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良くも悪くも……性格は変わらない

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 驚いた。
 倒せるとか思ってたのが甘かった。
 数分前の俺を殴れるならば殴りたい。
 紛れもなく、ヤバイ。間違いない!

「ファイアアロー、ウィンドショット!」

 俺はあの灼熱の黒刃を片手に魔法の矢をさらりさらりと受け流す。

《剣に『保護魔法』を付与しますか》

 という『影』の気の利いた質問により魔法を弾けている。
 とはいえ、暗闇の中、木々の上を飛び回り見えない場所から攻撃を仕掛けてくる始末。
 彼女が使ってくる魔法は炎魔法と風魔法。
 今となってはあのウルフに感謝している。
 アリスの魔法はあのウルフの放ったファイアボール同等の魔法を間髪入れず放ってくる。それをかわすのに取得したスキルがなかったら即死していたところだ。
 さっきは同等と言ったが、それは一つの魔法の時の話。アリスは魔法を合成させてくる。
 戦闘の中、危機感を感じた俺は急ぎで『影』へと質問の矢を飛ばした。

(『影』!合成魔法についての簡単な詳細説明頼む!!)

《了承、合成魔法とは複数の性質魔法を複合することにより威力を変化させた魔法のことを言います。属性には風→火→水→雷→地があり、風は火に、水は火に強いと言うようになっています。以下略》

 概要はアニメ、マンガ、以下に同じなのであれば、俺は魔法では敵わないということ。
 となれば、対魔法使い用スキルが欲しいところだな。
 全教科平均値で中学時代有名だった俺目線で語らせてもらうと、魔法を無効にするスキルがあれば、数学が得意なやつに数検で威張られようと、漢検では勝てるように戦況を一気に変化させることができる。
 狙撃手、スナイパーを相手にする時、距離を詰めて戦うというのが定石だ。
 なら、残りの二つのスキルの一つを魔法無効化スキルにして仕舞えばこちらのもの。

「さっきまでの息の良さはどうなされた?サイズさん」

 息を切らすことのない、透き通った声が聞こえてくる。
 声は左から右に。予測するに、周囲を周りつつ狙撃されいるということ。
 俺は彼女の動きを予測しつつ、木に飛び込めば鉢合わせとなる。それを狙うしかこの状況の打破はない……!!
 どう見ても無謀な作戦とはいえぬ作戦なのだが……。
 そんな時、追い討ちをかけるように、

 ビービービー!!

 ここに来て、初めて聞く着信音が鳴った。サイレンのような、いい意味ではなさげな音だ。

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HP:30/150
HP残高が三分の一を下回りました。警告です。戦線からの離脱をお勧めします。

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 女神着信のステータス音。
 HPが尽きること、それはこの世界の死を示すのだろう。
 全くもってやってられん。想像もしたくない。
 どの世界も限りなく理不尽なことは変わりないらしい。
 だが、俺はまだ人生を謳歌していない。一人寂しく働いて死ぬなんて最悪だ。豪遊して、恋愛して、ひっそり暮らしたい。
 しかもそれを、女神に指定された運命の人に阻止されるって、どんなバッドエンドの話だ!?かぐや姫が月に帰っただとか、浦島太郎が玉手箱を開けてしまったとかを凌ぐぞ。
 何より、話にならん。冒頭で終了だ。

(『影』、魔法無効化スキルを取得したい!説明はいらん!急ぎで頼む!!)

《了……スキル『魔法無効化』取得に成功しました》

「サンキュー、『影』!今までで一番役立ってるよ!」
「馬鹿なことを言っていないで降参する方が身のためよ」

 アリスの態度はれっきとして変わりない。
 言っても、一日とて続いていないコンビだがな!

《スキル『魔法無効化』を発動しますか?》

(やってくれ!)

 こんな時の『影』の落ち着きようは助かる。
 攻略本の上をいく、センシティブで画期的な攻略主として名を挙げることで以後期待できるAI!その名もーー

《未特定スキル『影』をAIという名前に変更しますか?》

 こういうところはAIでなくてもいいのだが……。
 などといった雑念が心中繰り広げられた頃、

《スキル『弱部判定』により俗名アリスの行動シミュレーションが下されました。表示します》

 視界にゲームディスクトップが展開される。
 姿はないが、人形マークで存在を指示、マークの位置から正確に矢が放たれる。
 左上の表示により、アリスの残りMPも三分の一を下回ったことを知る。
 HPが尽きれば死、MPが無くなれば?

《了承、気を失います。彼女の場合木の上にいるためかなり危険な状況にあります》

 だったら、攻撃を避けきるだけでも俺の勝ちじゃん!
 何もしなくても彼女は倒れるし、その後魔力を開放してしまえば、バッチオッケー……。
 俺はこんな時でもお人好しのようで、自分が死にそうだが彼女の死体も見たくなかった。
 また、彼女の行動が自分と重なるようにも思えた。この世界では戦いを逃げることは負けなのだろう。
 となれば、定めに従っているだけ。俺が彼女を利用しようとしていることで彼女が命を落とすのと、俺が女子高生A、Bを命懸けで助けたことは等しく、どちらの犠牲も社会的には正しい。
 が、実際は正しくない。犠牲は必要だ。でも、本来ない方がベストなのだ。
 腹立たしい……。
 俺のために命を落とされるのは目覚めが悪い。
 いくら勇者になれたとしても、かけらも嬉しくない。
 何度も言うようだが、女神はなぜ俺を転生させたんだ。
 同時に特大の炎魔法が飛んできた。ウルフの強化版、特大のファイアボール。業火球という感じである。
 気づけば俺はその魔法を大振りに振り薙ぎ払っていた。
 そして宙を飛ぶアリスの姿……。
 俺は唱えた。

「最終スキル『生命活性化』を取得、兼発動」

 腕の中に重みを感じる。そのままのスピードで俺たちは一つの大木へと突っ込んだ。
 パキッやバキという嫌な音が鳴り響く。
 遠くへ消えそうな意識を気力で持ち堪え、全身から力が抜けるのを感じつつ願う。

(スキル『保護魔法』……展開)

 
 
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