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休暇
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私は今まさに、この戦艦大和からの脱出を試みていた。
時刻は早朝。まだ日も昇らない。なぜこんなことをしているのか――理由は簡単、副長・田代や航海長・碧衣を振り切り、久しぶりの「一人の自由」を満喫するためである。
「この艦内を誰よりも理解しているのは艦長代理である私に決まっている。必ずバレずに脱出してみせる」
勝ち誇ったように呟いた、そのとき。
「艦内を誰よりも理解しているのが誰ですって?」
背後から、聞き慣れた声。振り返れば――まだ寝ているはずの碧衣が立っていた。
「そもそも、こんな時間にどちらへ?」
前方からは田代。冷ややかな目で私を射抜く。
……前門の虎、後門の狼。完全に包囲されていた。
こうして私の自由な休暇の幻想は、夜明けを迎える前に崩れ去ったのである。
---
結局私は二人に伴われ、港町を歩く羽目になっていた。
石畳の道の両脇には木製の看板を掲げた商店が並び、魚や野菜の匂いが潮風に混じって漂っている。人々の掛け声や笑い声が絶えず、戦時中とは思えないほどの活気だ。
「ずいぶん賑やかですね。関東軍の軍政下と聞いていましたが……意外と平和そうです」
碧衣が不自然そうに周囲を見渡す。
「表面的にはそう見えますが、実際は軍事独裁です。日本との折り合いも悪い」
田代は声を落とし、前を向いたまま答える。
「事実、今も我々をつけている者がいます」
「えっ」
私は思わず振り返りそうになったが――
「いっちゃん、あれ見て!」
碧衣が唐突に腕を引く。その手の温もりに一瞬どきりとした。
「振り向かないでください」
田代がすかさず釘を刺す。
「こちらが気づいたと分かれば、相手がどう出るかわかりません」
「……ごめんなさい」
私は小さく肩を落とす。気づかないなんて、艦長代理失格だ。
「ちょうどいいわ。あの喫茶店に入りましょう」
碧衣はにっこり笑いながら、しかし有無を言わせぬ力で私の腕を引いた。
田代も無言で続く。
私はただ引きずられるまま、古びた木の扉を押し開けた。
カラン、と鈴の音。
港町の喧噪が背後に遠ざかり、コーヒーの香りが広がる。
――久しぶりに自由な休暇を満喫できると思っていたのに。
結局そんなものは、最初から存在していなかったようだ。
時刻は早朝。まだ日も昇らない。なぜこんなことをしているのか――理由は簡単、副長・田代や航海長・碧衣を振り切り、久しぶりの「一人の自由」を満喫するためである。
「この艦内を誰よりも理解しているのは艦長代理である私に決まっている。必ずバレずに脱出してみせる」
勝ち誇ったように呟いた、そのとき。
「艦内を誰よりも理解しているのが誰ですって?」
背後から、聞き慣れた声。振り返れば――まだ寝ているはずの碧衣が立っていた。
「そもそも、こんな時間にどちらへ?」
前方からは田代。冷ややかな目で私を射抜く。
……前門の虎、後門の狼。完全に包囲されていた。
こうして私の自由な休暇の幻想は、夜明けを迎える前に崩れ去ったのである。
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結局私は二人に伴われ、港町を歩く羽目になっていた。
石畳の道の両脇には木製の看板を掲げた商店が並び、魚や野菜の匂いが潮風に混じって漂っている。人々の掛け声や笑い声が絶えず、戦時中とは思えないほどの活気だ。
「ずいぶん賑やかですね。関東軍の軍政下と聞いていましたが……意外と平和そうです」
碧衣が不自然そうに周囲を見渡す。
「表面的にはそう見えますが、実際は軍事独裁です。日本との折り合いも悪い」
田代は声を落とし、前を向いたまま答える。
「事実、今も我々をつけている者がいます」
「えっ」
私は思わず振り返りそうになったが――
「いっちゃん、あれ見て!」
碧衣が唐突に腕を引く。その手の温もりに一瞬どきりとした。
「振り向かないでください」
田代がすかさず釘を刺す。
「こちらが気づいたと分かれば、相手がどう出るかわかりません」
「……ごめんなさい」
私は小さく肩を落とす。気づかないなんて、艦長代理失格だ。
「ちょうどいいわ。あの喫茶店に入りましょう」
碧衣はにっこり笑いながら、しかし有無を言わせぬ力で私の腕を引いた。
田代も無言で続く。
私はただ引きずられるまま、古びた木の扉を押し開けた。
カラン、と鈴の音。
港町の喧噪が背後に遠ざかり、コーヒーの香りが広がる。
――久しぶりに自由な休暇を満喫できると思っていたのに。
結局そんなものは、最初から存在していなかったようだ。
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