女神なんかじゃない

月野さと

文字の大きさ
41 / 83

41話 ガルーダ王の秘密

しおりを挟む
 その日、アーサーが部屋に戻ってきたのは、深夜だった。

 待ちくたびれて、サラはソファーで寝ていた。
 
 建国記念の催しは全てが無事に終わり、来賓との面会も終わって、気が付くと、深夜の1時を回っていた。
 部屋のソファーで眠るサラを見る。この無防備な寝顔のせいで、こちらまで気が抜けてしまう。
 自分が少し疲れていることに気が付いて、ため息をつく。

 ガルーダ王に母のことを言われて、心をかき乱された。あの王は、おそらく母を知っているのだろう。

 自分を生む前の母。地獄のようなこの国に来る前の母。祖父はどのような人だったのか?父は誰なのか?どのような人なのか。生きているのか。考えた事が無いと言えば嘘になる。しかし、自分のルーツなどを考えることは、とうの昔にやめた。

 生きていくのに無意味な物、無価値な物は、捨ててきた。

 サラの前髪をかき上げてみる。
 彼女は、私と全く違う生き物だ。いまいち理解できないことが多いが、柔らかくて可愛らしくて守りたくなる。

 抱きかかえて、ベッドへ移動させる。そっと寝かせたが、サラが目を開けた。

「アーサー?」
「まだ夜だ。眠るといい」
 なでなでと頬を擦ると、サラは、うっとりと目を細めた。
「アーサー、ありがとう。」
 そう言われて、首をかしげる。
 サラは、目を閉じて微笑む。アーサーの大きくて冷たい手を自分の頬に押し付けて、満足そうだった。
「私のすること、許してくれたから。」
 アーサーは、サラの隣で腕をついたまま横になり、ため息交じりにほほ笑んだ。
「私がダメだと言っても・・・・おまえは、そうするのだろう?」
 はた迷惑。でも、サラのその行動は、羨ましい程に自由で、爽快だとも思う時がある。だから、自由にしてやりたくなる時すら、ある。
「・・・・反省してる所は、ちゃんと反省して直すよ。」
 サラが申し訳なさそうに、そう言った。

「ふふ・・・・そうしてくれ。」

 2人とも疲れていて、そのまま寄り添って寝た。

 抱き合って、お互いの匂いにつつまれて。

 お互いの温もりを感じながら。






 翌日、王の間にて、ガルーダ王が挨拶に来ていた。
「それでは、我々は失礼する。」

 サラは、2人をじっと見つめていた。
 ガルーダ王は、何か言いたげにアーサーを見ていて、そのまま踵を返して退出する。

 王座の階段下にいた私に向き直り、ガルーダ王は言った。
「次の満月の日に、我が国へアーサー王と来られるのをお待ちしている。」

 朝、アーサーから聞いていた。
 平和条約などを結んだので、細かい話し合いをしにガルーダ王国へ行く事と、その時に女神の真珠を受け取ると決めたのだ。
 満月の日は、魔力が強まる日。レオン団長がフル活動できる日だと言っていた。平和条約を結んだ両国に、魔法陣で行き来できる扉を作ることとなったので、それを使って行くことになっている。

 王の間を出て、長い廊下を歩いて行く。
 城を去って行くガルーダ王を、遠くから眺める。

「・・・・どうしてだろう。私、あの王様が嫌いじゃないかもしれない。もっと話をしてみたかったな。」
 独り言のようにつぶやくと、隣にいたテルマさんが口を開く。
「ガルーダ王は、恐ろしい人ですよ。王族を皆殺しにしたんですよ?」
「そう、なんだけど。今回も平和的な解決を選んでくれたし。」
「私には理解できません。何か企んでいる可能性もあります。」
 まぁ、そう考えるのが妥当だろうな、と思う。

 王族を、皆殺しにしたということは、相当恨んでいたんだろうな。
 そんな恨みを持っていた、王族の血筋のアーサーを、殺したいと思っている?

 ・・・いや、全く感じなかった。
 それよりも。ガルーダ王は・・・もっと、そう真逆な感じというか。

 『マルグレーテ王女は・・・』
 そう。あの時、その言い方は、むしろ慕ってたかのような。 

 ・・・あれ?
 ガルーダ王の様子が変わったのは、どこから?

 確かに、最初は怖い人だった。
 だけど、ある瞬間から、ガルーダ王の雰囲気が変わった。 
 いつだっけ?どの辺から?・・・そうだ!最初に会った時に、この指輪を見た時の、あの王の瞳。

 それから、アーサーが、マルグレーテ様の最愛の人の子だと伝えた時の、あの時の、ガルーダ王は・・・。

 動揺・・・動揺?


 王女の最愛の人は、彼女を奪われて、どうしたのだろう?
 戦後に奪われた彼女を、取り戻そうとしたのだとしたら?


 サラは走りだす。
 
 勢いよく部屋の扉を開けて、廊下を猛ダッシュした。
 遠くにテルマさんの声が響いた。

 追いかけてどうするの?何を聞くの?何を言うの?

 夢の中で見た、アーサーのお母さん。
 最後まで、アーサーを守り抜いて、最愛の人とは、2度と会えずに亡くなったお母さん。

 自分はいったい、何をしようとしているのか。
 どうするのか、全く考えていないままに、肺が熱くなるほど走った。
  
 
 お城の門の前まで、駆け降りる。
 門には人だかりが目で確認できた。


「ガルーダ王!!!」
 サラは懇親の声を出して、呼び止める。

 飛竜に乗って帰還するところだった、ガルーダ王がこちらを向く。

 違うかもしれないけれど、サラにはガルーダ王の目の青が、アーサーに見えた。
 そのアイスブルーの瞳は、彼と全く同じだった。

 聞きたい・・・確認したい。
 だけど・・・・踏み込めない。

 ガルーダ王のそばまで寄って、女神の指輪を差し出す。
 この人は、たった1つだけ、我が国に要求してきた。それは、マルグレーテ様の形見。

「これは、あなたが持って帰ってください。王女様の心と一緒に。」

 ガルーダ王は、サラの目を見た。

「・・・きっと、アーサーを連れて、帰りたかったはずだから。」

 ガルーダ王は、指輪を優しい目で見つめた。
 それから目を閉じて、ゆっくりと目を開ける。
 ゆっくりと指輪を手にとると、穏やかな声で言う。
「感謝する。」

 そしてサラを見つめて、平常の顔になった。

「満月の日に、必ず約束の物をお渡ししよう。」


 飛竜に乗って飛び去る集団を見送った。
 見送りながら、サラは考えた。


 最愛の人を失ったら、どんな気持ちなのだろうか。

 奪われたなら恨むのだろうか。

 どんな手を使ってでも、国を滅ぼしてでも、取り返そうと鬼になるのだろうか?



 きっと、アーサーを失ったら、私は生きていけない。






しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

処理中です...