女神なんかじゃない

月野さと

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番外編_郷愁

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『お母さん、お母さん!』
『なぁに?サラ。』
 呼ぶと必ず、母は私の方を見て、話を聞いてくれた。
 ずっと母と2人だけの生活だったから、かけがえのない存在だった。


「・・・さま・・王妃様・・・王妃様?」
「サラ様!!女官長がお呼びですよ!!」 
「はっ!はへっ、はい!!な、なんでしょうか?」

 慌てて返事をして、顔を上げると、あきれ顔で女官長のスーザンが居た。
 テルマさんが、私の腕を支えてきたので、ふと視線を落とすと、授乳中だったはずが、娘はモグモグと口を動かしているだけで、眠っていた。
「あ・・・もう、寝てたのね。」
 サラは、服装を直して、娘を立て抱きにしてトントンする。

 ゴホン。と女官長が咳払いしてから話し出す。
「以前も申し上げましたが、王侯貴族は皆、乳母に子供を任せるのが慣例です。王妃様には公務もございます。」
 サラは、赤ちゃんがゲップしたのを確認してから、横に寝かせる。
「わかっています。だけど、子供は私が育てると、アーサーに許可を貰ってます!」
「しかし、王妃様。先ほどもそうですが、近頃はボーーッとなされてばかり!第2王子がお産まれになった時には、目を瞑りましたが、王女様がお産まれになってからというもの、体調がすぐれないのではないですか?」
 サラは、隣で眠る娘に視線を向ける。
 ルカの次に、次男が産まれて、3人目は女の子だった。
 産まれてきた女の子を見て、その瞬間に母親を思い出した。おそらく、もう2度と会えない、自分の母親。母のことが気になりだすと、もう止められなくなってしまっていた。

「体調が悪いんじゃないんです。」
 急に涙が溢れてきて、テルマさんや女官たちが慌てる。
 
 私がこっちの世界に来てから、お母さんは、どうなったのか?
 サラは、想像する事も、考えることも怖くて出来ないくらい、母が心配になった。
 

◇◇◇◇◇◇


「王妃様を元の世界に帰したい!?!?」
「しーー!!声が高いです!!」

 廊下で、レオン団長とサミュエルが、テルマ&女官たちに囲まれていた。
 レオンは、大きな溜息をついて、頭痛がするのかコメカミに手をやる。
 テルマが必死で説明する。
「サラ様は、ご自分のお母様が心配なのです!たった2人だけの家族だと仰っていました。自分が居なくなったことで、悲しみ苦しませてしまったと、サラ様も苦しんでおられるんです!!」

「・・・なるほど。」
「・・・しかし、異世界に帰すわけには・・・。」
「いいえ!サミュエル様、サラ様はお会いしたいだけなのです!連絡だけでも取れれば。」
 サミュエルとレオンは、顔を見合わせて考える。そして、レオンが言った。
「いずれにしても、陛下にはお伝えしましたか?」
 テルマが首を振る。
「小さい頃から家族を失っていた陛下の前で、母が恋しいとは言えない。と。」
「・・・。」
 ややこしい。
 サラ様がらみは、いつも、斜め上からやってくる難問ばかりだと思う。仕方のない事と言えば、そうなのだが。

「わかりました。解決策は、無いとは思いますが、探すだけ探してみましょう。」
 レオンがそう言うと、サミュエルが驚いた。
「団長?!本気ですか?・・・あ、そうか。団長にもお嬢様がお産まれになりましたしね~。」
 そう言われて、レオンはサミュエルを睨む。
「茶化すな。サミュエルも、さっさと結婚して子供でもできれば、気持ちが解るだろう。」
「あ~!団長、それセクハラ!!しようと思えば結婚の1度や2度!」
「・・・結婚は1度にしておけ。2度は身が持たんぞ。」
「いやぁ~、でも美姫が山ほどいて、選べないなぁ~。」
「おまえ、遊んでばかりいると、そのうち痛い目を見るぞ。」
「大丈夫です!プロの女としか遊んでません。」
「・・・誇らしそうにするな。」

 うーん、と考えながら、歩いて行く。
 2人は、お城の中にある魔法陣が書かれた部屋に来る。

「ここと、異世界を繋ぐことが、出来ればな。」
 レオンが言うと、サミュエルが魔術を発動させる。
「基本的には、魔法陣が描かれた場所、もしくは魔石のある場所への移動ですね。媒介となる、異世界の物を持っていれば、また話が変わるのですが・・・。」
 2人は魔法陣の中に入る。
 一瞬で移動した。

 誰もいない、神殿の中に2人は到着する。
 サミュエルは、周囲を見回す。
「この神殿事態、神聖な魔力が満ちてるんですよね。」
「サラ様を呼び寄せた時、この神殿から、わずかに空間の歪みが感じられたんだ。」
 レオンが、神殿の端から端まで、何かを探すように歩きだす。
 サミュエルが首をかしげる。
「空間の歪み?」
「・・・なんか、こう・・・・。」 
 レオンは目を閉じ、腕を伸ばして、神殿の柱に触れる。
 万が一、呼び寄せられたとして、やはり、行き来するのは難しいだろう。やはり一方通行になる。 

 急にふと思う。
「そういえば、陛下は夢の中で、サラ様と何度も会っていた・・・それならば、サラ様も夢の中で母上と会えないのだろうか?」
「夢?ですか?見たい夢を見るには、ある程度の魔力が必要で・・・あ!」
 2人で、ハッとする。
「あれだ!」



 その頃、王城では。
 仕事の一区切りがついたので、アーサーはサラの様子を見ようと、自室に戻った。
 
 扉を開けると、部屋はシンと静まり返っていた。
 見渡すと、ベッドの隣にはテルマが、椅子に座ったままで、コックリコックリと頭を揺らして寝ている。ベッドの上に倒れるように横たわって、もうすぐ7か月になる娘を抱いて眠るサラがいた。
 アーサーは静かに、ベッド脇へと移動する。ずっと付いて来ていた騎士団は、部屋の外で待機して、ウィルは、そっと扉を閉めた。
 人の気配で、テルマとサラが目を覚ます。
「あれ?アーサー。お帰りなさい。」
 ベッド脇に立ったアーサーは、腰に手を当てて、呆れたように言う。
「サラ、四六時中ずっと、子供の面倒を見るのは、ムリがあるんじゃないか?」
 ウィルは、部屋の中を見回して、片付けを始めながら言う。
「そうですよ、サラ様。夜も王女様の世話で眠れず、昼もこの調子では倒れてしまいます。」
 食べかけの離乳食と、サラの食べるはずだった昼食の食べかけが、乱雑に置かれたままだった。

「ごめんなさい。部屋がちらかっちゃって、アーサーだって忙しいのに、寝不足になっちゃったよね。」
「私のことはいい、おまえの体を心配しているのだ。」
 眠くて開かない目を、擦りながら、サラは言う。
「でも、私の国では、こうゆうのが普通なの。母親が寝る間もなく子供に付きっ切りで世話をして、私のお母さんも・・・」
 言いかけて、サラはハッとする。今、私、何て言った?
 『私の国』って言っちゃった。 

 バッと、勢いよくアーサーを見上げると、少し眉間に皺が寄っていた。
「あ、違うの。私の国って、ウォステリアが自分の国じゃないって意味じゃなくて、だから。」
「サラ!余計な事を考えるな。」
 アーサーは、サラの肩を掴む。
「お前は疲れているんだ。子供達のことは、夜だけでも他の者に預けろ。もしくは昼間の数時間だけでもいい。乳母や女官に任せるんだ。王妃としての公務もあるのに、ムリだ。」
 なんとなく、私じゃダメだと言われている気分になってしまう。
「・・・そんなことない。私だって、私のお母さんみたいに頑張ればっ。」
 テルマが、跪いて心配そうに言った。
「サラ様!母親は、常に元気で笑っている方が、子供には1番良いのです!頑張り過ぎない努力をすることが、一番大事なのですよ!」

 頑張り過ぎない努力?

「と、女官長が言ってました。」
 テルマが、人生の先輩である女官長の言葉だと自白する。

 アーサーが、サラの頭を撫でる。
「サラ。私と一緒に少し休もう。王女は女官達に少しの間だけ任せよう?」
「・・・うん。じゃぁ、夕方まで。」
 
 アーサーは、重症だなと思った。
 今15時なのに、夕方までって、すぐではないか・・・・。
 
 ウィルとテルマが、王女を連れて部屋の外に出ると、入れ違いで第2王子がやって来た。
「ははうえ~。はは~。」
 ぞろぞろと女官達を連れて、午後のお散歩に出ていて、今帰って来たところだった。
 サラはすぐに満面の笑みで、反応する。
「おかえり。アルフィー。」
 
 それを、ウィルが止めた。
「第2王子殿下。王妃様は、少しお休みになります。あちらの部屋で、美味しいオヤツタイムにしましょう?」
 女官たちも「そうですわ。王子の大好きなおかしを用意しましょう。」と誘う。

 そうして、部屋には、アーサーとサラだけになった。

 無言で、アーサーを見上げる。
「ほら、ベッドに横になれ。私も少し休む。」
 サラは、おずおずと、ベッドに入る。
 アーサーは、剣や上着などを脱ぎながら、話した。
「子供の扱いに慣れた者たちを多く仕えさせている。小さいうちから、多くの人間と関わり合うことで、社交性も養われるんだ。王族には必要な事だ。だから、どんどん預けるのが良い。」

 布団の中に入ったサラの横に、アーサーも横になった。
 無言のまま、サラはアーサーを見つめて、アーサーも微笑みながらサラを見る。

「なんだか、2人きりは久しぶりだな。」
 そう言って微笑むと、サラの頭を優しく撫でた。

 
 
 
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