奇怪造ノ御譚

霜刃睦皐月=晃静優凪

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一章一話〜隠〜

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~芥~

部屋から見える晴れた空は、雲一つない空だった。雲の一つや二つ、あって欲しいけれど、テレビの天気では快晴だと言っていたな、と。今思い返して、溜息を一つ零す。
快晴よりも、雲があった方が良いのに。と、内心そう思いつつも、結局、洗濯物が直ぐ乾くから良いか。と満足してしまう。

自分の部屋にあるテレビからは朝のニュース番組が放送されている。政治関係やエンタメニュース……。離婚やら結婚やらの話題が飛び交う。

「続いてのニュースです。時富区にあるビルで深夜2時頃、2階にある302号室から1人が刺されていると隣人の方から警察に通報がありました。刺されていたのはそこに住む30代の女性。なお、左胸元を刺されていて、2時間後に死亡が確認されました。警察は-―…」

へー。寝ている間にねぇ?殺人事件かな
と見ていたらデバイスに連絡が。連絡主は『萩桜君』だった。
朝の9時から連絡が来るのはあまり無い。休日だからなのかもしれない。
応答ボタンを押しては耳にあてて、声を掛ける。

「もしもし?」
『もしもし?乱解?ニュース見た?』
「あ、若しかして殺人事件?」
『そうそう!アレ、菜規が言うには猟奇的殺人かも。って。』
「え。」
『テレビでは嗚呼言ってるみたいだけど、さっき菜規から電話が来て『アレ、グロかったわ。胸元所じゃねぇよ。』って。』
菜規は透視や霊視等の邪眼の異能力を持っていたので、テレビとかで流れるのを見ると、それの過去や未来が分かる。
なので片目は封印しているのだとか?
若しかすると偶々起きて、テレビ付けたらやっちゃったのかな……。
「あらら……。じゃあ隠してる、のかな。」
『それな。…取り敢えず、今から向かうから、待ってて』
「はーい。」
そう言って、僕は電話を切って、LINEで菜規に『今から来れる?』と打ち、送信する。数分で既読が付いて、『行ける。少し遅れるけど』と返信が来たので『了解!』と送った。

僕や萩桜君、菜規は、『異能力』を持つ人間なんだけれど、この地球ではその『異能力』が使える世界で、当然悪を成す人も居るので、それは異能組織『枢譚匣(カラクリハナシバコ)』が対応するそうで。
僕達はそこの1人の組織組。と言ってもほぼフリーで動いてるけどね(苦笑)

僕の異能は『変異』と『鬼道』の2種類。『変異』はそのままで『触れた物の記憶形状を又は変化可能』と『鬼の末裔』

萩桜君の異能は『身体能力』と『神通力』。『身体能力』は『仲間の能力を向上、又は自身の能力を向上』と『狐の頭 』

菜規の異能はさっき話した目の事で『魔眼(邪眼)』と『妖力』。そこに新しく発見された『無効化』。『魔眼』は『透視や霊視等可能』で、『妖力』は『物語で綴られた妖を“現世”に召喚でき、憑依、又は操ることが出来る。』。そして『相手の異能を完全無効化。仲間も同様』

菜規の異能の1つが【危険異能力一級】に指定されていて、政府に危険視されている。僕の異能は【危険異能力三級】で、萩桜君のは【危険異能力四級】。 或る意味、3人とも、危険異能力になっちゃってる…。

10分程立つと、チャイムが鳴る。
「はいはーい!」
急いで玄関に向かい、扉を開けると、萩桜君だった。
「やほやほ~」
「いらっしゃーい」
暇があれば、3人でこうして集まって、事件の事や、普段の事、学校の事を話す。学校はそれぞれ違うから何があったとか話す。

後は菜規だけか~。

そんな事を思いながら、リビングに戻る。そうすると…

コンコン

え?

後ろを振り返る。そこには菜規の姿が。
「いやいやいやいや!!!」
僕は急いで窓を開けては中へ入らせるように促した。突然窓からって、誰も思わないよ!!
「驚いた?」
呑気な声で床へと降りる。黒い翼が生えていたので、若しかしたら…
「え?菜規……。異能力使った?」
「歩くの面倒なんで」
欠伸しては羽をしまった。面倒だからと言って……。そんな人初めてだよ。
彼らしいと言えば彼らしいのかも。

「まさかの窓から……」
「流石に驚くわ」
萩桜君と僕のツッコミが止まらない。菜規がクスクス笑いながら「悪かった悪かった」と平謝りをする。彼があまり笑みを見せないので、これはこれで珍しい。
流石マイペースとでも言っておこう……。誰もこんな考え(異能力持ってる人でも)思い付かんだろ……。

3人でテーブルを囲うように座って、今朝の事を話す。
「さて。えーっと、今回は…。」
「『猟奇的殺人事件』だな」
「菜規。慣れたでしょ笑」
「うん。慣れた。」
「まさかの猟奇的……。本当に居るんだね…。菜規。アレって結局異能なの?」
「……。多分?」
「「疑問形」」

朝の事件を3人で集まってこうして話すのは当たり前。僕らは政府から事実事件を解明することを任されている。責任は僕達だけで政府は責任逃れ。何故僕達が事実事件を解明しなきゃなのか。
それは過去にも関係していた。

1つは菜規の事。
菜規はマイペースで、気まぐれなんだけど、過去に異能『妖力』が暴走して、中学のクラスメイトを重傷迄負いやった事件があった。
その発端は僕と萩桜君に関係があった。彼が僕らを守る為に。暴走してしまった。
その事件以来、彼の異能は人々から『人を纏める脅威』と呼ばれ、恐れられた。家族も彼を味方する事は無く、捨てた。彼は時にサイコパスで、時に残酷で、時に吐き気がする程、傷を付けることが毎日だった。
政府の手で、彼は『閉鎖部屋 』に封印されていた。

菜規が菜規じゃなくなったのも、その時からだ。僕らを守る為に。精神も暴走してしまった。
政府は菜規の過去の事件を伏せる、そして、菜規自身の身柄を引き取るを条件に事実事件を解決する事になった。
菜規の『妖力』は僕の異能『鬼の末裔』や萩桜君の『狐の頭』の能力を高め、1つの異能にもなったりするんだって。
その3人で1つの異能力が『百鬼夜行』。


2つ目。
特殊異能体だから。
一般の人や、異能力を持っている人は、異能力が1つしか持っていない。然し、僕や萩桜君、菜規は複数の異能力を持っている。これは政府も知らない事らしく、複数の異能力を持つ者は『特殊異能体』と呼ばれている。

僕の家族は異能力を持たない人間で、僕だけが異能力を持っていて、且つ、『特殊異能体』である為、政府からも注目されている。
萩桜君の家族も異能力を持たない人間で、萩桜君だけが異能力を持っていて、且つ、『特殊異能体』である為、同じく、注目されている。

そして3つ目。
異能力を使う者には『デメリット』が無いのにも関わらず、『特殊異能体』には『デメリット』が存在する事。

僕のデメリットは『手を負傷すると、その触れた物の価値と同様の治癒時間が掛かる』
だから、手を負傷、傷付けない為にも、破れない、且つ傷付かない、頑丈な革手袋をしている。

萩桜君のデメリットは『対象が敵の場合手や、腕を掴まれると相手の能力が向上し、逆に自分の能力が低下する』
これは能力を発動時に起きるとそうなるそう。
 
菜規のデメリットは『目に怪我や負担の大きい魔眼や邪眼の能力を使うと、失明、又は盲目になる。回復時間がその能力に比例する』
僕と同じデメリット。だから、右目には何時も眼帯をしている。そして、上から眼鏡を掛けていて、『無効化』で、ぶつかった時に、されない為にも、コートを羽織っている。夏場は薄い上着を羽織っているそう。


「異能だったら異能の匂いするんだけどな。」
菜規には異能か異能では無いかの嗅覚を持っている。
僕は聴覚、萩桜君は触覚。
「テレビ越しでも分かるの!?」
「……?それは無理あるな?」
「だろうね」
実際に現場に行かないと分からない事か多い。
若し、異能力がそこで使われていたら、異能力ならではの匂い、耳鳴りがする、電気が走ったような感覚がするそうだ。
「んじゃ行ってみるか。その現場。」
菜規の言葉に頷いては向かう。

自宅から出て、早速現場へと向かう。
時富区…僕の住んでる地域も時富区。犯人はまだ捕まっていないらしく、逃走中らしい。警察が現場検証を何とかってニュースで言ってた。
犯人が異能力を持っている人でも持ってなくても厄介だ。これ以上、殺人事件を起こされても困る。僕の住んでる地域の人だと思うし、余計に夜も怖い。夜はちゃんと戸締りしとかないと……。

「……。『あ、匂う~』」
「「!」」
歩きながら菜規が一言。然し、これは菜規であって菜規では無い。つまり、「彼の異能が言っている」からだ。
彼の異能力は説明した通り、妖を召喚出来たり、憑依させたり出来る。時にこうして、妖達が視える現状を告げてくれる。
「……。『匂いが濃くなってく』」
「これは…若しかすると」
「『暝だニャ』」
暝(メイ)と告げられた名前。彼の異能力の妖の1匹。猫又である。
吐かれる言葉は時に毒舌であったり、グロテスクな言葉が多いが、隙を付く言葉が多い為、説得力がある。

暝くんが猫又の鋭い嗅覚を頼りに現場へと到着する。
ビルなので見上げないと行けない。よーく見るとビルの2階、僕らから見て左から2番目の扉には黄色いテープが張り巡らされていて、『keepOUT』と書かれている。そのテープの後ろにはブルーシートで覆われている。彼処が事件があった所だ。
現場近くにはまだ警察が止まっていて、周りには野次や事件を聞き付けたのか近所の人も居る。すし詰めみたいに集まっていて、ビルに入る為の入口には警察官1人と、『keepOUT』のテープ、テレビ局のアナウンサーとカメラマン。

「大変だ……」
「こんなに野次来るもんかな…」
「……野次邪魔だな」
3人してそれぞれの言葉を吐く。野次を遠目から眺めて居ると、肩を叩かれた。後ろを振り向けば、警察官2人だった。

「君達、どうしたんだい」
「…えっと……」
「事件が気になって来ました」
「そうかい。でも君達には関係無い事だよ。帰って勉強でもしたらどうだい。」
「……」
警察官の1人が嫌そうな顔をしながら帰れ帰れ、と追い払うような仕草をする。
「『儂らは政府直々に解決する様に頼まれておるのじゃ。…逆らえんじゃろう』」
菜規の顔には笑みが浮かべられている。空狐の颯鶻さんだ。颯鶻さんは普段は凄く優しいおじいちゃんみたいな感じだけど、僕や萩桜君の為にとなると口から出る言葉は棘がある。
「っ……」
「『では。失礼するぞ。行くぞ、乱の坊、萩の坊』」
ゆったりした足取りで現場に向かう。流石に表からだと人が凄かったりするので先程の警察官から裏から入るように言われたので、裏から入り、ビルの中へと入る。入った時に、靴跡が付かないように、靴にカバーをして、髪の毛が落ちないようにちゃんと帽子を被る。それをした後、2階へと階段で上がり、例の現場へ到着する。

その瞬間

酷い耳鳴りがした。

「っ……!」
両耳を手で塞ぐ。
「……痛っ。」
萩桜君は右手を左手で覆う。
「…………。」
菜規は服の袖で口元、鼻を抑えていた。かなり険しい顔をしている。
これは……かなり酷い。

警察官の1人に声を掛けられる。
「君達、こんな所に来て、危ないだろう。」
「………」
「ほら、捜査の邪魔だよ。帰りなさい。」
「『政府から直々に解決をする様、言われておるんじゃ。』」
「……!其れは申し訳ありません……!」
「……。」

何とか耳鳴りが治まると、ゆっくり手を離す。萩桜君の指先には少し火傷の痕があった。菜規も口元、鼻から袖を離していく。
承諾を得て、部屋へと入る。玄関は荒らされている形跡が無い。お風呂場、トイレ、と見ていくが荒らされているところ無かった。

リビングに足を進めると、リビングと寝室が繋がっている部屋だった。リビングも寝室も荒らされていて、皿が割れていたり、本棚から本が散乱していたり、服もぐちゃぐちゃになっていた。

「……これは…」
「酷いね……」
その光景を見て、その言葉しか出てこなかった。
「大変な事件だな。」
警察官のひとりがそう言う。菜規が眼鏡を外し、右目の眼帯を取って、左目の翡翠色とは真逆の右目は紫と青が混色された色、その瞳を荒らされた現場へと向けられる。

そして、彼は言った。

「………やったのは……お前か。」
その言葉に現場検証に居た人達が一斉に菜規を見る。菜規は何事も無かったかのように、眼帯を付けては眼鏡を掛け直す。そして、僕と萩桜くんを見ると、一言。
「行くぞ。帰ろ。」
「はーい」
「うん、帰ろっか」

警察官や科捜研の人達も唖然としながら僕達を見ていた。現場から離れて、自宅へと足を進める。3人並んで歩いていると、菜規が「腹減ったわ」と呟いたので、時刻もお昼近いので、近くのファミレスに寄ることに。

中へ入り、案内を受けて、四人席に座る事にした。メニューを受け取り、3人で眺める。
この時間、家族連れや恋人、同級生の人達が多く、人気なのもあってか、人が多い。

「決めた。」
「僕も」
「俺も」

窓側の席の近くに座っていた、萩桜君がボタンを押して、店員さんを呼ぶ。
それぞれ食べたい品を注文しては、ドリンクバーも頼んでいたので、3人で飲み物を取りに行く。

僕は炭酸が飲めないので、リンゴジュース。萩桜君は炭酸飲料。菜規は眠気覚ましだと言い、珈琲を飲む事に。
席に座り直して、ゆったりと注文した品が来るのを待つ。

「……」
「……」
「……」

3人揃って喋る事なし。周りのお客さんが喋っている声を音楽に過ごす。
僕の向かいに座る菜規と僕の右隣に座る萩桜君。
菜規は地味に限界が来たのか、それとも珈琲が負けたのか、机に伏せて寝てしまった。
萩桜君はスマホで色々、動画を見たりしていた。僕は音楽を聞きながら窓の外を眺める。

「…」
菜規が顔をあげては僕へと目線を向ける。気付いて目が合う事、10秒。
「「…笑」」
2人して吹き出す。たまにこれをして時間を潰す。
「ふぁ……」
菜規が欠伸を1つ零す。この人はちゃんと寝たのだろうか。今更疑問だけど気になる。
数十分。
僕が頼んだ品が運ばれてきた。受け取り、イヤホンを取っては早速食べ始める。
後の5分後には萩桜君の。その3分後には菜規の。
3人揃ってお昼ご飯。
僕のご飯は日替わりランチ、萩桜君のは洋風の料理。菜規は見かけとはだいぶ違う、ガッツリ系。

「うま。」
「美味しい…」
「…あつ。」

    
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みんなの感想(1件)

栞遠
2020.05.06 栞遠

二度目の登場、夏樹・風華です。

この作品も絶対面白そうじゃないですか!
うわーっ、続きが楽しみです。
心がワクワクします…( ≖͈́ ·̫̮ ≖͈̀ )ニヤァ

健康には十分に気を付けて下さいね!
頑張ってください! 応援してます。

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