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第一章
1話 ①死ぬと思ったら
しおりを挟む背中に広がる冷たいコンクリートの感触と、傷口に響く痛いほど叩きつけてくる雨を感じながら。ただ曇った空を眺めていた。
そして。
――ああ、俺、死ぬのか。
そう思った。
激しい痛みを訴える重たい頭を動かして、ままならない視界で自分の体を見ると、泥まみれだし、血まみれだしで、自分の弱さのほどを思い知ることしか出来ない。
後頭部を地面に預け、額から溢れる生暖かい痛みが視界を汚し、赤く染まるそれが目に染みてぎゅっと目を瞑った。だんだんと意識が遠のいていく感覚を覚える。
だんだんと、だんだんと。
俺は死ぬのだと分かる。
俺はいわゆる不良って奴だった。グループに入ることもなく一人で喧嘩し続けてきたが、流石に限界が来たらしい。一昨日ボコボコにしてやった敵グループは町の一角を埋め尽くすほどの仲間を呼び、俺一人に挑んできた。
喧嘩は楽しい、先ほどまでそう思っていたし、今だってそう思っている。
けど、まさか死ぬことになるなんて。
相当俺を恨んでいたのか、ただの事故か、俺を殺った相手の真意は不明だけれど、後頭部を鈍器で殴られた感覚があった。その後、相手は馬乗りになって俺の額に頭突きをかましてきやがった。
鈍器で殴られた時点でもう死にそうなのに、わざわざ頭突きしてくるかよタコが……。
そう考えると恨みはあったな絶対。
薄れゆく意識の中で、誰かの呼ぶ声が聞こえてくる。そう言えば……敵グループをボコった理由って……
◇◇◇
「――い、――――きなさい」
呼び声が聞こえて、意識が戻る。全身の痛みや頭と額の痛みも消えていて、動けなかった体も回復していて……ただもう少し寝ていたい。自分を起こそうとする相手に文句を垂れようと細く目を開けると――
「勇敢な君には来世ポイントの使用権が贈られたぞい」
「ぎゃあああああああああああああああああああああああ⁉」
――誰だ、この爺!!
真っ白な髭を蓄えた爺さんが俺の顔を覗き込むようにして眺めていて、背中を付けたまま腕で後方に移動し、爺さんから距離を取る。
「あ、あんた誰だ! ここはどこだ!」
真っ暗な世界に、神々しく輝く白髭の爺。そのくせ夢ではないと分かる。俺はあの時死んだのか? ここが死後の世界? じゃあこの爺さんはもしかして……
「神じゃ。ここは来世へ向かうための中間ポイントじゃ」
や、やっぱり神かよ!
「え……って言うか、来世?」
「そうじゃ。君には先ほども言った通り来世ポイントの使用権が贈られた」
「よく分かんねえけどそのポイントってのを使っていいのか?」
「その前に来世の世界の説明をしてやろう」
「お、おう……」
爺さんが言うには、なんと来世は乙女ゲームの世界だと言う。これは俗に言う転生した後のBL展開――……!?
「お、俺がヒロイン……そんなわけねえよな?」
「大丈夫じゃ。ヒロインではないぞい。君は攻略キャラじゃ」
「そ、そうか。まあ安心した」
攻略キャラっつーことはイケメンになれるのか? うわ、それけっこー嬉しいかもな。
「君の名前はヴォンヴァート・リリア・インシュベルン。次の人生は魔法学園へ入るところから始まりじゃ」
「おいおいかなり急だな……ん? って言うかヴォンヴァートって!」
スマホゲームのアルマタクトって言うゲームの攻略キャラじゃねえか。
「知っておるのか? 乙女ゲームなのに?」
「あ、アクションがいいっておすすめされたんだよ!」
アルマタクト……主人公がストーリーに深く関わらず、アクションゲームでもあったため何となくやっていた。関係性や名前は何となく分かるが、詳しい情報は覚えていない。
「そーいや……途中からの人生になるけど、過去のことは覚えてねえのか?」
「安心せい。引き続き君の記憶もあるし、ヴォンヴァートの子供の頃の記憶もある。ただ追加設定があっての」
「ついかせってい?」
追加設定とは簡単に言えば、爺さんが初めから言っている来世ポイントと言う奴で追加のキャラ付けができると言うことらしい。
んー俺は頭が悪かったから、頭のいいキャラになりたいなあ。でもそんな設定付けたら勉強ばかりの人生になりそうで嫌だし……勉強嫌いだし……人格変わりそうだし、ここは……チートでいこう。
「全てのクイズや試験の答えが分かる! っていう設定はどうだ!」
「500Ptじゃの。残りは4000Ptじゃ」
「よんせん⁉」
え、そんなにあるの? じゃあ使った方がよくね?
「もうそう言う設定あるかもしれないけど世界一のイケメンになりてえな。吸血鬼って言うのもいいな~後はやっぱ、喧嘩が一番強い! これ一番大事!」
「世界一のイケメン……1000Pt、吸血鬼はいない世界だから君が始祖じゃの……1000Pt、喧嘩が1番強いは500Ptじゃ。残り1500Ptあるぞい」
「来世に残しておけねえのか? 転生後の人生でまた稼ぐことは出来るのか?」
「残しておけるし、また稼ぐことも出来るぞい」
「じゃあ残しておいてくれ」
前世は不良だったのに4500Ptも溜まってたし、なんだよ余裕じゃん。来世でも稼ぐぞ~!
「設定は以上かの? 来世へ送るぞい」
「おう! よろしく!」
あたり一面がぱああっと眩しく光りだし、俺はぴっぱられるような感覚を受けながら意識を失った。
◇◇◇
うお。
「ここは……」
来世の世界か。
もう魔法学園の入学式を終えたらしく、攻略キャラらしきクラスメイトと一緒に行動していた。
凄いな……世界観そのまんまだ。巨大な校舎から遠のいていく。周りにはメインの攻略キャラ達がいる。俺達は今教室に向かっている最中だと、過去の記憶もあるので分かった。いや待て。確かに過去の記憶は持っている。持っているけどおい爺。吸血鬼の始祖って、確かに特殊設定だけど大分過酷な過去過ぎるだろ。
闇魔術組織の実験で俺は誕生し、両親はおらず闇魔法の成功体として大切にされつつ実験もされつつ育ったが、魔法学園に保護されたらしい。それからは魔法学園の小等部の特進科に通い、エスカレーター式で魔法学園の中等部へ入学。高等部に入学する際、試験を受けて特進科のAクラスに合格した。と言う設定だが……。
魔法は全く使えないうえ掛からないし、喧嘩だけが強いって言う謎設定……いや、魔法がある世界で喧嘩が一番強いってなったら魔法はない状態にならないと一番強いってことにはならないのか? だから俺だけ魔法掛からないの? いやでも魔法使いたかった!!
そういやヴォンヴァートのキャラ設定とか分かんねえな……。
そう考えた時だった。パッと目の前の空中に半透明の画面らしきモノが現れて、一瞬立ち止まってしまう。後ろから舌打ちが聞こえた、いつもなら振り返って睨みつけているところだが今はこの画面が優先だ。
……どうやら脳内で情報を知りたいと思うと、攻略キャラのプロフィールと好感度も載ったゲーム画面が表示されるらしい。
空中に浮かぶそれはタッチパネルのように操作できる。他の奴には見えないっぽいのでだいぶ変な行動だろうがみんなスルーしている。好感度は全員ゼロに近い。
今はアーチのある通路を歩き、教室に向かっているが、やっと着いたらしい……。
このゲーム世界の教室は外にある。オレンジ色の葉を散らす木々に囲まれた、青空の下の教室だ。まあ外と言っても学園は魔法のバリアで囲まれていて日差しや風などの授業への妨害はない。教室と呼ばれるスペースにも同じ様にバリアが貼ってあるのか落ちてくる葉っぱも避けていくし。
まあこの教室は特進科だけで普通科にはちゃんとした校舎が用意されている。特進科だけ集中できるようにとこんな仕様になっているらしい。
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