【R18】禁忌の主従契約 ~転生令嬢は弟の執愛に翻弄される~

彼岸花

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本編

25 深愛と秘密

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 今日は、いよいよリヒトの縁談相手であるジゼル嬢に会いにいく日だ。

「ねえ、リヒト。直接会いに行って断るだけなのに、どうして私まで一緒に行かないといけないのかな……?」

 私の手を引っ張ってずんずん歩いていくリヒトにそう尋ねてみる。すると、リヒトはやや虚ろな表情で後ろを振り返り、その形の良い口を開いた。

「行けばわかる」
「行けばわかるって言われても……」

 話を聞く限り、相手方は一対一の面会を望んでいるそうなのだが、リヒトはその要求を無視して私を同席させるつもりらしい。
 やっぱり、彼の考えていることはわからない。私を部屋に監禁するようになってから日に日にリヒトの考えていることがわからなくなっていったけれど、今回の行動は特に理解不能だ。
 第一、私を連れていったところで一体どう紹介するつもりなんだろう? 無難に従者としてだろうか?
 マスターが隷属者を連れて外を出歩くこと自体は別に珍しいことではない。
 寧ろ、連れていると何かと便利(荷物持ちとか)だから、外出する際は自分の隷属者を一人か二人連れていくマスターのほうが多いと聞いた。
 とはいえ、マスターのお見合いに同席する隷属者なんてきっと稀──いや、絶対私くらいだろう。
 まさか、包み隠さず私を姉として紹介するつもりじゃないよね……? そんなことをしたら、今までのことが全て水の泡だ。
 せっかく私のことが周囲にばれないように隠居までしたのに、その意味がなくなってしまう。流石に、リヒトも家族や親戚に迷惑がかかるようなことはしないと思うけれど……。





「着いたぞ。セレス」

 リヒトの声に気付き顔を上げると、いつの間にかキャンベル家の屋敷の前まで来ていた。私達の生家も伯爵家だけあってそれなりに立派で大きな屋敷だったけれど、この屋敷はさらに大きく見える。

「あの……あのね、リヒト。やっぱり、私は一緒に行かないほうがいいと思うんだ。だから、外で待ってるね」

 リヒトが徐ろにドアノッカーを叩き出したので、焦った私は彼にそう告げ、急いでその場から離れようとした。
 けれども、次の瞬間リヒトは私の手首を掴み勢い良く自分の方に引き寄せた。その表情からは、無言の圧力を感じる。リヒトは、どうしても私を同席させたいようだ。

 暫くすると、キャンベル家の執事と思しき男性がドアを開け私達を出迎えた。
 私達がその男性に挨拶をしていると、男性の背後から長い銀髪と切れ長の目を持つ綺麗な女性が現れた。恐らく、この人がジゼル嬢だろう。



「お待ちしておりました、リヒト様。お会いできて光栄ですわ」
「……ええ、初めまして」

 柔らかい微笑を浮かべるジゼルに対して、リヒトは鋭い視線を向ける。言葉遣いこそ丁寧だけれど、明らかに敵意むき出しだ。気が進まない縁談の上に、その相手とこうして会うことになってまったのだから、無理もないかも知れないけれど。

 ジゼル・キャンベル──年齢は十八歳。王都の某有名魔術学院の首席である彼女は、既に王立魔術大学への推薦入学が決まっているらしい。リヒト程ではないと思うが、きっとこのご令嬢も相当エリートなのだろう。
 ジゼルは自己紹介を終えると、何か言いたそうな顔をして私を一瞥いちべつした。一対一の面会を望んでいたのに、なぜか同行者がいたら不思議に思うのは当たり前か……。
 何か聞かれるかな? と思ったけれど、彼女はそのことについて特に突っ込むこともなく私達を応接室に案内した。





「それでは、本題に入りましょう。……と、言いたいところですが。一つ、お聞きしてもよろしいかしら?」
「どうぞ」
「そちらのお嬢さんは……?」

 ジゼルは私を真っ直ぐ見据えた後、すぐにリヒトのほうに視線を移してそう尋ねた。先程は何も聞かれなかったけれど、やはり私の存在が気になっていたらしい。

「姉のセレスです。僕が無理を言って同席して貰いました」
「リヒト!?」
「そうですか。まさか、お姉様がご一緒にいらっしゃるなんて……予想外でしたわ」

 狼狽える私の予想に反して、ジゼルは落ち着いた様子でそう答えた。
 嫌な予感はしていたけれど、リヒトは私のことを隠すつもりなんか毛頭ないらしい。とはいえ、ジゼルはリヒトの愛する相手が私であることを知らない。それだけが救いだ。

「……コホン。それでは、今度こそ本題に入らせて頂きますわね。リヒト様……どうか、わたくしとの結婚を前向きに検討して頂けませんか?」
「申し訳ありませんが、お断りします」
「そ、そんな……この縁談は、両家にとって悪い話ではないはず! それなのに、なぜあなたは頑なにこの縁談をお断りになるのですか!?」
「そんなに理由が知りたいのですか?」
「ええ……。せめて、理由を教えて頂けなければ納得できませんわ」
「では、お教えしましょう。実は、今日はそのために姉上について来て貰ったんですよ」

 リヒトはニッと不敵な笑みを浮かべると、突然隣りに座っている私の肩を抱き自分のほうに引き寄せた。

「……!? リヒト、何を──」

 そう言いかけた次の瞬間、抵抗する間もなくリヒトに唇を塞がれた。

「……んっ……んぅ……!」

 リヒトは強引に私の唇を割り、舌を挿入した。ねっとりと執拗に余すところなく口内を舐め上げられ、思考が飛びそうになる。
 これまでに何度となく交わした深い口付けの中で、リヒトは私がどうすれば気持ちよく感じるのか学んだらしい。
 認めたくないことだけれど、私達は性的な相性がかなり良いようだ。不覚にも、この間リヒトに初めて体を触られた時にそう感じてしまった。

「んっ……んぅ……ふぁっ……」

 そうやってリヒトのなすがままになっていると、彼は私の胸に手を伸ばし片方の膨らみを程よい力で揉み始めた。
 そのせいで私の下腹部はじんじんと疼き、すっかり全身が熱を帯びてしまう。服の上から触られているだけなのに、まさかここまで感じてしまうなんて……。

「リ、リヒト……駄目……やっ……あ……んっ……」

 目の前には自分の縁談相手がいるというのに、リヒトはどんどん行為をエスカレートさせていく。

「なっ……! あ、あなた達……一体何を……!」

 羞恥心に耐えながらも、横目でちらりとジゼルを見やる。彼女は唖然とした表情で私達の行為を熟視していた。
 今の私は実の弟と深い口付けを交わし、淫らな行為を受け入れ、恍惚の境地に陥っている愚かな女だ。きっと彼女の目には日頃から弟と情事に及んでいるような、はしたない姉に映ったに違いない。

「──驚きましたか?」

 リヒトは漸く私を解放し、ジゼルに向かってそう尋ねた。

「……」
「縁談相手の前でこんなことをするなんて、『気でも触れたか』とお思いになったでしょう。ですが、今ご覧頂いた通り、僕は姉を──セレスを本気で愛しています。どんなに条件が良い相手に言い寄られようと、この気持ちは変わりません」
「リ、リヒト! 何を言って──」

 私は慌ててリヒトを制止しようとした。けれど、彼はそれを無視して私の口を手で塞ぎ淡々と話を続けた。

「ですから、僕はセレスに生涯を捧げます。何があろうと、全力で彼女を守り抜く所存です」

 リヒトはそう言った後、聞こえるか聞こえないかというくらいの微かな声で、「たとえ、彼女が自分を愛してくれなくても……」と足し加えた。

「それと、ジゼル嬢。あなたが僕に拘る理由は、僕に好意を抱いているからではありませんよね? 恐らく、もっと別の何かが──」
「い、いきなり何を……! 仰っている意味がよくわかりませんわ」
「そう、例えば──ご自分の名声を上げるためとか。そんなところでしょうか」
「なっ……」
魔力保持者ホルダーの中でもトップクラスの魔力を持つ僕と結婚すれば、ご自分の知名度を上げられると考えたのではありませんか?」
「……勝手な憶測に過ぎませんわ。ところで、リヒト様。人のことをとやかく言う前に、ご自分の心配をなさったほうがよろしいのでは? わたくしがあなた達の関係を周囲にばらせば、どうなるか──」
「あなたはそんなことできませんよ」
「は……?」
「なぜなら、僕があなたの弱みを握っているからです」
「弱み……?」

 リヒトの言葉を聞き、ジゼルは動揺した表情でそう返した。

「申し訳ありませんが、身辺調査をさせて頂きました。あなた、在学中の学院で実技試験直前にライバルを怪我させたりしていたそうじゃないですか。……犯人が自分だとわからないようにね」
「何を馬鹿なことを! 大体、証拠もないのに……」
「証拠ならありますよ。上手くやったつもりだったんでしょうけど、偶然その現場を見ていた証人を見つけたんですよ。その方は、あなたの権力を恐れて誰にも言えなかったみたいですけどね。『正直に話してくれたらお礼を弾みますよ』と掛け合ったら、事細かく話してくれました」
「証人……?」
「実技試験の際、怪我を負った状態であなたと対戦した相手は当然本領を発揮できませんよね。……不正をしてまで一番になりたかったんでしょうか?」
「……っ」

 ジゼルは最早、誤魔化しきれないと観念した様子で目を閉じ俯いた。

「今回の縁談を破談にして、僕と姉の関係を口外しないでいてくれるのでしたら、不正のことは黙っておきます。要するに、交換条件ですよ」
「わ、わかりましたわっ! それで構いません! ですから、どうかわたくしのことは内密に……」
「ありがとうございます。これで交渉成立ですね。物分りの良い方で助かりました」

 リヒトはそう言ってにっこり微笑むと、私の手をぎゅっと握ってきた。
 どうやらリヒトは、今回の縁談を破談にするために裏で色々と動いていたらしい。
 きっと、今の彼は目的のためなら手段を選ばないのだろう。そんな弟に、私はひたすら末恐ろしさを感じていた。
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