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16.ひったくり犯の絶対即死消滅ビームで鬼娘がヤバい

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セブンスの宣伝、そしてラムネとリビィの呼びかけによってグッズ販売は大盛況だった。
そのおかげでコロシアムの近くに設営された販売所では長蛇の列が並び、大勢のスタッフが居ても手が足りないほど。
それに合わせて、山ほどあったグッズの在庫もまたたく間に無くなってしまう。
目が回るほど忙しいけど、やりがいがあって楽しい時間。
それはラムネにとって初めての出来事で、大事な経験となっていた。

「笑顔で買っていく人たち。それに活気溢れる雰囲気。これが物を売ること。……うん、楽しいな。知らない人と接することが、こんなにワクワクする気持ちになれるなんて。わちき、初めて知った」

今回はイベント会場という特別なケースだが、それでもこのような楽しみを知れたのは大きな収穫だ。
きっと、彼女の心を成長させるエネルギーになる。
そんな忙しくも楽しい一時が流れる中、遠くから悲鳴が発せられるのだった。

「きやぁああ!私の、私が買ったグッズが勝手に……!誰か、早く誰か捕まえて!」

その悲鳴は周りを騒然とさせる。
発言内容からして、道すがらに強奪でもされたのだろう。
同時にセブンスは呆れ顔を浮かべて、他人事みたいに呟いた。

「えぇ?まさか天界でひったくり?不届き者というか、度胸があり過ぎでしょ」

武装している天使たちが警備しているため、セブンスはそれほど問題視していなかった。
わざわざ介入せずとも、すぐに捕らえられることが目に見えている。
ただラムネは、他にも不安な態度を示す客を見て正義感を燃やした。

「わちきが捕まえます!みんなが楽しんでいる時は、楽しいままで終わらせるべきなんです!楽しい思い出は、本当に大切だから!」

そうラムネが言いきる頃には、彼女は既に鋭い跳躍で客たちの頭上を一気に飛び越えていた。
一体何が彼女の心に火を付けてしまったのか分からないが、その勇ましい姿にリビィは目を輝かせる。

「さすがラムネお姉ちゃん!とてもステキなんだ!まさしくヒーロー!ということで、ラムネお姉ちゃんの勇姿を目に焼き付けてくるんだ!」

「えー、リビィちゃんまで行くつもりなの?どちらかと言うと、人手が欲しいのはこっちなんだけど」

「大丈夫!ヒーローにアクシデントは付き物だから!」

「はぁ?言っている意味が………って、もう行ってるしさ。あーあ、相変わらずリビィちゃんは子どもだなぁ」

元より会話が成立すると思っていなかったので、リビィの突飛も無い行動に慣れているセブンスは販売の対応を続けた。
その一方でラムネは駆け抜ける速度に更なる加速をかけて、持ち前の身体能力と山育ちで培った体幹を活かしていた。
しかし、肝心のひったくり犯は純粋に足が速く、天界の地理にも精通している。
また天使とは異なる色の翼を上手く使い、器用に抜け穴を利用していた。
それによって犯人の心持ちには余裕が生まれ、口元を緩める。

「ひひっ。わざわざ嫌いな天使に変装までして、天界に侵入した甲斐かいがあったなぁ。まさか超プレミアムであろうグッズが手に入るなんて」

犯人はグッズを大事に抱え、黒い翼をばたかせて高く舞う。
それでも地上を走るラムネは確実に距離を詰めていき、犯人と思わしき姿をみかけた瞬間に大声で呼びかけた。

「待ってください!それは君の物じゃないです!わちき……じゃなくて、買った人に返しなさい!」

「あぁん?なんだアイツ?天使じゃねぇみたいだが。ってか、なんで俺の隠密スキルを見抜けているんだ?」

「逃げたらダメですよ~!そのままだと、いっぱい怒られますよ~!」

「しかもガキみたいな寝言を言っているなぁ。仕方ねぇ。お嬢ちゃんには悪いが、首を突っ込む馬鹿はお仕置きしてやらねぇとな」

そう言って逃走を続ける犯人は、ふところから拳銃を取り出した。
見た目は簡素な作りだが、この天界へ持ち込んでいるからには並大抵では無い兵器なのだろう。
そして犯人は銃口を天へ向けながらも、容赦なく引き金を引く。

「くらいな。追尾版の絶対即死消滅ビームだ」

甲高い音と共に銃口からはビームが射出され、その射線軌道は大きく曲がりくねった。
それは肉眼で追えるほど遅い弾速だが、非常に高い追尾性を誇る。
更には、触れた物を消失させる絶大な力がともなっていた。
よって、ビームは着弾までの障害物となる建物を容易に貫通しており、ほぼ直線的にラムネへ接近する。

「あぶなっ!?」

ラムネは本能的な回避行動で体を強引によじらせ、ものの見事にビームをかすらせもしない。
かなり稚拙ちせつな避け方だが、とにかく当たらなけば安全のはず。
だが、実際は避けても一時的なしのぎにすら成り得ず、すぐにビームは軌道を変えてラムネの背中を追い始めていた。

「ひぇえ~!?わちきが犯人を追っているに、わちきが光りに追われている~!?なんでぇ~!?」

「はっはっはー!お前はもうオシマイだぁ!そのビーム光線に触れた瞬間、跡形も無く消えちまうからなぁ!」

「き、消えるんですか!?いくら何でも、やりすぎですよ!」

「うるせぇ!俺様相手にどうこう言うな!」

天使や神々が居る天界で犯行に及んでいる以上、相手の異常性が高いのは当然の話だ。
何にしろ、ラムネは敵の攻撃に対して何らかの対処法をいられる。
そんなとき、しつこく追尾するビームは突如消えてしまうのだった。

「あれ……、消える光りが先に消えました?」

ラムネは追いかけながらも後方の変化に気づき、それとなく振り返った。
すると、いつの間にかリビィが真後ろで飛行しながら付いて来ているのだった。

「ラムネお姉ちゃん、大丈夫?」

「リビィさん!よく分かりませんけど、ありがとうございます!あとリビィさんって空を飛べるんですね!」

「リビィは死神だから、浮遊くらい朝飯前なんだ。それにしても、アイツは悪いやつだ。リビィの大好きなラムネお姉ちゃんを傷つけようとしたんだもん。絶対に許せない」

発言は非常に子どもっぽい。
だが、この時のリビィの目つきは冷酷なものだった。
空気をてつかせ、日の光りを捻じ曲げるほどのオーラをにじみ出させている。
凶悪犯に匹敵する残酷さを秘めていて、それは天界で堂々と逃げ続ける犯人の背筋を凍らせた。
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