先して周りが視界にすら入っていない。
(でも愛花だけは守らないと……!)
「してると言えば、微妙なラインかな。今日が初対面なんだし」
「覚えて、いないの? ガッカリ。でも──それでも、好き」
「え。ちょっと!」
 生気を失ったみたいな表情だったけれどなおも愛を囁いて、羽衣さんの姿は夕焼け色に染まった廊下に消えた。
「……やっぱり、どこかで会ったのか?」
「──モテてるな、多田。フフッ」
「あっ、香山テメェ笑うな‼」
 コイツは相変わらず、人をからかってばかりだ。やれやれ。
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